『第百六十三章 見え始める真相』
シュウは負傷した兵士たちを引き上げ巨木の麓の結界まで戻ってきた。
しかしそこにタマモの姿がない。
「?タマモ様は?」
「そ、それが・・・。」
見張りの兵士の説明を聞くとシュウは急いでタマモの下へ向かう。
すると、
「おや。どちらへ行かれるのですか?」
頭上から知らない声に呼び止められた。
視線を上に向けるとそこには和国軍の宰相、ジャバルが宙に浮遊していた。
「貴様は、将軍の宰相か!」
「いかにも。こうしてお会いするのは初めてですね。妖狐族の自衛隊隊長殿。まさかそれほどお若い青年でありましたとは、さぞ優秀な方なのでしょう。」
シュウは刀を構える。
「宰相の貴様が何故ここにいる?タマモ様はどうした!」
「彼女でしたらこちらにいますよ。」
そう言うと彼の隣に魔法陣が現れると、酷く傷つけられたタマモが現れた。
「タマモ様⁉」
「我が国のパーティーにお誘いしたのですが断られましてね。少々お戯れをいたしました。」
不吉に笑うジャバルにシュウは尻尾を逆立て激しく怒る。
「貴様ぁ‼」
勢いよく跳躍しジャバルに刃を向ける。
しかし寸前で魔法壁に阻まれ弾き返されてしまった。
「彼女の魔力は大いに利用できそうです。これで私の目的も果たされる。」
「目的だと・・・?」
「ご安心ください。彼女の魔力を頂いたらきちんとお返しいたします。それまで彼女はお借りしますね。」
「貴様のような得体の知れない人間にタマモ様は渡さない!」
再び跳躍し切りかかるシュウ。
ジャバルが魔法壁を展開するが、
「同じ手は食わん!」
魔法壁を足掛かりにしジャバルの背後に回った。
「一閃‼」
しかしその一撃は謎の何かに防がれてしまいシュウは落下していった。
「っ⁉」
気付くとジャバルの背後に触手のように伸びる何かが見えた気がした。
「では私はこれにて。お迎えでしたら明日の夕方ごろに蓮磨の都の城へお越しください。では、御機嫌よう。」
ジャバルと気絶したタマモは魔法陣の中へと消えていき、シュウは歯を食い縛り地面を殴りつけたのだった。
「タマモ様が・・・。」
「・・・・・。」
アルセラとゴグマは言葉が出ず俯いてしまう。
「すまない。私達がいながら・・・。」
「いえ、貴女方がいなければ土蜘蛛によって妖狐族は全滅していたでしょう。お二人が起きに病むことはありません。ありがとうございます。」
怪我を治療してもらったシュウは二人に頭を下げる。
結界内では他の兵士たちも治療を受けていた。
タマモが離れても小規模の結界は健在のようだ。
しかし、
「縄張りを囲う結界はタマモ様が不在の今、長くはもたないだろう。その内消えてしまう。」
「助けに行きたいのは山々だがこの地の安全も考えないとか。」
するとそこへ買い出しに出ていたタクマ達が戻ってきた。
「タクマ!」
「アルセラ、何があったんだ?」
アルセラはこれまでの事をタクマ達に話した。
「そんな、母様が・・・⁉」
コヨウは倒れそうになってしまいリヴに支えられた。
「病み上がりとは言えタマモさんが人間相手に遅れを取るとは思えないが・・・。」
「でも事実だ・・・。」
「あの宰相、胡散臭い奴とは分かってたが、まさか直接殴り込んできてタマモさんを攫うとはな。だが何はともあれ、ゴグマ、お前が無事でよかった。」
ラセンはゴグマの胸に拳を当てるが当の本人は無反応だった。
「宰相の名はジャバルと言っていた。奴はタマモ様の妖力が狙いだったらしい。」
「妖力?あぁ、この国では魔力の事を妖力って呼ぶんだっけか。」
