『第百八十章 新国の夜明け』
和国に蔓延る問題が全て終わった。
今将軍の城はほぼ全壊状態なため現在タクマ達は妖狐族の縄張りで戦いの傷を癒していた。
「わあぁぁぁん‼」
アルセラの惨状を知ったリーシャは大号泣で彼女に抱き着いていた。
「アルセラさんが無事でよかったです~‼」
「なんかデジャヴだな。」
「忘れろ・・・。」
ニヤニヤした顔でタクマを見るアルセラだった。
今彼らはタマモの玉座の広間に集まっている。
あの後合流したバハムート達も一緒だ。
「んで、何でお前らまでおんねん?」
広間の片隅にはナナシと糸目の侍の男が正座していた。
「いやぁ、タマモさんを療養させるなら故郷の方がいいと思ってね。それよりさ。彼をどうにかしてくれないかな?さっきから気が気じゃないんだけど・・・。」
糸眼の侍の後ろでシュウが殺気を放ちながら眼を光らせていた。
「まぁ本来僕らのような余所者は縄張りには入っちゃいけないからね。コヨウちゃんの口添えのおかげだよ・・・。」
流石のナナシも冷汗を流してた。
「まあまあシュウ。一応彼らも妾の恩人じゃ。二人のおかげであの戦場から脱せられてのも事実だしの。」
「タマモ様がそうおっしゃるなら・・・。」
少しだけだが殺気を緩めたシュウだった。
そこへ襖を開けてコヨウが入室してきた。
「皆待たせたな!これが最後の漢方や!」
「よっしゃ!ようやく最後や!」
タクマ達は療養中のため定期的にコヨウお手製の漢方を飲んでいた。
しかしどれもが激マズであったのだ。
良薬は口に苦しといえど限度があるくらいに。
「ただし気ぃ付けや。最後なだけあって今までより撃苦やで?」
「え⁉さっきのお薬よりも苦いの⁉」
「文句を言うなリヴ。これで最後なのだ。黙って飲むぞ。」
「うえ~・・・。」
「ほら、母様も!」
「う、うむ・・・。」
ナナシ達以外の全員は渋々漢方を口に放り込んで顔色が真っ青になり、ウィンロスがぶっ倒れたのだった。
療養期間を済ませある程度回復したタクマ達は再び蓮魔の都にやってくると、
「タクマさん!」
「あぁ。」
なんと人族、妖狐族、そして鬼族までもが都の復興作業を共に行っていたのだ。
「なんだか、私も嬉しくなります・・・!」
うれし涙を流すリーシャの頭を優しく撫でる。
「ん?あそこにいるのラセンとスイレンじゃない?」
リヴが指さす先に復興作業を手伝うラセンとスイレンの二人を見つけた。
「お!お前等!怪我はもう大丈夫なのか?」
「何してんだラセン・・・?」
「見ての通り復興の手伝いだが?」
「仮にも将軍だろ?一番偉い奴がこんなことしてていいのか?例えば王政とか。」
「王政とかはまだからっきしだ。それに念願の将軍になれてもまだ右も左も分かってない未熟者のぺーぺーだ。だからまずは小さなことから地道にやってっての勉強中だ。」
「お前、そんな勉強熱心なキャラだったか?ちょっと引くんだが?」
「なんでやねん。」
その頃、女性陣はスイレンとキャッキャと戯れていた。
「何⁉城を修復するだと⁉」
現在将軍の城は戦いの惨劇で見る影もない程ボロボロだ。
「あぁ、俺とバハムートなら多分いけると思う。」
「いけるいけないの問題じゃねぇだろ。」
半信半疑のラセンとスイレンだがタクマはバハムートの背に乗り城の上空へ飛ぶ。
そしてバハムートのスキル『クリエイト』をコピーした。
「行くぜ!」
「うむ!」
二人同時にスキルを発動させると瓦礫と新しい素材が合わさりどんどん城が形成。
最終的に元の立派な城が再び都を見下ろすように建ったのだった。
あっという間に建て直った城を見てラセン達含め都の民たちも開いた口が塞がらないでいた。
「マジかよ・・・。」
「アハハ!流石主様とおじ様だわ!」
なんとか城を建て直せたタクマとバハムート。
しかし、
「ん?タクマ。お主剣が砕けてるではないか?」
「あ、バレた?取り合えず鞘の方を軸にしてスキルをコピーしたんだが流石に剣ほど楽じゃなかったぜ。」
「スターミスリルで打ってもらった剣が砕けるとは・・・、相当無茶な戦い方をしたようだな。」
