『第百八十四章 戦神の来訪』
タクマの剣が製造され始めて一週間後。
タクマとリーシャ、リヴとアルセラの四人は旅支度のため都の市場へ買い出しに来ていた。
「大分鬼族や妖狐族が馴染んできたな。」
「平和になって良かったです。」
あれから目立った事件も起こらずリーシャの言う通り平和そのもの。
強いて言うなら海辺の潮風を浴びてごわごわになったウィンロスを女性陣が総出で洗いまくったことくらいだ。
「ねえ主様!あそこのたい焼き買って!」
「リヴさん、お城に帰ったらすぐ昼食ですよ?あまり買い食いはお勧めしませんが?」
「平気平気!ドラゴンの胃袋舐めないで!」
「しゃあねぇな。アルセラ、ちょっと荷物持っててくれ。」
「あぁ。元々荷物持ちとしてついてきたからな。」
露店で人数分のたい焼きを買い食べ歩く四人。
すると後ろからタクマのローブを引っ張られる。
「おいリヴ。それ以上食うとマジで昼入らなくなるぞ?」
「え?私まだ一個目よ?」
「え?」
リヴは横にいる。
リーシャとアルセラも両サイドだ。
では後ろからタクマを引っ張るのは?
ふと振り返ると黒髪の長髪に前髪で片目が隠れ、マントの襟で口元が隠れた少女がタクマのローブを引っ張っていた。
「お前、ジームルエ⁉」
なんとその少女はかつて戦った七天神の一人、戦神ジームルエだった。
四人は一斉に警戒態勢に入る。
「なんでアンタがここに⁉」
「ん。タクマに会いに来た。」
「二度と姿を現すなと言ったはずだが、何しに来た?」
ローブの中で剣に手をかけると、
「・・・駆け落ち。」
「・・・・・へ?」
予想外の返答に耳を疑う四人。
「タクマと駆け落ちするために、天界から降りてきた。ブイ。」
ピースサインをするジームルエ。
「「「えええぇぇぇ⁉」」」
特に驚きの悲鳴を上げたのは女性陣だった。
「ちょ、ちょっと⁉駆け落ちってどういうことですか⁉」
動揺が隠し切れないリーシャ達。
すると今度はジームルエの後ろからチョップをお見舞いするオレンジ髪の少女が現れた。
「ジームルエ!アンタまだそんな事言ってるの⁉一応私達は休暇で下界に来てるのよ⁉」
ジームルエの親友である天使ミレオンだった。
「問題ない。このままタクマ達と一緒に行く。」
「だからそれをやめなさいって言ってるの!」
突然現れた敵対少女たちに未だ状況が理解できていないタクマ達だった。
しばらくして落ち着き、一先ず都の公園広場までやってきた一同。
「つまり?俺達とついていくために神の地位も捨ててここに来たと?」
「捨ててないわ!ていうかアンタのせいだからね人間!アンタがジームルエに勝っちゃうからこの子がおかしくなっちゃったのよ!」
「んなこと言われても・・・。」
「ミレオン。私は正気。」
「神を辞めるって言ってる時点でどこが⁉」
ミレオンのツッコみが止まらない中、タクマは頭を抱えていた。
「何だタクマ?この子に惚れられてたのか?」
「冗談だと思いたかったがそうみたいだ・・・。」
そもそも神が人間に恋するなんて前代未聞過ぎる。
タクマはどんどん頭が痛くなっていった。
「主様がカッコよくて惚れるのは分かるけど、何でよりによって敵なの?」
「別の意味でも警戒が必要ですね。」
リヴとリーシャは頬をぷく~っと膨らませながらジームルエを警戒していた。
「とにかくジームルエ!駆け落ちとか考えないで!アンタは天界を守る七天神の一人だってこと自覚して!」
「はい・・・。」
ふて腐れながらも返事をする。
そしてミレオンは今度はタクマに寄ってきた。
「私はアンタの事許さないからね?親友をあんな風にされたんだから!」
「知るかよマジで・・・。」
「それで?アンタ達がここに来たのは何で?」
リヴが話を変える。
「私はジームルエの付き添いよ。この子放っておいたらとんでもない事しでかすかもしれないから。」
「変な事はしないよ。私はただタクマに会いたかっただけ。」
「さっきまで駆け落ちとか言ってたくせに・・・。」
一先ず彼女達に敵意はないことは分かった。
警戒するに越したことはないが。
「はぁ、分かった。お前等がこっちに危害を加えるつもりがないなら好きにしろ。それでそいつの気が済んだならさっさと帰ってくれ。」
「言われなくてもそうするわ!」
べーっとタクマに舌を出すミレオン。
