『第十九章 ロンギヌス』
「ウィング・サイクロン‼」
ウィンロスが翼を大きく羽ばたかすと横向きの竜巻が発生し勇者を飲み込む。
「クソが‼」
勇者は魔剣を大きく振り竜巻を切り裂いた。
そのままウィンロスに突っ込むがウィンロスは上空へ舞い上がり勇者の攻撃をかわす。
「飛んでばっかでズルいぞ‼降りてこい‼」
「んな事言ったってこれがオレの戦闘スタイルやし。」
その時、勇者に向かって一筋の光が一直線に迫ってきた。
「うお⁉」
ギリギリ魔剣で防ぐと光の中からタクマが表れた。
「お前、タクマ‼」
「よっしゃ!触れられる!」
タクマの持っている光の剣は勇者の魔剣を完全に捉えていた。
そのまま流れるように剣技がぶつかり合う。
そのレベルの違う戦いを近衛騎士団の兵士たちはただ見ていることしかできないでいた。
「なんて戦いだ。」
「騎士として助太刀したいが身体が動かない・・・。」
それは隊長であるロイルとアルセラも同じだった。
「次元が違う。今まで数々の戦場を見てきた俺ですら足が動かない。テイマーである彼がここまで戦えるのも驚きだが。」
「タクマ殿の戦闘は一度だけ見たことがあるが・・・こんな戦いは初めてだ。」
アルセラはすぐにでも助力したいが助けに入ったとこで足手まといにしかならないと自身がよく知っていた。
「・・・情けない!」
自身の無力さに唇を噛みしめる。
一方でタクマと勇者は壮絶な激戦の最中、
「お前さえいなければこんな落ちた人生にはならなかったんだ‼死んで詫びやがれ‼」
「逆恨みも甚だしいな。全部自業自得だろ!」
タクマは魔剣を上へ弾く。
そしてがら空きになった腹部に思いっきり蹴りを入れた。
「ぐはっ⁉」
「さらにもう一発!」
立て続けに今度はパンチの二連撃を食らわせ、勇者は腹を押さえ後ずさりした。
「テメェ・・・腹ばっか狙いやがって!」
「まぁ狙いやすいからな。」
あれほど激しい戦闘でさすがの勇者も息が上がっている反面、タクマは息切れ一つせず余裕の表情だ。
旅に出る前のバハムートとの特訓で基礎体力がかなり上がっているみたいだ。
「もう、出し惜しみはなしだ!」
そういうと勇者は魔剣に魔力を流し込む。
すると魔剣の邪気がさらに禍々しさが増し、勇者を飲み込む。
「ぐ、ぐがぁぁぁ‼」
「何だ⁉」
突然の変わりようにタクマも警戒する。
「タクマ!距離を取れ!」
バハムートの呼びかけに気づきタクマは勇者から距離を取った。
「皆もこの場から退去しろ!闇の力に飲まれるぞ!」
バハムートは周りの兵士にも呼び掛ける。
我に返ったロイルが先導し、兵士たちは言う通りに急いで庭から退去していった。
「どういうことですか、バハムートさん!」
「あの勇者め、闇の力を解放したんだ。闇は人の心に大きな影響を及ぼしとても危険だ。」
「じゃぁ、もっとも近くにいるタクマさんは⁉」
「安心しろ。我の呼びかけに気づき咄嗟に距離を取った。」
「よかった・・・。いやよくないか。タクマさんあれと戦うんですよね?」
タクマの目線の先には黒いオーラを放ち、宙に浮く勇者の姿があった。
「この・・・チカラでオま、おまエを‼」
すっかり闇に取り込まれ自我があやふやになる勇者。
いや、もはや勇者と呼べる存在ではなくなったただの落ちた人間だ。
「もう、ドウでもいイ。この国モロともお前ヲ消しテ、ヤる‼」
勇者は剣を掲げると魔剣に引き寄せられるかのように空に暗雲がかかり、辺りが暗くなる。
すると魔剣が不気味な赤い色を放ち巨大な魔力の刀身が出来上がる。
「・・・お前には守りたいものがないんだな。」
タクマが剣を構えようとすると、突然アルセラがタクマの前に立った。
「アルセラさん⁉」
「・・・タクマ殿、今私がここに立つのは君にとっては邪魔かもしれないが、これでも私は近衛騎士団だ。この国を守るのが私の役目なんだ。だからすまない。ここは私に任せてほしい!」
そういい剣を構えるアルセラだが恐怖で身体が震えている。
相手との力量差を分かっているうえで立ちはだかったのだろう。
「・・・っ‼」
怯えながらも立ち向かおうとするアルセラの肩をタクマがポンと叩く。
「お前の気持ちは分かった。けど悪いな、アイツは俺が倒さなきゃならない。」
タクマはアルセラを引き前に出た。
「タクマ殿・・・!すまない、本来なら国に仕える私たちが客人である君を守らなければいけないのにっ!怖くて、身体の震えが止まらない!」
ガクッと膝を落とすアルセラは何もできない悔しさで涙目になる。
