表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/270

『第十七章 王都』


「勇者の解任に証人として彼らを王宮に招くことはできませんか?」

「はぁ⁉」

アルセラの突然の提案に思わず叫んでしまったタクマとリーシャ。

アルセラは少したじろいだ様子で、

「な、なんだ突然・・・?」

「いえすみません。突然の提案に驚いただけです。」

「なるほど。勇者と戦った本人なら信憑性も高くなるか。」

「ロイル隊長も何言ってるんですか・・・。」

王都。

この国アンクセラムの中心に位置する。

国を治める国王の住む城が建った大都市だ。

しかしただ一介の冒険者の身分で王宮に招かれるのは正直気が重い。

「それに国の偉い人たちはあんな勇者を匿うほどなんだろう?俺が証人になっても話を聞くかどうかも怪しい・・・。」

タクマの一言にロイルたちはどうすればいいか考えていると、

「では我らを使えばよいではないか?」

とバハムートが話した。

「どういう意味ですか?」

リーシャが理由を聞く。

「話の聞かん奴は一度知らしめる必要がある。この者には抗ってはならないと思い知らせるのだ。」

「おっ!正面からごり押しか!ええでええで、オレそういうの大好きやで!」

ウィンロスも乗り気だ。

「でもそうしたら国家反逆罪になりうる可能性もあるのでは⁉」

「ただ脅すだけと幼い国民の命を奪う、どちらが重い罪か考える必要もあるまい。」

バハムートは鋭い目つきでロイルを睨んだ。

「・・・確かにそうだな。罪の重さで言ったら一目瞭然か。」

ロイルは観念したかのようにため息をついた。

「では決まりだな。」

バハムートはニヤリと笑いながらタクマを見た。

「分かったよ・・・。」

タクマも観念した。


 同時刻、国門街付近の森にて、

「あのギルドマスター、昨晩あんだけ大口叩いていたくせに!」

木の上に立つ黒いフードの集団。

その中の一人ダークエルフの女が街の様子を望遠魔術で見ていた。

「ですがリーダー、あの男のおかげでこの国の冒険者は大分激減したと思いますが?」

「・・・そうだな。癪だがあの男は我らの利益を上げた。だがあぁも騒ぎになっているともうこの街での行動はできないな。他の場所に拠点を構えるぞ。」

「他の場所というのは?」

「フュリア王国だ。」


 ギルドマスター汚職騒動から数週間後、ギルド『黒狼の牙』は信用は落ちたものの多くの冒険者が利用している。

騒動の根源のドモスはギルドマスターの職を下ろされ現在は信用のおける職員が代理で担っている。

そのギルドの受付にて、

「おめでとうございます!これでタクマさんは無事Dランクへと昇格できました!」

この数週間タクマは依頼をこなし続けランクアップに力を入れていた。

そのかいあって今は二ランク上のDまで上がった。

「Dランクへ上がったのでより難度の高い依頼も受注できるようになります。ですがランクが上がったからと言ってもしっかり実力にあった難易度で受けてくださいね。」

「分かった。気を付ける。」

タクマはカードを受け取り外で待ってるバハムートとウィンロスの元に合流した。

「お待たせ。」

「おうタクマ!ランク上がったんやろ?これでもっと依頼ができるんか?」

「あぁ高めな難度の依頼も受注できるようになったぞ。」

「いやっふー!狩りが楽しみやで!」

「少しは我の実力に合った依頼もあればいいがな。」

団らんと会話していると頭上から伝書鳩が降りてきた。

「ん?あ、もしかして!」

タクマは鳩の足に付いていた手紙を広げる。

それはロイルからの伝達で内容はアンクセラム王国国王の謁見許可が下りたとのことだった。

「アハハ・・・、ロイル隊長自分の持ってる権力フルパワーで国王の謁見許可をもぎ取ったってよ。」

今度会ったら相当感謝しなければ。

「では予定も決まったことだ。娘を迎えに行くぞ。」

ちなみにリーシャはあの日以来、自分の街に戻っている。

何やら準備があるといっていたが。

「元気にしてるかなリーシャ・・・。」

タクマはふんわりした表情で空を見た。

「・・・なぁ旦那。タクマの奴って?」

「おそらくその通りだと思うぞ。」

「おほほほほっ!」

「気持ち悪い笑い方をするな・・・(引)。」

何やら面白がってキモく笑うウィンロスだった。


 翌日、リーシャと合流したタクマはアンクセラム領土側の門に止まっている立派な馬車を見つけた。

