『第百八十六章 暴走の戦神』
心理の指輪によって姿が蒼白く変貌し狂暴走状態のジームルエへリーシャ達が果敢に止めに動く。
しかし攻撃が激しすぎて竜化したリヴでも近づけないでいた。
「ジームルエさん!やめてください!」
どんなにリーシャが呼び掛けても彼女は無気力な表情を変えなかった。
「ダメ。私達の声が聞こえてないわ。」
「近づこうとしても光の触手で防がれる・・・。」
『これはえらいことになったの。』
そこへルシファードとミレオンも飛んでくる。
「ジームルエの魔力反応がどんどん消えていく。心理の指輪に魔力を吸収されてるようだ。いくらジームルエでもこのままでは・・・。」
すると歯を食い縛ったミレオンが飛び出す。
「ミレオン⁉」
「あの馬鹿者・・・!」
ミレオンは放たれる光の触手をかわしていきショットガンで撃ちまくる。
「ジームルエ!」
自身のせいで親友があのような姿にしてしまった責任を果たそうと手を伸ばす。
しかし無数に湧く光の触手に腹部を叩きつけられ弾き飛ばされてしまう。
「ミレオンさん!」
リヴに乗ったリーシャが彼女を受け止める。
「くっ!ジームルエ・・・!」
「落ち着け!無策に突っ込んでも消耗するだけだ!何か策を考えないと・・・!」
アルセラがそう言うがミレオンは彼女らを振り払い再び飛び出そうとする。
「こうなったのは私の責任。私があの子を助けないと!」
その時、ミレオンの頬をリーシャがぺちんと押さえつけた。
「ジームルエさんを助けたいと思ってるのは貴女だけではありません。私達が敵同士であっても、ジームルエさんを助けたい気持ちは私達にもあります!だから、一人で抱え込まないでください!」
リーシャの真っ直ぐな眼差しに当てられミレオンは唖然と固まる。
「・・・やっぱりアンタ等、おかしいわよ。私とジームルエはアンタ達にとって倒すべき敵なのに・・・、なんでこんなにもお人よしなのかな・・・。」
例え敵であってもジームルエを助けたい。
その心にミレオンは今までリーシャ達を邪見にしてきた自分が馬鹿みたいに思い泣いてしまう。
「こんなこと頼める立場じゃないけど、皆、ジームルエを・・・私の親友を、一緒に助けて!」
三人の答えは当然決まっていた。
「勿論です!」
「任せて!」
「やるぞカリドゥーン。」
『おうさ!』
四人は連携しジームルエの下へ向かっていった。
その様子を見ていたルシファード。
「敵であっても助けたい、か。イフルとセイグリットを思い出すな。」
ルシファードもジームルエ救出に向かうとした時、何かを感じ取り動きを止める。
「・・・あの二人も来たのか。とことん厄介ごとが降り注ぐな。」
その頃、蓮磨の都では突如として飛来した天使の軍団に進軍されていた。
ラセンとスイレンの指揮の元、人間と鬼と妖狐の合わせた和国軍も応戦するが相手は空中をも制しているため圧され気味だった。
「将軍様!敵の数が多く、ましてや空中を飛び回るためこちらの攻撃が届かず我が軍は防戦を余儀なくされてます!」
「見ればわかる。くそっ!何だって急に天使の軍団が和国に攻めてくるんだ?」
「おそらくこの国に眠る神龍の存在に気付かれたんだろう。タクマが言うには神々は神龍の力を欲していると聞いた。」
「前の騒動で感づかれたわけか。ジャバルの野郎!とことん余計なことしてくれやがって!」
しかし今死んだ奴を恨んでも現状は変わらない。
天使軍は容赦なく進軍をしてくる。
そしてその天使軍を指揮していたのは天騎士アムルだった。
「降臨で降りてきたとはいえこの数ならば国一つ落とすことなど造作もない。早いとここの国を制圧し神龍を手中に収める。」
隣には猫背で大きな鎌を持つ死神のガミウの姿もあった。
「しっかし創造神様も思い切ってらっしゃる。復興途中の国落としを俺達のような下っ端にお任せしてくださるなんて。こりゃ俺達出世か?」
「ガミウ。戯言を言ってる暇があったら少しは働いたらどうだ。軍の指揮も全て私に任せてるじゃないか。」
「俺に指揮は向いてねぇ。指揮される方が性に合ってるんだよ。」
和国軍に吹っ飛ばされてきた天使兵を鎌で切り裂くガミウ。
「だったらガミウ。お前は鍛冶師を始末してきてくれ。」
「鍛冶師?何で?」
「どうやらその鍛冶師、例のドラゴンテイマ―の新たな武器を作ってると情報を得た。」
「例のドラゴンテイマー、タクマとかいう人間か。」
「あぁ。剣が無ければ奴はひ弱な人間同然。お前は奴の剣を作ってる鍛冶師を始末し奴に剣を持たせるな。」
「随分姑息な手だ。嫌いじゃないぜ。んじゃちょっくら行ってくら。」
そう言いガミウはその場から離れていった。
「・・・?アイツは鍛冶師の居場所を知ってるのか?」
その時、攻めていた天使軍が突如地面から現れた樹木の根に弾き飛ばされた。
「何だ⁉この樹木は⁉」
ラセン達和国軍も何が起きたのか分からず混乱している中、更に地面から巨大な樹木の竜が飛び出し、頭上からコヨウが飛び降りてきた。
「コヨウ!」
「お久やで!ラセン!スイレンも!」
樹竜、ホウライは天使軍を睨みつける。
