『第二十章 新たな仲間』
あれから大変だった。
タクマに打倒された勇者は王宮地下に幽閉された。
国をも巻き込む大暴動を起こしたので重い大罪を余儀なくされ、刑に処されるのも時間の問題だろう。
そして全ての後始末を終えた数週間後、王宮では夜会パーティが開かれていた。
国の混乱を防ぐため参加者は国王や近衛騎士団含め事件の事実を知っている者のみで開かれたパーティだ。
「諸君!此度の働き誠によくやってくれた。おかげで街の再建や復旧が予定より早く片付いた。皆の働きを称え今夜は遠慮なくパーティを楽しんでくれ!では、乾杯!」
「乾杯‼」
会場は室内と屋外の二つに分かれておりテラスから自由に行き来できるようになっている。
会場にはたくさんの豪華な料理が並んでおり、リーシャがお皿に取り寄せた料理を持って外会場にやってきた。
「タクマさーん!持ってきましたよ!」
「おう。サンキューリーシャ。」
外会場ではバハムートとウィンロスが腰を下ろしており、その下で並べられた料理をタクマが食べている状態だ。
外会場は実質彼らの貸し切り空間でもあった。
「旦那、これ食ってみぃ。」
「ムグッ、これも美味いがやはりチーズがなければならんな。」
「魚料理にチーズはどうかと思うで・・・いや案外いけるんか?」
難しい顔で悩むウィンロス。
それぞれが食事を楽しんでいるとリーシャが箸を止める。
「あの、タクマさん。」
「ん?何だ?」
「この前のお互いに大事な話があるってお話しましたよね。」
「あぁそういえばそうだな。幸い他の連中は室内で盛り上がってるし、今話てもいいかもな。」
と言いジャガイモ料理を一口。
「じゃぁ私からお話しします。・・・実は、私もタクマさんの旅に連れて行ってほしいんです‼」
「ゴフッ⁉」
まさかの言葉についむせてしまった。
「ゴホッ、え、今何て?」
「ですから!私もタクマさんと一緒に旅をしたいんです!」
「・・・マジかよ。」
そっと皿をテーブルに置くタクマ。
「もしかして、迷惑でしたか?」
涙目にこちらを見るリーシャにタクマが出した答えは、
「いやそういうんじゃなくて・・・まさかそっちから言ってくれるとは思わなかったんだ。」
「え?」
リーシャは目を丸くする。
「実はな。リーシャ、お前さえよければ俺と一緒に旅をしないかって話だったんだけど・・・。」
タクマは少し照れ臭そうに頬をかきリーシャを見た。
そしてお互いしばらく沈黙が進む。
「・・・。」
「・・・。」
「プッ、アハハハハ‼」
耐えきれず二人は腹を抱えて大笑いした。
リーシャなんかは笑いすぎて涙が出るくらいに。
「ハハハハ、ハー。まさかお互い同じこと考えてたなんて。」
「ホント、とんだ笑い話だな。」
リーシャは涙を拭きタクマに向き直る。
「では改めてタクマさん。私も貴方の旅に同行させてください!」
「あぁ、こっちからも正式に誘うよ。俺と一緒に来てくれリーシャ。」
すっと手を出すタクマ。
リーシャは目を輝かせ両手でその手を掴んだ。
「はい!これからよろしくお願いします!」
「おう!」
雲が晴れ月明かりに照らせれる中二人は固い握手をした。
「そのまま告っちまえばええのに・・・。」
「そういう年頃だ。」
二頭は隅で酒を飲みながらその様子を見守っていた。
翌日、タクマは王の間に呼び出されていた。
(なんかやたら呼び出されるな・・・。)
「タクマよ。此度の一件実に見事だった。」
「もったいないお言葉です。」
今回も王の間には大臣数名が同室していた。
ただし今回はロイルとアルセラの同行はなくタクマを含めバハムート、ウィンロス、リーシャの四人での謁見だった。
「さて、其方を呼び立てたのは他でもない。其方を我がアンクセラム王国の新しい勇者に任命したいと思う!」
タクマとリーシャは内心で驚く。
横目でリーシャを見ると焦っている表情をしていた。
理由は明白だ。
勇者となってしまっては自由に旅が出来なくなってしまうからだ。
せっかくリーシャが仲間になってくれた矢先にこの展開は非常に好ましくない。
大臣たちは喜びの声を上げている者や不安がる声も上がっていた。
ただ一人を除いて。
「・・・理由をお聞かせください。」
