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『第百六十八章 崩壊』

それから数週間後、四人は依頼を終え深い森の中を歩んでいた。

「いや~、今回の仕事も楽勝だったにゃぁ!」

「それにしてもこの森の魔獣たちは少し異様に強かったわね?」

「邪の森と言われてるほどだからな。ここに住み着いている魔獣共は他の魔獣より遥かに強い。それほどこの地が魔獣たちにとって最も条件がいいんだろう。」

「・・・そう言えばその話を聞いて思い出したんにゃけど、この森は遥か昔、とてつもない力を持った龍を封印した土地って聞いたことあるにゃ。」

「何ですそれは?」

スイセイがアッテに問う。

「和国の起源に繋がる昔話なんにゃけど、太古の昔、この地に魔獣の大軍を率いた大いなる邪龍が降り立ったのにゃ。邪龍は魔獣を使い大地を蹂躙、破壊の限りを尽くした。そして大陸の全てを破壊尽くした大いなる邪龍は長い眠りにつき、その封印場所を門番に守護させた。・・・ていう伝承があるにゃ。和国が外側に反り返った山に囲まれてるのはその龍が暴れた影響だと伝えられてるにゃ。」

「私も本で読んだことはあるが事実かどうかは今となっては分らないのが現状だった。この森の魔獣が強いのはその封印された邪龍が影響しているってことなんだろうか?」

「ただ魔力濃度が濃いってだけだと私は思うんだけどねぇ?」

そんなことを話し合っているとレンゲが森の奥から妙な気を感じ取った。

「・・・気付いたか?」

「えぇ。急に森の空気がざわつき始めた。」

「獣の勘が警告してるにゃ。」

スイセイは何も感じず三人からの気迫に緊張感が辺りを包む。

空はだんだん曇っていき野鳥が一斉に飛び立つ。

「こっちにゃ!」

アッテを先頭に森の中を駆けると、木々が開け窪んだ地形の中心に崩れた古い遺跡がある場所に着いた。

「こんな森の中にこんな場所が?」

「建物の状態から見てかなり古いわね。ぱっと見でも数千年は経ってるわ。」

そんな大昔の遺跡があったことにも驚きだが、四人は先へ進むと中央広場のような場所にたどり着き、その更に中央には不思議なオブジェクトが建てられていた。

よく見るとオブジェクトの中に紫色の水晶のようなものも見える。

「なんだあれは?」

スイセイが近づこうとすると、

「っ⁉スイセイ!」

レンゲが飛び出しスイセイを庇った瞬間、スイセイが立っていた場所に一本の矢が突き刺さったのだ。

「クロスボウの矢⁉一体誰が⁉」

ラーフとアッテが辺りを見回すと次々と矢が追撃される。

そのうちの何本かはレンゲが切り裂いたが。

「何者だ!出てこい!」

すると今度は頭上から巨大な岩が投擲され四人は一度散開する。

「あんな巨大な岩を投げて来るなんて、この攻撃人間の仕業じゃないにゃ!」

そして土煙から現れたのはフードを深く被ったクロスボウを持つ人物だった。

「貴様、和国の者ではないな?」

スイセイの前に立ち刀を抜くレンゲ。

「・・・こんな所に和国の人間が来るなんて、ツイてねぇ。」

人物はフードを取ると、三人は驚いた。

「貴様、鬼族か⁉」

フードの人物は鬼族だった。

「現在和国と敵対している鬼族が何故この国にいる?鬼族が入国するのは法律で禁じられてるはずだ。」

レンゲが叫ぶと足元に矢を放たれる。

「決まってんだろ。お前等人間に復讐するためだ。」

「っ⁉」

「数年前、俺達はただ平和に暮らしてただけなのに、お前等人間は突然軍で押し寄せ里を滅茶苦茶にしやがって!そのせいで俺の家族や妹が・・・!」

持っているクロスボウを潰しそうなほど握りしめる鬼族の男。

「ちょっと待ちなさい!そもそも鬼族と和国が対立する原因になったのはそっちが王家の子供の命を奪ったからでしょ⁉」

ラーフが反論するが男は彼女の足元に発砲した。

「その話自体がおかしいんだよ・・・!鬼族が子供一人殺して何の得がある!関係も良好だったのにそれを断ち切る理由がどこにある⁉やってもいねぇ事実を押し付けやがって!先に手を出したのはお前等和国の方だろうが‼」

