表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/284

『百七十八章 燃え尽きる騎士道』

雷炎竜の竜化へ進化したタクマに上半身がはだけたジャバルは冷汗を流し始める。

「・・・正直、貴方を侮っていたことを後悔してますよ。」

「ようやくその余裕の顔が取れたな。」

タクマは再び二刀雷炎を構える。

するとジャバルは不気味に笑い出し、アルセラとコヨウも身構えた。

「何がおかしい?」

「いえ失礼。これ程心揺さぶる余興は初めてでして。神龍復活の前に楽しませてもらいますよ。」

「まだ抜かすか。その装置はコヨウ達が壊した。もう神龍を復活させることは出来ない。」

「いえ、まだ可能なのですよ。私は何十年も神龍復活計画を練り込んでいたのです。装置が破壊された時を考慮していないとでも思いで?」

「何?」

ジャバルがおもむろに上を見上げる。

釣られてアルセラ達も上を向くと、

「っ‼タクマ!天井を見ろ!」

タクマも見上げると驚いた。

ずっと天井の模様かと思っていた物。

それが実は巨大な時計の羅針盤だったのだ。

「何だこれは・・・⁉」

「装置が破壊された時のために用意していた予備装置です。しかしこちらは魔力だけでなく生命力、即ち命をも吸い取ってしまい確実に騒ぎが起きてしまうためあまり使いたくはなかったんですがね。ですが背に腹は代えられません。丁度その辺りに人の心が駆けた負のエネルギーをため込んだ人間共もいますことですし。」

「お前まさか・・・!」

「えぇ、プランBに変更です。これを使いこの都の人間から魂諸共魔力を根こそぎ頂き、神龍復活の礎となってもらいましょう!」

ジャバルが時計を起動させようと錫杖を掲げると、

「させるかぁ‼」

アルセラが飛び出しジャバルに切り掛かった。

カリドゥーンと錫杖がギリギリと火花を散らす。

「何をそんなに止めたがるんです?この都の人間は貴女方のお友達である鬼族を見殺しにしようとした連中ですよ?」

「確かにこの国の人間は腐っている。でも、それは命を奪う理由にはならない!」

「甘いですね。その甘さが貴女を弱くしているというのに。」

剣を弾き魔法陣を展開。

鋭い衝撃波がアルセラを吹っ飛ばし壁に叩きつけられる。

「アルセラ!」

「よそ見はいけませんよ?」

瞬間速度でコヨウの背後に現れ彼女を強く薙ぎ払う。

二人を遠ざけ再び錫杖を掲げると寸前でタクマが雷剣を絡ませ止める。

「・・・。」

「・・・。」

無言で睨み合う二人。

そして次の瞬間、目にも止まらぬ速度でぶつかり合い部屋の空間全てを駆け回る。

隙あらば錫杖で時計を起動させようと動きを見せるジャバルに必死に食らいつき阻止するタクマ。

しかし慣れない雷炎竜の力に所々動きが鈍る瞬間がある。

その隙をつき黒翼を仰ぎ風圧でタクマを吹き飛ばす。

誰も近くに居なくなったのを見計らい今度こそ起動させようとする。

だが寸前で滑り込んだアルセラが突かれる錫杖を受け止めた。

「いい加減にしてください。どれだけ阻止しようとも貴女方は私には勝てません。」

「それは神龍が復活した後の事だろう?貴様だけならまだ勝つ可能性はある!」

「心外ですね。貴女方は私という神を相手にしてるのですよ?万が一にも人間が神に勝つことなど不可能です。」

「それを()()()()()()()()()()()!タクマ!」

ジャバルのすぐ後ろに二刀雷炎を構えるタクマが現れる。

アルセラに気を取られていたジャバルはタクマの接近に気付くのが遅れ咄嗟に防御するも凄まじい紅蓮雷斬撃を食らい錫杖をへし折られ玉座の方へ弾き飛ばされた。

「フゥ・・・!」

(・・・気を取られていたとはいえ背後からの接近に気付けなかった。二属性の二刀流に加え、あの少年、この短時間で爆発的に成長している!)

