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『第百六十九章 協定』

眼を覚ますと辺りが瓦礫に囲まれた場所に横たわっていた。

「・・・ここは?」

振り向くと薄っすらと明るい事に気付く。

次第に意識がはっきりしてくると自身の身体に包帯が巻かれており、すぐ側ではラセンが焚火を炊いていた。

「っ!」

ラセンと気付いた将軍はその場から起き上がるが身体に激痛が走る。

「ぐうっ⁉」

「気が付いたか。けどお前も軽傷じゃねぇんだ。大人しく寝てろ。」

「誰が鬼族の言う事なんか・・・!」

しかしよく見ると彼自身も軽傷ではなかった。

身体のあちこちが包帯でグルグル巻きにされており打撲も酷い。

とてもではないが戦える状態ではなかったのだ。

いくら自分も負傷しているとは言えラセンの方が怪我の具合が酷い。

それに、彼に戦う意志は微塵も感じられなかった。

「何だ?急に大人しくなりやがって?」

「・・・いくら私でも、無抵抗の相手に手をかけるほど落ちぶれてはいない。将軍として、一人の剣士としての礼儀は弁えてるつもりだ。」

「処刑のあの日は問答無用で切りかかってきたのに?」

「あれはあくまで行事だ!」

「行事で人殺すなよ。」

「人ではないだろ貴様は・・・。」

一先ず矛を鎮めた将軍は再び毛布に包まる。

「・・・ここはどこなんだ?」

「上見てみろ。」

二人の素性には天井に大きな穴が開いていた。

「あの宰相のスライムが出した二つ首の竜。そいつに床を崩され俺達は諸共落下してきた。ここはまだ城の地下なんだろうよ。」

「そうか・・・。」

(あの竜、間違いない。三年前鬼族の男が呼び覚ました竜だ。あの時、完全に消滅させたと思ったんだが、何故だ?)

疑問が頭の中を渦巻く中、ふと思い出す。

「そう言えば、何故私は手当てされてるんだ?まさか貴様がやったんじゃないだろうな?」

「俺だけど?」

「・・・・・。」

あまりの即答に言葉が出なかった。

「人間は鬼族と比べて身体が脆いらしいからな。落下の際寸前で俺自身をクッションにしてお前を守った。」

「敵を、それも貴様らを殺そうとした相手を助けるとか、正気ではないな。」

「助けるさ。同じ命あるものだしな。それに、俺は諦めたくねぇんだ。助けられる命があるなら必ず助ける。この手が届く限り。」

その言葉を聞いた将軍は驚いた表情になる。

「・・・何だよ?」

「いや、鬼族は自分勝手で貧弱な人間を見下している奴等かと思っていたんだが・・・。」

「んだよそれ。どこの誰だそんなデマ吹き込んだ奴。鬼も人間も種族が違うだけで他はなんも変わんねぇだろ!鬼にだって想いやりの心くらいあるわ!」

ラセンにそう言われ、将軍は自分の中の鬼族の像が崩れ始める。

(話を聞けば聞く程鬼族が何なのか分からなくなってくる。奴らは本当に人を殺すような種族なのか?)

