表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/288

『第百六十四章 夜闇の誘い』

月が大地を照らす夜闇。

和国一の都市である蓮磨の都では賑やかなお祭りとなっていた。

人々が楽しく過ごす中、屋根の上を複数の影が通り過ぎていく。

「何だこの祭り騒ぎ?今日そんなめでたい日なのか?」

「いや、丁度明日が今の将軍の就任記念日なんや。この祭りはその前夜祭やねん。」

「呑気な連中だな。俺ら鬼族を散々虐げてきて自分らはのうのうと祭りを楽しむたぁな。」

後ろからついてくるラセンとゴグマもいい表情はしなかった。


 時は少し戻り、妖狐族の縄張りにて。

「まさか母親の形見の髪飾りが探してたアーティファクトだったとは・・・。」

「灯台下暗し過ぎるやろ・・・。」

(ウィンロスさん、そのことわざ知ってるんですか・・・。)

しかしデメリットもある事をアルセラは説明する。

「使い方を間違えると死ぬとか、そんなの持ってて大丈夫なの?」

リヴが心配そうに言うが、

「大丈夫だ。使い方さえ気を付ければ問題なく戦える。・・・ただ、彼らの事が気がかりで。」

アルセラはシュウとコヨウを見た。

元々フェニックスのアーティファクトは妖狐族が祠で祀っていた物だ。

それがどういう形でアルセラの手に渡ってきたのかは謎だが、彼らの心境がどう思ってるのか気になっていたのだ。

だが彼らの答えは、

「それは元々カリドゥーン殿の物だったのでしょう?でしたら我らが言う事は決まってます。」

「せや。ただ置いとくだけやったし、アンタ等が持っとった方が鳳凰も喜ぶとちゃうか?ウチらのことは気にせんでええ。」

二人の器の大きい言葉にアルセラはほっと胸を撫で下ろした。

「ありがとう。」

ともあれこの国に来た目的は達した訳だが・・・、放ってけない問題が山積みだった。

「連れ去られたタマモさんにジャバルの暗躍。」

「そして鬼族との対立。」

「そうだな。ここまで関わっちまった以上放ってはおけない。すぐにでも蓮魔の都に向かうぞ。」

「あくまで目的はタマモさんの救出です。都には大勢の住民がいますし、忍びこむのなら夜の方がいいです。」

「それもなるべく少数がいいな。」

タクマは辺りを見回す。

「・・・よし。城に潜り込むのは俺とアルセラ。リヴとチビのウィンロス。」

「チビ言うな。」

「そしてラセンとゴグマ、コヨウの七人で行く。残りは縄張りの守りに入ってくれ。またいつ襲撃が来るか分からないからな。」

「了解です!」

和国のどこかにいるネクトたちにも後で伝えるとして、一同は作戦を練る。

するとシュウがタクマの前にやってきた。

「タクマ。」

「ん?」

「俺が不甲斐ないばかりにタマモ様を連れ去られてしまった。縄張りは俺達が命を賭けて守る故、どうかタマモ様を頼む!」

そう言い頭を下げるシュウ。

「任せろ。ただひとつ言わせろ。死ぬことは許さねぇ。生きてタマモさんを迎えろ。いいな?」

「っ!あぁ。」

タクマとシュウは互いに拳をぶつけたのだった。


 そして現在、タクマ達七人は蓮磨の都にそびえ立つ将軍の城。

その城門前までやってきた。

門の前では案の定、あくびをする見張りが二人いた。

「この祭り騒ぎでも見張りはいるか。」

「どうするの?私が氷魔法で凍らしちゃおうか?」

「それもいいがあまり痕跡を残したくないな。」

「せやったらウチに任せい。」


 兵士たちが退屈そうに見張りをしているとどこからか小さな子狐がテクテク歩いてきた。

「何だ?迷子か?」

兵士二人が子狐を撫でるとすりすりと頬を撫でてきてた。

二人が和んでいると突如倒れてしまった。

しかしよく見るとただ寝ているだけだった。

「何した?」

壁の陰から出てきたタクマ達が首を傾げているとその子狐はコヨウに戻る。

「これや。」

コヨウのベルトに小さな網袋がつる下げられていた。

「予め作っておいた『睡魔のお香』や。このお香を嗅ぐとたちまち夢の世界へ誘われるで。」

「ホンマか?クンクン・・・、くか~。」

「おい。」

どうやらコヨウは様々な効果を及ぼすお香を作れるようだ。

「そう言えば結界崩れそうな時にも臭いだけのウンチ作ってたわね。」

「めちゃくちゃ臭かったぜあれは。」

