『第百九十四章 再会の兄妹』
聖公国サンドリアスに着いたその晩、開かれた晩餐会に参加するタクマとラセン一行。
鮮やかで広大な屋外テラスには何人ものお偉いさんたちが集まっていた。
「バハムートとウィンロスは?」
「あの二頭は晩餐会に参加しないんだと。まぁ理由はちゃんとある。」
従魔も室内に泊まれる専用の部屋で一息つくタクマ達。
「むぅ・・・。」
バハムートが何やら難しい顔をしていた。
「おじ様?どうしたの?」
「いや、集合広場を後にする際、ブリーストの者に手紙を渡されてな。中身は我に世界会議へ参加を希望する内容だったのだ。」
「え!おじ様にも会議への参加資格があるの⁉」
「そうだ。お前竜王じゃねぇか。王族じゃん。」
首だけ起こすタクマ。
「なんや旦那?会議出たくないんか?」
「まぁ、正直出たくはないな。過去に何度か出席したが面倒極まりないのだ。これまで数十年は欠席してたが、この国に来てしまった以上出席せねば示しがつかんな。はぁ・・・。」
珍しくため息をつく。
(そんなに出たくないのか?)
「仕方ない。出席する以上最低一人は護衛が側に必要だ。という訳でウィンロス。お主に頼みたい。」
「え?何故オレなん⁉」
「竜族の代表として出るのだ。であれば側近は同族に統一したい。信頼できる同族はお主とリヴしかおらんのだ。」
バハムートにそう言われ少し照れたように頬をかく二人。
「旦那にそこまで言われると悪い気しないで・・・。」
「えへへ♪」
「決まりだな。だが流石に最低限の作法を身に着けてもらわねばならん。明日の会議までできる限り教えこんでやろう。」
「・・・え?」
「という訳で、絶賛マナーを叩きこまれてる最中なんだよ。せめて料理くらい土産に持って帰ってやろう。」
「お、おう・・・。アイツも大変だな・・・。」
それはともかく、一同は並べられた豪華な料理を夢中で食べ進める。
ラセン達も異国の料理に眼を輝かせていた。
「見てみてリーシャ!こんなにフルーツの入ったケーキ初めて見た!」
「うわ!どれも高級な果物が使われてますね・・・。王族貴族に振舞われる料理、豪華さが凄まじいです・・・!」
なんとか自分も作れないかとケーキを凝視してレシピを探るリーシャ。
するとどこからか香ばしい香りが漂っていることに気付いた。
「ん?この匂い・・・。」
「リーシャ?」
誘われるように香りを辿っていくと会場の端っこに構えられた、屋台にたどり着いた。
「屋台?ちょっと場違いじゃない?」
ついてきたリヴがリーシャの背後から顔を覗かせる。
「いえ、これは・・・、この食べ物は・・・、焼きそばです‼」
祭りの屋台であるような焼きそばが今リーシャの目の前にあったのだ。
(この世界にない料理、焼きそば!何故ここにあるのかは分かりませんが、元日本人としての意欲が抑えきれない!)
