『第百八十五章 心理の指輪』
翌朝。
城の大広間で布団を敷き寝ているタクマ達一同。
そしてタクマの隣にはジームルエとミレオンも寝ていた。
「・・・ん。」
先に起きたのはジームルエだった。
身支度を整え愛用の大剣を持ち、まだ日が昇り切ってない早朝に城の庭にやってくる。
そして小さな身体で大きな大剣を軽々振り回し始めた。
彼女は早朝に鍛錬を行うのが日課なのだ。
一通り大剣を振り終えると、
「その体積でそれほどの大剣を振り回せるとは流石は神と言った所か。」
「竜王・・・。」
バハムートもやってきた。
「昨日から見てたが、やはり解せんな。」
「何が?」
「創造神のラウエルや他の七天神からは我が強い欲が出ていた。しかし貴様からはそのような邪は感じられぬ。それほど清らかな心を持つお主が何故あのような創造神に仕えておる?」
バハムートからの問いにジームルエは、
「別に。深い意味はないよ。前任の創造神様が消えた後、新たにラウエル様が創造神として君臨した。だから部下である私達七天神はあの方にそのまま仕えた。それだけ。」
「・・・愚かだな。」
バハムートが言葉を漏らしたその時、大剣の先が彼に向けられる。
「何が言いたいの?いくらタクマの従魔だからって、七天神を侮辱することは許さない。」
昨日の彼女とは打って変わり鋭い視線でバハムートを睨む。
やはり彼女は少女以前に神であった。
バハムートは向けられた刃先をゆっくり押し返す。
「我が言いたいのは己の意思であの創造神に仕えたかだ。だが先の話からして貴様は何も考えずただ身を投じたように感じだ。奴の性根は腐っておる。であれば主君の間違いを正すのが仕える者の役目ではないのか?」
バハムートの言葉には重みがあった。
まるで実体験を語るように。
彼の言葉を聞いたジームルエは大剣を降ろす。
「勿論、創造神様が考えてる事は理解できない部分もあった。でも創造神様のお考えは絶対。必ず理由がある。私達はただそれに従うまで。それが七天神の在り方だよ。」
「・・・話にならんな。」
バハムートは諦めたかのように背を向ける。
「少なくとも、前任の創造神はただ己の駒として七天神を生み出した。我はそうは思わんがな。」
そう言い残しその場を後にしたのだった。
「自分の、意思・・・。」
残されたジームルエは拳を握り、中指にはめた深紅の指輪が不気味に光るのだった。
タクマ達も起床し朝支度も終える。
そして当然のようにジームルエはタクマに付き添おうとするが、
「え。タクマと一緒に行けない・・・?」
今までにない絶望の表情を見せるジームルエ。
「ちょっちタクマ達にしか頼めない依頼があってな。雄ドラゴン二人にも言ってもらいたいのよ。」
「「雄言うな。」」
雄ドラゴン二頭にツッコまれるラセンだが内容的に確かにタクマ達が適任の依頼なためジームルエは渋々だが承諾した。
「戻ってきたら思いっきり甘えさせて。」
「一応お前俺達の敵だよな?」
タクマとバハムート、ウィンロスの三人が出発し残されたジームルエはリーシャ、リヴとアルセラ、ミレオンと共に蓮磨の都から離れた別の都へやってきていた。
「ここの街は小麦粉が特産で蓮磨の都のたい焼きや大判焼きよりもふっくらで美味しいらしいです。」
『それは楽しみじゃな。』
「あ、カリドゥーンさんもいたの忘れてました。」
『おい⁉』
そんな中ずっとテンションの低いジームルエ。
「ジームルエ。アンタあの男と一緒にいられないからってふて腐れるのはやめて。」
「だって・・・。」
(まぁ本人には悪いけどこれは返って好都合。アイツがいない内にアイツへの興味を無くさせてやれば。)
そう暗躍するミレオンだった。
するとアルセラはジームルエの右手にはめられた深紅の指輪に気付いた。
「その指輪、何だか不思議な感じがするな?」
「これ?ミレオンから貰った。お守りだって。」
「そうか。綺麗な指輪だな。似合ってるぞ。」
「うん。ありがとう。」
『これ。なに同性を口説いとるんじゃ。どうせなら異性にせい。』
「異性ってタクマか?彼に口説き台詞言っても求めた返答はないと思うぞ?」
『それもそうじゃな。』
即答だった。
「ねぇリーシャ。何かもっと面白いものないかしら?」
「それなら近くで弓矢の体験コーナーがあったはずです。」
やたらと食い気味のミレオンに若干違和感が感じるリーシャだったが四人(プラス一本)は観光を楽しんだのだった。
気が付くと日が沈み始める夕方になっていた。
「うぷ。食べ過ぎた・・・。」
「ミレオン・・・、私より食べてたよ?」
ミレオンのジームルエがタクマへの興味を無くす思惑は悉く外れむしろ行動の結果が全て自分に返ってきた。
(満腹感を与えて満足させるはずが毒見と言ってほとんど私が食べちゃったわ・・・。)
アルセラはミレオンの思惑に気付いていたのか後ろでニヤついていた。
そんな一同は夕焼けが一望できる丘の上までやってきた。
「すっかり夕方ですね。時間が経つのが早いです。」
「楽しい時間はあっという間ね。」
しばらく夕焼けを眺めてる一同。
「あ、そろそろタクマさん達が戻ってくる時間だと思います。私達も蓮磨の都に戻りましょう。」
その言葉を聞いたジームルエは目つきを変えリーシャに掴みかかった。