「・・・同感だ。」

鬼二人も思い出したのか鼻をつまんだ。

何はともあれ門から城に侵入することに成功した。

一同は薄暗い和の廊下を駆ける。

無数の階段を駆け上がり城の中腹までやってくると、

「・・・妙だな。」

「どしたんラセン?」

「ここはこの国で一番偉い将軍の城だ。いくら祭事だからといって見張りが一人もいないのはおかしくないか?」

言われてみればそうだ。

ここまで昇って来るのにはちあったのは門の前にいた兵士だけ。

不穏に思いながら襖を開けると一畳の広い部屋に着いた。

「宴会場みたいに広いな。」

タクマ達が部屋に足を踏み入れたその時、襖がぴしゃりと閉じてしまった。

「あぇ⁉」

「閉じてもうたで⁉」

アルセラとリヴ、ラセンの三人がまだ襖の外にいたはずだ。

急いで開け直すが、そこに三人の姿はなかった。

「えぇ~⁉何でや⁉」

「転移⁉いや、違う。どうなってんだ⁉」

「それはね。この城には無数の術式が精密に組み込まれてるからさ。」

タクマ達がバッと振り返ると広間の中央に一人佇む侍の男がいた。

「お前、縄張りに進軍してきた侍か。」

「やぁ、また会ったね。」

紫髪をポニテに結った糸眼の侍。

以前タクマと戦ったあの男だった。

「僕もこの後お祭りに行くつもりだったけどその途中でまさか君達とまた会うなんてね。縁というものは何とも不思議だ。」

「・・・悪いがお前に構ってる暇はない。祭りに行きたいならさっさといけ。」

「そういう訳にはいかない。これでもここの宰相殿に雇われてる身でね。こうして会ってしまった以上仕事はこなさなきゃいいけないから。」

そう言い男は刀を抜いた。

「そうか。ならお前を退けてタマモさんの居場所を吐いてもらおうか。」

「・・・ん?」


 一方、何処かへ転移させられタクマ達とはぐれてしまったアルセラ達。

目の前の襖を開けてもタクマ達の姿はなかった。

「やっぱりいない・・・。どうなってるんだ⁉」

「落ち着いてアルセラ!」

ラセンは足元をよく観察すると目を凝らさないと見えにくいレベルで術式が描かれていたのだ。

「おそらくこれが原因だな。こうしてはぐれちまった以上、先に進むしかない。なに。アイツ等なら心配いらないだろ。特にお前等からすれば。」

「・・・そうだな。タクマ達なら大丈夫だと確信できる。この先は合流も視野に入れて先に進もう。」

ラセンとリヴは頷き三人だけで城を進む。

「・・・ねぇ、なんか下がってない?」

リヴがある違和感に気が付く。

城を登っていたはずが思い返すと階段を下っていたことに気が付いた。

「本当だ。これも術式の影響か?」

「だろうな。」

まるで誘われるかのように進んでいると城の地下まで降りてきてしまった。

「やっぱおかしいでしょこれ!」

「正面切って進もうとした判断が間違いだったか。」

「しゃーねぇ。しっかり気を付けながら来た道を戻・・・っ!」

その時、頭上から強力な魔力反応が一直線に降りてくる気配に気付いた。

天井が割れ巨大な水の竜が現れ三人はギリギリかわすことに成功した。

「何だ、水⁉」

水の竜が弾けるとそこには魔力の刀を持った少女が立っていた。

「貴女は、和国の将軍!」

将軍の少女は三人を見渡すと軽くため息をついた。

「例の男とは遭遇出来なかったか。まぁいい。」

少女はラセンの方を向いた。

「性懲りもなくまたやってくるとは。余程命が惜しくないと見えるな。鬼よ。」

「やっぱアンタには認識疎外は破られるか。」

ラセンは元の鬼の姿に戻る。

(私達が来ることはあのジャバルという宰相から知らさせていると思ってたが、まさかいきなり将軍が出て来るなんて・・・!)

アルセラがカリドゥーンを構えると将軍は剣をこちらに差し向けてきた。

「今度こそ貴様を葬ってやる!そして鬼族に加担した貴様らもだ!」

「でしょうね。」


 地響きが鳴り響く中、ある場所にジャバルがいた。

「始まりましたか。彼女を餌にすれば彼らは必ず乗り込んでくる。私の計画通りですね。」

彼の背後には光輝く魔法陣の中央に建つ十字架にタマモが張り付けられていた。

「さぁ、伝説再誕の儀式を始めましょう。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