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『第207章 それぞれの旅立ち』

サンドリアス大聖堂内でラセン達の近況をアサシンから知らされるタクマ達。

「向こうも片付きそうか。こっちの事もしっかり伝えてくれ。頼むぜアサシン。」

「お任せを。タクマ様、事が終わり次第オリヴェイラ様から見返りを求められる可能性もありますのでご容赦ください。」

「それ確定だろ・・・。」

「ふふ。では失礼。」

笑みを零しアサシンは姿を消した。

そして、ネオンとヴォルフが見つめる先には広間の中央で祈りを捧げるエレアが。

「・・・皆さん。ありがとうございました。皆様のおかげでお爺様の無念も晴れる事でしょう。」

「いや、俺はあくまで自分の冤罪を晴らすためにやっただけだ。例を言われるなど。」

「それでも、私一人では成し遂げられませんでした。例え真実を突き止めても、先ほどの化け物にされ多くの命を奪っていた事でしょう。ですから、皆様には多大なる感謝を申し上げます。」

「・・・そうか。」

月明かりが差し込み神秘的な光に包まれるエレア。

しかし次第に身体が震え涙を流した。

「でも、いくら真実を突き止めても、お爺様はもういません。やっぱり、悲しくて、寂しいです・・・!」

(エレア・・・。)

「エレアちゃん・・・。」

「エレア様・・・。」

「・・・エレア。」

かける言葉が見つからない男性陣の後ろから彼女を見つめる()()()()()()()()()()

「「・・・って、アンタの事で泣いてんだよ‼」」

「すみません⁉」

思わずツッコんだタクマとネオンを押し退けエレアが教皇に抱き着いた。

「お爺様ぁ‼」

「いやてかホーエンさん⁉何で生きてんすか⁉」

「いやぁ、私も驚きましたよ。帰ってきたら私死んだことにされてましたから。」

「あの、ですからそれは一体どういう・・・?」

すると教皇の後ろから大きな影が歩いてきた。

「何やら騒がしいと思ったら、やはりお主だったか。タクマ。」

「バハムート⁉」


 教皇ヴィル・ホーエンは生きていた。

では何故生きていたのか?

