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『第百九十九章 令嬢テイマー』

和国で助けてもらった神、レイガとイフルの関係をランバルから知らされたタクマ達は驚愕を押さえずにいられなかった。

「では二百年前の『罪の大厄災』を終わらせたのはそのレイガという少年であるのか?」

その歴史を知るフュリア国王とオリヴェイラも驚きを隠せなかった。

「えぇ。ですがその直後、レイガは僕達の前から姿を消しました。本当に突然に・・・。」

イフルも当時を思い出したのか俯いてしまう。

「彼が唯一心を許した相手、イフルにも何も告げずに。それから彼女は彼を探して旅を続けてました。二百年もの間ずっと・・・。」

「二百年・・・。」

人間の感性からしたら途方もない時間だ。

元々人間であったレイガであれば二百年も生きてられるはずもないのにそれでもイフルは彼を探し続けた。

(レイガが神になってた事をイフルは知らなかった。それでもアイツが何かしらの方法で生きてると信じて旅をしてきたのか。)

彼女の執念にタクマは感心してると、イフルはポロポロと泣き始めた。

「でも、タクマから聞いて、私、嬉しかった。レイガが、生きていてくれた事実に・・・!」

二百年かけようやく掴めた事実に涙が止まらないイフル。

「うわあぁぁぁん‼会いたいよぉ!レイガ~~!」

感情が溢れてしまった彼女をオリヴェイラとアサシンがなだめる。

その様子を見ていたタクマは紫のネックレスを手に取る。

向こうの都合もあるが会わせようと思えば会わせられるのだろうか。

そう思っているとランバルにそっと止められ首を横に振っていた。

「九十年前、彼が僕に会いに来た時、イフルの前でそれを使うのはやめて欲しいと言われてる。きっとレイガにも理由がある。だから。」

「・・・分かった。」

正直これはただの座標であってこっちから呼び出すことが出来るのかはわからない。

タクマはネックレスを仕舞った。

すると泣き止んだイフルがジト目でランバルを睨んだ。

「ところでランバル。貴方九十年前にレイガに会ったって言ってたよね?何で教えてくれなかったの?」

殺意の籠った眼で睨まれ汗が止まらないランバルは眼を逸らす。

「私が人生賭けてレイガを探してたのに、なに一人だけちゃっかり会ってるの?」

「いや、ほら。音信不通だったし、連絡手段も特になかったし・・・。」

「問答無用!」

怒りの弓矢を放ち逃げ出すランバル。

「研究に没頭するのはいいけど連絡手段は持ってろって昔から言ってるでしょ!」

「待って待ってイフルちゃん!その勢いで射抜かれたら本当に死んじゃうって!」

再び興奮状態のイフルを止めるのに一苦労したタクマ達はそんな賑やかな夜を過ごしたのだった。


 翌日、二日目の世界会議の日。

タクマはいつものようにラセンの護衛として準備を進めているとスイレンがその仕事を一日受け持つと提案された。

タクマはこの国に来てまだ観光をしていないためスイレンが気を利かせてくれたのだろう。

バハムートにも助言されタクマは一日暇が出来た。

それを聞いていたリーシャとリヴがタクマと観光したいと言い出したため三人は現在サンドリアス各地を巡っていた。

「わーい♪主様とデート♪」

「リヴさん、くっつきすぎです・・・。」

上機嫌にタクマの腕に抱きつくリヴ。

そんな三人デートをしていると噴水広場の方で何やら人が集まっていた。

どうやら誰かが言い争っているようだ。

タクマ達も駆けつけると、

「謝りなさい!」

聞き覚えのある叫び声に顔を覗かせるとそこには二人の貴族令嬢が口喧嘩をしていたのだ。

そして片方の令嬢には見覚えが。

「アイツは!」

それはカリブル街という港町の領地を治める領主、その娘であり知り合いのメーレン・シュヴァロフ令嬢であった。

側には彼女の従魔ワーウルフもいる。

「メーレンじゃない!懐かしい!」

「何やら相手の貴族令嬢ともめ合っているようだな?」

今にも掴みかかりそうなメーレンをワーウルフがなんとか引き留めている様子。

「謝る必要がおありで?そんな品のない獣を従魔にするなんて、貴族の風上にも置けませんわ。」

扇子で口元を隠して嫌味を言う茶髪の令嬢。

如何にも悪徳令嬢と言った少女だ。

「ヴォルフを悪く言うのは主人の私が許しません!彼は私のために沢山の努力をしてくれたのよ!彼をよく知りもしない貴女がとやかく言う筋合いはありません!」

「やだやだ。ペットは飼い主に似ると言いますがこれでは全くの逆ですわね。早くこの獣から離れましょう。私にも移されてはたまりませんわ。」

「っ!この‼」

野次馬の中我を忘れて飛び掛かりそうなメーレン。

相手も相手だがこのままでは更に騒ぎが大きくなりそうだ。

「そこまでにしておけ!メーレン!」

見ていられなかったタクマが前に出て彼女を呼び止めた。

「え、タクマ・・・?」

タクマに気付いたメーレンは正気に戻る。

「周りをよく見ろ。ここでわめいても何の意味もなさない。」

冷静になったメーレンは周りを周知した後、ようやく落ち着きを取り戻した。

「何ですの貴方は?平民ごときが貴族の間に入らないでくださいまし。」

「俺はコイツの関係者だ。貴族だろうが平民だろうが騒ぎは止める。だが、アンタの発言は少々目に余るな。」

タクマの言葉に少し眉を引きつらせる令嬢。

すると彼の左腕に輝く翡翠の腕輪に眼が止まった。

「それは、まさか従魔結石⁉てことは、貴方もテイマーですの?」

「そうだが、それが何か?」

(平民風情が貴族や王族でさえ入手が困難な従魔結石を持ってるなんて。気に入らない・・・!)

「コホン。名乗るの遅れて申し訳ありません。私はイグリド家の令嬢『ミール・イグリド』と申します。不躾で早々ですが、貴方のその腕輪。私に譲っていただけませんか?」

タクマの目つきが鋭くなる。

「何だと・・・?」

「実は私もテイマーの職を持っていまして。私は従魔と更なる絆を深めるためその魔石が必要なのです。ですのでどうかこの私にお譲りください。勿論相応の対価はお支払いいたしますわ。」

