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『第二十一章 旅立つ前に』

現在タクマ達は冒険者ギルド『黒狼の牙』に来ていた。

旅支度のためいろいろやることがあるからだ。

「そうですか。この街を離れるのですね。」

「えぇ、お世話になりました。」

「こちらこそ、旅先でもかんばってくださいね。」

タクマはお世話になった受付嬢に挨拶を済ましアイテムショップに足を運ぼうとすると、

「あ、タクマさん!」

ショップの入口でたくさんのアイテムを抱えたリーシャとバッタリ鉢合った。

「おうリーシャ。買い付けは済んだのか?」

「はい今しがた。タクマさんは何故こちらに?」

「いや、リーシャを迎えに来ただけだ。出発する前にちょっと寄りたいところがあってな。」

そうしてタクマ達は以前アルセラに案内された出店の並ぶ噴水広場に来ていた。

目的はもちろん、

「よっ!おっちゃん。」

「ん?」

そう、タクマにドワーフの里を教えたあのドワーフのおじさんだった。

「おう兄ちゃん、しばらく見ねぇ間に随分大所帯になってんじゃねぇか?」

「教えてもらったドワーフの里からいろいろあってな。」

世間話に花を咲かせる男二人を(誰やこのおっちゃん?)とただ見てるウィンロス。

タクマはドワーフのおじさんにこれまでの事を話した。

「ほう、王都での騒動は兄ちゃんが原因だったのか。」

「別に俺が起こしたわけじゃねぇよ。」

「分かっとる。それで?俺に何のようだ。」

「さっきも言った通りいろいろありすぎて剣を新調することが出来なかったんだ。もうドワーフの里に寄る時間もないしおっちゃんに良い剣を見繕ってもらおうかと思ったんだ。」

「・・・一応聞くが里ではそれぞれの鍛冶屋に寄ったんだよな?」

「あぁ、でもどの鍛冶屋でもバハムートの魔力に耐えられるような剣は無かったんだ。」

そう聞いたおじさんはふむ、としばらく考え込む。

「おっちゃん?」

「ふふふ、兄ちゃん合格だ!」

「・・・はい?」

タクマ含め他の三人も首をかしげる。

「合格とはどういうことで?」

「俺の本職は知っているな?俺はそいつが欲している剣を持つにふさわしいやつにしか剣を打たないんだ。」

おじさんが生き生きと話し出す。

だがタクマは何のことか理解できず話についていけていない。

「まぁ口で言っても分かりづらいか。俺が打った剣を見せてやる。」

そういって側に置いてあった木箱から一本の立派な剣を取り出した。

「ほれ、手に取って見ぃ。」

渡された剣を手に取った瞬間直感で感じ取った。

この剣はとんでもなく上質な代物だ。

あの聖剣や魔剣にも引けを取らないほど巧妙かつ繊細に作られていた。

「すげぇ・・・。」

「だろ?俺はここで普段は物売りとして過ごしているが時折目を見張る奴を見つけてはドワーフの里に送り込んでんだ。で、里でも相応しい剣に出会えなかった奴は俺が剣を打つに相応しいってことだ!」

「な、なるほど?」

説明されても職人論はタクマ達には少々難しく理解が追い付かなかった。

「まぁ簡単に言やぁ俺ならお前に最高の剣を打ってやれるってこった。ほら付いてこい!」

おじさんは強引にタクマ達を自分の工房に連れてきた。

室内には様々な鍛冶道具がずらりと並んでおり窯の熱で部屋が暑かった。

「これが異世界の工房・・・。」

「ぬ、我らは入れないな。」

「しゃーない、窓から覗きこむわ。」

「それはそれで怖いです・・・。」

三人のやり取りを隅におじさんは部屋の奥からある金属の塊を持ち出してきた。

「おっちゃんそれは?」

「スターミスリルだ。」

「「スターミスリルだと⁉やと⁉」」

バハムートとウィンロスはその名前を聞いた途端驚き、ドアと窓から顔を覗かせる。

その光景はある意味恐怖だ。

「ひょぇっ⁉」

あまりにも突然だったのでリーシャは顔面蒼白だ。

「やっぱり若いもんにはわからんか。この金属はな隕石から採掘した、いわば宇宙産ミスリルだ。当然数は少なく王族でさえもなかなか手に入れることが出来ない超特別な金属だ。」