「確か和国軍は妖力の強い人間や亜人を連れ去っているって前に話してたな。そうなると宰相のジャバルが絡んでるのは当然か。」
「てことは将軍のあの子も関わってるのかしら?」
「そう考えるのが妥当ですね。」
理由はともあれタマモが連れ去られたのは事実。
急いで救出に向かいたいが、
「結界が直に崩れそうなんだ。そうなれば俺達自衛隊だけで縄張りを守るのは厳しい。」
「まずは砦の守りを固めなきゃか。しかし結界か。バハムートに頼めば一発なんだろうけど多分アイツも戦いに参戦するだろうし、コピーしても俺もここから出るしな・・・。」
タクマが考え込んでいると深呼吸し落ち着いたコヨウが口を割った。
「ちょっとええか?結界の事やったらなんとかなると思うで。」
それから数時間後、コヨウに頼まれいろんな機材や素材を集めたタクマ達。
それらを貰ったコヨウはまるで研究員のように何かを調合していた。
「何を作ってるんでしょうか?」
「魔女の鍋ちゃう?」
「やめろ。ネクトの料理思い出すわ・・・。うぷっ。」
「これは昔母様に自分がいない間に結界の代わりになるものを作れるよう教えてもらった漢方の一種や。」
慣れない手つきながらも作業を進めていき最後に葉で包み蒸すと、『ウンコ』が作れた。
「んなもん作らんでええがな⁉普通にケツから出るわ‼」
溜まらずウィンロスのキレのあるツッコみが炸裂した。
「臭いだけや。これを大量に作って縄張りを囲うように配置させれば悪臭である程度の生き物は近づかんで。」
「い、以外に原始的な結界?なんだな・・・。」
アルセラも反応に困っていた。
取り合えず肥やし玉を縄張りを囲うように配置させ一応の守りは作れたが、
「正直これだけでは心もとないのでリヴさんの重力魔法で地面を盛り上げて魔法で硬化させときますね。」
「頼むわ・・・。」
これで縄張りの事は解決した。
するとどこからか猫耳フードの少年がタクマの背後に現れた。
「なんか面白い事してるね。」
「うわっ⁉お前どっから出てきた⁉」
「僕は幽霊だよ?幽霊が神出鬼没なのは当然じゃん?」
「タクマ?その少年は?」
「あ、そう言えばまだ名乗ってなかったね。初めまして。僕のことはナナシって呼んで。猫なので名前はないからナナシね。よろしく!」
アルセラ達に猫耳フードの少年が紹介を済ませると懐かしいあの声が念話で聞こえた。
「タクマ。聞こえるか?」
「バハムート!」
「あら、お久しぶりおじ様。」
「離れてからそれほど経っとらんだろう?」
「いやぁ、こっちはいろいろありすぎてめっちゃ忙しかってん。」
話を戻す。
「何か分かったのか?」
「うむ。和国の人間が魔力の高い人間や亜人を連れ去っていることは知ってるか?」
「あぁ、知っている。」
「なら話が速い。その一連の首謀者がハッキリと分かったのだ。」
「ジャバルっていう紫髪の男か?将軍に仕える宰相の。」
「・・・・・。」
「タクマ。知ってても話は最後まで聞こうや。旦那黙りこくってもうてるやん。」
「悪い・・・。」
再び話を戻す。
バハムートの得られた情報をまとめると、和国に頻発する魔力の高い者の失踪事件。
それは宰相のジャバル率いる一部の和国軍の仕業であると確定した。
理由までは掴めなかったがジャバルは裏でならず者たちを使ってまで多くの魔力持ちを連れ去っているという。
そしてその失踪事件が起き始めたのは和国と鬼族との対立した時期と重なるらしい。
「そういや昔鬼族は和国軍から進行を受けてたんだよな?」
「あぁ、鬼族が人間を殺したとかいう身に覚えのない理由でな。鬼族からしたら向こうから喧嘩降ってきたようなもんだ。そのせいで無関係の鬼たちが殺され、俺の母さんやゴグマの兄貴も・・・。」
