『第十八章 対勇者再び』
時は少しさかのぼる。
勇者は部屋からこっそり抜け出し門番の目を搔い潜り王宮の宝物庫に侵入した。
「何か聖剣の代わりになる物は。」
勇者は宝物庫を漁っていると奥の部屋から禍々しい気配を感じた。
「何だ?」
部屋の奥に入るとそこには鎖でぐるぐる巻きにされた黒い剣が壁に立てかけられていた。
その剣は見るのも恐ろしく禍々しい形をしていた。
「何だこの剣は…。とんでもない力を感じるぞ。」
勇者は引き込まれるかのようにその剣を手に取った。
その時剣から黒い靄のようなものがあふれ出し、勇者を飲み込んだ。
「何だ⁉うわあぁぁ‼」
靄が晴れ、勇者の目が赤く光る。
「ふ、ふははは!こりゃぁ良い。この力ならあいつを!」
勇者は剣を振ると宝物庫の扉が切り裂かれ、大きな爆発が起こった。
事態に気づいた兵士が駆けつけてきたが勇者は出会い頭に兵士に切りかかった。
「邪魔だぁ!」
「ぐあぁぁぁ‼」
勇者はそのまま廊下を走り窓から外に飛び出した。
「はははっ!この力があればあいつを、タクマを殺せる!」
「誰を殺せるだと?」
勇者が顔を上げると白銀の鱗が目の前に広がっていた。
「なっ!お前は!」
「また会ったな。」
目の前にはバハムートが立っていた。
勇者は咄嗟に距離を取る。
「何でテメェがここに居やがる!」
「騎士団に招待されてな。それより何やら騒ぎが聞こえてきたようだが?」
「くっ!」
勇者は魔剣を構えた。
「だがお前がここにいるという事はアイツもいるってことだよな?」
「我が主の事か?無論いるとも。」
「そうか・・・。」
と言い終えると同時にバハムートに切りかかった。
瞬時に魔法壁で防ぐが壁にヒビが入り砕け散った。
寸前でバハムートは剣撃を交わしていたが魔法壁が簡単に砕かれたことは想定外だった。
「はははっ、すげぇ!お前の魔法壁をいとも簡単に砕いちまった!」
「お主、闇の力に手を出したか。」
勇者の持つ剣からは邪気が溢れ出ている。
先ほどの一撃で力が表に出てきたようだ。
「勇者が落ちたな。」
「もう勇者とか関係ねぇ。この俺の異世界ライフを壊したあのタクマっつうガキに仕返しできればそれでいい!」
「お主、先ほど『タクマを殺せる』とかほざいてたな。」
「だったら何だ?」
「させるわけなかろう・・・‼」
とてつもなく恐ろしい眼光が勇者に降りかかる。
勇者はその眼光に当てられ足がすくみ、今まで感じたことのない重苦しい重圧が辺りに響く。
それでも勇者は剣を構える。
「威嚇しても無駄だぜ!今の俺は最強の力があるんだからな!」
そして現在、王宮の庭で勇者とバハムートが激く戦っていた。
王宮の屋根からその様子を見下ろすウィンロスがタクマに状況説明をしていた。
「というわけでオレが少し席を外している隙にこないな事になってたんや。」
「バハムートが応戦してくれてたか。そのまま勇者を足止めできるか?」
「できるっちゃできるがあまり長時間はアカンと思うで?勇者の持っとる剣もおぞましい感じがするしいくら旦那と言えど限度があるからな。」
「分かった。俺もすぐそっちに向かう。」
「はよう頼むで!」
念話を切りタクマは国王に現状を説明し、すぐさま庭に向かって走った。
庭に到着すると目の前では目で追えないほどの乱戦が繰り広げられていた。
「これは・・・。」
その光景を見たロイルと近衛騎士団の兵士たちは息を飲んだ。
「リーシャ。お前はここで待ってろ。」
「え?私も戦います!」