「恐怖は悪い事じゃない。一種の生存本能だ。その感情があるから人は優しくなれる。」
「タクマ殿・・・?」
「だから俺たちを守ろうとしてくれたアルセラさんは本当に優しい人だってこと、俺知ってるから。」
こちらに振り向き笑顔で言うタクマ。
アルセラはタクマの暖かい言葉に涙を流した。
「・・・ありがとう。タクマ・・・!」
「礼を言うのはアイツを倒してからにしてくれ。」
向き直るその先には闇に染まった勇者が天高く貫く赤い刀身を手に今にも振り下ろしてきそうな状況だった。
「さて、どうしたものか。あの高さジャンプしても絶対届かないし・・・。」
バハムートは翼の傷が癒えてないので飛ぶことはできない。
となると残りは、
「待てよ?もしかしたら!」
タクマはハッとあることを思い出しニヤリと笑った。
「ウィンロス!」
「おるでー?」
上空に待機していたウィンロスを呼び戻しタクマはウィンロスに耳打ちをする。
「・・・ホンマか?」
「やってみる価値はあると思うぜ?」
「よしきた!」
ウィンロスはタクマを背に乗せ勇者に向かって一直線に飛び出した。
「タクマァァァァァァ‼」
飛んでくるタクマに気づき勇者は重苦しい音を立てながら巨大な刀身を振り下ろす。
「うわぁぁぁ‼」
「あんなの食らったらこの国が吹っ飛ぶぞ‼」
「逃げろぉぉ‼」
王宮の外にいた兵士たちが逃げ惑う。
だがあの巨大な刀身ではどこに逃げても無駄だ。
「もはや、これまでか・・・!」
共に避難していた国王が死を覚悟したその時、一筋の光が上る光景が目に入った。
「あれは‼」
その光をよく見るとそれはウィンロスの頭にまたがり光の剣を突き立てるタクマの姿だった。
「タクマさん!」
「あ奴、何をする気だ⁉」
迫りくる赤い光を前にウィンロスは羽ばたく。
「ウィンロス!もっと速度を上げろ‼」
「これが限界や!」
(くっ!空気抵抗で剣が重い。だが奴を倒すにはこれしかない!)
タクマはバハムートから借り受けた魔力を全て刀身に込める。
すると剣の光がさらに強まり巨大化していく。
「このまま突っ込めウィンロス‼」
「あいよ‼」
ウィンロスは翼をたたみ巨大化した剣からあふれる眩い光をその身にまとい一体化する。
その姿はまるで天を貫く光の槍のように。
「キエろぉぉぉォォぉぉぉ‼」
「俺は消えねぇ!守りたいものがある限りな‼」
「いくでぇ‼」
「『極滅の聖槍』‼」
タクマとウィンロスの融合技、天焦がす滅槍『極滅の聖槍』が勇者が振り下ろした巨大な刀身とぶつかり合う。
「「うおぉぉぉぉぉぉ‼」」
極滅の聖槍となった二人は刀身を打ち砕きそのまま勇者を貫いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ‼」
勇者を捉えた極滅の聖槍は天高く飛んでいき上空で光が散乱した。
力に落ちた勇者と共に上空で光の爆発が起きた時、城下の街の人々はその散乱した光を見ていた。
その光景はまるで星が落ちてくるかのように美しかった。
街の人々が見惚れっているその中に一人のご老人が感極まって涙を流していた。
「おおぉぉっ・・・!光、あれは正しく・・・希望の光だ!」
そして王宮内の庭にて、バハムートの傷を癒し終えたリーシャが降り注ぐ光を見てつぶやいた。
「・・・やっぱりタクマさんはすごい。今の貴方の戦いを見てより一層決意が固まりました!」
「クク、クハハハ!まさか我の光とウィンロスの技を融合させ『ロンギヌス』を生み出すとは!やはりあ奴は我の主人に相応しい男だ。」
すると光が降り注ぐ中、一つの影が上空から落ちてきた。
地面に激突し土煙が晴れるとそこには黒焦げになって気を失っている勇者が倒れていた。
魔剣は完全に砕かれ跡形もなくなっている。
そのあとに続くようにウィンロスがゆっくりと降りてきた。
リーシャが急いで駆け寄る。
地面に着くと同時に背からタクマも降りた。
「ふぅ・・・。」
「タクマさん!」
「おっと⁉」
駆け寄ってきたリーシャに強く抱きしめられる。
抱きしめられているからか彼女の身体の震えを強く感じた。
相当心配してくれていたようだ。
「良かったです・・・!タクマさんが無事で!」
「心配かけたみたいだな。悪い。」
タクマはリーシャの頭を優しく撫でた。
顔を上げるとアルセラがこちらを見ている。
タクマはニッと笑いグッドサインを出し、そしてアルセラは優しく微笑んだのだった。