「理由も何も其方はこの国を救ってくれた英雄だ。それに勇者の席も空きが出来、上丁度良いと思ったのだ。」
国王は凄まじい力を持ったタクマを自分の国に留めたいようだ。
確かに強い者がいれば自国は安泰できるからその気持ちは分からなくもないが。
だが当然タクマが出した答えは、
「光栄なお誘いですがお断りいたします。」
タクマの言葉に大臣たちはざわついた。
「何と!国王の誘いを断るというのか!」
「無礼な!」
「国民の安泰がかかっておるのだぞ!」
「人の心を持ち合わせておらんのか!」
言いたい放題の大臣たちにイラつきが増したときバハムートが思いっきり床を踏みつけた。
「黙れ、人間共・・・‼」
強大なプレッシャーを放ち大臣たちを黙らせる。
「大臣たちがすまぬ。して私からも理由を聞いても良いかな?」
バハムートのプレッシャーを受けながらも国王は謁見を続ける。
「はい。俺たちはしがない冒険者であり旅人です。そして俺は世界を見て回りたく故郷を出ました。ですので固まった席に着く気はまだありませんので。」
タクマの理由に国王は難しい表情をする。
理由としては納得がいくが国に留まってほしい願いもあるため決断が難しいみたいだ。
そこにバハムートが口を開いた。
「大方タクマを囲い込めば諸々我らもついてくると思っておるのだろう?」
「そ、それは・・・。」
国王がたじろぐ。
どうやら図星のようだ。
「なにやら勘違いしているようだから言っておく。我らは貴様ら人類に仕えたわけではない。このタクマという男に仕えておるのだ!」
胸を張り言い切るバハムート。
「せや!オレたちは『タクマ』の従魔や。そこんとこ、はき違えるなよ?」
ウィンロスがさらに念を押す。
二人のタクマに対する信頼に本人はとても嬉しく思った。
さすがの国王もドラゴン二頭から直接物申され、それ以上言葉が出なかった。
するとずっと黙っていたリーシャが国王に追い打ちを仕掛ける。
「国王様、そんなにタクマさんたちを手放したくなかったら代わりに差し上げたい物があります。」
タクマはそれが何なのかすぐに分かった。
それはタクマ達が王宮に着く前の馬車中での出来事。
「さて、そろそろ王宮に着くころだ。」
ロイルが言う。
リーシャはアルセラに街の事を聞きながら外を見てはしゃいでいた。
「・・・・・。」
「タクマ殿?どうかしたのか?」
タクマが何やら考え事している。
ロイルが気になって尋ねると、
「謁見するのは良いですが、一つ気がかりなことが。」
「気がかりとは?」
「バハムートとウィンロスの事です。」
そう、ただでさえ災害級のドラゴンを従魔に従えている上にそれが二頭もとなると王族や貴族が黙ってはいないはずだ。
旅を続けたい身としてそれだけは勘弁願いたい。
「確かに君を囲いたい者は少なからずいるだろうな・・・。」
「もしそうなったとき連中を黙らせる決定的なものがあればいいんだが・・・。」
二人が腕を組み考え込んでいると先ほどの二人の会話に聞き耳を立てていたリーシャが手を上げた。
「あの、でしたらこういうのはどうでしょうか?」
そして現在、国王に提案を出したリーシャは異空庫からずるっと一本の剣を取り出した。
「そ、それは⁉」
国王含め部屋にいた者はその剣を見て驚いた。
「まさか・・・!」
「えぇ、聖剣です。」
リーシャが取り出したのは以前勇者が使っておりリーシャに突き刺さったあの聖剣だった。
馬車で出されたときは全員ですごく驚いたものだ。
(まさか持っていたとは思わなかったわ。)
「何故君がその聖剣を持っている⁉」
「その場に放置しておくのはもったいないと思いまして。私なりに有効活用しようとしただけです。」
さっきまで怯えた表情をしていた彼女だが今は何だか自身に満ち溢れた顔をしていた。
「国王様の要望はタクマさんを勇者に祭り上げて自国の安衛を目的としている、と解釈してよろしいですか?」
「う、うむ。その解釈で問題ない。」
「では続けます。国王様が欲しているのは広く言うと強い力です。そして今国王はタクマさんという強者を迎え入れたいといっています。ですが当のタクマさんはそれをお断りしたいと願っております。そこでこの聖剣です。」
