『第百七十三章 三つ巴の決死』
突如現れた喋るスライムが攻撃スライムと融合し巨大化し、バハムート達に襲い掛かっていた。
その流れ弾が運悪くタクマ達の方にも振ってきてしまった。
「あぶねぇ!」
しかし精神状態が崩れたスイレンがいるため避けることあ出来ない。
咄嗟にラセンが彼女を庇いタクマが剣を持ち前に立つが、
(っ!今瓦礫を斬ると剣にダメージが・・・!)
スライムの酸液によって亀裂が入ってるタクマの剣では十分に対処しきれない。
だがその時、赤く眩しい一閃が流れ弾を一刀両断したのだ。
そこへ現れたのは全身黒タイツの上に紅の鎧を装備したアルセラだった。
「アルセラ!」
「すまない。少し気絶してた。」
「それはいいが、お前怪我は?骨折してただろ?」
「問題ない。フェニックスのアーティファクトで怪我を治した。これには再生の力があるからな。」
そうは言うが体力的にはまだ本調子ではなさそうだ。
あまり無理はさせられない。
「でも大丈夫なのか?縄張りで聞いた時デメリットが・・・。」
アーティファクトの力に身体がついていけてないアルセラは時間が過ぎると不死の炎に逆に焼かれてしまい命を落としてしまうデメリットがある。
だが、
「四の五の言ってられない。出し惜しみをしてる場合じゃないからな。」
彼女自身も分かっている。
その目は決意の眼差しだった。
「・・・分かった。でも無茶はしないでくれ。」
「善処しよう。」
そこへカリドゥーンが口を割る。
『今の時間から計算すると・・・、タイムリミットは今日の夜明けじゃ。それまでに決着をつけんと最悪の場合・・・。』
「分かった。早いとこジャバルを追ってぶっ倒すぞ!」
「あぁ!」
でもその前に、
「将ぐ・・・、じゃない。スイレン、だったか?」
アルセラはスイレンの前に膝を降ろす。
「真実を聞かされ罪を嘆きたい気持ちは分かる。でも今はまだその時じゃない。今自分のするべきことを思い出してほしい。」
アルセラの言葉に徐々に落ち着きを取り戻すスイレン。
「今、するべき事・・・?」
「もうこれ以上不必要な犠牲を出させないために、ジャバルを討つんだ。そのためには貴女の力がどうしても必要なんだ。どうか私達に、貴女の力を貸してくれ。」
思い直したスイレンは将軍としての責務を思い出し静かに頭を上げる。
「今まで奪ってしまった命に対しては、全て終わった後にお祈りすればいい。」
「俺も付き合うぜ。同胞の弔いの意も込めてな。南無。」
「お前軽いな。」
「何が?」
アルセラの言葉が響いたのかスイレンは頬をパンと叩いた。
「すまない。もう大丈夫だ。今は私に出来ることを全うしよう!」
「ありがとう。」
そうして四人は走り出す。
「バハムート!皆!すまないがここを頼んだ!」
「任せよ!」
「主様たちも気を付けて!」
「早いとこあのクソ宰相ぶっ飛ばせや!」
「おう!」
従魔たちの声援も貰い四人は部屋を後にした。
『随分信頼してんだな。人間を。』
「当然だ。我らの主だからな。」
『あぁ、ホント世の中アイツのような人間ばかりだったら良かったのに。でもそんな願望今は叶わない。このクソな世の中は消すに限る!』
「貴様の過去に何があったのか知らんがそうおめおめと世界を崩させたりはせん!」
「私達は私達の大事なものを守るのよ!」
「ほな、いくでー!」
巨大なスライムとドラゴン三頭は激しくぶつかり合うのだった。
地下で乱闘が繰り広げられる中、城の上階将軍の間にて・・・。
「え~と?最後にこのチューブを切って・・・。」
薄暗く、玉座の裏で何やらコソコソとしているコヨウ。
「よし!後はずらかるだけや。」
「何をしておるのです?狐のお嬢さん。」
「っ⁉」
心臓が飛び出るほど驚いた彼女の後ろには宰相のジャバルが立っていた。
ジャバルはコヨウの首根っこを掴み上げる。
「いけませんねぇ。ここはお子様の来るような所ではありません。」
コヨウは間の中央へ投げ飛ばされ咳き込む。
「おそらく玉座の後ろに隠してた神龍復活装置を機能不全にしたようですが。これはお仕置きが必要ですね。」
ジャバルが指を鳴らす。すると突如身体中に激痛が走った。
「うあぁぁぁぁぁ‼」
悶え苦しむコヨウ。
「貴女の体内組織の一部を闇の魔法で破壊しました。子供には少々刺激が強すぎるかもしれませんがね。」
あくどい顔で笑うジャバル。
コヨウはあまりの痛みに失神寸前になり手足も痙攣している。
「ふむ。あの女狐ほどではないですがそれでも魔力の足しにはなりましょう。貴女も神龍復活の贄とさせてもらいます。」
だが彼女に手を伸ばした瞬間、アーチ状の一閃が彼の腕を切り裂いた。
「っ⁉」
咄嗟に後ろに下がるとパチパチと電気を鳴らす雷の竜化となったタクマが立っていた。
(身体に負担が掛かるがダメ元で!)