「・・・悔いはないさ。おかげでジャバルを倒せたんだからよ。」
だがこの先の旅で剣がこのままでは不安で仕方ない。
旅に出る前に剣を新調しなくてはならなかった。
「まぁそれはおいおい考えるとして。」
二人はリーシャ達も元へ降り立つ。
「そういやあれからネクトたちを見てねぇな?アイツ等どうしたんだ?」
「ネクトさん達なら・・・。」
タクマ達が療養中だった頃、ネクトたちは鬼の里にやってきていた。
「随分人数が減ってる気がするんだが?」
「若い男どもは都の復興へ行っておる。こうして和国に何の分け隔てもなく行き来できるのはお主等のおかげだ。礼を言う。」
ラセンとアヤメの父である里長がネクトに頭を下げる。
「・・・礼ならタクマに言ってくれ。元凶を叩いたのはアイツ等だ。俺は何もしちゃいない。」
「それは違うと思うわネクト。」
隣のリルアナがそっと手を握る。
「そうだ。お主達と出会えたおかげで儂らはこうして生きていられた。鬼族を代表して深く感謝させてくれ。」
「・・・俺は陰浪者だぞ?表社会から外れた嫌われ者だ。感謝されるなど。」
「だ~!根暗じゃのネクト様!」
突然部屋に入ってきたアヤメにビックリする三人。
「ネクト様!あの時ネクト様と出会わなったらわらわはとっくにこの世にいなかった!其方の存在はわらわにとってとてつもなく大きな意味と感謝がある!だからそう自分を下げずむのはやめてくれ!」
「お、おう・・・。」
「ふふふ♪女の子にここまで言われちゃどうしようもないわね。」
「・・・お前また少し感情が豊かになったか?」
「ネクトのおかげね♪」
場が和んでいると突如アヤメが姿勢を正す。
「お父様、実はわらわからお願いがございます。」
「な、何だ改まって・・・?」
これまでにない空気が漂い始める。
「実は・・・。」
それから数日後、都の復興作業も目途が立ち、所々生活を始める民たちが現れる。
城の方も内装や家具を全て揃い終え暮らしていけるレベルまで戻せた。
「で?何やってるんだお前等?」
戻ってきたネクトたちはバハムート達もいる大広間で畳いっぱいに紙を広げたタクマ達を見る。
「おうネクト!久しぶり!」
「何が久しぶりだ。たった数日だろ。で?何やってるんだ?」
「見ての通り宴の準備だ。」
そうラセンがにこやかに答える。
(見ての通り?)
「あに様、宴とは?」
「お、アヤメもいたのか!丁度いい。こっち来て早々悪いんだがコヨウと一緒にタマモさんと親父を連れてきてくれないか?あの二人も宴に誘いたいんだ。」
到着早々お使いを頼まれたアヤメは原始化したコヨウに乗せてもらい空を駆けて妖狐族の縄張りと鬼の里へ向かっていった。
「さて!人手も増えた事だし!早速準備するぜ!」
「「「おぉ!」」」
ネクトは未だに状況が理解できず流れに流されていった。
「まさかこのような形で妖狐族の長と面会することになるとはな。」
「妾もじゃ。何年も人間から虐げられても尚種族を導いた御方とお会いできて光栄じゃ。」
「母様、娘の背中で社交挨拶はやめい。」
「お父様も。これから祝いの席に行くんじゃぞ?」
「息子の主催した宴か。長生きをするもんじゃな。」
薄暗くなった空を駆けていると、
「あ、見えてきたで!・・・て、めっちゃ広い範囲で会場になっとる⁉」
宴というよりは大規模な祭りのように大きかった。
都の広場を中心に人族、妖狐族、鬼族の三種族が一丸となって盛り上がっていた。
「これは・・・!」
里長が目を輝かせてると城の方で立派な服を着たラセンがこちらに手を振っていた。
役者が揃った所で広場に建てられた高台に正装したラセンとスイレンが立つ。
「皆!皆のおかげでこの国は生まれ変わることが出来た!今夜は和国の復興と新たな門出だ!存分に楽しんでくれ!」
「アンタの将軍就任もだろぉ!」
「あ、そうだった。」
「おいしっかりしろ。」
スイレンにどつかれ民たちから笑い声が木霊する。
「んじゃ気を取り直して、新たな和国に乾杯!」
「「「乾杯‼」」」
今夜は国中を上げてお祭り騒ぎ。
多少わだかまりはあるものの種族関係なく笑い合う民たちの光景を見てそれぞれの里長は涙目になる。