「身代わり人形?」

「少し遠出してましたから本物そっくりの私の人形を錬金術で作って肩代わりしてもらってたんですよ。簡単な意思対応でしたら可能でしたので。」

「めっちゃ血が出てましたけど?」

「鉄分を含んだ水に赤絵の具を混ぜ合わせた疑似血液です。よく出来ていたでしょう。」

「よく出来過ぎて俺は殺人の汚名を着せられたのですが?」

司教が殺害したのは教皇が作った身代わり人形だった。

故に本物の教皇は全くの無事であったのだ。

「ていうかバハムート。お前の言っていた旧友ってホーエンさんの事だったのか。」

「うむ。教皇殿とは百年来の付き合いでな。買い物を頼まれた故、別の大陸まで行っていたのだ。」

「・・・ん?百年?」

教皇はどう見ても七十代前半の見た目だ。

何か違和感に覚えていると、

「実は私、精霊の血を受け継いでいるのですよ。」

「精霊⁉」

教皇の家系は精霊と人間の交配から始まり代々サンドリアスの教皇として受け継いできたという。

精霊の血が混ざってる故に寿命も通常の人間よりも少し長いらしい。

「じゃあエレアも?」

「はい。精霊の血を引いています。」

その血のおかげで人のオーラを感じやすくなっているのだろう。

「しかしお主、我のおらぬ間にとんでもない面倒事に巻き込まれたようだな。」

「人生で一番な面倒事だったわ。おかげでラセン達やメーレン達に大迷惑かけちまったよ。」

「では彼らに謝罪と礼をしなくてはな。教皇殿。貴方も手伝ってくだされ。元をただせば貴方が一番の原因なのですから。」

「そうですね・・・。タクマ様もご迷惑おかけしました。」

「謝罪は受け取ります。でもまずはこの騒動を止めていただきたい。」

「勿論です。孫娘を助けてもらった恩も含めて全てを正しましょう。教皇の名に懸けて。」


 それから教皇が事実を伝えるため遠隔映像魔法を国中に展開した。

突如死んだはずの教皇が映ったことで国中の者達が驚愕を隠せなかった。

教皇は自身が生きていた理由と司教の悪事を初め聖天新教会の実態を暴露。

世界中の権力者にその事実が伝わりサンドリアス教会に所属していた聖天新教会はついに瓦解された。

そしてタクマの濡れ衣も教皇本人の口から伝えられ晴れて無実を勝ち取った。

あと親衛隊と戦ったことは正当防衛と認められた。

その後、リーシャ達と合流。

「そんな大変な事になってたんですか?無事でよかったです・・・!」

「本当に君は厄介ごとに巻き込まれるね。」

「それバハムートに散々言われたよ。」


 翌日、バハムートとウィンロス、メルティナを屋敷に留守番させリーシャ達と一緒に協力、助けてくれたメーレン達やオリヴェイラ、イフル達にお礼参りした後、大聖堂にまで足を運んだ。

出迎えてくれたのはエレアだった。

「お待ちしておりました。タクマ様。」

「貴女がエレアさんですね?初めまして、リーシャと申します。この度はうちのタクマさんがご迷惑おかけしました。」

「おい。保護者面やめろ。」

「いえ、むしろご迷惑をおかけしたのはお爺様ですし、何より、私を救っていただいた恩もありますから。」

少し照れ臭そうに口元を隠して笑うエレアに女性陣がジト目でタクマを見た。

「・・・何だよ?」

「「「別に。」」」

エレアに通され教皇の待つ自室へ案内される。

「改めて、お礼と謝罪を申し上げます。」

教皇とエレアは揃って頭を下げた。

「タクマ様や皆様のおかげで我が教会に属していた聖天新教会を瓦解させることが出来ました。そしてこの度、私の不注意がご迷惑を招き、大変申し訳ありませんでした。」

「謝罪はしっかり受け取りましたから頭を上げてください。それより、今回の件に加担していた貴方の親衛隊について聞きたいんですが?」

「はい。彼等、特に隊長の彼は正義感はとても強いのですが真っ直ぐすぎてすぐ話を信じきってしまう傾向があり、フュリア国王殿の話ではあちらの話を一切聞かなかったとのことです。」

頭を抱え悩ませられる教皇。

「ですので彼を含む親衛隊は一度解体し教育し直す方針とさせていただきました。」

「それだけ?主様を殺人犯と決めつけて斬りかかってきたのよ?罰としてはぬるすぎるわ!」

「リヴ、落ち着け。」

「いやはや、青いお嬢さんの言う通りですね。ですがご安心を。彼らを担当指導した教官の下に再び預けます。かなり厳しい御人ですので最低三年は生き地獄を見る事でしょう。」