「あるいはただの馬鹿なのか・・・?」

「おい誰が馬鹿だ。ゴグマじゃあるめぇし。」

そんな事をやっていると瓦礫の上からタクマが現れた。

「お、将軍眼ぇ覚めてんじゃん。」

タクマの身体にもある程度包帯が巻かれていた。

「戻ったか。で、どうだった?」

「ダメだ。出入口らしき通路は見つかったんだが瓦礫で完全に塞がっちまってる。万全だったらまだしも今の俺達の状態じゃ瓦礫を動かすのは厳しい。」

「だろうな。」

タクマはずっと辺りを調べてくれていたようだ。

するとどこからか腹の虫の音が聞こえた。

二人は同時に将軍の方を向く。

「な、何だ・・・?こっち見るな・・・!」

顔を赤くして毛布で口元を隠す将軍。

「ハハッ。まずは腹に何か入れねぇとな。」

幾つかの携帯食は持っていたためタクマ達はそれをかじる。

「一応魚を懐に仕舞ってたんだけど食うか?」

「どうりでさっきから生臭いと思ってたわ!」

彼らに貰った携帯食をジッと見つめる将軍。

「何も盛ってねぇよ。そんな卑怯な真似はしねぇ。」

「・・・・・。」

背に腹は代えられないため将軍もモソモソと食べ始める。

「・・・魚も焼くか?」

「念のため清潔魔法かけさせろ。」

「魚に?」

二人のやり取りにどこからかプッと笑いを零す声が聞こえた。

また二人は同時に将軍の方を向く。

彼女は顔を赤くしてそっぽを向いていた。


 腹ごしらえも済まし、一先ず落ち着く三人。

「それにしてもあの紫髪のムカつく顔の奴、ジャバルだっけ?あの宰相お前からエレメントの結晶を抜き取るとはな。」

「ジャバルは私が将軍に就く前からこの城にいた。初対面の時から何やら胡散臭い奴だとは思ってたが、まさか私の結晶を狙ってたなんて・・・。」

将軍の持っていたエレメントの結晶は自身を含め、過去に死別した仲間から受け取った形見。

命のような物だ。

それをこのような形で奪われてしまいかつての仲間に顔向けできない。

彼女はそう思っている。

「・・・なぁ将軍。」

「・・・スイレン。私の名前だ。」

「じゃあスイレン。あのジャバルって男が裏で何をやっていたのか知ってたか?」

「?」

タクマはジャバルが起こしたであろう出来事を将軍、スイレンに話す。

「いや、私は一切聞いてないな。その辺りの事はほとんど奴に任せて私は鍛錬をしていた。しかしそれが見落とす原因になってたとは・・・。」

「ホント間抜けだな。」

ラセンの言葉にキッとスイレンは睨みつける。

「お前ちょっと黙ってろ。そこでだ。スイレン。俺達と協力しないか?」

「協力だと?」

「まあ取引みたいなものだ。と言ってもお前が求めてるものを俺は知らない。話せる範囲でいいから教えてくれるか?」

スイレンはしばらく考え込む。

そして、

「だったら、奴に奪われた結晶。エレメントの結晶を取り返したい!」

エレメントの結晶は亡き仲間、そして最愛の姉から譲り受けた大切な形見。

スイレンは己の過去をタクマに話した。

「そんなに大切なものだったのか。けどいいのか?お前は俺達の事信用してるわけじゃないんだろう?」

「あぁ、今も警戒はしている。だがいつまでもそうしていたら先に進めない。お前を見て、そう思ったんだ。」

「まぁ、俺との勝負も決着がまだだもんな。分かった。エレメントの結晶は俺が必ず取り返す。」

「俺も手を貸すぜ?将軍様に貸しの一つくらいは作っておきたいからな。」

「鬼族め・・・!」

「おぉ、怖い怖い・・・。」

だが協力者は多いに越したことはないためスイレンは渋々ではあったがラセンの協力も承諾した。

「それじゃこっちからの要求だ。俺達は攫われた妖狐族の長、タマモさんを救出するために来た。今アルセラとリヴ(ついでにカリドゥーン)が探してくれてるが大分時間が経っている。あの宰相の事だ。何か良からぬ事をタマモさんを利用して企んでるんじゃないかと気が気じゃないんだ。」

