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『第百六十六章 暗雲』

タクマ達が蓮魔の都へ赴いている頃、日の暮れた妖狐族の縄張りでは街の復旧作業が続いていた。

「そっちの木材取ってくれ!」

「おーい!釘が足りなくなった!追加を頼む!」

夜も更けてるというのに活気が溢れる妖狐族の街。

その中に現れる小さな女神。

「みなさーん!おにぎりの差し入れでーす!」

ポニテに髪を結ったエプロン姿のリーシャが大量のおにぎりを持ってきた。

妖狐族の男たちはますらおの歓声を上げリーシャのおにぎりを貪り食う。

(ふう。ラルがいれば一度に多く運べるんですけど・・・。)

あれからネクトたちにも連絡をし、少し遅れて妖狐族の縄張りで合流する手筈となっているのだ。

「シュウさんもお手伝いありがとうございます。」

「いえいえ、今の俺に出来ることはこれくらいですから。」

シュウは大量の皿を器用に重ね頭に乗せて戻って行った。

リーシャも持ち場に戻ろうとすると、ふと肌寒いそよ風がふいた。

「・・・・・。」

空を見上げると星空は完全に雲に覆われており、何やら不穏な感じがした。

「なんだか、嫌な予感がします・・・。」


 その頃、城の地下では将軍の少女とタクマが激しい激突を繰り広げていた。

崩れた瓦礫を駆使し相手を翻弄、互いに息を忘れるほどの激戦だった。

それをアルセラとリヴ、ラセンの三人は見ている事しか出来なかった。

「なぁ、加勢しなくていいのか?いくらアイツが強くても相手はこの国で一番強い人間だぞ?」

「加勢したいのは山々だが、今私達が入ったところで足手まといになってしまう。それに、あの将軍は、タクマとの戦いを望んでいたみたいだ。」

「確かに、私達と戦ってた時よりも動きが鋭いわ。」

「だから、この戦いに私達は入ってはいけない。そんな感じがするんだ。」

そんな彼女とタクマの戦闘。

二人の剣がギリギリと火花を散らした。

「お前はこの剣技を見切っていた。お前を倒し、我が剣技を再び無敵と知らしめる必要がある!」

剣を弾きタクマを押し返す。

「分からねぇな。何故そこまで無敵にこだわる?剣技は万能じゃねぇ。絶対に負けない事はまずない。何がお前をそこまで突き動かすんだ?」

タクマの言葉に将軍はしばらく黙ると、

「お前に教える必要はない。私はお前に勝たなくてはいけない。友のためにも!」

二刀流の剣先に炎と、雷を纏わせ構える。

「『雷炎の龍・ホノイカヅチ』‼」

雷を纏った炎の龍が放たれタクマに襲い掛かる。

(二属性を同時に放つか。二刀流だから成せる技。面白れぇ!)

タクマは水の竜化となり水の尻尾を駆使してホノイカヅチを迎え撃つ。

(姿が変わった?まるで竜を彷彿とさせる姿。あれが奴の持つ技か。)

将軍も攻撃に加わりホノイカヅチと同時にタクマに襲い掛かり二対一となる。

「これもお前の持つ剣技か?」

「そうだ!この技で私は最強の剣士となるんだ!」

将軍の脳裏に三人の女性の影が思い浮かぶ。

「絶対に、負けられない・・・!」

彼女からはもの凄く固い決意が感じ取れた。

それを傍から見ていたラセンは訝しい顔をする。

そんな中、徐々にタクマが押され始めてきた。

ホノイカヅチと将軍の二連攻撃で防戦一方になってきたのだ。

(分が悪くなってきた。二対一だとかなりキツイ。もっと早く剣捌きが出来れば・・・っ!)