立ち上がり砂ぼこりを掃う。

「神を倒したという噂。戯言ではなかったようですね。」

「そんな偉業微塵も興味ないがな。」

「これは遊んでいる場合ではなさそうです。私も本気でお相手しなければいけませんね。」

ジャバルは手をパンと叩くと天井の羅針盤、時計の針が動き出した。

「な、何でや⁉錫杖はタクマがへし折ったのに⁉」

「別に錫杖を使わなくとも起動する事は可能です。私は形から入るタイプですので。」

巨大な時計が起動すると重い地響きと共に天井が崩れ始める。

「うおっ⁉」

「くっ!」

瓦礫の破片が降り注ぎタクマとアルセラは剣で弾くがコヨウの方に大きな破片が落下する。

「「コヨウ‼」」

二人は咄嗟に飛び出しコヨウを庇って瓦礫の下に埋もれてしまった。


 起動した時計は城を崩壊させながら天高く浮かび上がり、その全貌を露わにする。

むき出しになった機械仕掛けの内部。

美しい彫刻の彫られた羅針盤。

幾つもの歯車が非対称に張り巡らされた巨大な時計が和国上空に現れたのだ。

「ハハハハッ‼流石にこれ程の装置を動かすに相当な魔力を持ってかれますね!ですがそれもまたいい!いよいよ私の悲願、神々への復讐を成せると思うと高揚が押さえきれません!さぁ、この都に救う愚かな人間共から魂諸共魔力を根こそぎ奪うのです‼」

遥か高く上昇すると無数の歯車が回転。

羅針が時を刻むように一つ、また一つとゆっくり動き出す。

すると突如現れた巨大な時計に驚いていた蓮魔の都の民から蒼白い球が抜き取られいった。

事態に気付いた民は悲鳴を上げ大慌てで逃げ出すも次々と倒れていく。

そして魔力を帯びた無数の魂は歯車の中へと吸収されていく。

「素晴らしい憎悪だ!長年かけて人間を騙し続け育ませたかいがあったというもの!やはり人間とは都合のいい素材ですね。フフ、フハハハハ‼」


 大勢の命が抜き取られる最中、城の天井や壁が崩れ吹き抜けた将軍の間。

瓦礫の山からタクマとアルセラが起き上がる。

「いてて、二人とも大丈夫か?」

「私は大丈夫だ。」

「おおきに二人とも・・・、でもウチは少し足をすりむいてしもうた。暫く歩けそうにないん。」

「なら私のアーティファクトの力で・・・。」

「いやええ。二人はジャバルを追って欲しいんや。さっきから嫌な気が飛び交って気持ち悪いんのや。」

恐らくジャバルが時計を起動させた影響だろう。

「タクマ行こう。もう動けるのは私達だけだ!」

走り出そうとした時、突然タクマに腕を掴まれ引き留められた。

「タクマ?」

「あ、いや、すまない・・・。」

我に返ったかのようにパッと手を離す。

自分でも何でこんな行動をとったのか分からず疑問に思うタクマだが、

「っ・・・行くぞ!」

「・・・。」

コヨウを残し二人は外廊下へ出て走る。

そして城の出っ張り部分までやってくると、

「いた!」

空の上で巨大な時計で民の命を抜き取っていくジャバルが目に入った。

「あの野郎・・・!飛ぶぞアルセラ!」

タクマが炎の翼で羽ばたこうとした時、()()()()日の光が差し込む。

その瞬間、アルセラの身体が燃え焼け始めた。

「うわぁぁぁ⁉」

「っ⁉」

あの時、カリドゥーンは言っていた。

『タイムリミットは、今日の夜明けじゃ。』

タイムリミットを迎えアーティファクトの力に彼女の身体が蝕まれ始めたのだ。

「アルセラ‼」

雷炎竜から水の竜化に切り替わり水の尻尾で燃えるアルセラに巻き付けるが炎は一向に弱まる気配はない。

(なんて熱量だ⁉こっちの水が蒸発する!)