そこまで聞いてリヴ達は言葉が出なかった。

「まぁ何はともあれ、丸く収まって良かったぜ。」

タクマもホッと息をつくと、

「その、大変お疲れの所申し訳ないのですが、私から少しお話を聞いていただいてもよりしいでしょうか?」

「構いませんが何か?」

「実はですね。」

教皇は一枚の封筒と手紙をテーブルに差し出した。

「今回の会議結果の書類とこの手紙を魔大陸の首都『ヴァンプローナ』を納める魔王殿に届けてほしいのです。」

「魔王に?」

世界会議で欠席だった魔族の王。

今回の会議の結果は結構大事な事が多いらしいため知らせておく必要があるという。

「魔大陸か。ちょっと興味もあるし、その話承りました。」

「ありがとうございます。」

何だか教皇に頼まれる事ばかりだが信頼してくれてる事にタクマは少し嬉しく思った。

「ちなみにリーシャさん。貴女は我が国の大迷宮を挑戦されたとお聞きしましたが。」

「はい!とても手ごたえがあって楽しいですし、旅費も思ってた以上に稼ぐことが出来ました。」

「そう言っていただけると作った解があります。」

「・・・作った?」

リーシャは頭を傾げた。

「ご存じありませんでしたか?あの大迷宮、お爺様の手作りなんですよ。ですから安全かつ手ごたえがあるサンドリアスの自慢なのです。」

「自信作です。ブイ♪」

「え~~⁉」

突然の事実に驚きを隠せなかったリーシャだった。


 一方その頃。

メーレンとヴォルフはサンドリアスの正門に急いで向かっていた。

「急いでヴォルフ!」

ヴォルフにお姫様抱っこされながら正門に着くとそこにはグリフォンに荷物を持たせる冒険者ギルド職員と、ミールだった。

「ミール!」

「貴女は・・・!何ですの?貴族から落ちぶれた私を笑いに来たのですの?」

「違うわ。その、やっぱり行ってしまうの?」

「・・・見てわかるでしょう。父の愚かな所業のせいで生き残った私は全ての罪を着せられ貴族の立場を追われました。もうどこにも私の居場所はありませんのよ。」

彼女の俯く表情を見たメーレンは、

「居場所は無くなっても、一緒にいてくれる子はいるわ。」

その言葉を聞きミールはグリフォンに向く。

「貴女もテイマー。一人じゃないわ。」

「・・・そうね。」

あのミールが少し笑った。

「メーレン。あの時はごめんなさい。私はずっとお父様の威厳に胡坐をかいて生きてたわ。そのせいでいろんな人に迷惑をかけてた。」

「ようやく自覚しましたわね。でも過ちに気付けたのは良かったわ。私もタクマのおかげで自身の過ちに気付けて今はヴォルフという最高のパートナーと一緒にいられる。彼には感謝しないとね。」

「お嬢様、そろそろアレを。」

「あ、そうだった!」

メーレンは小包の袋をミールに渡した。

「貴女が欲しがってた物でしょ?」

「これは・・・!」

袋から取り出したのは従魔結石のネックレスだった。

「私のとおそろいにタクマに作ってもらったわ。私からの選別!頑張ってね!」

最初の頃は散々嫌味や嫌がらせをしていたにも関わらず、自身を案じてくれたメーレンの笑顔と心にミールは涙を流した。

「ごめんなさい・・・!でも、ありがとう・・・!」

そうしてミールは旅立っていった。

そんな彼女を見送るメーレンとヴォルフ。

「あの子、ずっと苦しかったんだ。貴族という鳥かごの中に閉じ込められ、何も知らずに大きくなっちゃったんだ。でも、その鳥かごから放たれた今、あの子はその分きっと幸せになれる。そう信じたい。」

「お優しいですね。お嬢様は。初めのころは犬猿と思われる程仲が悪そうでしたのに。」

「あの子の事情を知っちゃったらそうも言ってられないよ。ただ、ミールは昔の私みたいでちょっとほっとけなかった。私にはタクマがいたけど、あの子は間違いを正してくれる人はいなかった。だから私がなったの。それだけよ。」