「タクマさん、あれって。」

「・・・わお。」

二人があまりの立派さに驚いていると馬車の中からアルセラが降りてきた。

「タクマ殿、リーシャ殿!こちらだ!」

アルセラに流されるがまま馬車に乗り込み王都に向けて出発した。

バハムートとウィンロスは巨体故、馬車には乗れないので歩いてついてくる。

「待たせてすまなかったな。タクマ殿。」

馬車の中でロイルに謝られた。

「いや、その間にギルドランクを上げられたから気にしてない。」

「?タクマ殿、何やら喋り方が変わったか?」

「確かに。この前は俺らと話していた時敬語だった気がするが?」

二人が疑問に思っているとタクマはキョトンとした顔で答えた。

「そうか?まぁでもこの数週間で依頼こなしまくっていろいろ変わったからな。アルセラさんとはもう友人みたいなもんだし!」

ニカッと笑うタクマ。

友人という言葉を聞いたアルセラは頬に手を当て何やら嬉しそうな表情になる。

「友人・・・友人、エヘヘ♪」

「・・・なぁリーシャ。」

タクマは隣でラシェルの残した卵を抱き抱えるリーシャに声をかけた。

「はい、何ですか?」

「この一件が片付いたら大事な話があるんだ。」

「大事な話?今ここで話しちゃダメなんですか?」

「あぁ、終わった後だ。」

「・・・実は私からも大事な話があります。」

「何⁉」

「私も終わった後でお話ししますね。」

「・・・分かった。」

こうして一同を乗せた馬車は約二時間後、無事に王都まで着くことが出来た。

「見えたぞタクマ殿!王都だ!」

窓から身を乗り出しながらアルセラは王都を指さした。

外壁は国門街の倍近い高さもあり門の前には立派な甲冑を着込んだ見張りもいる。

流石国王が住む王都だけある。

門を通る際身分確認で兵士に止められたがロイルとアルセラが事情説明をしてすんなり王都に入ることが出来た。

近衛騎士団である二人は顔パスのようだ。

バハムートとウィンロスに関しては流石にこのままでは騒ぎになってしまうので門を通る前に角に従魔の証としてスカーフを付けておいた。

「うわぁ!タクマさん見てください!見たことない物ばかりです!」

すっかりはしゃいでいるリーシャ。

正直いうとタクマも少しばかり初めての街にわくわくしていた。

馬車が王通りを張っていると街の人々の声が聞こえた。

「何だあれ。ドラゴンか?」

「何で近衛騎士団と王通りを歩いているんだ?」

「いや角を見ろ!あの二頭は従魔だ!」

「二頭のドラゴンを従魔にだと⁉」

やはり二人は注目の的になっていた。

バハムートは少しうんざりした顔をしている反面、ウィンロスはどや顔だ。

「ハハハ、国民も驚いているな。」

まるで人ごとのように笑うロイル。

「はぁ、それより王宮はまだか?」

「もうすぐ着くぞ。」

馬車は王宮門の前までやってくると

「近衛騎士団ロイル隊長、並びにアルセラ隊長!王宮に到着しました!」

同行していた兵士の声に答えるかのように門が重い響きをあげて開いた。

(さぁ、気合の入れどころだ。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あれからどれくらい部屋にこもっているのだろう。

もう日にちを数えるのも辞めた。

「勇者様、食事をお持ちしました。」

・・・・・。

「食事はしっかり食べてください。貴方はこの国の希望なんですから。」

国の希望。

最初はそう言われたとき俺の時代が来たと思ったさ。

この世界に来る前の俺は現実に嫌気を指してネットゲームに没頭するただのニートだった。

でも急に足元が光ったと思ったらこの世界に召喚されていた。

国王から説明を聞いた時はそれは喜んださ。

もう俺は負け組の人生からおさらばなんだから。

召喚の際にチート能力をもらい聖剣も貰った。

金も名誉も女も。

全てが順調だった。

あの男が表れるまでは。

「何であんな強いやつがいるんだよ・・・。俺が最強なんじゃねぇのかよ!」

思いっきり机をたたきつけ叫んだ。

「そもそもあのガキも異常だ。前世の記憶があるだか何だか知らないが何なんだあの強さは!魔法と槍の合わせ持ちなんてチートだろ!チート持ちは俺だけでいいんだよ!」

情緒不安定の中、嫉妬と悔しさでおかしくなりそうだ。

「・・・アイツさえいなければ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 タクマ達は兵士に連れられ王宮の広い廊下を歩いていた。

