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『第百五十六章 和国からの刺客』

妖狐族の長であるタマモから模擬戦の案を出されたタクマ達。

彼女らに実力を示せば探していた鳳凰の祠の場所を教えてくれると言う。

そして一同は紅葉の大樹の麓にある広場へとやってきていた。

辺りには大樹から零れ落ちた紅葉の葉が絨毯のように広がっていた。

そして広場の中心ではコヨウとリヴの二人がぶつかり合っていた。

「どっちも頑張れー!」

「別嬪さん同士の模擬戦は目の保養になるぜ!」

「そこのおっさん狐ども!うるさい‼」

戦闘中ながらもツッコむリヴだった。

「外野は置いといて、コヨウも結構戦えたんだな。」

「無論じゃ。妾の娘じゃぞ?」

隣に座るタマモが口元を隠して笑う。

「じゃが今は人型としての戦闘。であればそろそろ本気を出さしても良かろう。」

「え?」

するとタマモはコヨウに大声で話しかける。

「コヨウ!そろそろ本気で向かうのじゃ!客人のお主の本気を見せてやれ!」

それを聞いたコヨウは目を輝かせた。

「はい!母様!」

(何する気だ?)

タクマがそう思っているとコヨウの身体が光に包まれ始めた。

するとコヨウの身体が徐々に変化していき、三本の尻尾を有した大きな狐の獣へと変化したのだ。

(最初に見た狐の姿か。確かにリヴの言う通り、アイツの人化のスキルとは少し違和感があったな。)

そんな事を考えてるうちにコヨウはリヴに攻め入る。

リヴも迎え撃つが獣化したコヨウは動きに無駄がなく徐々に押され始める。

「リヴさんがやや不利に!」

「『原子化』と言う術じゃ。我ら妖狐族の祖先はただの狐の魔獣であった。じゃがそこから長い年月を得て進化を繰り返し、我らのような人型となった。人型から獣型に変化する。いわゆる術による先祖返りと言う奴よ。」