「早く帰ろう!タクマに会いたい!」
「ジームルエさん、顔近いです・・・。」
彼女たちが帰路に就こうとした。
その時、凄まじい暴風が彼女たちを襲う。
「きゃぁ!スカートめくれる!」
「な、何だ⁉」
明らかに自然による暴風ではない。
風が止み眼を開けると、上空に純白の翼を持った美しい女性が佇んでいたのだ。
「誰⁉」
「嘘・・・、あの人は・・・!」
あのミレオンとジームルエは顔を青くしていた。
女性はジームルエの付ける深紅の指輪に視線を移す。
「やはり持たされてたか・・・。」
「え?」
女性はジームルエの前に降り立つと彼女の腕を掴む。
「今すぐ指輪をこちらに渡せ!それはお前が持ってはいけない!」
「え、え?どういう・・・?」
混乱するジームルエと女性の間にリーシャが割って入る。
「いきなりなんですか?見た所貴女も神のようですが?」
リーシャは鋭い目つきで女性に問う。
張りつめる空気が辺りを包む中、
「待ってリーシャ!その人は・・・!」
ミレオンが叫ぶがそれと同時にリヴが女性に殴り掛かった。
だが彼女の拳を正面から受け止められる。
「誰だか知らないけど、ジームルエとミレオンの反応からして二人と敵対してるでしょ。」
アルセラも女性に切り掛かり二人から距離を取らせる。
「悪いがお前達に時間を費やしてる場合ではない。ジームルエの付けてる指輪をこちらに渡せ!」
「理由もなしにはいどうぞって渡すわけないでしょ。」
完全に警戒態勢のリーシャ達。
女性はため息をついて頭をかく。
「あ~、やはり交渉術は苦手だ。ジームルエ。その指輪をこちらに渡せ。それはお前が持ってはいけない代物だ。このままでは取り返しのつかないことになるぞ。」
「と、取り返し?ミレオンに貰った指輪が?」
「それをミレオンに渡したのはラウエルだ!それにその指輪は・・・!」
その時だった。
ジームルエの指輪が赤く発光し始めたのだ。
「⁉」
「眩し⁉」
「何ですか⁉」
「くっ!奴め、ずっと見ていたのか!」
玉座に座るラウエルがニヤリと笑みを零す。
「うあぁぁぁぁ⁉」
バチバチと赤い稲妻が身体中に走り苦しみだすジームルエ。
「ジームルエ!」
ミレオンが手を伸ばすがあと一歩届かず、ジームルエは光に飲まれてしまった。
その瞬間に爆発が発生しリーシャ達は爆風に飛ばされる。
そしてその中心には着ていた服が全て消え、青白く発光する肉体。
六つの翼にはそれぞれ眼が開眼し、無気力な表情の変わり果てたジームルエが立っていた。
「ジームルエ・・・?」
ミレオン含めリーシャ達は何が起きたのか分からず唖然とする。
「チッ、間に合わなかったか・・・!」
変わり果てたジームルエは突如飛翔し頭上に魔法陣の球体を展開する。
「いかん!」
女性が指を鳴らした直後、魔法陣の球体から夥しい数の稲妻が降り注ぎ街を焼き尽くしてしまった。
瓦礫の廃墟となった街を見てリーシャ達は言葉を失う。
「っ!街の人達が!」
「心配はいらん。私が転移で全員蓮磨の都へ転移させた。」
街の住民全員を一度に転移させられるほどの魔法にも驚くリーシャ達だが今はそれどころではない。
「ジームルエ!どうしちゃったの⁉アンタはこんなことする娘じゃないでしょ⁉」
ミレオンが呼び掛けるが変貌したジームルエに反応はない。
「無駄だ。今に彼女に私達の声は届かない・・・!」
「もぉ~!いったい何が起きてるって言うのよ⁉」
訳が分からず頭を抱えるリヴ。
「貴女は知っていたんですか?こうなる事を・・・。」
「あぁ。ミレオンがジームルエに渡した指輪は『心理の指輪』といい、装備者の潜在能力を強制的に引き上げる。天界では禁忌として扱われる代物だ。」
「そんな、だって、創造神様はお守りだって・・・!」
「その創造神に利用されたんだ君は。ジームルエを、実験動物として。」
リーシャ達から怒りの圧が溢れ出る。
「お姉さん、先ほどはすみません。」
「ルシファードだ。すまないが詳細に話してる時間はない。」
「ルシファードさん。どうやったらジームルエさんを元に戻せるんですか?」
「強制開放されてからさほど時間も経っておらず、指輪を外すせれば元に戻るはずだ。近づければの話だが・・・。」
ジームルエの翼の眼が一斉にこちらに向き光のレーザーで攻撃してきた。
咄嗟にリヴが竜化し魔法陣の壁で防ぐ。
「乗って!」
リーシャとアルセラはリヴに飛び乗りジームルエへと向かっていった。
「はぁ、私としたことが、事を焦りすぎたな・・・。」
頭を抱えため息をつくルシファード。
「ルシファード様・・・。」
一人残されたミレオンは震えながらルシファードに声をかける。
自分の渡した指輪のせいで親友があんな姿にしてしまったことで罪悪感に潰されそうになっているようだ。
「私、私・・・。」
「ミレオン。君に非はない。だがこのままでは君の親友は多くの者を傷つけてしまう。最悪の場合、彼女自身の命も・・・。そうさせないためにも、君の力も貸してくれ。」
ルシファードの言葉にミレオンは震える自身の手を握りしめ、泣きそうな顔を拭く。
「・・・はい。ジームルエを、止めます!」
ミレオンは金メッキが塗装された二丁のショットガンを振り回し装備する。
(ごめんなさいジームルエ。絶対貴女を助けるから!)




