『第百九十七章 大迷宮サンドリアス』
試験も終え、無事ライセンスを獲得したリーシャ。
サファイアに輝く青いカードを掲げてご満悦のようだ。
その様子を見て微笑むオネェのギルドマスター。
「それにしても、ネオン君のお友達、とんでもない実力者ね。あたしなんて数年ぶりに冷汗かいちゃったわ。」
「いや、俺もここまで凄い娘だったなんて思いませんでしたよ。」
ネオンとギルマスは顔なじみのようだ。
「あの歳でこれ程強いならダンジョンに挑戦したがるのも頷けるわ。先輩としてしっかり見てあげなさい。」
「言われるまでもないっす!女の子と付き添えるんだからこれ程嬉しいことはないぜ!」
「相変わらずね・・・。」
ご機嫌なリーシャを呼び戻す。
「それで?早速ダンジョンに挑戦するのか?」
「はい!一度どのレベルなのか把握しておきたいので。」
「正しい判断。なら先輩として同行してあげるよ。ほら、早速案内するぜ!」
そうして二人はギルドを後にしたのだった。
「なんだかんだ言って、後輩が出来て嬉しそうね。」
ネオンとリーシャの二人はエリアを跨ぎ一番下の階層、水の都エリアにやってきた。
その中央広場には太く大きな塔がそびえ立っており、たくさんの冒険者や行商人で賑わっていた。
「んじゃ早速一階層でデビューしてみるか!」
「はい!」
二人は入り口近くの受付で申請を済まし、いざダンジョンへ突入した。
「あれ?下へ降りるんですか?」
「見た目は塔だけどあれはただの飾りでダンジョンは地下に広がってるんだ。ここは序盤の一階層だけど下へ降りれば降りる程出現する魔獣も強くなる。その代わりレアな戦利品やお宝がゲットしやすくなる。メリットデメリットを考えて攻略していくのがポイントだ。」
「はえ~、ためになります。しかし今更ですけどそんなダンジョンから魔獣が外に出てしまったら危ないのでは?」
「その心配も大丈夫。なんたってこのダンジョンは・・・、いや、あえて言わないでおこう。とにかく魔獣が外に出る心配は皆無だよ。」
「?」
途中口をつぐむネオンだった。
「と、おしゃべりしてる間にお出ましだぜ。」
歩いていた廊下のような通路の先から中型犬サイズの狼の魔獣が群れで現れた。
「いざとなったら俺が出るからまずはリーシャちゃん達だけでやってみてくれ。」
「分かりました。行くよラル!」
「オッケー!」
髪の中からラルも飛び出しリーシャは杖を構える。
「先手必勝!ラル!」
杖を振りかぶるリーシャの掛け声と同時にラルが身構えると、野球のようにラルを打ち飛ばす。
爆速で群れに迫るラルが翼を平行に開くとその速度のまま通過し、群れを一刀両断にした。
「やった!ウィンロス兄に教えてもらった風魔法上手くいった!」
飛び跳ねて喜ぶラルにグッドサインをするリーシャ。
そんな彼女たちの連携を見たネオンは開いた口が塞がらないでいた。
「マジ?」
それからリーシャ達は一階層の魔獣を様々な方法で倒していきすっかりダンジョンに慣れたようだ。
「ダンジョン内で使える魔法も把握出来ましたし、少しレベルの高い魔獣の相手をしてみても良さそうです!」
「うん・・・、もう一階層の魔獣は敵じゃないね・・・。」
ダンジョンに死体が吸収され大量に散らばる魔石を拾い集めるネオン。
順調なペースで次の二階層へ降りてくると、足元に赤い点々を見つけた。
「ねえリーシャ、これって・・・。」
「血痕です。」
「他の探索者が負傷を負ったんだろう。よくある事だ。・・・しかし二階層で負傷か。ルーキーか、はたまたダンジョンの不具合か?」
その時、地鳴りと悲鳴の音がし、二人は一目散に走り出した。
壁や天井、床の痕跡から見て激しい戦闘があった様子。
「後者か・・・!」
戦闘音のする方へ向かっていると行き止まりで巨大なカマキリの魔獣に襲われてる三人のパーティを発見した。
「ラル!」
杖先の従魔結石が輝きラルは光に包まれる。
『覇王進化!ガンズ・ド・ラル!』
銃火器を身に着けた姿に進化したラルがカマキリに体当たりし行き止まりの壁を突き破って吹き抜けの空間へ落ちていった。
襲われていたパーティは見た感じ初心者のようだ。
リーシャが回復魔法、ネオンはポーションで彼らを治療する。
「大丈夫ですか?」
「は、はい・・・。ありがとうございます。」
「君達、見た所ルーキーのようだね?冒険者稼業も日が浅いみたいだし。何故ダンジョン、しかも二階層にいる?」
二階層は初心者でもかなり危険な難易度。
だがそれ以前に、彼等のような初心者がライセンスを持てるはずがないのだ。
「雇われたのか。ライセンスを持った主はどうした?」