恐らくジャバルは和国に眠る神龍を復活させようと企んでいるはずだが今はその話を伏せとく。

「人命救助か。私の胴体を問答無用で貫いてくるような男だ。そのタマモって獣人も急いで見つけないと無事では済まなそうだな。だから人手が欲しいと?」

「あぁ。それにお前ほどの強者が協力してくれたらもの凄く心強い。ラセン達鬼族を憎んでいるのは分かるが今だけは目を瞑ってくれるとありがたい。」

スイレンはラセンを見る。

ラセンは何気ない顔で軽く手を振った。

「・・・食事を共にしてコイツに対しては少し理解できた。少なくとも私が思ってる鬼族とは違うようだ。」

「おう!俺はいずれ将軍に上り詰める男だからな!」

「なっ⁉貴様私から将軍の地位を奪うつもりか⁉やはりここで斬る!」

「おわータクマ助けてー(棒)。」

「話が進まねぇ・・・。」

呆れて頭を悩ますタクマだった。


 スイレンはジャバルから事の真意を問いただすまで一時休戦という条件で協定を結んだ。

そして現在タクマ達は脱出手段を考える。

「俺の従魔を呼び出すことも出来るが、アイツ等結構巨体だからこの狭さだと無理そうだな。」

「俺も骨を何本かやっちまってる。動けるには動けるがあまり期待しないでくれ。」

「・・・・・。」

将軍は終始だんまりだ。

まだ二人を完全に信じてるわけではないためずっと警戒している。

「ふぬぬぬ・・・‼」

骨折しているラセンを担いでタクマが穴を登ろうと試みるがガッシリ身に着いた筋肉で体重が激重なのですぐにベシャッと潰れた。

「くそ~、俺自身も怪我してるんじゃウィンロスの回復魔法コピペ難しいしリーシャもいない。あれ?これ積みじゃね?」

「冗談じゃねぇぞ。こんな所でくたばってたまるか。」

二人が手段を模索しているとそれを見かねたのかスイレンが口を割る。

「はぁ。見てて情けなくなってくるよ。こんな奴らに私は苦戦してたのかとね。」

「喧嘩なら買うぜコラ。」

なんとか二人を宥め話を進める。

「エレメントの結晶は奪われたが水属性だけは私の持つ生来の属性だ。これだけは完全に奪われず今でも使える。」

「つまり?」

「お前たちは私がどうやって戦場にやってきたか覚えてるだろ?」

確か彼女は水の龍を纏って床や天井を破壊しながら降りてきた。

・・・つまり、

「私の水龍であればこの大穴を登ることも可能だ。」

刀を抜き溢れる水が竜の形となる。

「オーケー。それで行こう!」


 一方、タクマ達と別れタマモの居場所を探索するアルセラとリヴ。

「どうだリヴ?」

「ダメ。タマモさんの匂いが全然見つからない。多分瞬間移動系の魔法で連れてこられたのかもしれない。」

リヴの嗅覚を持っても悪戦苦闘しているようだ。

『手探りで探すにしてもこの城は広すぎる。あまり悠長な事はしてられんぞ?』

「分かってる。急ごう!」

二人が廊下を駆けていると突然念話が聞こえてきた。

「聞こえてっか?」

「うわびっくりした⁉ウィンロス⁉」

「無事だったか!」

「あんさんらもな。気配から察するにタマモの姐さんまだ見つけてないみたいやな。」

ぐうの音も出ない二人。

「そんなあんさんらに朗報や。姐さんの居場所が分かったかもしれへん。」

「え⁉何で分かったの⁉どこ⁉」

「落ち着けリヴ。」

「こっちも手が離せん状況やから場所だけ伝えるわ。今あんさんらがいる階から更に下、地下や!」

「地下か。分かった!」

「ほなな!」

何やらせわしないまま念話が切れた。

「向こうで何かあったのかしら?」

「分からないが彼等なら大丈夫だろう。私達は教えてもらった地下へ向かおう!」

「うん!」

アルセラはカリドゥーン床に突き刺し魔力を一気に放出する。

すると床が砕け二人は下層へと落ちていく。

「主様たちとダンジョンで下層まで降りた時を思い出すわ。」

階層を砕きながら進むとドーム状の巨大な空間に降り立った。

そして、幾つもの光のラインが繋がり、中央には足元が光る十字架に縛り付けられたタマモを見つけた。

「タマモさん‼」


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