ラセンとゴグマはギリッと歯を食い縛った。
「ジャバル。コイツには絶対何か裏があるのは確かかもな。そいつをとっちめれば鬼族との対立の真実も掴めるんじゃないか?」
「っ!そうだな。俺達のやることは決まった!」
バシッと拳を握るラセン。
ゴグマも希望が見えたのか表情にも決意が見れて採れた。
するとバハムートが告げ口を挟んだ。
「それともう一つ分かったことがある。」
「何だ?」
「どうやらこの国には、『神龍』が眠っているらしい。」
「「「っ⁉」」」
神龍。
以前七天神が引き起こした騒動でタクマ達が戦った神の龍。
世界に五体存在する神龍は世界のバランスを保つ柱として現在は眠りについている。
しかしその神龍を世界崩壊を目論む新生創造神ラウエルと七人の七天神が狙っているのだ。
既に五体の内の一体は目覚めているが幸いその神龍が神の手中に収まることはなかった。
「神龍がこの国に⁉」
リーシャも驚きを隠せず、ラセン達は何のことか首を傾げていた。
「・・・待てよ?神龍がこの国にいるとして、ジャバルが魔力の高い奴等を集めてるってことは・・・!」
「そう言う事だ。」
以前の神龍騒動では七天神が大勢のエルフを連れ去り、彼らを生贄として神龍を復活させていた。
今の状況はその時の状況に似ていたのだ。
「まだ確信したわけではないが可能性としてはかなり大きいと思うぞ。」
「あぁ、ありがとなバハムート。」
「我はもうしばらく別行動をとる。近いうちに合流する故。」
「分かった。」
そうしてバハムートからの念話は切れたのだった。
「・・・・・。」
「とんでもない事が発覚しちゃったわね・・・。」
「タクマ。神龍とは一体何のことだ?」
あの時、アルセラはまだ仲間になっていたかったため神龍の事は知らない。
タクマ達はネクトたちと共に戦った神龍の事を話した。
「そんなことが・・・。神龍。伝説や神話でしか聞いたことが無かったが、本当に存在したのか。」
話を聞いたコヨウはハッと何かに気付く。
「タクマが祠での神に対しての反応ってもしかして・・・。」
「まぁ、そう言う事だ。」
「実際に神と会って殺し合ってるものね。」
リヴもやれやれと首を振った。
状況を一旦整理する。
和国に起きてる魔力持ちの失踪は宰相のジャバルが秘密裏に攫っている事。
その理由は神龍の復活に関する事。
タマモがジャバルに攫われ救出に向かう事。
鬼族との対立の真相を探る事。
「七割ジャバルって男が関わってるわ!」
「もうコイツ黒やろ。」
要注意人物として警戒するに越したことはない。
とはいえまずやらなければいけないのは、
「タマモさんの救出に向かうぞ!」
敵はタマモの持つ膨大な魔力を狙っていた。
おそらく神龍の復活に利用するためだろう。
「前の神龍の復活では大勢のエルフが犠牲になり命を落としていた。絶対に助け出す!」
タクマはコヨウに拳を突きだし互いにグータッチをした。
「すまんなアルセラ。本当はアーティファクトを見つけてから敵陣に乗り込みたかったけどそうも言ってられなくなった。アーティファクト探しは一旦中断して・・・。」
「あ・・・、そのことなんだが・・・。」
もじもじと人差し指をくっつけるアルセラ。
「実はフェニックスのアーティファクト、見つけたんだ・・・。」
「え!どこに⁉」
アルセラは頭に付けた髪飾りを指さした。
「・・・え?」
全員の眼が点になる。
「えっと、探してたアーティファクト、ずっと頭に付いて、た?」
「「「えぇ~~~~~っ!!!!?」」」
タクマ達の驚きの叫びが縄張り中に響き渡ったのだった。




