『第十五章 裏事情を暴け』
「オレと従魔契約してくれへんか?」
「え?」
タクマは目を丸くした。
「お前の考えはこうやろ?ギルドの裏事情を暴くためにオレと仮契約するつもりやった。ちゃうか?」
仮契約。
通常の契約とは違い一時的な主従関係の事だ。
通常契約より魔獣の能力は完全まで引き出せないが、即解除など保険ができるメリットがある。
「いや、その通りだ。でもいいのか?そんな簡単に契約を持ち込んで・・・。」
「構へん構へん。ここ数十年ただ狩りして生きているだけで退屈やってん。タクマやバハムートの旦那についていけば楽しいことがいっぱいあると思うたんや。」
数十年・・・、人間からしたら気が遠くなる年月だがドラゴンのような長命種にはあっという間なのだろう。
ほんの退屈しのぎのつもりかもしれないが楽しみたいと思う気持ちは本心のようだ。
「・・・よし分かった!お前が仲間になってくれるのはこっちも願ったりかなったりだ。」
「よっしゃ!ほな早速契約いっとこか!」
ウィンロスは頭を下げ、タクマはウィンロスの額に手を触れる。
「汝を、我が従魔とする!」
「この魂、我が主に授ける!」
「・・・何を言ってるんだお主ら?」
バハムートの半開きの目線が鋭く刺さる。
「え?こういうのって雰囲気大事じゃね?」
タクマはキョトンとした表情で言った。
ウィンロスも高らかに笑い出す。
「なはは!ついついノリで!」
すでに楽しそうだ。
今後の方針とウィンロスとの契約が済、リーシャの元へ戻ってきた。
「あ、お帰りなさい!」
焚火の周りにはミズヘビを使用した料理がたくさん並んでいた。
「おいおいすげぇ量だな・・・。これ全部リーシャが作ったのか?」
「料理している内に楽しくなっちゃって♪」
可愛らしい笑顔で料理を見せる。
「おぉ、めちゃくちゃ美味そうやん!早よ食おうぜ!」
食らいつくウィンロスに続きタクマ達もリーシャの料理を楽しんだ。
生態系の修正とウィンロスを従魔に引き入れたタクマ。
これでようやくリーシャの魔力を回復させることが出来る。
「ほな始めるで?」
「お、お願いします!」
リーシャは少し緊張しているようだ。
ウィンロスはリーシャを囲うように翼を広げた。
すると周りに光の玉がふわふわと漂い始めた。
「何だこれ?」
「自然の魔力だな。」
辺りに漂う光の魔力がウィンロスの翼の中に集まる。
そして翡翠色の球体が出来上がった。
「嬢ちゃん、リラックスしとき?」
「は、はい!」
球体は徐々に霧状に変わりリーシャに降りかかる。
霧がすべてかかり終わり、リーシャはゆっくりと目を開けた。
「何でしょう・・・、すごく気持ちが安らかになります。」
ぽ~っとした表情で顔を上げた。
「よし、終わり。気分はどうや?」
「はい、身体がすごく軽くなったような・・・そんな感じがします。」
「ほんなら良かった。」
腕を上下に振るリーシャ。
その姿はまるで小動物みたいだった。
「転生者と言えど、やはり子供だな。」
「そうだな。」
タクマとバハムートは喜ぶリーシャを見て和んでいた。
一方、国門街のギルドにて待機していたアルセラに客人が来ていた。
「このような遠方まで来ていたとは驚きました。ロイル隊長。」
アルセラの向かいの席にはワカメのように髪を下ろした男性が座っていた。
彼は近衛騎士団二番隊隊長、ロイル・デガント。
以前タクマと遭遇したあの隊長だった。
二番隊隊長、つまりアルセラの上司にあたる。
「森に出現したドラゴンの捜索を終えた貴方がどうして再びこの地に?もしや新たな任務で?」
「いや、今回は俺の独断で動いている。以前俺が捜索していたドラゴンが王都の勇者に討伐された話は既に耳に入っているだろう?」
「はい。聞き及んでおりますがそれが何か?」
「どうも訝しいんだ・・・。」
ロイルは眉間にしわを寄せる。
「いぶかしい?どういうことですか?」