「おっちゃん、どこでそんな貴重な物手に入れたんだよ・・・。」

スターミスリルの価値を知ったタクマもビビりながら聞いてみると、

「企業秘密だ。ガッハッハ‼」

と笑い誤魔化した。

「まさかおっちゃん・・・そのミスリルでタクマの剣を打とうとしとるんか⁉」

ウィンロスが真っ青な表情で聞く。

「えぇっ⁉私達そんな大金持ってませんよ⁉」

「安心しろ、金は取らん。その代わり従魔の鱗と羽を二枚ずつもらえるか?」

「我の鱗を?」

「兄ちゃんの戦闘スタイルは従魔の魔力を剣に宿して戦うんだろ?魔力元の従魔の一部を練りこむ。そうすれば魔力の通りも良くなるんだ。」

「なるほど、いいだろう。鱗を二枚所望だな。」

バハムートは身体を震わせ古くなった鱗を幾つか落としその中の二枚を渡した。

ウィンロスも自分の羽を二枚むしり取った。

「ほれ。」

「何故俺に渡す・・・。」

「よし兄ちゃん!それらを奥の部屋に持ってきてくれ!」

おじさんとタクマは荷物を持って奥の部屋に入って行った。

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「こりゃとんでもない物が出来るんちゃうか?」

「かもしれんな・・・。」


 ドワーフのおじさんが工房に籠り始めてから数日後、タクマ達は依頼を終えギルド内の酒場で休憩をしていた。

バハムートとウィンロスには暇を出し今二頭は近くの森の中で息抜きをしてもらっている。

なので今はリーシャと二人きりである。

「ん~♡異世界のスイーツもイケますね!」

「気に入ったようで何より。」

と、タクマはお茶をすする。

「・・・前々から思ってたんですがタクマさんて大人な雰囲気がありますよね?普段から落ち着いてるというか・・・。」

「そうか?これでも学園では図書室を占拠するくらい騒ぎ起こしたことあるけど?」

「そ、そうですか・・・。」

一瞬反応に困りケーキを一口食べた。

二人で午後のティータイムを満喫していると知っている声をかけられた。

「タクマ殿。」

「アルセラさん!」

声をかけてきたのはアルセラだった。


 タクマ達は場所を変え宿に戻ってきた。

他の人に聞かれてはまずい話なので停泊している部屋で話し合うためだ。

「・・・やっぱり俺の睨んだ通りか。」

「あぁ、ロイル隊長のおかげで勇者の講師を務めた大臣のリード様と判明した。この事実を知っているのは君たち含め私とロイル隊長だけだ。」

「そうか・・・。」

「どうする?私なら即対処できるが?」

「いや待て。しばらく泳がせてみよう。」

タクマはパチンと指を鳴らして言った。

「泳がせる?」

「もちろん監視付きでな。そのリードっつう大臣がいかにも怪しい行動をとったら対処はそっちに任せるが、まずは情報を集めたい。」

「でもタクマ殿は旅を続けるのだろう?伝書鳩を貸し出すことはできないのだが?」

「その点は大丈夫、リーシャ!」

呼ばれたリーシャは異空庫から二つの魔道具を取り出した。

「これは?」

「リーシャが言うには「すまほ」っていう道具らしい。これを持ってれば離れたところから直接話せるらしいぞ。」

リーシャはこの先の事を考えバハムートと相談して前世の世界の道具「スマホ」に似た魔道具を作っておいたのだ。

流石元社畜、仕事が早い。

「ここの魔法陣に魔力を流すともう一つの端末に言伝が出来ますよ。」

もう一つのスマホをアルセラに渡し表面に映した魔法陣に触れる。

「もしも~し!」

「うわっ⁉板から声が⁉」

突然聞こえた声にアルセラは驚いた。

「これならいつでもタクマさんとお話しできますよ。」

自身作のようでリーシャは満足げな表情だった。

「つーわけで、何か分かったらこれで伝えてくれ。」

「あぁ分かった。」

