『第百六十章 猫チェイス』
突如現れた猫耳フードの少年にタクマが大枚叩いて買ったコヨウの魔導書を盗られてしまった。
「ちょっ!返さんかい!それはタクマがウチに買ってくれた大事な本なんや!」
「やだ。この巻物僕も欲しかったもん。でもこのまま持ち帰るのも気が退けるし・・・。」
(盗ってる時点で気を退きなさいよ。)
リヴが内心ツッコんだ。
「じゃぁこうしよう!今から僕と追いかけっこをして君達が捕まえられたら巻物は返すよ。うん。それで行こう!」
「はぁ?んなもん誰が承諾して・・・。」
「それじゃスタート!」
「あ、おい!」
有無を言わせる間もなく少年は屋根の上を飛び移っていった。
「チッ、仕方ねぇ。あの子供を捕まえるぞ!」
「勿論や!さっさととっ捕まえてお尻ペンペンしたる!」
タクマ達は急いで少年を追っていった。
「リーシャ!私達も行くわよ!」
だがリーシャは口元に手を当て何かを考えていた。
「リーシャ?どうしたの?」
「あの男の子、本当に魔導書が欲しかっただけなんでしょうか?」
「え?」
コヨウの魔導書を奪った少年は身軽に屋根の上を飛び移っていく。
それをタクマ、コヨウ、ラセンの三人はそれぞれの位置から追いかける。
「ラセンは地上から追ってくれ!俺とコヨウは上から!」
「あいよ!」
タクマとコヨウは屋根の上へ跳躍し、ラセンは路地裏から先回りを試みる。
「アハハ!鬼さんこちら!」
「ムカッ!タクマ!ウチ少し本気だすで!」
そう言うとコヨウは手足だけ原子化させ、もの凄いスピードで少年との距離を詰めた。
「もろた!」
しかし掴めそうな寸前、軽やかにあしらわれてしまった。
「凄いね!原子化なんて初めて見た!一部だけど。」
「見せもんちゃうがな!」
すぐさま二連撃を繰り出すもこれまた避けられてしまう。
(アイツ、なんであんなに身軽に動けるんだ?さっきだってコヨウの一撃をありえない体勢で避けやがった。なんだこの違和感は?)
タクマが少年に対して訝しんでいると少年の煽りにコヨウがキレ散らかしていた。
「うがぁ!このガキ舐めやがって!絶対捕まえたる!」
姿勢を低くし三本の尻尾が逆立っている。
このままでは勢いで完全に原子化してしまいそうだ。
「コヨウ、落ち着け。大丈夫だ。まだ手はある。」
すると少年の背後にウィンロスが現れる。
今の小さい体格のおかげで気づかれずに裏を取れたのだ。
「もろたで!」
そのまま掴みかかろうとすると、
「残念♪」
まるで背骨が無くなったかのようなしなりを見せウィンロスの不意打ちをかわした。
「キモッ⁉」
「酷いなぁ。これでも心はガラスだよ?」
表情からして絶対嘘だ。
得体の知れない少年に悪戦苦闘のタクマ達。
いろんな手を尽くすが何故か少年を捕まえられない。
「ほらほら!早く!」
無邪気な子供のようにテンションの高い少年だがタクマ達はそろそろ体力が持ちそうにない。
「あーもう!変な方向に身体を捻りまくって全然捕まえられへん!」
妖狐族のコヨウでさえ息切れしている。
ましてや軽く原子化しているため体力の消耗が激しいようだ。
「早く捕まえないとこの巻物僕が貰っちゃうよ?」
そんなタクマ達を放って少年は再び逃げ出した。
体力が限界なタクマ達もなんとか追いかけるが。
(このままじゃジリ貧だ。何か会心の一手を・・・!)
すると横で並走するウィンロスに眼が止まり、ふとあることを思い出す。
(そう言えばウィンロスが覚醒したおかげで雷の魔法を俺も使えるようになったんだっけ?だとしたら・・・!)
タクマはウィンロスの雷をコピーし、足に意識を集中させる。
(足のツボを刺激させるイメージで、雷を纏う!)
すると雷により足の筋肉が刺激され、タクマが力強く駆け出すと雷鳴のごとく超加速した。
「ぬぇっ⁉」
「なんや⁉」
コヨウとウィンロスを一瞬で追い越し少年に追いつきそうになる。
「えっ⁉何それ⁉」
加速したタクマをも避ける少年だがその表情から驚きを隠せていなかった。
(速すぎて加減を間違えそうだ。でもこの速度なら!)