「カリドゥーン!アーティファクトを解くんだ!早く‼」

『む、無理じゃ!一度こうなってしまっては儂でもどうにもできん‼』

「そんな・・・!」

片や都の民を贄に神龍復活を目論むジャバル。

片や消滅仕掛けるアルセラ。

「・・・っ!」

タクマの脳内に母親のセナとヒルデの最期がフラッシュバックする。

心臓の鼓動と共に『恐』という感情が彼を襲う。

「・・・・・。」

その時、突然アルセラが立ち上がりタクマを担ぎ上げた。

「うおぉぉぉぉぉぉ‼」

夜明けの空へとタクマを放り投げ倒れるアルセラ。

投げ飛ばされたタクマにアルセラは腕を掲げ、グッと親指を立てた。

「っ!」

仰向けになる彼女は、涙を流しながらも笑っていた。

彼女の想いを理解したタクマはそのまま回転し、水から炎の竜化へと変わる。

「っ・・・分かった。アルセラ・・・!」


 時計の針が一つの時を刻みもうすぐ一周目へ達しようとする。

「ついに、ついにこの時が来た!さぁ目覚めの時です!災厄の神龍よ‼」

そこへ超加速で時計の上空にタクマが現れる。

(神龍の復活はさせない!今まで犠牲になってきた人たちのためにも、アルセラのためにも‼)

剣をもの凄い勢いで投げつけ時計に突き刺ささる。

「っ!奴め、まだ私の邪魔を・・・!」

「うおぉぉぉぉ‼」

追撃で剣を蹴りつけ根元まで深く突き刺す。

すると時計は亀裂を走らせ爆発し、木端微塵に砕け散った。

「今度こそ終わりだ!ジャバル‼」

剣を掴み取り炎を纏わせる。

ジャバルも反撃と右手をかざすが紅蓮の斬撃に片腕と翼を切り落とされる。

「この国の怒りを!己が罪を‼全て、受け止めろぉぉぉぉぉ!!!」

タクマの一太刀がジャバルの胴体に切り込む。

その時、ジャバルは走馬灯を見たのだった。


ーーーーーーーーーー


 「何故です!私の研究のどこが邪だと言うのですか⁉」

まだ神であった頃のジャバルは天騎士に槍を突き付けられていた。

「お前は禁忌に触れたんだ。『死者蘇生』など俺達神々でも絶対に手を付けてはいけない分野だ。」

神々しい女性の横に立つマントを羽織った白髪の青年がいう。

()()()様。処遇を。」

「いや、決めるのは俺じゃない。」

青年は玉座に座る女性に向く。

女性は立ち上がりジャバルの前に立つと何かを言伝えた。

「なっ・・・⁉」

ジャバルは絶望の表情をし、女性は玉座の方へ戻って行った。

「そんな・・・、私は、私の研究は全て貴女のためを想って!全て貴女のために尽くしてきたというのに、天界を追放だなんて・・・!何故、何故です!創造神様ぁぁぁ‼」


 「ほう。それでこの地に堕ちてきたってことか。」

一本の木の下で堕天神へと堕ちたジャバルとしゃべるスライム。

「何故奴らは私を認めようとしなかったのか理解が出来ない。私の研究は全てあの御方のために・・・。」

「でもその御方という奴に追い出されたんだろ?お前の気持ちも分かろうとしないで。」

「・・・確かに。」

ジャバルにふつふつと神々に対する復讐心が芽生え始める。

「このまま野垂れ死ぬ気はない。せめて私を、私を認めようとしなかった神々に一泡吹かせてやりたい。」

「なら俺と手を組もうぜ。魂の契約は互いに大きな利益をもたらす。そして主導権はお前に譲る。お前が死なない限り俺も死ぬことはない。」

「・・・いいだろう。その契約、乗ってやる。」

その様子を水晶を通じて見ていた創造神と青年。

「・・・どうやら奴は己の罪に気付かず、あろうことか俺達への憂さ晴らしを決めたようだぜ?創造神。」

創造神は頭を抱え唇を噛みしめる。

「罪を認めさせ数百年間反省すれば追放を取り消す。そう思ってたんだろ?」

「・・・愚か者め・・・!」


ーーーーーーーーーーー


 (嗚呼、そうか。本当に愚かだったのは、私だったのか・・・。)

