『第百八十七章 従魔結石の剣』
「タクマさん!」
暴走するジームルエの前に彼は駆けつけてくれた。
重傷を負って倒れてるリヴとアルセラの下にもバハムートとウィンロスがやってくる。
「酷くやられてんな。」
「うるさいわよ・・・。」
ウィンロスの回復魔法を受ける中、タクマは心理の指輪で変わり果てたジームルエを見上げる。
「突然強大な魔力を感じたから急いで飛んできたが・・・。リーシャ、ジームルエに何が起こった?」
リーシャはありのままを説明するとルシファードがタクマの前に降りてきた。
「アンタは・・・?」
「私はルシファード。『旧創造神派』に属するものだ。」
「バハムートが言っていた俺達を監視してる神はアンタだったのか。」
「監視ではなく見守ってると言って欲しいが、今はそれどころではないな。」
そこへジームルエが神器エクスカリバーを持って急降下してきた。
その攻撃をバハムートが魔法壁で防ぐ。
「話は聞いていた。奴に付けられてる指輪を破壊すればいいのだな?」
「あぁ。すまないが頼めるか?私は降臨で下界に降りてきてるため力が制限されているんだ。」
「ふん。端から期待しておらぬ。が、貴様の知恵は必要であろう。責任を果たしたいのならタクマ等の力になるがいい。」
バハムートはそのまま飛翔し上空でジームルエと戦闘を始めた。
「ミレオン・・・。」
タクマは重傷で動けないミレオンに向き直る。
「全部、私のせいよ・・・。私の我儘であの指輪を貰って、あの子に渡した。タクマ、アンタがあの子を変えたから嫌っていたけど、迷惑をかけるつもりはなかった・・・。だから、ごめんなさい・・・!」
痛む身体を動かしタクマに土下座するミレオン。
するとタクマは、
「お前が俺を嫌うのは当然だと思ってた。俺も神や天使が嫌いだからな。でも、お前ら二人と過ごしたおかげで考えが変わったんだ。神や天使の中にも、二人のような優しい奴がいるんだって。」
タクマはミレオンの頭を優しく撫でる。
「お前は早く傷を治して俺に突っかかって来いよ。でないと調子狂うぜ。」
そう笑顔でいう彼にミレオンは気付けば涙を流し、タクマのローブを握りしめた。
「お願い・・・。親友を、ジームルエを、助けて・・・!」
「あぁ、任せろ!」
タクマはその場から駆け出していった。
そして残されたリーシャ達。
ミレオンは合流したウィンロスに回復を施してもらていると、
「どうしたリーシャ?浮かない顔をしておるぞ?」
ルシファードがリーシャの様子に気付く。
「それが、タクマさん、今剣が不十分で以前のように戦えるか不安なんです。」
「あーせや。今タクマの剣は絶賛製作中で仮の剣を持たされとるんやったわ。」
「あんな剣じゃ私達の力を乗せることも出来ないわね。」
するとルシファードはしばらく考え込み、少し焦った表情をする。
「・・・まずいかもな。」
「何がですか?」
「彼の剣は制作途中なのだろう?今蓮磨の都はアムルとガミウ率いる小規模の天使軍に進軍されてる。」
「え⁉あの二人が都に来てるの⁉」
「大分前にぶっ飛ばしたはずやのにしぶとすぎるやろアイツ等・・・。」
都はラセン達がなんとか食い止めてると信じてはいるがルシファードの懸念は別にある。
「死神のガミウは君達に固執している。もし奴にタクマの剣が制作途中だと気付かれたら必ず妨害するだろう。そうしたらその剣を作ってる鍛冶師は・・・。」
そこまで聞いてリーシャ達はハッと危機感に覚える。
「宗一さん!」
一方、蓮磨の都の外れにある森の中。
宗一のコテージに大鎌を持ったボロボロの黒ローブの男がやってくる。
「ここか。ここからヤバい気配がビンビンに感じるぜ。奴の剣を作ってるのは、ここなんだろ⁉」
勢いよく鎌を振り宗一のコテージを粉々に粉砕してしまった。
「っ!」
すると一本の矢が射出され鎌で弾き、土煙からクロスボウを構えた宗一が現れた。
「僕のスキル『危険察知』で少し前から備えていたが、まさか死神が襲撃してくるなんてね・・・。」
彼の後ろには布に巻かれた剣が立掛けられていた。
「あれか。おいおっさん!その後ろにある剣を渡せ。」
「この剣をどうするつもりだ?」
「ぶっ壊すに決まってんだろ。特にアイツの剣とあれば尚更な。」
「断る!」
「あ?」
ガミウの眉が引きつる。
「当然だ。この剣は僕の大切な依頼主の物だ。君みたいな得体の知れない者に渡すつもりはない!」
「人間風情が。調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
迫りくるガミウにクロスボウを撃つが弾かれる。
すぐさま新しい矢を装填し再び放つ。
(学ばねぇ奴だ。)
再び鎌で矢を弾いた瞬間、違和感を感じたガミウは接近を止め距離を取った。
鎌をよく見てみると矢が当たった個所が綺麗に削れていたのだ。
(今の矢じり、とんでもねぇ切れ味だ。人間がこれほどの物を作れる技術があるはずがねぇ。そうか、アイツは異世界の人間か。であれば特別な魔法かスキルを持ってる可能性がある。だったら尚更あの剣は危険。奴を殺してでも奪い取って粉々にぶっ壊してやる!)