「・・・そうですね。でも、人の苦しみを知れた貴女は、きっと誰よりも優しく素敵な女性になります。」

「ふふ。ありがと♪ヴォルフ。」

二人は小さなハイタッチをするのだった。


 それから数日後。

各国の王族や貴族が次々と自国へ帰還していく中、タクマ達はオリヴェイラに呼び出されていた。

「わざわざ呼ばなくても見送りくらいしてやるのに。」

「私がどうしてもタクマ様をお呼びしたかったのです!」

「分かったよ。んで?そっちから呼び出す程大事な用事があるのか?」

王女であるオリヴェイラから呼び出されたのだ。

何か重要な話があるのかもしれない。

「えっと、その・・・。」

「じれったいわね。私達も忙しいのよ。早く言いなさい。」

「リヴさん・・・!」

モジモジするオリヴェイラだが何かを決した様子。

「タクマ様!私はずっとタクマ様を好いておりました!今もこれからもずっと!ですから、どうか私の伴侶になっていただけませんか!」

顔を赤くしながら勢いよく頭を下げるオリヴェイラ。

彼女の告白に驚いた女性陣、特にリヴが叫びそうになった所を空気を読んだ大人のアルセラが彼女を押さえた。

意を決して自身の想いを伝えたオリヴェイラにタクマの返答は。

「・・・すまないオリヴェイラ。俺はお前をそういう想いで見てないんだ。だからお前の気持ちには答えられない。ごめん・・・。」

申し訳なさそうに断るタクマ。

すると頭を上げたオリヴェイラは・・・。

「覚悟はしてましたが、やはり振られてしまいましたか。こちらこそ困惑させてしまってごめんなさい。」

気丈に振舞っているがやはり失恋の痛みは辛い。

オリヴェイラは思わず涙を流してしまった。

「オリヴェイラ様・・・。」

メイド姿のアサシンが心配そうに彼女に寄り添う。

「でもこれで私も前に進めそうな気がします。ありがとうございました。」

「オリヴェイラ・・・。」

二人が馬車に乗り込もうとした寸前、オリヴェイラが再びタクマの元に寄ってきた。

「タクマ様、最後にもう一つ。眼を閉じて左を向いてくれますか?」

「別にいいが?」

言われた通り眼を閉じて左を向く。

「・・・・・おい、オリヴェイラ?」

いつまで経っても何も起きず思わず眼を開けたその時、タクマの頬にキスをするオリヴェイラが。

「~~~~っ⁈」

アルセラ以外の女性陣に稲妻が走り、ウィンロスが必死に笑いをこらえていた。

タクマも突然の出来事に呆然とする。

「私、諦めませんから。いつか素敵な女性になって再びタクマ様に想いを伝えます!女の度胸は逞しいのです!」

そうニカッと笑顔を見せ馬車に乗り、オリヴェイラ達は旅立っていった。

「ムキ~!あんの女狐!私だってまだ主様とキスした事ないのに~‼」

悔しさのあまり暴れるリヴをなんとか抑えるアルセラ。

リーシャとメルティナはぷく~っと頬を膨らませており、ウィンロスは笑い転げていた。

タクマもキスされた頬に手を触れる。

「・・・女って怖いぜ。」

だがその顔は嬉しそうに笑っていたのだった。

その頃、馬車の中ではオリヴェイラが顔を押さえて転がり回っていた。

「オリヴェイラ様も随分思い切った強硬手段に出ましたね。」

「仕方ないですよ。殿方にああいうことしたのは初めてですし・・・。」

「・・・話は変わりますが、イフル様の事はよろしかったのですか?突如護衛を辞退すると仰り承諾してしまって。」

「彼女はやるべき使命が出来たようです。いえ、残っていたのです。彼女の真剣なあの眼、何かとても大きな事が動き出しす前触れなのかもしれません。力のない私達は黙って見送り、祈ることしか出来ないのですから。」


 広場に戻ったタクマ達は身支度を終えたラセン、スイレンと合流する。

「ようタクマ!あれ?アルセラは?」

「ウィークスとネオン達ワールド騎士団の出発を見送りに行った。せっかく兄妹が再開したんだ。少しでも長く一緒にいさせたいしな。」

「お優しいねぇ♪」

「それより良かったのか?俺達から言っといて何だが・・・。」

「構わねぇよ。教皇様に頼まれて魔大陸に行くって話だろ?魔大陸ならサンドリアスから出た方が近いしな。」

「悪いな。」

「だから構わねぇって。それに帰りはコヨウとホウライが迎えに来てくれる手筈になったんだ。帰り道は何も心配ない。」

そして、二人は固い握手を交わした。

「お前等にはめちゃくちゃ世話になったな。和国を救ってくれてありがとう。」

「こっちこそ。この国では助かった。お相子さ。」

女性陣もスイレンと別れの挨拶を済ませる。

「じゃあなタクマ!皆!機会があれば是非和国に顔を出してくれ!いつでも歓迎するぜ!」

「あぁ!またな!ラセン!スイレン!」

「リーシャ達もよい旅を!」

「はい!スイレンさんもラセンさんとお幸せに!」

そうしてラセンとスイレンの二人は正門の方へ向かっていったのだった。

「なんだかんだ長い間一緒にいたな。」

「はい。少し寂しいですが、いつか絶対和国に行きましょう!」

「そうだな!」

二人は笑顔で笑い合いお世話になった人たちともお別れを伝え回る。

メーレンやヴォルフ達シュヴァロフ家。

教皇とエレア。

フュリア国王とエリック先生。

特にエリック先生には泣きながら抱きしめられた。

軽く生死の境を彷徨ったがなんとか挨拶周りを終えた。

「さてと!んじゃ魔大陸に出発しますか!」

「「「おおう!」」」

そうしてタクマ達は魔大陸へ出発していったのだった。


 それを高い塔の屋上から見送るイフルとランバルのエルフの二人。

「いずれ、彼等の力を借りる時が来るかもしれない。その時のために・・・。」

「うん。まずはセイグリットの居場所を見つけないと。そして知らせなきゃ。私達の冒険はまだ終わってなかったって。」

イフルは胸元で拳を握り空を見上げる。

(今度こそ終わらせなきゃ。あの悪夢を。そうでしょ、レイガ。)

その頃、天界のとある遺跡の屋上で朝日を前にレイガが決心した眼で佇むのだった。


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