『第二百章 従魔決闘』
翌日、サンドリアスにあるコロシアムドームには従魔同士の決闘を聞きつけ大勢の観客で賑わっていた。
ちなみにタクマのラセン護衛仕事は事情を知った本人やバハムート達に責任はしっかり果たしてこいと言われ、引き続きスイレンが変わりを請け負ってくれた。
タクマとリーシャ、リヴの三人も観客席で見守る中、両サイドの王席で睨み合うメーレンとミールの二人の令嬢。
側に彼女らの身内も同席している。
「逃げずに来たことは誉めて差し上げますわ。」
「それはどうもです。」
「メーレン様、本当に大丈夫でしょうか?相手は魔獣使いの名家です。ヴォルフくんにもしもの事があれば・・・。」
執事のフロウが不安そうに耳打ちするが、
「大丈夫ですわ。この時のために彼等と特訓したのですから。」
そう言いメーレンは首飾りを握りしめる。
そして互いの下の登場門からヴォルフ。
そして凄まじい存在感を放つ魔獣、グリフォンが現れる。
「あれがグリフォンか。ヴォルフより格上なのは確実だな。」
「でも大丈夫でしょ?」
「あぁ。」
三人は笑みを浮かべる。
「それではこれより、イグリド家対シュヴァロフ家による従魔決闘を行う!従魔のどちらかが降参、もしくは戦闘不能と判断した場合勝負ありとする!契約主からの指示と、一度限りのアイテムの支援有りのルール!それでは、バトル開始!」
審判の合図とともにヴォルフが片手剣と盾を構えて飛び出した。
先手必勝である。
しかし、
「避けて!ヴォルフ!」
「っ!」
グリフォンのくちばしから炎の玉が吐き出され咄嗟に避けるヴォルフ。
「グリフォンがブレス、魔術構築をいじられてるな。」
本来その生物が持ちえない魔術式を組み込まれ他属性の力を使えるようになる。
人の力によって作り出される亜種である。
「ああやって他属性持ちの魔獣が生み出されるのね。私も本来は水と氷の天然属性だけだったけど・・・、意図せず重力魔法も手に入れたわ。」
その時の事を思い出し嫌な気持ちになるリヴだった。
なんとか炎の玉をかわしたヴォルフだがグリフォンの圧倒的な威圧に後ずさりする。
「所詮格下の魔獣。私のグリには勝てませんわ!さぁグリ!やってしまいなさい!」
ミールの指示と共にグリフォンは羽ばたき上空へ上がる。
そして暴風をまき散らしヴォルフを吹き飛ばそうとする。
だがヴォルフも飛ばされぬよう必死に地面に張り付く。
「お嬢様!このままでは!」
「分かってるわ!ヴォルフ!」
メーレンの指示でヴォルフは上体を起こし、斬撃を放った。
吹き荒れる暴風を切り裂きグリフォンにかする。
「んな⁉ワーウルフごときが斬撃を飛ばした⁉」
「こっちは死ぬ思いで特訓したのよ!」
昨日。
決闘まで半日しかない期間、タクマ達の特訓はかなり煮詰まっていた。
ヴォルフはタクマと竜化したリヴを相手にひたすら戦闘特訓。
メーレンもテイマーの主人としての知識をリーシャから叩きこまれる。
「ちょ、ちょっと休憩を・・・!」
「座学で頭を酷使しすぎましたね。」
異空庫から糖分たっぷり、甘いショートケーキを取り出した。
「これあげますので食べたら今度は状況判断の見極め方を学びましょうね。」
「鬼ですわこの人ぉ‼」
無垢な笑顔で言うリーシャだがその腹の底は明らかに黒い何かだった。
一方でヴォルフの方はタクマの剣技とリヴの魔法の嵐にひたすら食らいつき、数時間でかなり動きが良くなってきていた。
「覚えが早いな。もうほとんど俺達の動きを見切れてやがる。」
「これも、お嬢様の、ため、ですから。」
「主人のために努力する。メーレンはいいパートナーを得たわね。最初の頃ヴォルフはいらないなんて言ってた時とは大違い。」
リヴの言葉が聞こえたのはズ~ンとうなだれ反省するメーレン。
「何よりアンタ賢いし、流石ワンちゃんね。」
その時、ヴォルフに稲妻が走りメーレンがハッとした表情になる。
「リヴさん!それは言っちゃダメですわ!」
「へ?」
振り返ると割とガチでキレてるヴォルフの姿が。
「今、犬と、言いましたね?お覚悟。」
ヴォルフは剣を咥えると地面に手を突き四足体勢になった。
そして次の瞬間、素早い速度でリヴに襲い掛かる。
「うわ早⁉アンタそんな早く動けるの⁉てかちょっと待って!めちゃくちゃ鬱陶しい!」
リヴの巨体の上を縦横無尽に動き回り、先ほどと変わってもの凄く動けていた。
「アイツキレるとあんな動き出来るのか・・・。」
「ヴォルフは狼としての誇りを持ってるから、彼に犬は禁句なのだわ。」
