『第百四十五章 再会の陰浪者』
ヒルデの手紙を無事届けたタクマ達一同は街を出発し、とある森の中で野営をしていた。
「怪我は大丈夫か?リーシャ。」
調理をしながらタクマが心配する。
「はい。ウィンロスさんに回復魔法をかけてもらいましたので。」
笑顔で答えながらリーシャも料理を作る。
二人の作った料理を他のメンバーが食らいついていた。
「これでヒルデに頼まれた使いは済んだ。次は『和国』へ向かうのだろう?」
「あぁ。ヒルデさんの言葉じゃその和国にカリドゥーンのアーティファクトがあるらしい。」
人間体のカリドゥーンもご飯を食べながら会話に混ざる。
「もぐもぐ、残るアーティファクトは『フェニックス』。そして『フェンリル』じゃ。じゃがフェンリルは自由に動き回る故、可能性としてはフェニックスのアーティファクトが高いじゃろうな。」
次なる目的地は和国に決まった。
だが、
「・・・・・。」
アルセラは未だに食事が喉を通っていなかった。
「まだ立ち直ってないんか?」
背後からウィンロスが顔を覗かす。
「すまない・・・。やはり心のどこかでお婆様の死を受け入れられてない。」
「スゲー引きずるやん。」
「デリカシー‼」
すかさずリヴがウィンロスの顔面にキレのある蹴りを入れた。
「いつまでも俯いてはいられんぞ小娘。儂だってあやつの死は応えてる。じゃがいつまでもうじうじしていたらあの老いぼれが化けて出て来るやもしれんぞ?」
「ヒルデさんなら有り得そうですね・・・。」
リーシャは苦笑いした。
その時、彼らの下へ何者かがもの凄い勢いで迫ってきていた。
「っ‼」
その気配にいち早く気付くバハムート。
突如立ち上がると同時に木々の間から巨大な影が襲い掛かってきた。
影はバハムートに掴みかかり諸共転がって行った。
「バハムート⁉」
体勢を立て直し後ろ足で影を蹴り上げた。
しかし蹴り飛ばされた影も見事な身のこなしで受け身を取る。
「何なんや⁉」
「待て!アレは・・・?」
よく見るとその影には見覚えがあった。
黒い鱗に覆われクリスタルの角が折れた二足歩行型の黒竜。
「お前、クロス⁉」
それはかつて行動を共にしたドラゴンテイマーの従魔だった。
「お前がいるってことは・・・。」
「その通りだぜ。」
茂みから紺色髪の少年も現れた。
「ネクトさん!」
「よっ。久しぶりだな。」
以前、従神ジエトの起こした騒動を共に解決したタクマのライバル、ネクト再会した。
彼に続いてもう一体のドラゴン、魔械竜のロキと元断罪聖女リルアナとも再会した。
「リルアナー!」
メルティナは大喜びで彼女に抱き着いた。
「久しぶり、メルティナさん。」
ニッコリと笑顔を見せるリルアナ。
「あれ?リルアナさん、今笑いました?」
彼女は事件の際、感情を奪われてしまっていた。
しかし今はメルティナに対し笑顔を見せている。
「あぁ、あの後いろいろあってな。少しずつだが感情が戻ってきてるんだ。」
「絶望させる時まで一歩近づいたってことか。」
「ホンマ何度聞いてもなんちゅう理由やねん・・・。」
すかさずウィンロスがツッコみを入れた。
「・・・・・。」
一方で彼らと初対面のアルセラとカリドゥーンは呆然としていた。
「あ、すまんアルセラ。コイツはネクト。前に一度行動を共にした友人で、俺のライバルだ。」
ネクトを紹介するタクマだが、ネクトはアルセラの前に顔を近づける。
「な、何か・・・?」
「お前、彷徨ってるな?迷いの眼だ。」
アルセラの眼を真っ直ぐ見てそう呟くネクト。