「勇者は聖剣を犠牲にしてドラゴンを打倒したと聞いたが、あの勇者は異様なまでに聖剣に執着していたんだ。召喚時から彼を見てきた私はその勇者が聖剣を持ち帰らなかったことがどうしても不審に思ってしまう。」
「損傷が酷くて持ち帰ることが叶わなかったのではないのでは?」
「いや、過去に聖剣が紛失した時、勇者は騎士団を無理やり動かして散策にあたらせたほどだぞ?」
「なるほど。破片でさえ持ち帰ってくるはずだと?」
「その通りだ。」
そのことに不審を抱いたロイルは真実を探るため再び国門街付近まで足を運んだのだそうだ。
「それに帰還した勇者の様子も少しおかしかったんだ。」
「おかしいとは?」
「いつもなら傲慢な態度で報告をしてくるのだが今回は明らかに違った。まるで何かに怯えているような様子だったんだ。」
「怯える⁉あの勇者が⁉」
アルセラは思わず席を立った。
勇者は自分勝手で怖いもの知らずと王都では名が知られており、アルセラも勇者の身勝手さは十分承知だったからだ。
「あの勇者が・・・、ではドラゴンの討伐は嘘だったんですか⁉」
「いや、ドラゴンがいた森へはすでに足を運んだがそれらしき気配はなかった。理由はどうあれドラゴンが居なくなったのは事実だ。」
信じられない事実が飛び交いアルセラは頭を抱えながら席に腰を下ろした。
「ますます分からない・・・。では勇者がドラゴンを討伐したという報道は偽りだったのですか?」
「それを確かめるために俺が来たんだ。」
二人が重い空気を漂わせていると何やら外が騒がしいことに気づいた。
「何だあの騒ぎは?」
するとギルドの入口からロイルの部下が息を切らしながら走りこんできた。
「た、大変ですロイル隊長‼」
「どうした、何があった⁉」
「ド、ドラゴンです‼それも二体‼」
「ドラゴンだと⁉」
「この街にドラゴンが二体迫ってきています!しかも二体とも大型です‼」
「何だと⁉」
ロイルは青ざめた表情でギルドを後にした。
残されたアルセラはふと考え込んだ。
「ドラゴン?まさかとは思うが・・・、とにかく私も行こう!」
国門街の外では完全武装した近衛騎士団で溢れていた。
ロイル率いる二番隊とアルセラの四番隊。
だが四番隊は飛んでくるドラゴンを見るや否や半分警戒を解いていた。
(あ、何だ。あの人のドラゴンだ。)
四番隊の全員がそう思っていた。
「何や大勢集まっとるのう?」
ゆっくりと地面に降りてきたのはウィンロスだった。
少し遅れてバハムートも降り立つ。
「ん?見知らぬ兵隊も混ざっておるが?」
バハムートは二番隊を見て言った。
「お、おい・・・本当にドラゴンだ。」
「しかも二体だと?か、勝てるわけない・・・。」
二番隊の兵士はすでに戦意喪失気味だった。
「皆無事か!うおっ⁉」
兵士の間からロイルが前に出てきた。
目の前に立つ二頭のドラゴンを目の当たりにし、一瞬後ずさりした。
「こ、これは・・・⁉」
ロイルが武器を取ろうとすると知っている声が聞こえた。
「あれ?この間の騎士団長?」
バハムートの背中からタクマが降りてきた。
「き、君は!」
「以前街道でお会いしましたね。」
タクマはロイルの前まで歩いてきた。
「あの時のドラゴンを従魔にしていた少年!」
ロイルは驚いていると兵隊をかき分けてアルセラも合流してきた。
「すまん通してくれ・・・タ、タクマ殿⁉」
「アルセラさん!今朝がたぶりですね。」
「そ、そうだな・・・。」
アルセラは耳を赤くして目をそらす。
まだ今朝の事を根に持っているようだ。
そこに兵隊の一人がおずおずと声をかけてきた。
「あの~隊長、こっちの問題はどうします?」
恐る恐るウィンロスを指した。
「何や?人を指さして、失礼やな。」
兵隊はビビり後ずさりした。
「えーと・・・タクマ殿。このもう一体のドラゴンは何だ?」
「そうだ紹介します。こいつが風刃竜・ウィンロスです!」
「えっ・・・。」
アルセラとロイルは耳を疑った。
騎士団の兵士たちもその名前を聞いて震えだした。
