『第百七十一章 歪みの真相』
和国に眠る神龍の復活を目論んでいる宰相ジャバル。
その正体は堕天へと堕ちた神であった。
「堕天神・・・、ようやく合点がいったよ。」
「どういうことだい?ナナシ君。」
味方に寝返った糸目の侍が首を傾げる。
「和国には独自の言語が存在する。魔力と呼ばれる根源はこの国では妖術と呼ばれる。けどあの宰相はずっと魔力と言っていた。そして君の持ってる転移の魔石。それもこの国では決して手に入らない外国産の代物なんだ。」
「これ外の世界でしか手に入らないものだったんだ・・・。」
「今まで疑問に思わなかったんかい・・・。」
ウィンロスがツッコんだ。
「薄々この国の者じゃないとは踏んでたけど、まさか神様だったなんてね・・・。」
漆黒の翼をなびかせ首を鳴らすジャバル。
「私がこの国に来たのは約四十年前。この国に神龍が眠っていることはその前から調べがついていました。神龍を目覚めさせるため、私は宰相として和国の内部へ潜り込み長い年月を得て魔力を集めておりました。そして今日、ついに神龍復活の仕込みが完了したのです!」
話すたびに興奮状態となっていたジャバルだが突然静かになる。
そして、
「それを!下等な人間風情が妨害しよって!私の四十年の悲願!私の研究を理解しようとせず下界へ追放した愚かな神々への復讐を!貴様らごときに邪魔されてなるものか‼」
凄まじい気迫に一瞬たじろぐ一同。
ジャバルは深呼吸し落ち着きを取り戻す。
「ふぅ・・・。失礼、取り乱しました。しかし施設を止められたという事は案の定動力源も破壊されたと考えたほうがよろしいでしょう。早速修理に向かわなくては。」
その時、氷のつららがジャバルの足元に突き刺さる。
「アンタの相手は私達よ。」
ウィンロスのおかげで回復したリヴとアルセラ。
そして糸目の侍とナナシも加わり優勢の状況となる。
「実に忌々しいですね。いいでしょう。二度と私の邪魔を出来ぬよう再起不能にさせてあげますよ。・・・彼がね。」
そう言うと彼の足元にスライムが現れた。
「スライム?どこから・・・?」
すると次の瞬間、スライムが触手のようにしてこちらに攻撃してきた。
それもかなりの速度だ。
咄嗟にかわすアルセラ達だがスライム特有の柔軟な動きに対応しきれず次々となぎ倒されてしまう。
「ぐあっ⁉」
「あぶねっ⁉」
タマモを抱えていたリヴだけは上手く動けずまともに攻撃を食らってしまった。
「リヴ!」
リヴは身を挺してタマモを守ったが受けたダメージが尋常ではない様子。
「アイツはまだ回復しきれてないんや!二人を守れ!」
一斉にリヴとタマモを守るように固まるが無数の触手で攻撃してくるスライムにアルセラ達も押し込まれていく。
(攻撃が速すぎる!捌き切れない・・・!)
そのうちにアルセラの腹部に鋭い一撃が入ってしまい、あばら骨の何本かが折れてしまった。
彼女はそのまま天井近くまで突き上げられ床に倒れてしまう。
「アルセラ!」
それでもスライムの猛攻は止まらない。
無数の触手が一斉にこちらに迫ってくる。
(アカン!これは本気でまずい・・・!)
一瞬覚悟した。
・・・だがその時、壁を突き破り水の龍が飛び出してきたのだ。
水の龍はスライムの触手を全て噛み千切りリヴ達の前に留まる。
そして龍が弾けると中からスイレン、ラセン、タクマの三人が現れた。
「タクマ!」
「主様‼」
「よ。遅れてすまなかっ・・・。」
振り返った瞬間、後方で重傷を負って倒れてるアルセラに眼が止まり、タクマから静かな圧が漏れ出る。
「何だここは?和国の地下にこんな場違いな雰囲気の場所があったのか?」
「私も知らなかった。して、あの下にある巨大な結晶・・・。あれは?」
タクマは結晶の中にいるドラゴンが神龍だとすぐに分かった。
そして、目の前にはスライムと堕天神ジャバルの姿が。
「まさか生きていたとは驚きです。将軍様。」
「貴様、ジャバルなのか・・・?その翼は・・・?」
「テメェ、神だったか。」
「ご名答。堕天神ジャバルとお呼びください。」
その禍々しい魔力にラセンとスイレンは息を飲んだ。
「どういうことだジャバル!その姿もそうだが、何故私のエレメントも奪った!」
「貴女の持つエレメントは神龍の復活に大いに役に立ちます。ですが今絶賛そこのお仲間たちに妨害されてますがね。」
再びリヴ達の方を振り向く。
「てかおい。何でソイツまでいるんだ?」
タクマが糸目の侍を指摘した。
「僕がこっちに寝返らせた。」
「足軽だな。」
「それ君の仲間にも言われたよ・・・。」
するとジャバルはため息をついた。
「やれやれ、人間の子供を殺し人と鬼を対立させ魔力を集めてきたこの数年間を、このような形で妨害されるとは思ってもみませんでしたよ。」
「・・・・・今、なんていった?」
ジャバルの言葉にラセンが反応した。
「おっと、また口が滑ってしまった。どうもこの姿になると注意力が欠けるようですな。」
「しらばっくれんな!さっきなんて言ったって聞いてんだよ!」
「・・・子供を殺した。と言いましたが?」
(子供、だと・・・?)