「ダメだ。奴の持ってる剣は得たいがしれない。お前に何かあったら嫌なんだ。」
「でもっ・・・。」
「いいな。」
そういいタクマはリーシャの返事を聞かずバハムートの加勢に行った。
タクマは勇者が振り下ろした剣を炎剣で受け止めた。
「‼、待ってたぜ・・・タクマ‼」
「俺の名前覚えてたのか。嬉しくねぇな。」
選手交代しバハムートは後ろに下がった。すぐさまリーシャが駆け寄ると
「!バハムートさん、傷が!」
よく見るとバハムートの鱗や翼が微妙にかけていた。
「我にとって闇の力は相反する力だからな。流石に失せぎきれんか。」
「今治します!」
リーシャはバハムートに回復魔法をかける。
(あの魔剣は我と相性が悪い。だがタクマ一人では荷が重い。となれば・・・。)
「ウィンロス!」
「はいな!」
屋根の上で待機していたウィンロスが降りてきた。
「お主の初陣だ。しっかりタクマの役に立て!」
「よっしゃ、いくで!」
ウィンロスは飛び上がり勇者に向かって凄まじい暴風を食らわせた。
「ぐっ、ぬおぉぉぉ⁉」
勇者は暴風にあおられ遠くへと飛ばされた。
「ウィンロス。」
「ようタクマ。今回はオレとタッグ組もうや。」
タクマはバハムートを見ると今彼はリーシャに治療されてる最中だった。
タクマは察しウィンロスに向き直る。
「分かった。頼りにしてるぜ。」
「おう!」
そこに暴風に飛ばされた勇者がゆっくり起き上がった。
魔剣からは相変わらず禍々しい靄が溢れ出ている。
「テメェ、新しい魔獣をテイムしたのか?」
「まぁな。おかげで毎日楽しいぜ。」
「つまり、お前はまた強くなったのか?」
「テイマーにとってはそうなるな。」
「ふざけるなぁ‼」
突然の怒号に一瞬びっくりした。
「何で現地人のお前が異世界人より強いんだよ‼普通異世界人の方が最強だろ‼」
勇者は取り乱しながら自分勝手な理論を叫んでいる。
「・・・何言ってんのやアイツ?」
「さぁ?」
当然タクマとウィンロスには何のことかさっぱりだ。
この場にいる兵士たちも同様に頭を傾けていた。
ただ一人を除いて。
(ラノベの読みすぎですね・・・。)
と、同じ異世界人の前世を持つリーシャだけは理解し、そして呆れていた。
「異世界人の方が強い?誰がそんな理論を考えた。異世界だろうが何だろうが人は人だ。それはどの世界でも変わらねぇ理だ!」
「黙れ!もうどうでもいい事だ!お前さえ消えれば俺はそれでいいんだよ‼」
勇者は勢いよくタクマに切りかかる。
咄嗟に炎剣で受け止めようとしたその時、魔剣が炎剣をすり抜けたのだ。
「⁉」
タクマは超寸前でなんとかかわし後ろに下がった。だが勇者はそれを許さず追撃を仕掛けてきた。
「ちっ!」
すぐさま応戦するがやはりタクマの剣は魔剣をすり抜けてしまう。
(これが魔剣の力か!)
「どいとき!」
横槍でウィンロスが蹴りを食らわせ勇者は吹っ飛び地面にたたきつけられた。
「ぐはっ‼」
「乗れ、タクマ!」
「お、おう。」
タクマはウィンロスの背中に飛び乗り上空でホバリングする。
「あれが魔剣か。俺の剣がすり抜けるのは厄介だな。」
「けどオレの蹴りは普通に当たっとったで?バハムートの旦那もあの剣でダメージ食らっとったし。」
「これも魔剣の特殊な付与のせいなのか?」
「あ、そういえばあの勇者が最初に切りかかったとき旦那の魔法壁をぶち破ってたで?」
「何?」
バハムートの魔法壁を破るとは。
やはり得たいがしれない剣だ。
(・・・魔法?)