何処からか彼女の執事が現れケースいっぱいの金貨を差し出してきた。

見たことない大金に野次馬の人達が驚く。

だがタクマの答えは。

「断る。」

「・・・は?」

「これはただの道具じゃない。アイツ等(バハムート達)との絆の証でもあるんだ。大切な従魔結石を渡すわけがないだろ。」

唖然とするミールを無視しタクマはメーレン達に向き直る。

「ここじゃ話も難しい。場所を変えようぜ。」

「そ、そうね。」

メーレンはワーウルフに抱えられその場を後にしようとするが。

「お、お待ちなさい!貴方、私が誰だが分かってるのですか!かの魔獣使いの名家イグリド家の令嬢ですのよ⁉」

「知らねぇよそんな事。自分の地位にふんぞり返り、他人を見下す奴に払う礼儀はない。令嬢だろうと何だろうと、同じ人間だ。」

そう言い残しタクマ達はその場を後にしたのだった。

野次馬の徐々に開けていき、残ったミールはわなわなと震えていた。

「同じ人間ですって?貴族の私が、平民と?ふざけんなですわ‼」

怒ったミールは地面を踏みつける。

「私の願いを断るなんて!このままでは気が済みませんわ。シュヴァロフ家の令嬢も、あの平民も!この私に恥をかかせたことを後悔させてあげますわ!」


 メーレンと偶然再会したタクマ達は近くの公園にやってきていた。

「お久しぶりですね。メーレンさん!」

「ひゃ、ひゃい!」

メーレンは普段あまり怒らないリーシャに思いっきり叱られた事があるため一瞬ビビる。

「久しぶりねタクマ。皆も。それと、さっきは止めてくれてありがとう。あのままじゃ私、取り返しのつかない事をするところでしたわ。」

「短気なのは相変わらずのようだな。」

そんな彼女を必死に止めていた従魔のワーウルフ。

スーツズボンに上半身裸ネクタイの格好だが前よりも身なりが整っており気品に溢れている感じがした。

「アンタも久しぶりね。」

「お久し、ぶりです。皆、さん。」

「喋った⁉」

まだ流暢ではないがワーウルフは言葉を学び話せるように努力したらしい。

「それ、と、私の名はヴォルフ、です。お嬢、様に付けて、いただきました。」

「言葉まで覚えたのか。努力が素晴らしすぎる・・・。」

「でも、あのいけ好かない令嬢、ミールにヴォルフの事を薄汚い獣と罵られて、凄く悔しかった。」

「アイツか・・・。」

タクマの従魔結石をなんの迷いもせず要求してくるあたり、相当プライドが高く、自分の地位に溺れている様子。

相当面倒な令嬢だった。

「あの令嬢もテイマーの職を持ってると言っていたが、魔獣使いの名家とも言っていたな。」

「それは間違いないですわ。彼女の家系、代々魔獣を従え国に貢献してきた一族なの。その血を引いた彼女は高ランクの魔獣を従魔にしているの。」

「高ランクって?」

「・・・グリフォンよ。」

グリフォン。

鷹の胴体と獅子の下半身を合わせ持つAランクの魔獣。

気性が荒くめったなことで人に懐かない希少な魔獣だ。

「ヴォルフよりランク上か。ちなみにお前(リヴ)は?」

「S以上に決まってるでしょ?ドラゴンよ私?」