「うおぉぉぉぉ!!!!」

「っ‼」

タクマの紅蓮の剣がジャバルの身体を徐々に切り裂いていく。

すると腕輪に付けた従魔結石が光り輝きタクマの眼が白くぎらつく。

刀身も翡翠色の炎に包まれ切れ味が増す。

「グアァァァァァ⁉」

「アアァァァァァ!!!!」

ジャバルの肉体を切り裂き、神核が露わになる。

追撃で剣を振るい神核は砕かれ、宙に舞うジャバルの半身はそのまま光の粒となって消滅していった。

そしてその上空の傍らでは紫色の吐息を吹く女神ルシファードがいた。

「ふぅ、・・・せめて、真実を知ってから逝くが良い。かつての同胞よ。」

手に持つ剣が限界を迎え砕け散る。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

一瞬とはいえ従魔結石による極限状態を開放したため一気に限界が身体にのしかかり炎の竜化が解けてしまった。

そこへ落下する彼を原始化したコヨウが空を駆けて救出。

むき出しとなった将軍の間へと降り立った。

それと同時に中央の大穴からゴグマに担がれラセンとスイレンも合流した。

「タクマ!」

コヨウから降ろされるタクマをラセンが受け止める。

「やったんだな!ついに!」

「本当に、あのジャバルを・・・。」

しかしタクマは床に手をついたまま震えていた。

「あぁ、倒せた・・・!アルセラのおかげで・・・!」

「アルセラは?一緒じゃねぇのか?」

「・・・アイツは、もういない。」

「え?」

「アーティファクトのタイムリミットが来て、アイツの身体が燃えて、塵に・・・!」

アルセラが自らを犠牲にしたおかげでジャバルを倒すことが出来た。

しかし大切な仲間を失った事実にタクマは耐えられず涙する。

「俺はまた、守れなかった・・・!どれだけ強くなっても、守れなきゃ、意味がない・・・!ごめん、ごめん・・・アルセラ!」

他の四人もかける言葉が見つからず戸惑ってしまう。

するとゴグマが何かに気付く。

「っ!おい!あれ!」

タクマの後ろを指さすとラセン達も驚きの表情を見せる。

タクマも後ろに振り返ると、

「っ‼」

朝日に照らされ、人間体のカリドゥーンに肩を貸してもらいながらこちらに歩いてくる銀髪の少女。

アルセラだった。

四人は言葉を失い驚いているとアルセラは気恥ずかしそうに頬をかく。

「えっと、すまない。なんか生きてた!」

気まずそうに笑う彼女にタクマは再び涙を流す。

「アルセラ・・・?」

限界なんかとうに超えた身体が無意識にアルセラの下へ歩み寄る。

「お前、何で?」

「私にも何が起きたのか分からない。でもこれだけはハッキリしている。私は生きているぞ。タクマ。」

「っ!」

タクマは思わずアルセラを抱きしめた。

「え、ちょっ、タクマ⁉」

「う、うわぁぁぁん‼怖かった!()()、目の前で大切な人を失うんじゃないかって・・・!怖かった!怖かったよ~‼」

普段からは想像できない程泣きじゃくる彼にアルセラは優しく抱きしめ返す。

「心配かけたな。ありがとう・・・!」

二人の絆に四人はもらい泣きしており、コヨウはラセンの服で鼻をかんでいた。

その傍でカリドゥーンは手元のフェニックスのアーティファクトと、シルバーパイソンのアーティファクトを見る。

(小娘の身体が塵と化していた時、シルバーパイソンのアーティファクトが動きその冷気で小娘を助けた。意思があるとはいえフェンリル以外自発的に動くことは前の勇者の時にもなかった。こんなことは初めてじゃ。小娘やタクマ達との旅で、何かが変わりつつあるというのか?)

少なからず影響は出ているかもしれない。

だが今の彼らの様子を見てカリドゥーンは、

(・・・今はそんな事考える場面ではないの。)

ふっと笑いを零し考えるのをやめた。

そして急に倒れてしまったタクマに一同は大焦り。

だが彼の顔はとても安心した表情をしていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