魂からの叫びにラーフたちは言葉が出なかった。

「な、何言ってるの?鬼族が、王家の子供を殺してないというの?」

「でなければあそこまで憎しみを露わにすることはないだろう。」

レンゲが彼女たちの前に出る。

「貴様の目的はなんだ?復讐と言っていたが、無関係の人々に危害を加える気なら容赦はしない!」

そう言い男に剣を向ける。

「無関係・・・?何寝ぼけた事言ってやがる・・・!人間は皆同罪だ!この国にいる時点でな!」

(ダメだ。怒りと憎しみで精神が既に崩れてる・・・。)

すると次の瞬間、男は自分の身体に手を突き入れたのだ。

「にゃ⁉」

「何してるのアイツ⁉」

男はズルズルと自身の心臓を取り出した。

「鬼族は人間に比べ多少妖力が多い・・・。俺自身を贄に、蘇れ!邪龍の眷属‼」

背後の水晶のオブジェクトに自信の心臓を突き付けた瞬間、眩い光が辺りを包み込んだ。

「・・・う、何が起きた?」

光が治まり目を開けると空となったオブジェクトの前に息絶えている鬼族の男。

すると地面が突如揺れ始める。

「何⁉」

「何か来るにゃ!」

石畳を砕き地面から這い出てきたのは二本の首を持つ白銀の竜だった。

「オオォォォォ‼」

耳がつんざく程の咆哮を上げ、赤い眼光でこちらを睨む竜にラーフたちは完全に恐怖していた。

「何よ・・・この怪物・・・!」

「怖いにゃ・・・!」

スイセイも竜からの威圧に押しつぶされそうになる。

だがそんな中ただ一人、竜の威圧に負けない者がいた。

「皆は逃げてくれ。あの竜は、放置してはいけない。直感がそう告げている。ここは私が時間を稼ぐから早くいけ!」

「レンゲ!」

一人レンゲは白銀の竜に攻める。

竜は二つの首でレンゲに襲い掛かるが彼女も熟練の剣士。

流れるような剣技で攻撃を捌き切る。

「くっ!二人とも逃げるよ!」

「ま、待って!レンゲさんが!」

「今は逃げる事だけを考えるにゃ!あんな怪物私達でも相手に出来ないにゃ!」

竜と戦ってるレンゲの方を見るが彼女は防戦一方の様子。

彼女ですらあの竜を相手にするのは困難のようだ。

何もできない悔しさに歯を噛みしめ三人はその場から離れようとする。

しかし後方で強い魔力を感じ取る。

「っ⁉」

二つの首から同時にブレスを放とうとしていたのだ。

「くっ!」

すかさずレンゲが片方の頭を切りつけブレスを止めるがもう片方のブレスには間に合わず、スイセイ達目掛けて放たれてしまった。

「うわぁっ⁉」

爆発がおき辺りの瓦礫が吹き飛ぶ。

煙が蔓延する中眼を開けると、自分たちは無事の様子だった。

だが、

「っ!レンゲさん!」

「レンゲ!」

三人を庇いまともにブレスを受けてしまったレンゲが膝を落としていた。

「すぐに手当てしないと!」

「いや・・・そんな暇はない・・・!」

竜は容赦なく四人に迫ってくる。

レンゲも重傷を負ってしまいどうしようも出来ない。

「いや、時間稼ぎぐらいなら私にも出来るわ!」

「私もにゃ!」

「スイセイはレンゲを連れて逃げて!私達より遥かにヤバい状態だから!」

「で、でも!」

「行って!」

「行くにゃ!」

二人が竜に攻め入り抗戦する。

「わ、私だって・・・戦え・・・!」

「よせ。」

震える手で刀を持つがレンゲに止められてしまう。

「お前が戦うだけ無駄だ。私達ですら敵わない相手だぞ・・・。」

「・・・分かってる。私はまだ弱いことも。でも、仲間として、助けたい。皆で帰りたいんだ!」

顔も覚えてない姉を思い出し、スイセイは刀を強く握りしめる。

「もう大事な人を失いたくない!例え敵わなくても、何もしないで散るよりはマシだ!」

彼女の瞳には強い覚悟が現れていた。

(スイセイ・・・。)