ウィンロスの回復魔法をコピーしコヨウの体内組織を修復させる。
激痛の引いたコヨウはようやく落ち着きを取り戻すが、引き換えにタクマが膝をついてしまった。
「タクマ!」
「大丈夫だ。ちょっと無理して魔法を使ったから・・・。」
そこへラセンとスイレン、アルセラも追いつく。
「間に合ったか?」
「あぁ、もう少し遅れてたらコヨウが危なかった。」
スイレンは片腕を再生させるジャバルに向く。
「ジャバル・・・。」
「貴女も随分しぶといようですね。将軍様。」
「貴様に将軍と呼ばれる筋合いはない!私から奪ったエレメントを返してもらうぞ!」
「あれはたしか貴女のお仲間の形見でしたね。しかし四属性のエレメントは前代未聞です。神龍復活に使う前にじっくり研究したかったのが本音ですが。」
亡き仲間から受け取った形見を好き勝手いじられるのは彼女にとっても度し難い事。
スイレンは今にも飛び掛かりそうになる。
そんな彼女をラセンが止めた。
「落ち着けスイレン。お前のエレメントもそうだが、まず最初にやることがあるだろ。」
「やる事?」
「一発顔面ぶん殴る!あの清ましたクソ野郎を叩きのめさねぇとアイツのせいで死んだ奴らが報われねぇ!」
それにはタクマ達も同意する。
「えっと、どゆことや?」
コヨウは何も知らされてなかったのでタクマがかくかくしかじかと説明するとぬがーっと怒り出した。
「私も、誤りとはいえ多くの命を奪ってきた。許してもらおうとは思ってないが、せめて、私の中のケリだけはしっかりつける!」
五人は同時に戦闘態勢に入る。
「あくまで神に挑むという事ですか。スライムの彼はドラゴン共の相手をしていますし、いいでしょう。私直々に貴方達を叩きのめしてあげます!」
ジャバルが手を叩くと幾つかの魔法陣が宙に展開。
無数のレーザーがタクマ達に向かって放たれた。
「散れ!」
五人は一斉に散り攻撃を掻い潜り、ジャバル目掛けて攻め入ったのだった。
一方、スライムの分体によって動かされてる無数のアンデットに囲まれるゴグマ。
中には同族のアンデットも居り手が出しずらい状況にいたのだ。
「アンデットなのは分かってるが、知り合いとなると余計どうすればいいか分からなくなる。何より・・・。」
アンデットの中には実の兄ルガンもいた。
「兄貴・・・。」
幼い頃、和国軍に進行された里でルガンは自分の身を挺してゴグマを逃がした。
それがこんな形で再開になるとは・・・。
「ちっ!」
ゴグマは壁を蹴って跳躍し群れの中心点で地面を殴る。
その衝撃でいくつかのアンデットが吹っ飛んだ。
しかしすぐに起き上がり再びゴグマに寄ってくる。
「やはり光魔法じゃねぇとアンデット系は止まらねぇか・・・!」
どんなに殴り飛ばしても無尽蔵に起き上がる。
完全にイタチごっこだ。
殴り続けていたゴグマの拳はルガンの目の前で止まる。
「っ!」
躊躇した隙にアンデットが群がってきてゴグマの身動きを取れなくしてきた。
「くそ!離れろ!」
その様子を分体を通して喋るスライムがバハムート達と交戦しながら見ていた。
(案の定ためらってるな。いくら馬鹿でも同族、ましてや親しかった奴等を殴ることは出来ねぇよな。)
ルガンや他の鬼族のアンデットもゴグマにのしかかってくる。
「兄貴・・・!」
その時、ゴグマは幼き頃ルガンに言われたある言葉を思い出す。
『ゴグマ。もしどうしても行き詰った時があったらこうするんだ。』
ルガンが大きく息を吸い込むと空気が震えるほどの咆哮を上げた。
『うるさ!』
『あはは!ごめんごめん。でもこうすれば迷いも何もかも吹き飛ぶんだ。行き詰ったモヤモヤを全部吐き出せ。そうすれば、自ずと自分が何をすればいいのか見えてくるから。』
次の瞬間、ゴグマは息を大きく吸い込み、部屋が揺れるほどの大咆哮を発した。
その衝撃で群がってたアンデットは壁に叩きつけられるほど吹き飛んでいった。
「はぁ、確かに叫ぶとモヤモヤしたもんが吹っ切れたな。アンタのおかげだ。兄貴。」
ゴグマはポキポキと拳を鳴らした。
「なめんじゃねぇぞスライム!これでも俺はラセンに仕える従者だ!長の一族を守ってきた俺の家系、その武術を甘く見るな!」
腰を低くし武術の構えを取る。
「『鬼気闘魂』‼」
黄金のオーラを纏い強力な覇気が空気を揺るがす。
「さぁかかってこい!仏共!」
その時、ゴグマのオーラに当てられたルガンは一瞬動きが止まった。
「・・・ゴ、グマ・・・?」