『第百七十二章 異常スライム』
「バハムート!」
ウィンロスとリヴのピンチに駆けつけたのは頼れる相棒バハムートだった。
「スライムごときがこれ程の強さとはな。流石にこれは想定外だ。」
振り返ると倒れているリヴ。
そして、
「・・・ウィンロス?」
「言いたいことは分かるで旦那・・・。縮んでる理由やろ?」
ウィンロスは自身が縮んでいる理由を話した。
「むやみやたらに得体の知れんものを食すな。」
「肝に銘じるわ。」
「それで?そのサイズのせいで未だに我の防壁を殴りつけてくるあのスライムに苦戦しておったのか。」
「せやねん。一週間経てば戻るみたいやけど今それどころじゃないねん。」
バハムートはしばらく考え込むと、
「・・・いや、お主状態異常無効の魔法持っておるだろ?何故それを使わん。」
「・・・あ。」
今ウィンロスに掛かってるのは状態異常。
彼の持つ状態異常無効の魔法を使えば解除が可能だった。
「うわ・・・。」
流石のリヴも呆れ顔だった。
そこへ無駄だと判断したのかスライムはタクマとスイレンの方へ攻撃を仕掛けてきた。
「いきなりこっち来るか⁉」
咄嗟に構えるも怪我の激痛で手元がぶれてしまい、動けないスイレンも庇うことが出来ず攻撃が直撃してしまう。
「・・・?」
だが何ともない。
すると土煙を巨大な翼で振り払う元のサイズのウィンロスが前に現れた。
「っしゃぁ‼ギリギリ!馬鹿みてぇな復活やけどもう負けへんで!」
一方、神龍を復活させる装置の一部を破壊し終えたゴグマは城内を彷徨っていた。
「本当に迷路だなこの城。上に続く階段はどこだ?」
手当たり次第に襖や扉を開けて回っていると大量の棺が安置された広い空間に出た。
「何だこの大量の棺は?」
まさかと思い棺の蓋を少しずらすと強い腐敗臭がしてすぐさま閉めた。
「まさか、これ全部なのか・・・?」
部屋には数えきれないほどの棺がある。
それら全てがこれだと思うと・・・。
「ダメだ・・・。気分が悪くなる。早いとこここから・・・。」
その時、石柱の陰から物音がした。
咄嗟に身構えると現れたのは一匹のスライムだった。
(スライム?)
「・・・何だ?こんな所に侵入者かよ。」
ゴグマは驚きを隠せなかった。
なんとスライムが口を聞いたのだから。
「スライムのくせに知性があるのか⁉」
「だったら何だよ。・・・はぁ、どいつもこいつもスライムは最弱だのなんだの、ホント世の中嫌になるぜ。ま、その常識ももうすぐで終わるんだがな。」
突然笑い出すスライムに不気味さを拭えないゴグマ。
「・・・以前妖狐族の里を襲った土蜘蛛。あれにくっついていたスライム、お前と似ているな?」
「そりゃ当然だ。あの土蜘蛛の封印を解いて操ってたのは俺の分体だからな。」
「何・・・?」
気掛かりな単語を発したスライムにゴグマの眉が引きつった。
「どういう意味だ・・・?」
「言った通りだよ。この国の兵士の一部も魔獣も全部俺が分体で操ってたのさ。ジャバルの奴スライム使いが荒いぜ。」
はぁっとため息をつくスライム。
「理由はなんだ?何故そんなことを一介のスラムがする必要がある?」
「・・・俺はジャバルと組んでんだよ。俺達を不当な扱いをするこの世界と、神々に復讐するためにな。」
神々。
その単語に首を傾げるゴグマだが、
「神龍の復活には大量の魔力がいる。国中から魔力を持つ奴等を集めてそれを全部神龍に注ぎ込む。この部屋をそう言った奴らの行き着く場所さ。」
つまり、この大量の棺に入ってる遺体は全て、神龍復活の生贄にされた犠牲者という事。
「何て奴だ・・・そこまで愚かな魔獣なのか貴様は・・・。」
「それ人のこと言えないと思うぜ?人間や鬼族ほど愚かな生物を俺は知らねぇな。」
「・・・どういう意味だ?」
「まぁ冥土の土産に教えてやるか。数年前王家の子供を殺したのは鬼族じゃねぇ。ジャバルさ。」
「・・・っ⁉」
スライムは人間と鬼族の対立の真相を面白半分に説明し始める。
神龍復活には負の感情も必要らしく、ジャバルは二種族を戦争させるためにまず王家の子供を虐殺。
その罪を鬼族へ擦り付け、結果目論見通りに人間は鬼族を犯人と決めつけ里に攻め入ったという。
鬼族からしたら人間が先に攻めてきたと思うのも当然だった。
里は襲撃され多くの命が奪われた。
ラセンの母親に、ゴグマの・・・。
「兄貴を死に追いやった元凶は、あの宰相だったのか・・・‼」
