『第百九十六章 教皇の依頼』
タクマとバハムートはサンドリアスの教皇ヴィル・ホーエンに個室へ通されある話題を持ちかけられた。
それはこれまでタクマ達の前に立ちはだかった教会、聖天新教会の事であった。
聖天新教会はこれまで裏で多くの命を犠牲とし、神々の顕現や神龍復活の目論見など、大きな問題を起こしてきた。
教皇は数年間、自分の組織に新しく増設された聖天新教会に多大なる違和感を覚えており、その組織と対峙してきたタクマの事を知りこうして話し合いの場を設けたのだ。
正直あの教会の総トップに馬鹿正直に全て話していいのか疑ったがバハムートが教皇は信頼できると保証してくれた。
どうやらバハムートと教皇は昔馴染みの付き合いだという。
その言葉を信じタクマは聖天新教会について知ってることを話し終えると、
「・・・そうですか。やはり私の訝しみは当たっていたのですね。」
教皇は真実を聞かされ頭を抱えてうなだれた。
「我が教会に属していたにも関わらず、お二方やお仲間の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません。」
「頭を上げてくだされ。貴方は教皇。我ら王をまとめてくださるお立場なのですから。」
「いえ、これは教皇としてではなく、教会を代表しての謝罪です。」
再び頭を下げる教皇。
「ホーエンさん。ホーエンさんは聖天新教会が神に直結していた事はご存じだったのですか?」
「薄々ではありましたがお二人の話を聞いて確信となりました。その教会は表は他の教会と大して変わらない働きをしてましたが、まさか裏でそのような大事になっていたとは思いませんでした。彼らの蛮行を阻止して下さり感謝しかありません。」
「いや、実際俺達は神とちょっとした因縁がありますから、必然と関わってしまうんですよ。それより、この事を知ってどうなさる御つもりですか?」
「はい。我が教会は人々の安寧を第一に取り組んでいます。それに属する教会が先の話のように命を弄び、神々の言いなりと在っては我らの尊厳愚か、人々の安寧を脅かしかねない。私はそれが許せません。ですので、聖天新教会を瓦解させる機会を伺っていたのです。」
「教皇自ら属する者を瓦解させるのか。これは相当な大事ですな。」
「えぇ。実際被害は出ています。早急に対処しなければ今後またどれほどの命が弄ばれるか分かりません。ですので、私が最も信頼のできる竜王殿とその主様。他ならぬ貴方がただからこそ、その力をお貸しいただきたい。何卒。」
一枚の依頼書をテーブルに差し出し深く頭を下げる教皇。
これは明確な依頼だった。
「秘密裏に組織から聖天新教会を瓦解させる、か。なるべくリーシャ達を巻き込みたくはないが・・・。」
「あやつらは問答無用で手を貸してくるだろうな。」
と嘲笑うバハムートを見てタクマも観念したかのように笑みを零す。
「分かりました。報酬はその働きに見合った額であれば問題なく承りますよ。」
「ありがとうございます!」
この事はタクマ達と教皇のみの秘密という事で進めることとなった。
「おや、もう休憩が終わる時間ですね。ではお二人とも。詳しいお話は後日また連絡しますので。」
「分かりました。」
「・・・竜王殿、そしてタクマ殿。この老いぼれの我儘を聞いてくださり、誠に感謝します。」
清くお辞儀をし、教皇は先に退室していった。
その後緊張が解けたタクマはふうっと脱力する。
「・・・こいつは、とんでもないプレッシャーな依頼かもしれないな。」
「だが聖天新教会を潰せるいい機会だ。さすればこれまでより面倒事が減るのは確実だろう。」
「あぁ。後はリーシャ達にも相談だな。」
一方、そのリーシャはというと・・・。
「エア・ショット!」
彼女の放つ風魔法をかわしすぐさまレイピアで反撃する爽やかな若い男性。
「凄いわリーシャちゃん!あたしのスピードについて来れるなんて!」
オネェである。
時は少し遡る。
ダンジョンへ挑戦するためにライセンス取得の申請をした後、しばらくギルドのエントランスで待っていると、
「あれ?リーシャちゃん。」
ネオンに声をかけられたのだ。
「ネオンさん!どうしてここに?」
「護衛仕事に少し暇が出来てな。ダンジョンへ挑戦するためにギルドに申請に来たんだ。」
「ということは、ネオンさんもライセンスを?」
「あぁ。持ってるぞ。」
自慢げに見せたのは美しいサファイアのように輝く青いカード。
これがサンドリアスのダンジョンへ挑戦するためのライセンスカードのようだ。
「これが・・・!」
「そういうリーシャちゃんは?」
「私もダンジョンへのライセンスを取得するためにきました。先ほど試験の申請を出したところなんですよ。」
「へぇ!同業者が増えるのは嬉しいぜ!でも気を引き締めた方がいいぞ?この試験はここのギルドマスターが自ら試験官としてるんだ。聖公国のギルドだけあって実力もかなり高いから気を付けろ。俺も試験の時は冷汗流したぜ。」
「助言ありがとうございます。頑張ります!」
可愛く意気込むリーシャ。
「まぁ君だったら大丈夫だと思うけど。あ、もしよかったら君の試験見学してもいいかな。一度しっかりリーシャちゃんの力量を見ておきたくて。」
「いいですよ。」
(よっしゃ!女の子と一緒に行動できる!)
心の中でガッツポーズするネオンだった。
そして現在、試験官として相手するギルドマスター相手に全力で立ち向かっていた。
外野から見学するネオンと他の冒険者たち。
「おい、あの子ギルドマスターと互角に渡り合ってるぞ?」
「『疾風の貴公子』と言われるギルマスのスピードについて来れてるのか?」
「ありえねぇ・・・!ギルマスは元Sランク冒険者だったんだぞ?」
周りの冒険者が彼女に驚く中、頭の上にラルを乗せたネオンは得意げな顔だった。
(直接見たわけじゃねぇがタクマと一緒に神と渡り合ってるらしいからな。人智を越えた存在を何度も相手にしてきたんだ。今の彼女にとって、そんじょそこらの相手なんてわけねぇだろ。)
機敏な動きでギルマスのレイピアをかわし距離を取るリーシャ。
「あたしとここまで戦えた人は久しぶりだわ!柄にもなく滾っちゃう!」
くねくねと身体を捻るオネェのギルマスに若干引く冒険者達。
「でもこれは試験。名残惜しいけど次の一撃でおしまいにしましょう。最後に貴女の最大火力を見せて頂戴?」
そう言いレイピアを構えるギルマスにリーシャはにこりと笑う。
「分かりました。でも先に謝っておきます。ごめんなさい。」
「え?」
謝罪のお辞儀をした後、リーシャは姿勢を低くして杖に魔力を溜め始める。
螺旋状に凝縮されていく魔力に周りの空気が吹き荒れる。
「『死滅の光神』‼」
上空へ向かって放たれる光の槍が天と雲を貫く。
街の人々は一瞬の光の柱に驚いていた。
それは試験会場にいた冒険者たちも同じだった。
ギルマスもあまりの威力に腰を抜かしている。
しばらくして杖を手元に戻し華麗に振り回す。
「試験、ありがとうございました!」
にぱっと可愛らしい笑顔でお礼をいうリーシャ。
「え、えぇ・・・。貴女は文句なしで合格よ・・・。」
「ラル、君のご主人、とんでもない女の子だね・・・。」
「ふふん!それほどでも!」
流石に驚きを隠せないネオンとその頭の上でドヤるラルだった。