自慢げに言うタマモ。

原子化したコヨウは無駄のない動きでリヴを追い詰めていた。

「獣の本能って奴ね。」

その瞬間、リヴは強引にコヨウの猛攻を押し止める。

「え⁉」

コヨウも外野の連中も何が起きたのか分からない表情をしていた。

「でもね、変身できるのはアンタだけじゃないのよ!」

コヨウの目の前で人化のスキルを解き、海竜の姿となったリヴがその威厳ある姿を見せる。

タマモ達妖狐族は勿論、ラセンとゴグマも開いた口が塞がらないでいた。

「さぁ、お互い獣の姿でやりあいましょう?」

いくら妖狐族と言えど相手は災害級の力を持つドラゴン。

リヴの放つ威圧にコヨウは完全に戦意喪失し、服従のポーズをしていた。

「ま、参りました・・・。」

コヨウは完全に涙目である。

この勝負はリヴの勝ちとなった。

「主様ー!勝ったよー!」

人型に戻りこちらに手を振るリヴ。

「ん?主?」

タマモはリヴの視線の先に眼を移すとそこにタクマがいる。

「言ってなかったっけ?アイツとは従魔契約を結んでるんだよ。」

「何じゃと⁉ではお主はテイマーなのか⁉それも竜の!」

「リヴだけやあらへんで。オレもやし、あともう一頭ドラゴンの従魔がおるで?」

肩のウィンロスが自慢げに言う。

タマモは呆れたようにため息をついた。

「竜を三体も従えた人間か・・・。世界は広いな・・・。」


 ラセンとゴグマも順調に試合を済ませ終え、妖狐族に認められた。

だが一つ気がかりな事があった。

ゴグマの試合だけどこか違和感を感じた。

端的に言うと、戦いに迷いが現れていたのだ。

試合を終えてもゴグマだけはどこか思い詰めてるような感じだった。

そんな疑問を抱きつつもようやくタクマの手番が来る。

タクマの相手は出会い頭に切り掛かってきた妖狐族の青年シュウだ。

「先に、出会い頭に切り掛かってしまったこと、深く謝罪する。」

律義に頭を下げるシュウ。

「構わねぇ。状況が状況だ。アンタの判断は正しい。」

「申し訳ない。そしてタマモ様の要望に応じていただけたことにも感謝する。だが手加減はしない。全力で勝たせてもらうぞ!」

そして二人は剣を構えた。

しかしその時、

「た、大変です‼」

一人の兵士が慌てた様子で広場に駆け込んできた。

「何事じゃ?」

「わ、和国の軍勢が我が縄張りへ進行中なのです‼」

和国から進行してくる軍勢、ざっと百人程度。

しかしそれを率いる紫の長髪で糸眼の侍のような身なりの青年からは異様な雰囲気を漂わせていた。

「彼奴等め、性懲りもなくまた来おったか!」

タマモが立ち上がろうとすると突然膝をついてしまった。

「母様⁉」

「タマモ様!」

コヨウとシュウが駆け寄る。

「すまぬ。奴らの気配に傷が反応してしまったようじゃ・・・。」

「どういうことだ?」

「・・・実は前回の奴らの襲撃でタマモ様は深い傷を負ってしまったんだ。そのせいでタマモ様のお力は弱体してしまい、縄張りの結界を張るだけで精一杯なのだ。」

シュウが悔しそうな声で言う。

「もしかしてコヨウさん、タマモさんの傷を治すためにキュアリ草という薬草を?」

「・・・・・。」

コヨウが一人で外に出た理由は分かった。

しかしタマモがこの状態では進軍してくる和国の兵士にどこまで対処できるか。

「・・・客人よ、巻き込んでしまってすまないが、我らに手を貸してくれぬか?今の妾では皆を守れる確証がない。この通りだ。」

コヨウ達に肩を貸されながらも頭を下げるタマモ。

長の立場でありながら憎き相手である人間に頭を下げられたら、タクマ達の答えは、

「一度知り合った以上、手を貸さな理由はない。そうだろ?」

リーシャ達に問いかけると全員が頷いた。

「せっかく祠の場所にありつけそうなんだ。邪魔されてたまるか!」


 紅葉の野道を進軍する和国の兵士たち。

「おや?」

それを率いる糸目の侍が前方に立ち塞がるタクマ達に気が付いた。

「見慣れない服装だね。もしかして外国の人達かい?」

「あぁ。」

侍の青年とタクマ。

互いに警戒し合いながら探り合っていた。

「これほどの兵士を引き連れてどこへ行く気だ?」

「旅の者に教えるつもりはないけど、茂みに控えてる狐たちを考えるに、ただの旅人って訳じゃないよね?君は。」

「っ!」

なんと茂みに隠れてるシュウたちに気付かれていた。

この男、存外に侮れない相手かもしれない。

「大方狐たちに頼まれた冒険者って感じかな?お金に困ってるなら僕と取引しないか?」

「取引?」

「より魔力の高い妖狐族を数人明け渡してくれたらそれ相応の対価を支払うよ。特に妖狐族の長はもっと高値でね。どうだい?」

するとタクマの後ろから強烈な圧がふつふつと溢れ始める。

リーシャ達は怒りの表情を見せていた。

「生憎アイツらを物とは見てなくてね。これから友好関係を築こうとしてんだ。テメェ等の腐った価値観に便乗する気は一切ない!」

タクマも『竜王の威圧』を込めた目で相手を睨んだ。

圧に当てられた兵士の何人かは後ずさりするが、侍の青年はため息をついた。

「はぁ、ダメ元で言ってみたけどやっぱり無理か。でもこれでも仕事なんでね。」