その時、タクマは思い出す。

速度を上げる方法を。

途端に頬が上がってきた。

「お前、何を笑っている?」

「出来ることが増えると楽しくなるのは当然だろ?」

タクマは剣を大きく振り払い将軍とホノイカヅチを退ける。

そして、剣を鞘に納め深く深呼吸をする。

「初めての試みだが、まぁなるようになるか!」

タクマの足元から稲妻が発生し徐々に勢いが強まっていく。

すると彼の脚に稲妻が集中し、雷で作られた強靭なかぎ爪の付いた竜の脚となり、髪色も黒から黄色へと変色。

ウィンロスの雷の力を纏った雷の竜化となったのだ。

「初めて見る竜化だ!」

リヴも目を輝かせていた。

「竜の力を身に纏うのか。やはり見た事のない奇妙な技だ。」

「それはこっちのセリフでもあるな。魔力で剣を作るし複数の属性を同時に使える。俺から見てもアンタも十分化け物レベルだ。」

強者の二人がしばらく睨み合い、一瞬の隙に互いに動き正面衝突した。

将軍の剣がタクマに当たりそうになった瞬間、一瞬にして背後に回られる。

「っ!早い!」

咄嗟にホノイカヅチが庇い互いに距離が開く。

が、タクマが地面を蹴った瞬間一瞬で将軍の目の前まで距離を詰められる。

「っ⁉」

「『居合・雷牙』‼」

雷を纏った斬撃がホノイカヅチに炸裂し、地面へと叩きつける。

そしてホノイカヅチは形を保てず消えたのだった。

そこへすぐさま将軍が切りかかってくるがまたもや一瞬にして姿が消え少し離れた場所へ立つタクマ。

「貴様・・・!」

「どうだ?この速度ならお前の二刀流に難なく対抗できるぜ?」


 雷の竜化となったタクマは縦横無尽に駆け回り将軍を翻弄している。

それを見ていたアルセラ達は、

「・・・ねぇ、今のうちにタマモさんを探しに行けばいいんじゃない?」

「そうだな。ここでただ見ているだけしかできないなら私達に出来ることをやろう。ラセン、行こう。」

しかしラセンは腕を組んでタクマ達の戦いを仁王立ちで見ていた。

「タマモさんはアンタ等に任せる。俺は、どうしても気になる事があるんだ。」

「気になる事?」

「俺はもう一度、あの女と戦わなくちゃならない。」

ラセンの眼は決意に満ちた眼差しをしており、アルセラは小さく頷いた。

「・・・分かった。これは君達鬼族の戦いでもあったな。なら君の判断を尊重する。タマモさんは私とリヴで必ず助ける!」

『儂も居るぞ?』

「あ、そうだった。」

『おい。』

カリドゥーンも含めアルセラとリヴは部屋を後にした。

(さて、後はどうやってあの戦いに参加するかだな。)


 雷足で駆け回るタクマに将軍は完全に見失っていた。

「おのれ!避けてばかりいないで正々堂々戦え!」

「本気は出してるさ。何も小細工はしてねぇ!」

天井を蹴り鋭い一撃が将軍を上から押し込む。

二刀流の刀で受け止めるも一撃の重さに膝をつく。

「・・・確かにお前は強い。異国の旅人で属性をこうも容易く扱う者は初めてだ。これは負けるかもしれない・・・・・、とでも言うと思ったか?」

「っ⁉」

突如死角から鋭い一撃を受け飛ばされるタクマ。

なんとか受け身を取ったが彼が見た物は、

「おいおい、マジかよ・・・。」

タクマの眼には、二本の魔力で作られた刀が彼女の頭上を浮遊しており、手に持つ刀と合わせて四本の魔力の刀。

四刀流だった。

「この力で、お前を倒す!」

刀の一本がバチバチと雷を纏う。

「っ!」

「『雷鳴の龍・暴神立(あばれかんだち)』‼」

雷の龍が刀から現れ轟雷のごとく辺りを轟かせてタクマに襲い掛かる。

「うおっ⁉」

雷の竜化となったタクマの雷速についてくる雷龍。

どんなに動き回っても付け入る隙が掴めなかった。

(複数属性を使ってくる上にこの速度!厄介すぎる!)

タクマは地面を叩き瓦礫を浮かせ、視界を鈍らせる。

「このような小細工、私には無意味だ!」

それでも将軍は正面から瓦礫を薙ぎ払いとうとうタクマを捉える。

(獲った!)

剣筋がタクマを完全に捉える。

だが、

「待ってたぜ!」

「っ⁉」

突如タクマは息を深く吸い込み、絶対零度のブレスを吐いた。

「うあっ⁉」

正面から突っ走った将軍は当然避けるとこが出来ず至近距離からブレスをくらった。

「ドラゴンの力なんだからブレスも使えて当然だろ?」

ブレスを受けた将軍は後方へ飛ばされ、霜の付いた身体で震えていた。

「寒い・・・、貴様も、複数の属性を持つのか?」

「あぁ、周りから見りゃ珍しいだろ?」

冷え切った身体ではすぐに動けない。

タクマはこの隙に彼女に質問をかける。

「今のうちに聞きたいことがある。何故鬼族を葬るなんて考えてる。この国の歴史じゃ昔は人間と鬼族は共存してたんだろ?」

しばらくだんまりだった将軍だが徐々に口を開き始めた。

「・・・確かに数年前までは鬼族と人間は共に手を取り合って生きてきた。だが・・・!」

将軍は凍える拳を強く握る。

「貴様ら鬼族は突如やってきてありもしない暴言を吐き、私達人間に牙を向いた!そのせいで私は、私の大切な物を奪われた!人間が鬼族を殺した?そんな事我らに何のメリットがある!先に関係を違えたのは貴様ら鬼族の方ではないか!」