「まさか、このような光景を見ることが出来るとはな・・・。」
「これも全て、彼等のおかげじゃな。」
ラセン達が大騒ぎに楽しんでいると二人の前にスイレンがやってきた。
「何じゃ?元将軍よ。」
「いえ、このようなめでたい席で申し訳ないのですが・・・。」
そういいスイレンは二人に頭を下げた。
「宰相に騙されてたとはいえ、お二方種族に心から謝罪します。本当に申し訳ございません。」
「・・・ラセンから聞いた。これまで多くの同胞を葬ってきたんだとな。」
「・・・私は、決して取り返しのつかないことをしてしまった。だから、どうか私を罰してください。」
里長とタマモの表情が険しくなる。
「本気で言ってるのか?妾はともかく、この鬼はお主を殺すやもしれんぞ?」
「覚悟は出来ております。」
スイレンの決意の眼差しを見て里長は酒を一口飲んだ。
「殺したいと思ってるのは嘘じゃない。」
「っ!」
「お主等が攻めてこなければ、我が妻やルガンは今頃こうして共に酒を飲み交わせていただろう。だが過ぎた事実は変えられん。もう彼奴等は戻ってこない。」
スイレンはギュッと後悔の拳を握る。
そして里長はコップを置き彼女の前に立ち、スイレンは覚悟を決め眼を瞑る。
すると、優しく頭を撫でられた。
「だから、今からでもやり直しなさい。」
「え・・・?」
キョトンとするスイレン。
「君は間違いに気付けた。そして犯してしまった罪を受け止め前に進もうとしている。許す許さないは今後の君の行いを見て決めさせてくれ。」
「・・・。」
タマモもやれやれとため息をつく。
「それにお前達、結婚したんだってな!なら君はもう儂の娘同然!父親としてお前達の未来を見届けさせてくれ。」
笑顔で言う里長の優しさと懐の深さにスイレンは気付けば泣いていた。
「はい・・・!ありがとう、ございます・・・!」
「ん?おい親父⁉何俺の嫁泣かせてんだ!まさか嫁いびりか⁉」
「んな訳あるか阿呆!せっかくの感動シーンに水差すなバカ息子!」
全くこの親子は・・・、と今度は頭を悩ませるタマモだった。
その日の夜。
タクマ達は将軍の城で一晩を過ごしていた。
大広間で各々眠る仲間たち。
まだ夜も明けない早朝にふと目が覚めるタクマ。
外廊下に出て薄っすら見える星空を見上げる。
「この国に来てからもの凄い忙しかったな・・・。」
始めはアーティファクトを探しに和国にやってきたが途中でネクトたちと再会し、流れで鬼族や妖狐族、ラセン達とも出会い、神龍を見つけたり神と戦ったり・・・、思い返したらキリがない。
何より、アルセラが無事で本当に良かった。
彼女は人間体のカリドゥーンを抱きしめて熟睡しており、タクマは微笑む。
「本当に無事でよかった。アルセラ。」
しばらく夜風に当たっていると・・・、
「タクマ~!起きよっか~?」
突然目の前にバハムートの発光する羽で顔の下から照らしたウィンロスが出てきて心臓が飛び出るほどビックリした。
割と顔もデカいので尚心臓に悪い。
「お前・・・。」
「なはは!わりーわりー!・・・今日はこの国にとっての記念日や。日の出見に行こうや。」
ウィンロスの提案で朝早く起こされた一同はラセンの案内で和国を囲む外側へ反り返った山にやってくる。
鳥居をくぐると既に何人もの人たちが集まっていた。
「他の連中も考えることは同じやね。」
「しかしこれ程込んでいるとちょっと息苦しいな。」
「ならこうすれば良かろう。」
バハムートは全員に認識疎外のスキルをかけると魔法壁の床を展開しエレベーターのように上空に登る。
「お前ホント器用だよな。」
「主様がそれ言う?」
しばらく談笑してると朝日が差し込んできた。
初日の出という訳ではないがこの朝日は和国にとって大きな意味を持っていた。
美しい朝日を見てスイレンは涙を流す。
「いつも見てた太陽がこれほど美しく見えるなんて、不思議だな。」
「そうだな。これ程気持ちのいい朝は初めてだ。さぁ、これから忙しくなるぜ。」
「あぁ。」
ラセンとスイレンは無意識に手を繋ぎ握りしめたのだった。