不吉な笑みを浮かべるガミウは先程よりも早い速度で迫り、敵わないと察した宗一は剣を持ってその場から逃げ出した。
入り組んだ森の中を駆ける宗一だが、ガミウは木々を薙ぎ払いながら直進してくる。
「オラオラ!逃げても無駄だ!大人しくその剣を渡せぇ!」
(奪われるわけにはいかない!この剣は、僕の全てを込めて作ってあり、彼の、彼等の未来そのものだ!僕の命に代えてでも、この剣は守り抜く!)
無我夢中で走り木々の開けた場所に飛び出す。
その直後、ガミウの斬撃が宗一の真後ろに放たれ岩片ごと吹き飛ばされてしまった。
その拍子に剣も落としてしまう。
「ぐっ・・・!」
「人間のくせに手こずらせやがって。鬼ごっこは終わりだ。」
宗一は怪我をした身体で這いずりながら落とした剣を拾う。
「ちっ!どうせなら直接叩き割りたかったが、めんどくさくなった。そんなにその剣が大事ならまとめて潰してやるよ!」
鎌を振り回し高く掲げるとおぞましい負のオーラが鎌からにじみ出てくる。
「死術・怨霊貪我!」
鎌から放たれる無数の怨霊が宗一に放たれる。
宗一は死を覚悟し目を瞑る。
その時、上空から複数の魔弾が降り注ぎ怨霊を全て消滅させた。
「っ!」
そして上空から両腕と両肩にキャノン砲を武装したドラゴンが彼らの前に降り立つ。
「テメェ、あの時の!」
「ガンズ・ド・ラル。覚えといて。」
そしてラルに続くように竜化したリヴとアルセラ、リーシャも宗一を守るように降り立った。
「宗一さん!間に合ってよかったです!」
「リーシャちゃん!」
「・・・それにしてもびっくりしたよ。メルティナを守りながらネクトたちと戦ってたら急にお姉ちゃん達が来て僕を搔っ攫うんだもの。」
「すまない、急いでたんだ。詳細は道中説明したとおりだ。」
「大丈夫。ちゃんとわかってるよ。」
武器を構えるアルセラとラル。
「まさかまたテメェとやり合う事になるとはな。チビ竜。」
「出来れば二度と会いたくなかったんだけどね。君達があまりにもしつこいから仕方なくだよ。」
『小娘、気を付けるのじゃ。奴は死神。どんな姑息な手を使ってくるのか分からんぞ。』
「あぁ、気を付けるとも。」
ガミウは鎌を振り回し負のオーラをその身に纏う。
「あのおっさんが持ってる剣を渡してくれたら命だけは見逃してやってもいいぜ?」
「誰が貴様みたいな奴にタクマの剣を渡すか。死神なら死神らしく、影に引きこもってればいいさ。」
アルセラに皮肉にガミウは額に血管が浮き出る。
「ぶっ殺す‼」
「やるぞラル!」
「うん!」
アルセラ達の戦闘が始まった頃、宗一の傷を治すリーシャとリヴ。
「ごめんなさい。もっと早く駆けつけてれば・・・。」
「僕は大丈夫だ。それよりも、何が起こってるんだい?」
リーシャは今の状況を宗一に説明する。
「なるほど。そんなことに・・・。」
「友達を助けるために、宗一さんの作ったタクマさんの剣が必要なんです。制作途中だとは重々承知ですが、どうか貸してくださいませんか?」
宗一はしばらく黙り込むと布を巻いた剣をリーシャに差し出した。
「まだ未完成だけど、彼の守りたい者のために、持って行ってくれ。」
「宗一さん・・・、ありがとうございます!必ずこれをタクマさんに届けます!」
「あぁ、頼んだよ。あでも、終わったらちゃんと返してね。仕上げをしなくちゃいけないから。」
「職人魂凄まじいわね・・・。」
この場をアルセラ達に任せ、リーシャはリヴに乗って引き返していった。
「行かせねぇよ!」
アルセラ達を振り払いガミウも飛翔する。
「くっ!ラル、頼む!」
グレイス・ド・ラルへ進化したラルに乗りアルセラ達も後を追うのだった。
その頃、天界では一人の青年が何やら支度を終える。
「さて、フェニスが戻ってきたら数十年ぶりに下界に行くとしますか。」