雷の魔法で超加速を得たタクマはテクニカルに逃げる少年を徐々に追い詰めていた。
少年からも余裕の表情が消えている。だが、
「凄いよ!ここまで僕に追いつける人間なんて初めてだ!」
高く跳躍し少し距離の離れた屋根の上に降りる少年。
「驚かせてくれたお礼に、僕も本気出しちゃおうかな?」
少年が両手を地につけ姿勢を低くすると異質な気配が溢れ出した。
「何だ?」
追いついたコヨウとウィンロスも少年から異質な気配に警戒する。
「この気配、魔獣やで!」
コヨウが叫ぶと前髪で隠れていた少年の片目がギラつく。
姿勢を低くしまるで魔獣のように四つん這いになる。
「『モノマネ・ブラックパンサー』!」
次の瞬間、少年は素早い身のこなしでタクマ達の間をすり抜け獣のように四つん這いで逃げていった。
「なんなんアイツ⁉急に猫みたいな動きになったで⁉」
「ウチの原子化をまねたのか?」
「いや、原子化とは何か違う。とにかく追うぞ!」
謎の少年とのイタチごっこは数時間続き、コヨウとウィンロスが体力の限界を迎えてしまった。
「だぁ~!元の姿やったらこんな程度で息切れせぇへんのに!」
「すまん、ウチ、限界や・・・!」
少年はあれだけ走っているにも関わらず息切れ一つせず手元で巻物をクルクルしていた。
「う~ん、もう少し粘ってくると思ったんだけどなぁ。」
なんだか不満足な様子だ。
そこへ壁をよじ登ってラセンが合流してきた。
「タクマ、ちょっといいか?」
何やらラセンはタクマに耳打ちをする。
「作戦会議?いいよいいよ!次はどんな手でくるの?」
「・・・いや、もう追いかけっこは終いだ。」
その時、リヴに肩車されたリーシャが飛び出してきた。
「それっ!」
少年に向かって何かが入った袋を投げつける。
「痛っ!物を投げつけないでよ!酷いなぁ。」
「ただの物じゃありませんよ。」
すると突如少年の視界がくらみ膝をついてしまった。
「な、これって・・・!」
「そう、マタタビです。」
追っている途中、少年を見たラセンはもしやと思いリーシャ達にマタタビを買ってきてもらうようお願いしていたのだ。
そして彼の予感は的中、猫耳フードの少年はマタタビでふにゃふにゃになっていたのだ。
「猫っぽい見た目だからもしやと思ったが、当たりだったみたいだな。」
ドヤ顔のラセンとリーシャがハイタッチした。
そして無事コヨウの魔導書を取り戻すことが出来た。
例の少年はラセンに襟元を掴まれ宙ぶらりんの状態だった。
「一時はどうなる事かと思ったで・・・。」
「それにしてもアンタ、物欲しさがために盗むとか、いくら子供でもやっていい事と悪いことがあるわよ?」
腰に手を当てリヴが叱る。
「だって欲しかったんだもん♪」
全く反省していない様子にリヴがキレそうになりリーシャが慌てて止める。
「それよりお前、一体何者なんだ?」
タクマが少年の前に立つ。
「人間離れした軟体な間接に奇妙な技、いくら何でもおかしな点が多すぎる。そして何より、お前から生気を一切感じないのは何故だ?」
タクマの言葉に全員が驚く。
「鑑定でも使ったのかな?」
「割と特別な鑑定スキルでな。」
「・・・まぁいいや。君にはいろいろとみられてバレてるみたいだし。」
するとラセンの拘束から奇妙に抜け出しフードを軽く上げた。
「君の見立て通り、僕は生きた人間じゃない。僕は猫系の亡霊が集まって出来た、いわゆる幽霊さ!」
決めポーズで言うとリーシャが卒倒してしまった。
「幽霊?にしては触れるし、足もあるじゃねぇか?」
「ほら見て。尻尾の先が人魂みたいに燃えてるでしょ?こうなってる間は実態に近い状態になれるんだ♪」
フリフリと尻尾を揺らして見せてきた。
「あとね、ごめん!魔導書欲しいって言ったの、嘘でした!(てへぺろ)」
「・・・はぁ⁉」
特にコヨウの反応が大きかった。
「実は長刀を持った男の人が来た時から君達が何かしてたのは知ってさ。面白そうだからずっと前から君達の事を付けて観察してたんだ。」
「前から薄っすら感じてた視線はお前か。」
「そ。そして今君達と向かい合った結果、君達はこの国に革命を持たらすと確信したんだ!今のこの国の状勢は酷くつまらなくて退屈だったんだ。君達ならこの状況を打破できる!そして何より、すっごく面白そう!」
めっちゃ目をキラキラ輝かせて言う少年に少し押され気味のタクマだった。
「という訳で、微力ながら君達に協力させてもらうね。よろしく♪」
「・・・調子に乗んなクソガキィ‼」
無責任な態度に限界を迎えたガキがガキに掴みかかったのだった。
「なんだかよくわからねぇけど、魔導書に関しては解決したでいいのか?」
「あぁ、この猫小僧掴みどころがわからないが悪い奴じゃなさそうだ。幽霊らしいが人手が少しでも欲しいし協力してくれるってんなら俺はかまわ・・・。」
その時、街から遠く離れた場所が爆発した。
「何だ⁉」
「あの位置、縄張りのある場所や!」