「ちょっと待てタクマ殿・・・今なんと?」
アルセラは涙目になってしまった。
「何や聞こえんかったんか?オレが風刃竜・ウィンロスや。よろしくな‼」
ウィンロスは翼でグッドサインをした。
その瞬間アルセラとロイル、そして騎士団の全員が泡を吹いて倒れた。
「・・・なんかデジャヴな光景だな。」
「ハハ、懐かしいな。」
バハムートの背中にずっと座っていたリーシャがぼそりとつぶやいた。
「・・・私、ずっと空気でした。」
何とか騎士団の方々にウィンロスの事を理解してもらい街に入れたタクマ達。
ウィンロスはタクマの従魔になったのでギルドに登録申請をするため一同はギルドを訪れていた。
「これで登録完了です。」
受付嬢がタクマのカードを渡す。
「それにしてもまさか二頭もドラゴンを従魔にしてしまうとは、前代未聞ですよ。」
「そんなにですか・・・。」
それもそうだろう。
ただでさえ一頭だけでも十分厄災級の力を持った魔獣を二頭も使役してしまっているのだから。
(ウィンロスの打ち解けた会話でそこら辺の事情をすっかり失念していたな。気を付けるか。)
さて、タクマはアルセラとロイルの待つテーブルへ戻り改めて事の顛末を話し合う。
「あの、アルセラさん?どうしたんですか、ずっとふさぎ込んでしまって?」
「誰のせいだと思っているんだ・・・。」
「ハハ、まぁとりあえずあの風刃竜が君の従魔になったというのならこの辺りも安心だな。」
ロイルも苦笑いで話した。
ウィンロスのおかげでリーシャも完全に回復しついでに仲間も増えていい事尽くめ・・・、とはいかないのが現実だ。
タクマは二人に登山中怪しい教団を目撃したことを話した。
「黒いローブか。この辺りでは聞かない装束だな。」
「ロイル隊長、もしや他国からの使者なのでは⁉」
「その可能性もあるがタクマ殿の聞いた話ではその教団は我がアンクセラム王国を貶めようとしているのだろう?しかもレーネという女神の信託で。」
ロイルも一介の女神が国を消させる信託をすることはありえないと思っているようだ。
「創造神ならまだしも一人の女神の信託にしては規模が大きすぎる。」
「バハムートと同じこと言ってますね。あ、すいません!芋のチップスお代わり!」
タクマは果汁ジュースを飲みながら新しく来た芋のチップスをバリバリ食べてた。
「・・・よくこの空気の中、食が進むな。」
アルセラが呆れた表情でチップスを頬うばるタクマを見る。
「正直創造神だの女神だのよくわかりませんからね。ゴクゴク、ケフッ!……神より今の現状を何とかしたいんですよ。」
「そうだな。その怪しい教団がここのギルドマスターと裏で繋がりアルセラを貶めようとしていたんだったな。」
ロイルが小声で話を続けた。
「やはり私がハメられたのは事実でしたね。」
疑ってはいたが依頼を指名された所から殺されそうになった事実に自身の不甲斐なさに彼女はしゅんとしてしまった。
「貴女が気に病むことはない。結果生きているんだし前を向いていきましょう。」
「タクマ殿・・・、せっかくいい事言っているのにチップスを食べながらでは閉まらないぞ・・・。」
「ありゃ?」
「フハハッ!」
そんな夜を過ごしタクマは今、宿で休んでいた。
ベッドに座り刃折れの剣を手に取った。
「すっかり忘れていたな。」
暗い窓の外からバハムートが顔を見せる。
「いろいろありすぎてそれどころじゃなかったからな。」
思い返せば剣を新調するためにドワーフの里に赴き、そこでリーシャに出会い従魔結石を盗られたり勇者と戦ったり・・・本当にたくさんの事が続いた。
「リーシャは?」
「もう寝たぞ。妃様の残した卵を抱いてな。」
「そうか。」
「ちなみにウィンロスはそこで腹を出して寝ているぞ。」
窓の外を見るとウィンロスが仰向けで爆睡していた。
「鳥の寝方じゃねぇだろ。」
「そうだな。ハハハ。」
二人は思わず笑ってしまった。
タクマは深く深呼吸をする。
「さて、始めるか・・・。」