「王宮内ってこんな広いんですね。」

目を輝かせながらリーシャは城内を見回している。

「国王が住む城だからな。私も初めて来た頃は君と同じ反応をしたもんだ。」

リーシャとアルセラの女子同士の会話の隅にロイルはタクマと話を進めていた。

「本当にうまくいくのか?」

「でなきゃこの件は片付かない。それはあんたらにとっても都合がよくないだろう?」

「確かに・・・。」

そして現在タクマ達は国王の前に頭を下げている状態だ。

「国王様、この度は私の無理な願いを聞き入れてもらい感謝します。」

ロイルが前で王に感謝を述べた。

「構わぬ。して、そこの少年がお前の言っていたテイマーか?」

タクマは顔を上げる。

アンクセラムの国王は故郷のフュリアの国王より少し若い姿だ。

部屋の両サイドには大臣が数人同室していた。

「はい、その通りです。」

タクマが答えると大臣たちはざわめきだした。

「あの少年が?」

「ドラゴンを二頭従魔にした・・・。」

「では隣の少女は?何やら腰に膨らみがあるが。」

リーシャにも目線が飛び交う。

本人は慣れない場と多数の視線に身体が震えていた。

「・・・・っ!」

「リーシャ(小声)。」

「!」

「落ち着け、俺がついてる。」

タクマのおかげでリーシャは少し落ち着きを取り戻したようだ。

「してロイルよ、改めて貴公に問う。貴公は何故その男を招いたのだ?」

「はっ、現在検討中の勇者解任の件に彼の助力は必要と判断した次第です。」

その言葉にざわめきが増した。

「ゆ、勇者解任⁉どういうことだロイル隊長‼」

大臣たちに勇者解任の事は何も伝えられていなかったようで全員が慌てた様子でざわつく。

一方国王はこの件の事は既に知っていたようで落ち着いた表情だった。

「ロイル・・・。」

「もはや隠す必要もないと判断し誠に勝手ながら事情を割らせていただきました。」

「良い。どのみちこの場にいる者に伝える予定だった事だ。丁度良い機会と言えよう。」

フゥっと息をつく国王。

すると大臣の一人が問い詰めてきた。

「王よ!いったいどうい事ですか⁉我が国の勇者を解任などと!」

「リード。貴公は勇者が起こした騒動を聞いているはずだ。王国の希望として仕立て上げた勇者が我が国にどれだけ被害をもたらしたか。」

「ぐっ。き、聞いております。しかし何故解任何ですか!何もそこまで!」

「リードよ。あの男の教育係として思う気持ちはわかるが現実を見よ。これ以上は取り返しのつかぬところまで行ってしまうかしれんのだぞ。」

「・・・っ!」

大臣のリードは言葉を詰まらせた。

その様子を見ていたタクマは少し違和感を感じた。

(・・・思い入れってだけじゃなさそうだな。何か隠している?)

部屋中に戸惑いの声が飛び交っていると突然兵士の男が慌てた様子で王の間に入ってきた。

「謁見中に失礼します!」

「何事だ?」

「ゆ、勇者が宝物庫にあった国宝。王魔剣を持ち出し王宮から逃走しました!」

「何だと⁉」

国王は思わず玉座から立ち上がった。

大臣たちも突然の事に小パニック状態だ。

「ま、まさか王魔剣を持ち出し逃走するとは!」

ロイルも焦った表情で唇を噛んだ。

「えっえ?何が起こってるんですか⁉」

戸惑うリーシャにアルセラが苦し紛れに説明した。

「・・・っ、国の国宝を勇者が勝手に持ち出し逃げたんだ!」

「アルセラさん、王魔剣とは何だ?」

アルセラはロイルの顔色を窺うとロイルは何も言わず頷いた。

「・・・君になら話してもいいな。王魔剣は特殊な付与が施された魔剣だ。それを使えば莫大な力を得られる代わりに使用者の精神を支配し暴走させる呪いの剣だ。その性質は聖剣とは真逆の存在なんだ。」

動機は不明だが勇者は何かの衝動に駆られ呪いの魔剣を持って逃げたらしい。

あの勇者の事だ。

そんな危険な物を持って外に出したら何をしでかすかわからない。

最悪無関係の人に被害が出る可能性もある。

「バハムート!ウィンロス!勇者が魔剣を持って城から逃げた。すぐに探し出せ!」

タクマが念話で二人に指示を出すと、

「あぁその必要はないでタクマ。」

「は?」

「今、その勇者と絶賛交戦中や。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