怒りがこみ上げゴグマからふつふつと妖力が漏れ始める。
「まぁそう言うこった。んで、それらの遺体は俺がまとめてたって訳よ。」
ヘラヘラ笑いながら言うスライムに気がつけばゴグマは殴り掛かっていた。
「貴様はもう喋るな!耳障りだ!」
「スライムは本来喋らねぇぜ?まぁいいや。丁度試したいこともあったし、俺が遺体を集めてた理由教えてやるよ!」
スライムは高く飛び自身の身体から小さな分体を数えきれないほど出す。
各分体は棺の中に入っていきしばらくすると、棺を開けて腐敗した遺体が起き上がってきたのだ。
「遺体を操っているのか⁉」
「疑似アンデットってとこか?まぁ俺に掛かればおちゃのこさいさいだぜ!」
疑似アンデットはふらつきながらゴグマに襲い掛かってきた。
「チッ!」
殴り飛ばし蹴り飛ばしたりするが倒しても倒しても起き上がってくる。
まさにアンデットだ。
「クソ!キリがねぇ!」
そこへ追い打ちをかけるかのように奥から現れたアンデット。
それを見たゴグマは息を飲んだ。
「な⁉鬼族、だと・・・⁉」
なんと同種のアンデットまで現れたのだ。
しかも中には子供の頃に見知った顔も混ざっていた。
「嘘だろ・・・?ラジルのおじき、フーリンの姉さん・・・!」
そして・・・、眼鏡をかけた鬼の青年。
「兄貴・・・⁉」
なんと、ゴグマの兄であるルガンのアンデットまでいたのだ。
「カカカッ!こりゃ感動の再会だな!あ、アンデットだから涙は出ねぇか!」
天井に張り付いて笑うスライムにゴグマは怒りの眼で睨みつける。
「貴様・・・‼許さねぇ・・・‼」
アンデットを払い除けゴグマは石柱に抱き着く。
次の瞬間ミシミシと音を鳴らし、なんと太い石柱をへし折ったのだ。
「オオォォォォラァァ‼」
石柱を力任せにスライムに投げつけ天井にめり込む。
「あっぶね~!流石鬼族、筋肉馬鹿は伊達じゃねぇ。」
「貴様とジャバルは、絶対に許さん‼」
追撃しようとするも無数のアンデットに阻まれる。
「くそ!」
「長居は無用だな。後はせいぜい頑張れや。せっかくの再会なんだからさ。んじゃ俺は下の方でドラゴンと戦ってる分体の所に行きますか。」
「ま、待て!」
「あばよ!」
そう言い残しスライムは天井の隙間へ入り姿をくらました。
そして残されたゴグマと無数のアンデット。その中の一人兄のルガンを見る。
「兄貴・・・。」
神龍の結晶のある空間。
その上の階で異様に強いスライムと戦うタクマ達。
「あぶね⁉」
酸液を避ける元に戻ったウィンロス。
「身体が戻っても油断するな!奴はただのスライムではない!」
「見てれば分かるわおじ様!」
バハムート達三頭がスライムと応戦してくれてる中、タクマとラセンは怯えた表情で固まってるスイレンに言い寄っていた。
「しっかりしろスイレン!」
どんなにラセンが呼び掛けてもスイレンは、
「ごめんなさい・・・、私、私・・・!」
ジャバルに真実を突き付けられ今まで悪だと決めつけていた鬼族、その多くの命を奪っていたスイレンは罪の意識に飲み込まれていたのだ。
「お前そんな事気にする質じゃねぇだろ!いつもの冷徹で勇ましいお前はどこ行った!」
しかしスイレンの状態は変わらなかった。
「くそ!いつの間にかいなくなったジャバルを追うにも城の構造がまるでわからねぇ!スイレンに案内してもらわねぇと手遅れになっちまう!」
あの用心深そうなジャバルの事だ。
神龍復活を妨害されたとはいえ他にもよからぬ事を企んでるかもしれない。
急いで追いたいところだが・・・。
「だぁ~くそ!どうすりゃいいんだ!」
ラセンも半場ヤケクソになっている。
するとそこへ知らない声がした。
「おうおう。随分派手に暴れてるな。」
「っ⁉」
声のする方を振り向くと別のスライムがいたのだ。
「新手のスライム⁉」
「つかアイツ今喋らんかった⁉」
「喋るが?」
「喋ったー⁉」
「ウィンロスうるさい。」
喋るスライムは攻撃していたスライムに近づくと、
「俺がいればもっと面白くなるぜ?」
すると喋るスライムは攻撃スライムにダイブした。
そして一体となったのか巨大化してバハムート達の前に立ち塞がった。
「ねぇ、これってちょっとヤバいんじゃない・・・?」
「アカンかも・・・?」
「・・・避けろ‼」
一斉に避けた瞬間、一際強い一撃が地面にめり込んでいた。
『さぁ、宴を始めようぜ!』