ふとタクマは何か引っかかった。
情報をまとめるとバハムートに傷を負わせウィンロスの蹴りが通り、魔法壁とタクマの炎剣がすり抜けた。つまり・・・、
「分かったぞ!あの魔剣は魔法の類を無効化するんだ!俺の炎剣は魔法で編んでいるからすり抜けたんだ。」
「じゃぁオレの蹴りが通ったのは・・・。」
「魔法を使わない物理攻撃ならダメージを与えられる!」
「なるほど、そういうカラクリやったか。・・・ん?剣は魔法で編んだ?」
「あ、そっか。お前には話してなかったな。」
タクマは炎剣の炎を解除する。
「刃折れしとるやん⁉」
ウィンロスはタクマの刃折れの剣を見て驚いた。
「元々ガタが来てたんだよ。剣を打ってもらうためにドワーフの里にも行ったんだがいろいろありすぎてずっと後回しになってたんだ。」
「マジか。代わりの剣は無いんか?」
「ない。」
「うそん・・・。」
しかし現状タクマの武器はこの剣しかない。
バハムートは魔剣との相性が悪いせいで戦えず今はウィンロスに頑張ってもらうしかない。
「とにかくこれで戦うしかない。お前に頼りっきりになっちまうが。」
「構へん。武器が不十分じゃ思うように戦えへんやろ。オレに任しとき!」
ウィンロス急降下し勇者目掛けて蹴りを繰り出す。
「おりゃぁぁぁぁ‼」
「くっ!」
渾身の蹴りはかわされ地面が大きく割れた。
「さぁて、オレが相手や勇者!」
「ちっ!邪魔しやがって!」
「当たり前や。そうやすやすと主を殺されてたまるか!」
一方タクマはウィンロスが渾身の蹴りは放った隙に背から飛び降りバハムートの元に向かった。
「バハムート。傷は?」
「娘のおかげで大分回復できた。」
「そうか。ありがとなリーシャ。」
「えへへ♪」
タクマは早速本題を話す。
「・・・そうか。魔法の類が無効化される付与か。」
「それじゃ私が加勢しても足手まといですね・・・。」
「いや、お前は加勢しなくていいから。俺らのサポートに徹してくれ。」
「ぷぅ!」
頬を膨らませて起こるリーシャ。
彼女は槍術を持っているがまだ魔剣にどんな危険があるか分かっていない
。気持ちだけ受け取っておこう。
「んでバハムート。お前があの魔剣と相性が悪いという理由を教えてくれ。何かヒントが見つかるかもしれない。」
「なるほど、いいだろう。あの魔剣は属性が闇だ。そして我は主属性としては光なのだ。」
光と闇。
互いに対となる存在で属性で分けられると光は闇に弱く、また闇も光に弱い。
そうして互いが弱点で存在するためバランスが取れているといっても過言ではなかった。
「お前、光属性だったのか。炎ブレス使うからてっきり見た目詐欺の炎属性かと思ってたわ。」
(見た目詐欺・・・。この世界でも詐欺と言う言葉があるんだ。)
リーシャが内心そう思ってる隅でバハムートが話を続ける。
「つまりだ。闇に対抗するには光属性もぶつけなければならん。だが我はまだ傷が完治しておらんから加勢は難しいが。」
「いやその情報だけで十分だ。しかし光か・・・。」
タクマは腕を組んだ。
「光属性の技なんて覚えてないし益してや魔法も効かないしどうしたもん・・・、あっ!」
タクマは何かを思い出した。
「そうだバハムート!俺確か付与魔法が使えるって前に言ってたよな!」
確かに以前バハムートと出会って間もないころ。
『お主が使えるのはせいぜい付与魔術ぐらいだろう。』とバハムートに言われたことがあった。
「あの時か。術式の基礎さえ理解していればあの言葉には嘘偽りはないが。」
「タクマさん付与魔法使えたんですか?」
「さぁ?使えるって言われただけで使えるか知らんけど。」
リーシャはずるっとこけた。
だが勇者を止めるにはこの方法しかない。
「昔、本で読んだことがあります。付与魔法には付与を施す対象物とさせる材料が必要です。対象物はタクマさんの剣で決まりですが材料となる光属性の物がありません。」
「マジか。どうすれば。」
「なら我の羽を使え。」
バハムートは自身の羽を一枚むしり取りタクマに渡した。
羽は黄金に輝いておりなかなか直視が出来ない。
「うわ眩し!いいのか?」
「我はタクマの従魔だ。主の役に立てるのならそれでいい。」
「・・・分かった。」
タクマは剣と羽を地面に置き、魔術に長けたリーシャに付与の陣を教えてもらいながら地面に書き記していく。
陣を描き終えると薄っすらと光出した。
「タクマさん!魔力を流してください!」
「いや俺魔力無いけど⁉」
「あっ‼」
「タクマ!我の『合成』のスキルを使え!」
すぐさま『合成』スキルをコピーし発動させる。
すると魔法陣の光は強さを増し、中央に置いた剣と羽が一つに合わさっていく。
そして光が治まるとそこには白く輝く刀身の付いた一本の剣が浮いていた。