スイセイは刀を鞘に納め居合の構えを取る。

「援護くらいなら、私にもできる!」

勢いよく抜刀すると刀から水が溢れ出た。

「『居合・水刃波』‼」

放たれる水の斬撃が右の竜の首に命中。突然の攻撃に右首の竜は一瞬動揺する。

「スイセイ⁉」

「今です‼」

スイセイの掛け声と共にラーフは手製爆弾を竜の眼に目掛けて投げつけ更に怯ませる。

「アッテ!」

短剣に炎を纏わせ斬撃を左の首に放つ。

爆発を起こしひるんだ隙にアッテが戦線離脱する。

「助かったにゃ・・・!」

「助けたのはスイセイよ・・・。」

二人はスイセイ達の元に戻り手を握った。

「ありがとにゃスイセイ!」

「おかげで助かったわ。」

「いや、私も無我夢中で・・・。」

そんな事も束の間、再び竜が襲い掛かってくる。

「まだ来るにゃ!」

「スイセイは援護をお願い!」

「はい!」

「待て、私も戦うぞ・・・。」

「その怪我で何言ってるにゃ⁉」

「新人のスイセイが鼓舞してくれたんだ。だったら先輩として、仲間として私も戦う!」

「レンゲさん・・・。」

「相変わらず変な所で頑固ね。」

「言ってろ。あの竜はいずれ街の人々にも被害を及ぼす。奴を食い止め、四人で帰るぞ!」

全員が頷き、一斉に竜に立ち向かう。

レンゲの氷、ラーフの炎、アッテの雷、そしてスイセイの水。

それぞれの持つ属性を開放し互いに出来る最善の手で竜を徐々に追い込めていく。

(いける!)

だがそううまくは行かなかった。

二つの頭からブレス。

それに加え背びれからもバチバチとエネルギーが蓄積されていく。

「っ!まずい!逃げ・・・‼」

レンゲの指示が間に合わず竜はブレスを含んだまま背びれに噛みき、その瞬間強力な衝撃波が辺りを吹き飛ばしたのだった。


 (・・・私は?どうなった?)

