『第百五十二章 二人の決意』
突如街の広場で大暴れした狐型の魔獣。
タクマやバハムート達のおかげで被害は最小限に抑えられ、既に出店を立て直している者もいた。
そして鎮静化させた狐の魔獣は三本の尻尾を持つ幼い少女へと姿を変えたのだ。
「お前の人化のスキルと同じか?」
「いえ、ちょっと違うみたい。私の場合は魔獣から人型になるんだけど、この子から感じたモノは人から魔獣になるような・・・?そんな感じがしたわ。」
そこへ助けた出店の男性が顔を覗かせてきた。
「あれま、こりゃ驚いた。妖狐族の娘さんじゃないか?」
「おっさん知ってるのか?」
「よくこの街に来て買い物していく親子の娘さんだよ。暫く見ないと思ってたんだが、何故魔獣化してこの街を襲ったんだ?」
「・・・つーか襲われたのに怒らないんやな。あんさん一応死にかけたんやで?」
「どうってことない!この程度で許せないんじゃ商売なんてできるか!」
そう胸を張って叫び、男性は自分の店に戻って行った。
「妖狐族か・・・。」
「お前ら以外の種族は和国にいるんだな。」
「入国禁止は鬼族だけだからな。」
取り合えず狐の少女を連れて宿に一泊することにした。
彼女の様子見も兼ねて全員一つの部屋の大広間を予約した。
そして、
「テメェゴグマ!それ俺の海老天だろ!」
「今日は散々貴様の言う事を聞いてやったんだ!その対価に決まってんだろ!」
騒がしい食卓。
しかしその席にタクマは同席していなかった。
「タクマはどこ行ったんや?」
酒樽を飲むウィンロスとバハムートが顔を見合わせる。
「アルセラの姿もないな。」
「主様なら先に宿の温泉に行くって言ってたわよ?」
「そう言えばカリドゥーンさんが温泉に入りたいとわめいてアルセラさんが大分前に付き添って行ったような・・・?」
そこまで言いかけたリーシャとリヴはハッと顔を見合わせた。
「「まさか・・・⁉」」
脱衣所で服を脱ぎ、身体を洗い、外の露天風呂にやってきたタクマ。
「一人風呂なんて久々だな。まぁ普段は身体を拭くだけだからな。」
湯船に近づくと、湯気の奥から人影が見えた。
「ん?誰かいるのか?」
「えっ⁉タクマ⁉」
慌てて胸元を隠したのはアルセラだった。
隣にはカリドゥーンもいた。
「あれ?今って男風呂じゃないのか?」
「何を言っとる。ここは混浴じゃぞ?」
「「混浴⁉」」
アルセラもどうやら知らなかったようだ。
「すまん・・・。俺はしばらく中で待つからお前等はゆっくり・・・。」
「い、いや。タクマも、入っていいぞ・・・。」
「アルセラ?」
一緒に湯船に浸かるタクマとアルセラ。
あとカリドゥーン。
暫く沈黙が続いたがアルセラが話を切り出した。
「・・・この前、君達にキツイ言葉をぶつけてしまったこと、本当にすまない。」
「いや、アレは俺が不躾だったんだ。俺も家族を亡くしている身なのに、お前の気持ちを理解しようとしてなかった。大好きな人を目の前で失うのは、普通は耐えられねぇ。俺も母さんを亡くした時は半年も引きずっちまった。でも、お前は一度へこんでもすぐに立ち上がった。俺なんかよりも、ずっと強いぜ。アルセラは。」
そう微笑むタクマにアルセラは、
「リーシャ達から聞いた。君の母親は神だったんだろう?」
「知ったのはセナが死ぬ直前だったけどな。あとセナは育ての親だ。」
「君は、母親の仇を取りたいと思うか?」
アルセラの質問にしばらく黙るが、すぐに返答した。
「勿論取りたいさ。でも無理だ。セナの仇は・・・、あの創造神ラウエルなんだから。」
「っ⁉ラウエル⁉」
「この前の戦いで俺は奴との力の差を思い知った。ヒルデさんが俺の怒りを止めてくれなかったら、俺はあの時点で死んでたかもしれない。」
タクマは拳をぎゅっと握る。
「いずれ奴とは必ず決着をつける!神だろうが創造神だろうが関係ない。必ず、この手で!」
するとタクマの拳をアルセラがそっと握った。
「敵討ちの相手は一緒のようだな。でもタクマ、一人で強くなろうとしてないか?」
「・・・俺個人の問題だからな。お前等は関係・・・。」
「あるさ。私もラウエルにお婆様を討たれてる。だから、一緒に強くなろう!勿論私だけではない。バハムートにリーシャ。他の皆も気持ちは一緒のハズだ。私達は、仲間なんだから。」
彼女の言葉を聞き、タクマはフッと笑いを零した。
「逆に慰められたか。・・・ありがとな。アルセラ。」
笑顔で笑い合う二人の間にカリドゥーンがにゅっと顔を突き出した。
「いちゃついてるとこすまんが来客じゃぞ。」
「イチャッ⁉」
「来客?」
すると突然引き戸が勢いよく開かれると素っ裸のリヴとタオルを巻いたリーシャが入ってきた。
「あーーー‼やっぱり一緒に入ってた‼ズルい!私も主様と温泉入る‼」
涙目で湯船にダイブしてきた。
「ぶあっぷ⁉何しれっと入って来てんだよ!おいリーシャ!お前リヴを連れ戻しに来たんだろ?早く連れてってくれ!」
しかしリーシャも何故か不機嫌そうな顔をして涙目になってた。
「私だって、中身は大人なんです・・・。私だってタクマさんと一緒に温泉に入りたいですよ・・・!」
「お前もかい!」
いつもなら恥じらうリーシャも今回は何だかやけ気味だった。
「・・・・・。」
あまりの光景に唖然とするアルセラ。
「いつまでもへこんでいるのがバカらしくなって来るのう。」
「・・・あはは。そうだな。」
タクマ達を見て何かが吹っ切れたアルセラだった。