「あの人なら、いやアイツは、魔獣が出た瞬間に俺達を置いて一人で逃げちまった。あれだけイキってたくせに俺達を見捨てたんだ!」
「なんて無責任な・・・。」
そこに激しい衝突音が吹き抜けの底から聞こえる。
「まずはあの魔獣をどうにかしないと!」
「リーシャちゃん!あのカマキリは推定でもBランクはある!気を付けて!」
「分かりました!」
リーシャも壁穴から飛び出し杖の先端をカマキリの頭部に突き刺した。
悶えるカマキリの口にラルは銃口をつきつける。
「『マグナ』!」
放たれる魔力の銃弾がカマキリの頭部を撃ち飛ばし討伐した。
魔石を回収しネオン達の下へ戻るリーシャとラル。
「こっちは片付きました。皆さんの容態もありますし一旦引き上げましょう。」
「そ、そうだね・・・。」
プロですら苦戦するBランク魔獣をあっさり倒してしまうリーシャの事は置いとき、一同はダンジョンを引き返していった。
そして外に出たリーシャ達は負傷したパーティをギルドに預けた。
「やれやれ、とんだデビュー戦になっちゃったね。」
そういうネオンだがリーシャは難しい顔をしていた。
「・・・やっぱり気になる?」
「はい。彼らを雇ったという人物。あまりにも無責任です。」
「気持ちは分かるけど、そういう人間は割と多い。言いにくいけど、それが暗黙の常識なんだ。」
「分かってはいるのですが、嫌な世の中です・・・。」
世の現実を痛感するリーシャであった。
その日の夕刻。
大聖堂では世界会議がひと段落した所でお開きとなった。
「あ~、頭痛ぇ・・・。」
頭から湯気が出るラセンがウィンロスの上に倒れる。
「だからなしてオレんとこやねん?」
「アニマルセラピー。」
「鳥ちゃう。」
そんな事をやっている最中、他の王族たちは続々と大聖堂を後にしていった。
「ラセンが動けるまで我らはしばらく留まろう。」
「ご迷惑かけます・・・。」
そこへ書類をまとめ終わったスイレンがやってくる。
何やらモジモジしているようだが。
「どしたん?スイレン。」
「えっと、その、私も、もふってもいいだろうか・・・?」
恥ずかしそうに上目遣いで見てくる。
「なんやそんな事かいな。まぁ今はあんま人もおらへんし、ほな来いや。」
翼を広げ明るい笑顔になったスイレンを迎え入れた。
夫婦二人してウィンロスのもふもふを堪能している。
「アイツ会議中ずっとウィンロス見てたからな。女子としての本能が疼いてたんだろう。」
そう微笑みながら彼らを見守ってると、ある男に声をかけられた。
「薄汚い亜人に相応しい平和ボケだな。」
憎たらしい声色で話しかけてきたのはルイラス帝国大佐『ライグル・スチュアード』だった。
「薄汚いって俺の事か?何だお前?初対面で随分な言いようだな?」
タクマ達もライグルの言葉に少々腹が立っていた。
「言葉を慎め帝国の者。神聖なる大聖堂の地であるぞ。」
「これは失礼竜王殿。そして申し遅れました。俺はルイラス帝国軍大佐ライグルと申す者だ。以後お見知りおきを。」
「挨拶は受け取る。だが先の言葉は受け取れんな。ラセンは我らの依頼主だ。あまり礼儀が欠けると我らとて黙ってはおらん。」
バハムートが圧をかけるがライグルの答えは、
「失礼した。しかし俺達帝国は亜人差別が強い国なんだ。この国にいる限り亜人達をなるべく不快にさせないよう振舞うがそこは理解してくれ。」
「・・・。」
お互いの立場もありここは一つ飲み込むことにした。
「しかし貴方も思い切りましたな竜王殿。王である貴方が人間、それも冒険者の従魔として契約されるとは。」
「今度は我の主も侮辱するか?」
「いえいえ、そのような思想は一切ありません。貴方ほどの存在が使える人間の主に少々興味があるだけです。」
そう言いライグルはタクマに歩み寄る。
「ほう、コイツが竜王の・・・。」
「何か?」
「いやいや、竜王殿も見る目がおありのようだ。では俺はこれで。」
何やら訝しい笑みを浮かべるライグルは護衛の女性と共に大聖堂を後にしていった。
「・・・亜人差別か。これからの和国と少し一悶着があるかもな。」
ルイラス帝国と和国は大海原を跨いでの隣国。
少なからずわだかまりも生まれるかもしれない。
「タクマ、君達が心配する必要はないぞ。これは私達和国の問題だ。いつまでも君達に頼ってはいられないからな。」
「そうだぜ。お前等は何も考えず自由に旅を続けてくれ。」
将軍二人の言葉にタクマは一瞬驚く表情を見せるがすぐ笑みへと変わる。
「それじゃ、お言葉に甘えるぜ。」
休憩も済、タクマ達も大聖堂を後にする。
外に出ると大聖堂の窓から教皇がこちらに手を振っており、先の話の事もありタクマも手を振り返したのだった。
(さて、極秘ミッションとでもいきますか。)