「その聖剣がどうしたと言うのだ。」
大臣の一人が割り込んでリーシャに問うと彼女はフッと笑い説明を続けた。
「聖剣をお返しする代わりにタクマさんを諦めてください。」
「‼」
国王は息を飲んだ。
確かに聖剣が帰ってくればタクマを国に留める必要が無くなり旅を続けられる。
リーシャのナイスファインプレー。
「承諾いただけますね、国王様?」
可愛い笑顔で背筋の凍る圧を放つリーシャ。
彼女だけは敵に回すまいと誓うタクマだった。
その後、国王は国宝である聖剣を失う訳にはいかないので渋々ではあったがリーシャの提案を飲みタクマを勇者に祭り上げることを諦めた。
「いや~、まさかここまでうまくいくとは思わなかったな。」
タクマ達は国王との謁見が無事終わり城門に向かい歩いていた。
「それにしてもリーシャの嬢ちゃん見事なもんやったなぁ。周りの連中途中からだんまりやったで?」
「無我夢中でした・・・。私も前世のブラック勤務の経験が生きるとは思ってもみませんでしたよ。」
張りつめていた気が崩れたのかぐったりと肩を落としているリーシャ。
「何はともあれお疲れさん。」
タクマはポンポンとリーシャの頭を撫でた。
リーシャはまんざらでもなさそうに笑った。
そしてその様子を王宮の一室から見下ろす人影があった。
「チッ、まさか聖剣を持っていたとは。異世界人を召喚して勇者にしたてこの国を壊滅させる作戦が台無しだ。」
窓からタクマ達を見下ろしていたのは勇者解任の時に国王に講義した大臣リードだった。
「作戦のために大臣にまで上り詰めた努力が水の泡だ。一度リーダーに報告を・・・。」
リードがデスクの引き出しから通信魔石を取り出そうとすると扉からノックが聞こえた。
「リード様、少々よろしでしょうか?」
その声はロイルの声だった。
リードは咄嗟に引き出しを閉める。
「入り給え。」
ロイルは入室しリードに頭を下げる。
「私に何か用かね?ロイル隊長。」
「はい。元勇者の処遇についてお話をしたくまいりました。」
二人は元勇者の処遇について話し合う。
「では貴方はそのような決断でよろしいのですね?」
「あぁ、私が彼の講師を務めたとはいえこのような事態になってはもはや私情ではどうこうすることもできん。私も腹をくくるよ。」
「分かりました。そのようにお伝えします。」
ロイルは敬礼をし部屋から退室していった。
「やれやれ、良い大臣を演じるのも楽ではない。私にとってあの勇者はもうどうでも良いのに・・・。」
リードは再びデスクの引き出しを開け通信魔石を手に取った。
「リードです。即刻報告したいことが・・・。」
その頃、ロイルは廊下をつかつかと歩いていると突き当りの廊下からアルセラと合流した。
「どうでしたか?ロイル隊長。」
「ビンゴだ。鎧の下に隠していた嘘を見破る魔石が反応した。相手はリード様だ。」
「まさかリード様が王国壊滅を目論む教団の仲間だったとは・・・。」
「タクマ殿に「大臣の中に敵のスパイが紛れている」と言われたときは耳を疑ったが、彼の読み通りだったわけだ。」
ロイルはまさかの事実の連続でため息をついた。
「大臣全員に話し合いを設けて一人一人探ったから流石に疲れた。アルセラ、あとは君に任せて良いか?」
「はい、お任せください!」
一連の騒動が終わりタクマ達は国門街に戻ってきていた。
帰りはバハムートに乗せてもらって。
そして今一同は宿の厩舎前で夕飯を食べていた。
「おい娘よ。肉にチーズをたっぷりかけてくれ。」
「お肉とチーズだけじゃ栄養が偏っちゃいますよ?野菜も食べてください。」
「むう・・・。」
「タクマタクマ、オレの取ってきたミズヘビの肉まだ残ってるか?」
「リーシャの異空庫にストックがあったと思うが。」
リーシャとタクマが調理する料理を食べる二頭。
料理する二人はまるで、
「夫婦みたいやな・・・。」
そうつぶやくウィンロスにタクマとリーシャはバッと顔を赤くしながら後ろに振り向いた。
「息ぴったりやん・・・。」
外伝作品
世界最強のドラゴンテイマー外伝 キング・オブ・メモリア
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