「それ先に言ってよね~⁉」
「リヴ様、もうしばらく、手合わせ、お願い、します。」
「怖い!目が怖いって!」
もはやどっちが特訓相手をしているのか分からなかった。
そんな調子でメーレンとヴォルフはたった半日で目覚ましい成長を遂げたのだった。
「それに、まだ奥の手もあるしな。」
観客席で見守るタクマ達三人は互いに見合わせ笑みを浮かべるのだった。
暴風を切り裂かれたグリフォンはゆっくり地上に降りてくる。
観客たちもヴォルフの見せた反撃に魅入られざわざわと話題となっている。
「あり得ないわ。たかがワーウルフごときが剣技を仕えるなんて・・・!」
予想外の事がおき爪を噛んで悔しがるミール。
向かい側のメーレンを見ると気付いたのかドヤ顔を見せてきた。
「キ~!舐められたようで気に喰わないですわ!こうなったら・・・、グリ!『ヴァーミリオン』ですわ!」
ミールの指示の後、再び上空へ飛んだグリフォンは口部に炎の玉が込められる。
そして発射と同時に暴風を仰ぎ、風に乗った炎はまるで熱線のように急加速し避けたヴォルフの足元に炸裂する。
地面は熱で溶け穴が開いていた。
それを見たヴォルフは勿論、メーレンも驚きを隠せなかった。
「アレを受けたらただじゃ済まない・・・!」
グリフォンは容赦なく熱線の雨を繰り出しヴォルフは紙一重で避け続ける。
しかしこのままでは勝つことも出来ず、下手をすればヴォルフも致命傷では済まない。
(どうしよう!どうしよう⁉)
内心焦るメーレン。
その時、特訓中のリーシャの言葉を思い出した。
『従魔は主人の気持ちをより強く理解します。なので主人が不安でいると従魔も不安にさせてしまう。いいですか。主人と従魔は心は一つ。パートナーを信じ共に支え合って立ち向かってください。お二人は固い絆で結ばれてますから。』
「っ!ヴォルフ!雄叫び!」
メーレンの指示で大きく息を吸い込み特大の咆哮を上げる。
突然の雄たけびに驚いたグリフォンの攻撃に隙が生まれる。
「今よ!」
その隙をついてヴォルフは盾を投げつけグリフォンの喉元に見事命中させる。
喉を負傷したグリフォンはもう炎を吐けない。
「よっし!」
ガッツポーズするメーレン。
それを見て面白くないミールは、
「生意気・・・、生意気生意気生意気‼」
自分の従魔より格下のヴォルフに一枚食わされたミールはもの凄い勢いで地面を踏みつける。
「もう容赦はしませんわ!執事!アレを持ってきなさい!」
執事がトランクを開くと薄気味悪い黒い魔石が差し出される。
ミールは魔石を手に取り何やら呪文を唱えた。
「私が負けるなんて有り得ませんのよ!」
一度限りアイテムによる支援のルールで黒い魔石をグリフォンに投げつけた。
「何だ?あの黒い石?」
グリフォンがその魔石を喰らい飲み込むとどす黒い靄が身体の周りに浮かび上がる。
咆哮を上げ凄まじい風圧が辺りに吹き荒れる。
その時、とあるエルフの二人がその衝動に気付く。
「どうした?イフル?」
世界会議中の室内でオリヴェイラの護衛をしていたイフルと大図書館で本を読んでいたランバルがコロシアムドームの方向に振り向く。
(この気配、まさか⁉)
(何でこの時代でアレが⁉)
黒い靄に巻かれより凶暴性が高くなるグリフォン。
「ねぇ主様、あれは流石におかしくない?」
「あぁ。ひょっとしたら、決闘どころじゃなくなるかも・・・!」
近くにいるヴォルフもその異様さに警戒心が高まっていた。
「さぁ暴れなさい‼」
「~~~~~っ‼」
ミールの合図と共に迫りくるグリフォン。
凶暴性の増した前足の爪で襲ってくる攻撃をなんとか避けていく。
「あのグリフォン、殺気が感じられる!こんなの試合じゃない!審判!」
ブルファムが危険を察し試合中止を促すが当の審判は黒い靄による圧力にやられ気を失っていた。
(くっ!一瞬でも気を抜けば私達でさえも気絶しそうだ・・・!)
観客席も次々と意識を失っていく。
「アハハハハ‼これが私の力!最強の従魔の力!貴女の薄汚い従魔なんかとは雲泥の差ですわ!」
高揚し狂ったように笑うミール。
「タクマさん!」
リーシャとリヴが飛び出そうとするが、タクマに止められた。
「待て。」
よく見ると圧力の中襲い来るグリフォンを相手しているヴォルフ。
「これ以上、お嬢様や、観客の皆さんを、巻き込むな!」
ヴォルフの剣筋がグリフォンの脚を切りつけ後退させた。
「お前は、危険!ここで、倒す!」
「ヴォルフ!」
その時、メーレンの首から下がる翡翠結晶の首飾りが光りを放ったのだった。