スマホを受け取ったアルセラは部屋を出て行った。

「・・・よくわからないが、すごく嬉しいな♪」

アルセラはウキウキした足取りで宿屋を後にした。


 それからまた数日後、ついに剣が完成したとドワーフのおじさんから連絡があり一同はおじさんの工房にやってきた。

「ほれ!出来たぞ!」

おじさんは仕上がった剣をタクマに渡す。

その剣からは凄まじいほどの魔力を帯びており軽く素振りをすると体の根元までしっくりくる感覚がした。

「すげぇ!剣と一体化してる気分だ・・・!」

刀身は純情輝く銀色にバハムートの鱗を加工して付けた鍔、ウィンロスの羽毛を編んだ柄。

一言で言うと美しい以外の言葉が見つからない程素晴らしい出来だった。

「それとその剣専用の鞘だ。これも持ってけ!」

と鞘も渡された。

さっそく鞘に納め腰につける。

「どうだ?」

「とても似合ってますよ♪」

「前の剣とは比べ物にならんほど魔力に満ちているな。」

「ハハハ、その剣で切られたらと思うとおっそろしいで!」

団らんと話しているとおじさんはリーシャに声をかけた。

「おい嬢ちゃん!」

「はい?」

「ついでに作ったやつだ。お前さんにもやろう。」

おじさんの手には鉄製で先端には何かを入れるような部分がある杖を持っていた。

「おじさんこれは?」

「余ったスターミスリルともらった鱗と羽毛で作った魔術師用の杖だ。魔力を通せば好きな形に変えることもできる優れものだ。」

「え、でも何で私にも⁉」

「一目見た時嬢ちゃんからも強いオーラを感じた。おおかた兄ちゃんと一緒に行くんだろ?」

「は、はい・・・。」

ちょっと照れながら返事をした。

「あの兄ちゃんたちは強い、お前さんがついていけるようアシストさせてくれ!」

ニカッと笑い杖をリーシャに渡す。

「~っ!ありがとうございます‼」

地面に付きそうな勢いでお辞儀をしたリーシャだった。


 新しい武器を貰い、旅の準備が整った一同。

「おっちゃん、ありがとうな。」

「おう!俺も久々にいい武器を作れて楽しかったぜ!またいつか俺の店に寄ってくれや。」

ドワーフのおじさんにお礼をしタクマ達は工房を後にした。

そして一同はとうとう国門街から出発をしよう門へ向かっていた。

「よし、準備完了!いよいよ出発だ。」

「なんだかんだこの街に長く滞在していたな。」

「最初は俺とバハムートの二人だけだったのに今じゃ仲間が増えたし、それにたくさんの人と縁も出来た。やっぱ旅に出て良かったな。」

期待を膨らませながら門に到着すると見知った顔を見つけた。

「タクマさんあそこ!」

「アルセラさん?」

門の前に立っていたのはアルセラだった。

「・・・もう発つのか?」

「あぁ、いろいろ世話になったな。」

「何を言う。世話になったのはこちらだ。君には返しても返しきれないほどの恩がある。だからせめて見送りくらいはさせてくれ。」

「・・・分かった。」

タクマは手を前に出した。

「この街に来られたのはアルセラさんに出会えたおかげだ。ありがとう。」

「タクマ殿・・・!」

アルセラはタクマの手を取り固い握手をした。

「よし、いくぜ!」

「うむ。」

「ほいな!」

「はい!」

気合を入れタクマ達は国門街を出発した。

後ろで見送るアルセラ。

彼女は手に持つスマホをぎゅっと握りしめると、

「あ、そうだ。()()()()ー‼」

一同の姿が丘に見えなくなる寸前でタクマが振り返った。

「これからも友達としてよろしくなー‼」

大きく手を振り叫ぶタクマ。

「・・・こんな騎士の端くれな女を、友として呼んでくれるか。ありがとう・・・タクマ!」

人生初めての友人にアルセラは静かに涙を流した。


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