感情的になりそう叫ぶ将軍にタクマは違和感を覚える。

「鬼族の話じゃ先にけしかけてきたのは人間、和国軍だと聞いたぞ?」

「偽りに決まっている!数年前鬼族が王家の子供を虐殺したのは事実だ!当時の報告書も厳重に保管している!」

「だからおかしいんだよ。」

そこへラセンも会話に入ってきた。

「鬼族には嘘偽りを見抜く術を持った奴がいる。そいつが調べた限り俺達鬼族は人間の子供を殺してはいなかった。これは紛れもない事実だ。」

「鬼族の言葉など信用できるか!」

全く聞く耳を持たない将軍に頭を抱えるタクマとラセン。

「こんな一方的に否定されてちゃ話が進まないぞ。」

するとラセンは将軍の前にしゃがんだ。

「お前さ、何でそんなに鬼族を嫌ってんだ?過去に子供が殺されただけじゃここまで憎しみの籠った眼はしてない。それとは別の、別の理由があるはずだ。」

ラセンにそう指摘され、将軍は強い心音と共に三人の少女の影を思い出し、凍える身体を動かし始めた。

「鬼族が、その質問をするか・・・!ふざけるなぁーーー!!!!」

立ち上がった将軍から炎の渦が現れ彼女を包み込む。

咄嗟に距離を取る二人だが、

「おいおい、俺なんかまずいこと言った?」

「少なくともお前が彼女に話しかけるだけで火に油を注ぐみたいだな。」

「理不尽!」

突如激昂した将軍は四本の刀にそれぞれ、炎、雷、氷、水の属性を纏わせ四刀流四属性へと変貌する。

「四つの属性を一度に⁉いくら何でもあれは負荷がデカすぎるだろ!」

だがそれもお構いなしに将軍は二人に襲い掛かってきた。

「ああぁぁぁぁっ‼」

身体中に血管が浮き出るほど負荷をかけ四属性の刀が猛威を振るってくる。

とてつもなく強力だが自身への危険も尋常ではない。

「おいやめろ!これ以上戦うとお前の身が持たないぞ!」

「構わない!鬼族を葬れるのならこの命、惜しくはない‼」

(何でだ?何でそこまでラセン達鬼族を憎む?何がコイツをここまで突き動かしているんだ?)

荒れ狂う四属性の猛攻がタクマ達を追い詰める。

だがその猛攻をラセンが正面から力任せに受け止めた。

「ふん‼」

四本の剣先を右手のガントレットで強引に掴み止めるラセン。

「俺は話を聞きたいだけだ!一旦落ち着け!」

だがラセンの拘束も強引に弾き飛ばし将軍は剣を向ける。

「お前にはわからないだろう・・・。私の受けた屈辱の重さを!」

四属性の刀が更に勢いを増す。

「アアァァァァァ‼」

すると次の瞬間、

「待ってましたよ。この瞬間を。」

突然声がしたと思ったその時、彼女の胸元から腕が突き出てきた。

「がはっ⁉」

「っ⁉」

よく見ると彼女の背後から腕を突き刺し、四色に輝く光の玉を持つ男がいた。

「き、貴様・・・、()()()()!」

突如現れたジャバルに身体を貫かれる将軍。

その光景にタクマ達は驚きを隠せないでいた。

「何であいつが⁉気配は全くしなかったぞ⁉」

ジャバルは貫いた腕を抜き取り、将軍はその場に倒れてしまう。

そして彼の手には四色に輝く一つの宝玉が。

「これを手に入れるのにずいぶん時間が掛かりましたが、まぁ良いでしょう。」

「ジャバル・・・、何故・・・!」

倒れる将軍の髪色が水色から黒に変わっていた。

「私の目的は初めからこれだったのですよ。将軍様。貴女の持つ四つのエレメントの力を。」

(何なんだ?アイツは将軍に仕える宰相じゃないのか?)

タクマも半分混乱しているとラセンがジャバルに殴り掛かった。

「テメェ、何してやがる!」

しかしラセンの剛拳をいとも簡単に受け止められてしまう。

「何⁉」

「血の気の多いですね。流石は鬼族と言った所でしょうか。ですが、無駄です。」

そしてラセンを紙のように軽く投げ飛ばした。

「さて、目的の物は手に入りましたし、私は持ち場に戻るとしましょうか。」

「おい待て!」

「何です?異国の剣士。」

「タマモさんはどこだ?どこへ連れて行った?」

「あの女狐でしたら儀式の触媒として使っております。お探しでしたらこの城の更に地下、儀式の間にてあなた方をお待ちし、そしてお見せしましょう。大いなる龍の復活を。」

(っ!やはり神龍がこの国に!)

神龍の存在が確証した今、ジャバルの狙いは神龍の復活に間違いない。

「思い通りにはさせねぇぞ!」

タクマは剣を構える。

だが、

「まぁそうでしょうね。今お相手してもいいのですがまだ如何せん私は忙しい身です。ですのであなた方の相手は彼に任せます。」

するとジャバルの足元からぷよぷよとした生き物が現れた。

「何じゃありゃ?」

「スライム?」

するとスライムが大きく口を開けると大量の液体を吐き出す。

吐き出した液体は色を付けながら徐々に形造っていき、二つの首を有する巨大な四足の怪物が現れたのだ。

「うおっ⁉何だコイツ⁉」

「この見た目は、竜だ!」

二つ首の竜を見た将軍は巨大な魔獣と対峙する三人の女性の姿がフラッシュバックし、顔を青くして震えだす。

竜が咆哮を上げ地面を踏みつけるとその衝撃で床が崩れタクマ達三人は暗闇の中へと落ちていった。

「うわぁぁぁぁ‼」

そして部屋も徐々に崩れてきた。

「誰にも邪魔はさせません。私の、()()()()()()()()()()()()()。」

そしてジャバルは崩れ落ちる部屋を後にしていったのだった。


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