青年が手をあげると兵士は一斉に戦闘態勢に入る。

「力ずくで狐をもらい受けるよ。」

兵士が一斉に茂みに隠れるシュウたちに攻め入る。

しかし茂みの手前で見えない壁に阻まれた。

「え?」

よく見ると兵士とタクマ達は四角い魔法壁の中に隔離されていたのだ。

「どや!旦那の魔法壁!タクマがコピーして張り巡らせたんや!これでお前等は袋のネズミやで!」

「私達もそのネズミ状態だけどね。」

タクマの肩の上でドヤるウィンロスとツッコみを入れるリヴ。

「これほど迷彩な魔法壁を扱えるなんて、やはり君達はただ者ではないようだね。」

侍の青年が手を掲げると兵士が一斉にタクマ達に攻め込んできた。

「シュウたちがいる。ここで俺達の実力を見てもらうぞ!」

「了解です!」

「私も行くぞ!」

アルセラもカリドゥーンを構え迎え撃った。

『剣筋にブレがない。ようやっと本調子に戻ったか。』

「今まですまなかったなカリドゥーン。うなだれてた分、暴れまくるぞ!」

『よし来た!』

アルセラ、リーシャ、リヴの三人は難なく兵士を倒していく。

ちなみに全てみねうちで仕留めているため死んではいない。

「俺も元のサイズなら参加できたのに・・・。」

「お前が戦ったらここら一体消し飛ぶわ。」

男二人で話している内に女性陣がほとんどの兵士をねじ伏せた。

すると侍の青年が拍手する。

「いや~、借りてた軍とはいえそこそこ実力があったんだけどね。それをこうもあっさり無力化してしまうとは。」

「さっきからただ見ているだけね。アンタは掛かってこないのかしら?」

リヴが挑発をするが男はヘラヘラ笑っていた。

「それはそちらも同じことではないかい?」

そう言いタクマを見た。

「女の子にこんな汚れ仕事をさせるなんて正気とは思えないな。」

呆れた様子でため息をつく侍の青年に女性陣は更に怒りを膨らませる。

だが、

「なら試してみるか?」

ウィンロスをリヴに投げ渡し剣を抜いた。

「大将同士の戦いか。いいよ。僕もただ指示を出すのに飽きてきたとこなんだ。」

侍の青年も刀に手を置く。

そしてしばらくの沈黙が続き、一枚の紅葉の葉が地面に落ちる。

その瞬間、青年はタクマの後ろに立っていた。

「えっ!いつの間に⁉」

リヴ達は何が起こったのか分からないでいた。

「・・・嘘でしょ?僕の『神速抜刀』を初見で防ぐなんて。」

タクマは首元を守るように剣を構えていた。

どうやらあの一瞬、侍の青年は音よりも早く動き、タクマの首目掛けて抜刀したのだ。

しかしそれよりも早くタクマは彼の一太刀をいなしたのだ。

流石の青年も動揺を隠しきれてない様子。

「次はこっちの番だな。」

剣を鞘に戻し居合の構えを取る。

「居合・一閃‼」

そして今度はタクマが侍の青年の後ろに立っており、髪の毛先がはらりと斬れた。

「・・・随分甘いんだね。今なら完全に僕の首を斬れただろうに。」

「その前にこれを取り除きたっからな。」

タクマは札のような耳飾りを持っていた。

「っ⁉」

「大方持ち主の生命に反応して起爆する術札だろう。これをつけたままお前を斬っていたら諸共この辺り焼け野原だ。」

タクマは耳飾りを握り潰し再び剣を構える。

「どうして僕の耳飾りが爆弾だと気づいた?」

「俺の使う鑑定はかなりレベルが高くてな。大体の事は全部見える。一瞬お前から妙な余裕を感じたから試しに鑑定を使ってみたが、大当たりだった訳さ。」

「・・・僕の奥の手をこうも容易く・・・。」

すると青年はため息をつき刀を仕舞った。

「ここは潔く撤退します。このまま君と戦えば僕の命が危なそうだ。」

両手を挙げるがやはりヘラヘラと笑っている。

だが気配から余裕は感じられなかった。

「次にお前等和国が何かしでかしたらその時は容赦なく叩き潰すぞ。」

威圧を強めて威嚇する。

「や~、怖い怖い。ここは尻尾を巻いて逃げるとしますか。」

すると侍の青年は魔石を取り出し足元に魔法陣が展開された。

(魔石?)

「いずれまた会う事があるかもしれないから、その時はまたよろしく♪」

最後まで掴みどころのない侍の青年はその場から消えたのだった。

「転移魔法?あんな魔法は和国にないハズじゃないの?」

「あぁ。あれは国外から持ち込まれた魔法だろう。この国では魔法は術と呼ぶらしいが、転移の類はないはずだ。」

女性陣はそんなことを訝しんでる間、タクマは剣を鞘に納める。

(アイツの率いていた兵士、何だか意思がなく命令されるがまま動いてた感じがした。まるで洗脳のような。・・・一度剣を交えて分かったが、あの男がそれほどの技量を持ってるとは思わない。この件、裏があるのは間違いなさそうだ。)

そこへ茂みで様子を見ていたシュウたちが出てきた。

「どうだ?俺達の力、お前等と協力できそうか?」

「あぁ、申し分ない。是非とも我々と共に戦ってほしい!」

どうやら妖狐族に認められ、タクマとシュウは固い握手を交わしたのだった。

「へぇ。」

しかしその様子を猫耳の付いたフードを被る少年が木の上から伺っていたことを彼らは気付かなかった。


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