まあランクの事は置いとき、

「グリフォンね。そりゃ天狗になるのも無理ないな。」

「でもあの性格はちょっと行き過ぎです・・・。」

「まぁもう関わる事はないだろう。メーレン。他のシュヴァロフ家の人達は来てないのか?一応挨拶しときたいんだが。」

「お父様と執事のフロウ、メイドさん数人できましたわ。そういうタクマも、何故サンドリアスに?」

「王族になった友達の護衛。」

「王族の友人て・・・、貴方の人脈どうなってますの?」

その話も置いとき、タクマ達はメーレンの泊まる別荘に案内され領主の彼女の父ブルファム、執事のフロウとも再会、挨拶を済ませる。

そして先ほどの騒ぎを知ったブルファムはウザい程にメーレンをあやした。

彼の親バカ具合は今も健在であったのだった。


 しばらくメーレンの別荘でおもてなしを受けていると、ある手紙が届いた。

差出人は、

「ミール・イグリド⁉」

先程広場で揉めていたミールから手紙、ではなく正確には果たし状がメーレンの下へ届いたのだ。

「話は聞いていたがメーレン、イグリド家の令嬢に眼を付けられたのかい?」

「えぇ、お父様。ヴォルフの事を罵られてついカッとなってしまって・・・。」

内容はサンドリアスにある遊戯施設、コロシアムドームにて従魔同士の決闘を申し込むものだった。

(恐らく俺が断ったせいだな。彼女のプライドが許さなかったんだろう。)

「従魔同士の決闘、イグリド家は魔獣使いの名家だ。ヴォルフには危険が大きすぎる・・・!」

ブルファムはこの申し出は断るべきだと進言するが、

「ブルファム様、私は、この決闘、受けて、立ちます。」

「ヴォルフ?」

他ならぬヴォルフ自身が名乗りを上げた。

「私の心配を、してくださり、ありがとう、ございます。です、が、これはお嬢様の、ためでも、あります。私は、お嬢様の、シュヴァロフ家へのために、戦います!」

彼の意思は固いようだ。

「お父様!私からもお願いします!私の撒いた種です。だから私達がしっかりけじめをつけます!」

二人に頭を下げられブルファムは負けたようにため息をつく。

「分かった。なら一つ条件を出す。その結果次第で君達の意思を尊重しよう。」

ブルファムはタクマ達の元へ歩み寄る。

「タクマ君。テイマーの先輩である君にメーレンの師となってほしい。」

「俺が?」

「勿論無理にとは言わない。でももし君が引き受けてくれたら、どうか二人を頼みたい。」

タクマはメーレンとヴォルフの決意の眼を見る。

「・・・いいぜ。手紙によれば決闘は明日の正午。それまでかなりキツイ特訓になるが、ついて来れるか?」

「はい!」

二人は力強く頷く。

「という訳だ。その依頼、承る。」

「私達もお手伝いします!」

「光栄に思いなさい?ドラゴン直々に特訓してあげるから。」

リーシャとリヴもやる気のようだ。

そうしてタクマ達による特訓が行われ、後にメーレンは彼等の厳しい特訓をお願いした事を後悔するのは言うまでもない。


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