「やった。じゃぁ私下界の食べ物食べたい。」
ジームルエはタクマの腕をぎゅっと掴む。
「ちょいこらぁ!なにしれっと主様にくっついてるの!離れなさい!」
「やだ。タクマと一緒にいたいもん。」
「頼むから静かにしてくれ・・・。」
タクマにむらがう女子たちに既に疲労困憊なタクマだ。
「全く、ジームルエったら・・・。」
「君も大変なんだな。」
「人間に心配される筋合いはないわ。ていうか分かってる?私達は敵同士なのよ?」
「勿論承知しています。ですが今のお二人からは戦意を感じません。彼女の言う通り、本当にただ会いに来ただけのようですし。私達もこれ以上とやかく言うつもりはありません。」
「ふん!これがお忍びじゃなかったら真っ先にアンタ達を撃ち抜いてたわ。命拾いしたわね。」
「それはお互い様だと思いますよ?」
リーシャから皮肉な返答をされミレオンは引き笑いする。
「アンタ、言うわね・・・。」
一先ず買い物を済ませ一旦城に戻る。
当然留守番していたバハムート達もジームルエとミレオンに驚いた。
特にミレオンと戦ったラルは毛を逆立てて威嚇する。
敵意が無いことを示されバハムート達も一先ず落ち着き、そして現在別行動中のネクトたちにも連絡、事情を説明し終え、ラセンとスイレンの提案で共に昼食をとることになった。
その間もジームルエはタクマにべったりで終始リヴとミレオンが威嚇していたのだった。
そして午後、タクマとジームルエは蓮磨の都内を歩いていた。
「タクマとデート・・・♡」
「違うっつの。ラセンに頼まれて鬼の里までお使いだ。」
その後ろをリーシャとミレオンがついていく。
「ジームルエったら・・・。あんな人間のどこが良いっていうの?」
「あの、ジームルエさんは戦いの神なんですよね。」
「えぇそうよ。・・・ジームルエは元々私と同じ普通の天使だったわ。でもあの子は戦いのセンスがずば抜けてて他の天使なんか敵じゃなかった。そんな中ジームルエは当時の創造神様に見出された。創造神様や他の高位の神々に認められあの子は神へと成り上がった。そして天界最高の七人の神、七天神にまで上り詰めたのよ。」
「神の世界にも序列があるんですね。」
「そりゃあるわよ。でなきゃ世界の均衡なんて保てないわ。でも、そんな雲の上の存在になってもジームルエは私達と対等に話し合ってくれる。幼馴染の私となんか特にね。」
タクマと腕を組むジームルエを見てふと微笑むミレオン。
「優しい人なんですね。」
「当然。不愛想だけど私の大切な親友よ。それをあの人間、タクマがあの子を変えちゃったのよ!」
途端に表情が険しくなり、タクマを睨みつける。
ミレオンを見たリーシャはふと思う。
「・・・もしかしてミレオンさん、タクマさんに嫉妬してるんですか?」
「・・・え?」
「いえ、そんな大切な親友をタクマさんに、取られちゃうんじゃないかって不安になって、嫉妬してるんじゃないかと思いまして。」
「は、はぁ⁉私があの男に嫉妬してるですって⁉適当な事言うんじゃないわよ!」
「だ、だってそうでもないと今のミレオンさんに説明がつきませんよ!」
リーシャに掴みかかりぐわんぐわん揺らされる。
「はぁ・・・。まぁ確かにあの二人の様子を見てると不思議と胸がモヤモヤするわ。これが嫉妬なのかしらね。ていうかそれならアンタもじゃないの?」
「はい?何でですか?」
「だってアンタ。あの男の事好きなんでしょ?」
「ふぇっ⁉」
ボンと顔を赤くするリーシャ。
「あの男の事を話してる間だけ心拍数が上がってるもの。ジームルエといちゃついてる間もそうだったし、アンタも嫉妬してるんじゃないの?」
「そ、そんな!私は嫉妬なんて・・・!」
しかし反応から見て明らかに異性を意識している乙女の表情だ。
「アンタ等結構長い間一緒に旅してるのにそう言う事今までなかったの?」
「そう言う事ってなんですか!そもそも私は中身は二十代の大人ですよ⁉確かに転生前は恋愛なんて縁も所縁もありませんでしたけど、とにかく私は年下趣味はありません‼」
「ちょっと待って?今さらっと凄い事言わなかった?」
そんな賑やかな二人をタクマとジームルエは見ていた。
「アイツ等いつの間にか仲良くなってるな?」
「ミレオンも下界楽しんでるね。」