「コノ国ハ悪夢カラ解放サレタ傷ガマダ癒イテオラヌ。束ノ間ノ幸福ヲ妨ゲル者、我ハ許サヌ!」
咆哮を上げると同時に地中から生えた無数の樹木の根が一斉に天使軍を襲う。
「ドラゴン・・・!他にもこの地に住み着いていたのか!」
アムルも号令を上げ天使軍を突撃させる。
「あの根、どこまでも伸びるのか?」
「ホウライ程の力があればあれくらい余裕やと思うで?」
「それなら、ゴグマ!」
前戦で戦っていたゴグマに呼び掛けると何も言わずに頷いた。
幼き頃から共に育ったためお互いの考えてることが分かるのだ。
「お前等!樹竜殿の根を登れ!俺達も上へ駆け上がるぞ!」
「「「うおぉぉぉぉぉ‼」」」
ゴグマを筆頭とし和国軍は雄叫びを上げてホウライの根を駆けあがっていき、上空の天使軍を攻め落としていった。
樹竜ホウライと和国軍の見事な連携で次々と天使が倒されていく。
「コイツ等・・・!ついこの間まで殺し合いをしていたのではなかったのか⁉・・・やむを得ん。」
アムルは剣を抜き、軍の筆頭のゴグマに切り掛かった。
「うお⁉」
すれすれで躱すも即座に次の剣劇が炸裂。
それも自慢の剛腕で受け止めるゴグマ。
「お前が指揮官か!」
「そう言う貴様もな。」
アムルの剣技は人智を越える。
だがゴグマも『鬼気闘魂』と体術で必死に食らいつく。
(この鬼、なかなかやる。だが・・・。)
ゴグマの脚を蹴って態勢を崩し剣先が彼に向けられる。
(まずい!避けられない!)
だがその時、一本の長刀が横やりしアムルの剣を受け止めた。
「「っ⁉」」
「よう。」
現れたのはネクトだった。
ネクトはアムルを振り払い距離を取らせる。
「すまない、助かった。」
「割とギリギリだったがな。しかしまた神がらみの騒動か。タクマと関わると何かと巻き込まれるな。まぁ、悪くねぇ。」
アムルは体勢を立て直し剣を振り払う。
「私はとことん何者かに邪魔される定めのようだ。だがそれがどうした。その定めごと、切り伏せるのみ!」
ネクトたちのメンバーも加わりアムル率いる天使軍とのぶつかり合いは激しさを増すのだった。
そして心理の指輪で暴走するジームルエの方は・・・。
「ストリーム・ブラスト!」
リヴのブレスがジームルエに直撃するが全く効いてる様子はない。
「リヴさんのブレスでも効かないなんて・・・。」
「それほど心理の指輪は厄介だという事だ。」
「ルシファードさん!」
「すまないな。私も降臨で降りてる故力が制限されている。あまり力になれないかもしれない。」
「弱攻撃の魔法であれだけの威力なのに?どんだけ強いのよアンタ?」
「三人とも、今は話してる場合ではないぞ!」
アルセラの言葉に振り返るとジームルエが翼に魔力を溜めていた。
「まずい!デカいのが来るぞ!」
チャージを終えると翼の眼から強烈な魔力光線が放たれリヴ達を襲う。
なんとか避けるが激しく動くリヴにリーシャは足を滑らせてしまう落ちてしまった。
そのまま魔力光線は落下中のリーシャを捕らえてしまう。
「リーシャ‼」
魔力光線が直撃し瓦礫の廃墟となった街に彼女は落ちてしまう。
「そんな・・・!」
「リヴ!気を抜くな!」
攻撃はまだ終わってない。
「くっ!早くリーシャの下に行きたいのに!」
そして地上に落ちたリーシャ。
「いたた・・・。ん?」
しかし魔力光線が直撃した形跡はなかった。
だが彼女の目の前には、
「っ⁉ミレオンさん!」
リーシャを庇い重傷を負ってしまったミレオンが倒れていたのだ。
「ミレオンさん、どうして・・・⁉」
「分からないわよ・・・。本当は助けるつもりなんてなかったのに・・・、身体が勝手に動いたのよ。ゴホッ!」
「無理しないでください!今回復魔法をかけますから!」
「・・・そう言えばアンタ、私が負けた時もポーションをくれたわね。アンタのお人よしがうつっちゃったのかしら・・・。」
「ミレオンさん・・・。」
その時、頭上からリヴとアルセラも落ちてきてしまい残ったルシファードも少し動きがブレている様子だった。
(くっ!やはり降臨では思ったように戦闘が出来ない!心理の指輪、これほど厄介とは・・・!)
ルシファードは手をかざし魔力を込める。
(やむを得ない。コレをやるしか・・・!)
すると翼の眼が下の方を向いたと思ったらジームルエの手に一本の美しい剣が握られる。
(あれは、神器エクスカリバー?)
そのままジームルエはリーシャ達目掛けて急降下していく。
「くっ!見境なしか!」
ルシファードも急いで向かうとした瞬間、大きな影が二つ暴風を起こして彼女を横切った。
「ジームルエさん!もうやめてください!これ以上貴女と戦いたくないんです!」
リーシャが必死に呼び掛けるがジームルエの剣筋は容赦なく彼女達に振り下ろされ、リーシャは動けないミレオンを庇い目を瞑った。
だが振り下ろされた剣を受け止める音がし、リーシャはゆっくり目を開ける。
ジームルエの剣を受け止めたのは、
「っ!タクマさん!」
颯爽と駆けつけたタクマがジームルエを弾き返した。
「悪い、遅くなった!」