一同が困惑する中、ナナシが更に質問をかさねる。
「人と鬼族の対立は王家の子供殺害が発端だ。その王家の子供を殺したのは鬼族、そう伝えられてきたけど・・・、その子供を殺したのは本当は・・・。」
「えぇ、私です。」
「っ‼」
ラセンやゴグマの家族、そしてスイレンの仲間の死。
その全ての元凶は鬼族ではなく、宰相のジャバルだったのだ。
魔力は負の感情によって高まる傾向があり、ジャバルはわざわざ人と鬼族を対立させより多くの魔力を集めていたという。
ジャバルは子供殺害の罪を鬼族に擦り付け、彼等の関係性に亀裂を入れた。
「全部、お前の仕業だった訳か・・・!」
「直に神龍が復活することですし、もう隠す必要もありませんでしたからね。いやぁなかなか愉快でしたよ。たかが子供一人殺すだけでここまで大きく国が変わるのですから。いい退屈凌ぎになりました。礼を言いますよ。」
お辞儀をし頭を上げた瞬間、目の前にラセンの拳が迫っていた。
しかし寸前で黒翼に阻まれ弾き返される。
「ふざけんじゃねぇぞ・・・!テメェだけは、ぶっ殺す‼」
怒りが頂点に達したラセンが猛攻を仕掛けるも全て難なくあしらうジャバル。
「怒り任せとは芸がない。鬼族とはその程度ですか?」
「ほざけ‼」
ラセンとジャバルが交戦する中、スライムも未だこちらを狙って触手を仕掛けてくる。
タクマが触手を食い止めるが。
「タマモさんも大分衰弱してる。早く手当てするんだ!」
「そうしたいんやけど原因は魔力不足や!この国の住人の魔力は俺の回復と合わないんや!」
「ならここからでも逃がすんだ!うおっ‼」
タクマも未だに傷が癒えていない。
スライムを捌くのも長く持たない。
「ここからなら僕の隠れ家が近い。彼女の事は僕達に任せて!」
侍の男がタマモを背負いナナシが先導する。
「そこの侍!タマモさんに変な事したら承知しないわよ?」
「しないよ!流石にその辺は弁えてるよ⁉」
「ナナシ!しっかり見ててよね?」
「は~い。」
そうして二人は部屋を後にした。
「ほれリヴ!回復や!」
再びリヴに回復魔法をかけるウィンロス。
次に壁際で倒れてるアルセラに向かおうとするが、
「あぶねっ⁉」
スライムにより阻まれてしまう。
「くそっ!邪魔しやがって!」
巨体であったらまだ戦いやすかったが今のサイズでは思うように戦えない。
タクマとリヴ、ウィンロスの三人掛でもスライムの攻撃を避けるのが厳しかった。
水の刃や酸液も使ってくる。
「あのスライムちょっと強すぎない⁉」
「油断してたら一瞬でやられるで!」
傷が痛み後ずさるタクマの横にスイレンが座り込んでいた。
「おいスイレン!どうした?」
スイレンの様子がおかしい。
顔は青ざめ両肩を抑えるようにして震えていたのだ。
「全て、誤解だったのか・・・?」
「スイレン!」
「っ!」
「ぼさっとしてる暇はないぞ!立て!」
「あ、あぁ・・・!」
しかしスイレンは怯えたような表情で震えており情緒が安定していない。
そこへスライムの酸液がスイレンに放たれる。
間一髪タクマが剣で弾くが酸により刀身に亀裂が入ってしまった。
「ちっ!」
それでもスライムの猛攻は止まらず次第にリヴ達も体力の限界に近付いてきた。
「まずい、このままじゃ!」
その時、スライムがぐにょぐにょと形を変え始め巨大な大砲のような形状になった。
「っ⁉」
砲口から凄まじい威力の酸液が噴射され咄嗟に氷の壁を生成。
しかし勢いが強く氷の壁諸共リヴは壁まで吹き飛ばされてしまった。
「リヴ!」
スライムの触手の先端が鋭い刃物のようになりリヴに襲い掛かる。
「させっかーーー‼」
猛スピードでリヴの前に立つウィンロス。
「馬鹿逃げなさい!そのサイズじゃ串刺しにされるわよ!」
「根性で弾いたるわぁ‼」
それでも触手は容赦なく二人に直撃してしまった。
「ウィンロス!リヴ!」
だが蔓延する土煙が晴れると、そこにいたのは・・・。
魔法壁で二頭を守る銀竜だった。
「バハムート!」
「旦那!」
「おじ様!」
「すまんな。遅れてしまった。」