浮遊間の漂う暗闇の中、スイセイは徐々に意識を取り戻し始める。

次第に視界がハッキリしてくると目の前にはとんでもない光景が広がっていた。

「っ‼」

辺りは遺跡の瓦礫に埋め尽くされ、ラーフとアッテが瓦礫の下敷きにされていたのだ。

急いで二人を助け出そうとするものしかかった瓦礫が重くビクともしない。

「んぐぐ・・・!」

「合わせろ・・・。」

「っ!」

重傷を負いながらもレンゲが手を貸し瓦礫を押し退け二人を助け出す。

「助かった・・・。ありがとう二人とも。」

「ラーフ、お前右腕が・・・。」

「えぇ、もう使い物にならないわ。」

彼女の腕が力なくうなだれている。

骨や神経をやられてしまったんだろう。

「こっちはもっと深刻にゃ・・・。左足がおじゃんにゃ・・・。」

アッテは片足を失ってしまいこれまでの俊敏性が無くなってしまった。

その姿を見たスイセイは絶望に飲まれてしまう。

「あの竜は?」

レンゲが顎で指すと二つ首の竜は蔓延する土煙の中をウロウロしていた。

瓦礫の陰に隠れているおかげもあってレンゲたちを見失っているようだ。

「どうするにゃ?全員こんな状態じゃアレから逃げ切るのは無理にゃ。」

レンゲは状況を見渡す。

片腕片足を失ったラーフとアッテ。

自身も相当ダメージを多い戦い続けるのは困難。

そして経験の浅いスイセイは完全に心が折れていた。

「・・・ラーフ。アッテ。私の頼みを、聞いてくれるか?」

二人はすぐに察し頷いた。

「了解・・・。」

「それしかないにゃ・・・。」

スイセイは何もわからず彼女らを見渡す。

「レンゲ、お願い。」

レンゲが頷き呪文を唱えると三人の胸が光出す。

ラーフは炎、アッテは雷、そしてレンゲは氷のエレメントを取り出しそれを一つにまとめスイセイの体内に入っていく。

途端にスイセイの髪が黒から美しい水色へと変色した。

「私達の命、貴女に上げるわ。」

「君なら上手く使えるにゃ!」

スイセイは訳が分からなかった。

「それじゃスイセイ、後のことは頼むわね。」

「え?」

「先輩としての役目を果たして来るにゃ。」

「え、え?」

ラーフは手持ちの爆弾を一つの袋に全て詰め、アッテも手足を獣化させ四つん這い、ではなく三脚状態になる。

そして竜目掛けて不意打ちを仕掛けていった。

本当に何が起こってるのか分からず混乱しているスイセイ。

そこにレンゲが前に座り込んだ。

「スイセイ。私達が奴を引き付ける。お前はその隙にお前の持つ最大の奥義で奴に止めをさしてくれ。」

「何を、言ってるの・・・?」

レンゲは腰袋から布巻の棒を投げ渡す。

布巻がはだけると中から鳶色(とびいろ)に輝く異色なデザインの刀身が見えた。

「っ‼」

それを見たスイセイは驚き自身の布巻の棒に触れる。

「私のお守りとして持っていた物だ。お前なら、これを使いこなし奴を葬れるだろう。」

「あ、あぁ・・・!」

「もうお前を守るためにはこれしかないんだ。」

レンゲは背を向け竜と戦ってる二人の下へ歩み始める。

「ま、待って・・・!」

「生きて、()()()()・・・。」

レンゲは走り出し竜に攻めいる。

「・・・っ!」

スイセイは布巻の棒の布を剥がすと水晶の付いた鳶色(とびいろ)の柄が現れる。

それをレンゲの落とした鳶色の刀身と合体させると一本の剣が出来上がった。

「・・・『水は全てを潤す命の恵み、炎は世を照らす焔の陽炎、雷は天地を焦がす天の怒り、冰は眠りを誘い新たな命を育む大地の繭・・・。』」

詠唱と唱えている間にも戦ってる彼女達に限界が訪れ、ラーフ、そしてアッテも竜に食い殺されてしまった。

「っ‼」

「集中しろ‼」

レンゲの声に感情を抑え詠唱を続ける。

「・・・『大自然の力よ、今一度その力を我が身に宿らせたまえ!』」

残ったレンゲ一人果敢に竜に切り掛かるが軋む身体では思うように動けない。

竜がブレスを放つもなんとかすれすれで躱し、狐の面が剥がされ素顔が露わになる。

「ハァァァァ‼」

二つの首を掻い潜り首の付け根に剣を突き刺した。

竜は悶えレンゲに噛みつく。

「がぁっ⁉」

引き剥がそうとしてくるが残りの力を振り絞り必死にしがみ付くレンゲ。

その時、後方で凄まじい魔力を感じ取った。

鳶色(とびいろ)の剣を軸に巨大な魔力体の大剣が天に向かいそびえ立っていたのだ。

「やれ‼」

「っ‼うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

スイセイは涙を流しながらもその大剣を振り下ろした。

「穿て‼大天空(だいてんくう)ぅーーーー‼」

振り下ろされた大剣は天地を裂き大地を破壊する。

光に包まれる二つ首の竜は原型を失い消滅。

そしてレンゲは優しい笑みを残し、光の中へと消えていった。


 雨が、大きく裂けた大地に降り注ぐ。

上空から鳶色(とびいろ)の剣が地上に突き刺さり、その傍らで気を失うスイセイ・・・いや、()()()()は雨も涙も滴る中、探し求めていた(レンゲ)を犠牲にしてしまった己の弱さ。

そして鬼族に対しての憎しみが静かに育んでいったのだった。


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