「すみません!焼きそば二つください!」
「あいよ!・・・て、あれ?」
「「え?」」
焼きそばを焼いていた赤髪の青年には見覚えがあった。
「ネオンさん⁉」
「リーシャちゃん⁉」
なんと焼きそば屋台の青年は世界を放浪する最も有名な騎士団『ワールド騎士団』に所属する副団長、ネオン・ギルガルダーだった。
彼とは以前七天神絡みの事件で知り合った知人である。
「どうしてここに⁉」
「いや、それはこっちのセリフでもあるんだけど、まさかこんな所で再開するなんてな。」
「私も驚いたわ。てかアンタ何やってるの?」
「見ての通り焼きそばっていう食い物を焼いている。旅先でたまたま作り方を知ったんだがなんでも異世界の料理らしいぜ?」
「・・・リーシャが興奮気味だったのはそう言う事ね。」
リーシャは依然と鉄板の上の焼きそばに釘付けだった。
「ネオンさんがいることも気になりますけど、まずは焼きそばください!」
「はいまいど!」
木で作られたパックに装い二人に渡される。
リヴは初めての焼きそばに匂いを嗅ぐがリーシャはもう口の中にすすり入れていた。
転生してから初めての焼きそばの味。
気付けば涙目で満足そうに焼きそばを食べるリーシャであった。
リヴも真似て食べてみるとそれはもう眼を輝かせたという。
焼きそばを堪能したリーシャとリヴ。
そこへ様子を見に来たアルセラがやってきた。
「ようアルセラちゃん!四年ぶり!」
「ぅえ⁉ネオン先輩⁉」
二人は故郷アンクセラム王国の近衛騎士団に所属していたことがあり、ネオンはアルセラの先輩に当たるのだ。
「あ、そうか。アンタ等会うの四年ぶりなんだ。」
「ネオン先輩がいるという事は・・・。」
「無論、私もいるぞ。」
突如背後から声をかけたのはタキシード姿に正装した銀長髪のイケメン男性。
ワールド騎士団団長であり、アルセラの兄であるウィークスだった。
「兄様・・・。」
「久しぶりだな。アルセラ。」
アルセラは何も言わずウィークスに抱き着いた。
「四年間、ずっと、会いたかったです・・・!」
ウィークスもアルセラは抱きしめ返し頭を撫でた。
「大きくなったな。見違えたぞ。」
「ホントホント!おっぱいもお尻も随分立派になってまぁ!」
直後ネオンはアルセラにカリドゥーンで殴られ、頭にたんこぶを生やして倒れていた。
「相変わらず女性に眼が無いな。ネオン・・・。」
流石のウィークスも呆れてため息をつくのだった。
その後、エリック先生の絡み酒に絡まれてるタクマとも挨拶を済ましたウィークスとネオン。
暫く晩餐を過ごした後、アルセラとウィークスの兄妹二人は会場外にある月明かりが照らすベンチに腰を降ろしていた。
「そうですか。アンクセラムの貴族の護衛に。」
「あぁ。故郷に帰った後国王に依頼されてな。数名の騎士とネオン、そして私でこの国に来たんだ。」
しばらく軽い話題で話す二人。
「お婆様の訃報は聞いた。とても残念だ。側にいたお前が一番辛いはずなのに、気の利いた言葉が思いつかない。本当にすまない。」
「兄様が謝る必要はありません。お婆様を失った傷は、仲間が埋めてくれました。今はもう大丈夫です。」
「そうか。本当に逞しくなったな。アルセラ。」
二人はしばらく月を見上げる。
「聞いたぞ?お前の背負ってる黒剣。おとぎ話に出てくる伝説の魔聖剣カリドゥーンらしいじゃないか?」
「はい。彼女と出会えて、私はここまで来れました。コイツには本当に感謝しています。」
『もっと褒め称えてもいいんじゃぞ?』
「調子に乗るな。」
ぐりぐりと拳を当てる。
「・・・やはり私には彼女の声は聞こえない。もしかしたらアルセラやタクマ達は選ばれた人間なのかもしれないな。」
「それは流石に大袈裟ですよ。ただコイツの声が聞こえるってだけですから。」
『なんかムカつくのは気のせいか?』
そんな事を話しているとウィークスは急に暗めの声で話し出す。
「・・・タクマに聞いたが、和国では命の危機に瀕したらしいな。」
「・・・えぇ。カリドゥーンのアーティファクト。フェニックスの力に耐え切れず、一度死にかけました。でも私はこの通り生きてます!ですから何も心配は・・・!」
するとウィークスはアルセラの肩を掴み自身に引き寄せた。
「妹を心配しない兄がどこにいる・・・。危うく私は一人ぼっちになる所だったんだぞ?でも、本当に無事でよかった・・・!」
彼女の肩を掴む手に力が入る。
ウィークスに気持ちを知ったアルセラはそっと彼の手に触れるのだった。