「ほう、分かるのか。貴様。」
「境遇の性か相手の眼を見るだけで大体何を考えてるのか分かるからな。そんで、お前は何だガキ?」
「誰がガキじゃこりゃ!儂はかの伝説の勇者が使っていた魔聖剣カリドゥーンじゃぞ!」
「知らん。」
「うわぁぁぁん!」
泣きわめくカリドゥーンを他所にネクトは再びアルセラに寄る。
「見た所剣士のようだが、心に迷いがあるとその剣筋も鈍ると聞く。」
「確かにタクマも一度心に迷いが生じ剣筋が鈍ったことがあったな。」
「あったわ。」
「・・・・・。」
図星をつけられたアルセラは黙り俯いてしまった。
「アルセラさん・・・。」
リーシャ達が心配そうに見ているとネクトがある提案を出してきた。
「アルセラと言ったか?お前、俺と戦ってみろ。」
「っ!」
「ネクト?」
少し広けた場所に移動してきた一同。
タクマ達が高所で観戦する中、広場の真ん中で互いに見合うネクトとアルセラ。
「確認だが、どちらかが戦闘不能になるまでだったな?」
「あぁ。」
初対面のネクトに対し理解できていないところが多いアルセラは腹を括った。
「突然の展開だが、やるからには全力で行くぞカリドゥーン!」
「仕方ない。」
カリドゥーンは少女から黒剣の姿に戻りアルセラの手に収まる。
「奇妙な武器だな。まぁ俺も似たようなもんか。」
ネクトも背中の長刀を引き抜き華麗に振り回す。
「それじゃぁ、始め!」
タクマの合図と同時にアルセラが一気に距離を詰める。
振り上げる剣撃をネクトはリーチの長い長刀で華麗に避けた。
「単調且つ鈍い。」
着地を狙って剣を振るうアルセラだがネクトは空中で身体を捻りアルセラの剣を弾いた。
「あの一瞬で反撃を⁉」
「驚いてる暇はねぇぞ。」
着地と同時に一気に攻め入るネクト。
「我流・汪滝!」
長いリーチで何度も振り回す技にアルセラはどんどん後ろに押されていく。
(くっ!見たことない技に高い身体能力。タクマの話では彼はテイマーだと聞いたが!)
アルセラも負けじとネクトの攻撃を振り払い反撃をする。
「破極牙線‼」
強力な一閃がネクトに振り下ろされる。
だが、
「我流・突貫‼」
正面から力技でぶつけられアルセラとカリドゥーンは呆気なく吹っ飛ばされてしまった。
「きゃぁ⁉」
(あ、可愛い声出た。)
リヴが内心そう思っているうちに倒れたアルセラにネクトが長刀を突き付けた。
「勝負あり!」
タクマの合図で模擬戦は終了した。
「・・・っ!」
「迷いがあるなら早々に立ち切っといた方がいいぞ。お前の都合なんて、アイツ等には関係ねぇからな。」
圧倒的な力の差を見せられ、アルセラは力なくうなだれたのだった。
「アルセラさん・・・。」
リーシャ達もネクトたちの下へ降りてくる。
「気にするなアルセラ。ネクトは言葉は辛らつだがちゃんと人の想いに寄り添ってくれる。ああ見えて良い奴なんだよ。」
アルセラに小声で言うタクマの首筋に背後からネクトの長刀がキラリと光った。
するとメルティナを抱きしめていたリルアナが口を割る。
「ネクト。彼らにあの事を。」
「あぁそうだった。」
「「「?」」」
タクマ達が一斉に首を傾げた。
「再開して早々悪いが、俺達と来てくれるか?」
「何かあんのか?」
ネクトとリルアナは顔を見合わせ小さく頷く。
「依頼と言うか、ある奴等から頼みごとを請け負っててな。お前等と再会できたのは運が良かった。取り合えずついてきてくれ。今俺達が拠点にしている『鬼の里』へ。」




