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『第百四十三章 託される未来』

しばらく投稿をお休みします。

物語の構成が定まり次第投稿を再開しますのでどうか気長に待っていただけたら幸いです。

タクマの炎の一閃がラウエルに直撃し、彼の神格を守っていた魔法壁に亀裂が走った。

しかし、上空での追い打ちであったためタクマはその一撃を最後に落下していく。

ラウエルも深手を負い傷を押さえながら天界へと転移していったのだった。

地面に降り立つタクマはギリッと歯を食いしばる。

「・・・っ!くそっ!」

地面を叩くタクマの後ろではアルセラ達が致命傷を負ったヒルデの下に集まっていた。

「お婆様、しっかりしてください!ウィンロス回復魔法は?」

「無理や・・・。ここまで傷が深いと、もうオレでも・・・。」

「そんな・・・。」

腹部に剣が貫いた状態のヒルデ。

呼吸も脈も次第に弱っていく。

そこへバハムートとヘルズ・ラルマが合流してきた。

「案の定こうなったか。アイツと戦ってまだ息があるのは正直驚いた。」

「ヘルズ・ラルマ・・・。」

リーシャはヘルズ・ラルマに向く。

「貴女は、知ってたんですか?創造神がやって来るって・・・。」

「まぁな。だが奴との関係性を話すつもりはないぜ。まだその時じゃないからな。」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら首を横に振る。

「貴様は、我らの敵か否か?」

バハムートが彼女を睨み下ろしていた。

「ノーコメント、()()()。さて、奴らの襲撃は終わったみたいだし、正直不完全燃焼だが私はまた籠らせてもらうぜ。時が来たら全部教えてやるよ。じゃあな。」

意味深な言葉を残し、ヘルズ・ラルマはラルとメルティナに別れた。

気絶している二人をバハムートが受け止める。

「時、ですか・・・。」

一方で、アルセラはヒルデの前で立ち尽くしていた。

「お婆様・・・。」

「そんな顔をするなアルセラ。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ。」

アルセラは今にも泣きだしそうな表情だ。

ヒルデは優しく微笑み地面を叩く。

「座りなさい。少し話をしようじゃないか。」

言われた通りアルセラはヒルデの前に正座をする。

タクマ達も周りに集まった。

「すまなかったね。病の事、ずっと隠してて。」

「いえ、きっと私達の事を気遣っての事でしたでしょう。隠したいと思うのも仕方ありません・・・。」

ヒルデは全てを話した。

不治の病により余命半年もない事を。

「あたしの親友とギガルにしか話してなかったからね。アンタ達に無駄な心配をかけさせたくなかった。」

「無駄なんかじゃありません。もっと早く言ってくだされば、少しでもお婆様との時間を大切に出来たのに・・・。今更言われても、もうどうにもできないじゃないですか!」

アルセラは涙がこみ上げ俯いてしまう。

「それだよ。アンタ達にそんな思いをしてほしくなかったんだ。本当はひっそりと余生を終えたかったけど、こんな状態じゃ無理ないか。」

腹部に刺さっていた神器エクスカリバーが光の粒と消え、出血が促進してしまった。

「お婆様!すぐに止血を・・・!」

「無理さね。ウィンロスも言ってただろう。あたしはもう死ぬ。」

「っ!」

アルセラに続き、リーシャも心に痛みが生じる。

「最後に、アンタ達に伝えたいことがある・・・。」

朝焼けが近い夜空の中、ヒルデは語った。

「あたしの部屋、机の引き出しに手紙がある。それをあたしの実家、『ステイン家』に届けてくれるかい?あたしからの、最後のお使いだ。」

タクマ達は黙って頷いた。

「それともう一つ、アンタ達が探してるカリちゃんのアーティファクト。その一つに心当たりがあるんだ。」

「え・・・?」

「ここから北東の内陸に位置する国、『和国(わこく)』に行きなさい。そこにきっと、アンタ達の探し求めてるものがあるはずだ。」

「和国・・・。ヒルデさんの書斎で読みました。この大陸の四割を治めてるとても大きな国です。」

「そうさ。ただあそこは今ちょっとした問題があるみたいだけど、アンタ達なら大丈夫だ。あたしのお墨付きさね。」

「お婆様・・・。」

「アルセラ。きっと辛い事、悲しいことが待ち受けてるだろうけど、それよりももっと楽しいこと、嬉しいことが待ってるはずさ。アンタは若い。アンタ達の未来はこれからなんだ。胸を張って生きなさい。」

「でも、でも・・・!」

アルセラの涙が止まらない。隣に立つカリドゥーンもずっとだんまりだ。

「・・・何も悲しむことはないよ。元々あたしは死ぬ運命だったんだ。でも、こうして子供たちを守れたことが、何よりも誇らしい。老い先短いこの老いぼれの命、若者の糧となれるなら本望さね。」

夜が明け、朝日が彼女たちを包み込む。

「あたしは、アンタ達の歩む未来を、信じてるよ。」

ヒルデは優しく微笑むと、リーシャ達も膝をついて泣き崩れる。

「タクマ君。」

「はい・・・。」

「孫娘を、どうかよろしく頼むよ。」

「・・・勿論です。」

タクマに意思を託し、ヒルデは静かに泣き崩れるアルセラに向き直る。

「アルセラ、あたしの孫として生まれてきてくれて、ありがとう。お兄ちゃんのウィークスにも、伝えて、おくれ・・・。」

「ひっく・・・、私も、お婆様の下へ生を受けられて、幸せでした・・・!」

何度も涙を拭くも溢れ出てしまう。

自分のために悲しんでくれる子たちに囲まれヒルデは嬉しそうに微笑んだ。

そして次第に視界がぼやけ、意識が遠退いていった。


 ・・・眼を開けるとそこは、真っ青な快晴の空と美しい花の草原に座ってた。

「ここは、そうか。あたしは死んだんだね。」

死後の世界とは思えないほど美しい場所。

自然と辺りを見渡していると、一人の男性が立っているのを見つけた。

「っ!」

ヒルデはその男性が誰なのかすぐに分かった。

「パパ・・・?」

それは子供の頃、死別してしまった父だった。

父は竹刀を立てて仁王立ちしている。

「・・・ねぇパパ。あたしの人生、どうだった?辛い事、悲しいことも沢山あったけど、楽しいことも沢山あった。あたしは、パパやママが誇れる人生を、歩んでいけたかな?」

すると父は優しく微笑んだ。

『よく頑張ったな。お前は自慢の娘だ。』

そう聞こえた気がした。

生まれて初めて父から褒めの言葉を貰ったヒルデもニッコリと頬を上げる。

すると父の隣に和服の美女が現れ、父と何かを話している。

ヒルデはその女性が誰なのかすぐに分かり、涙を流した。

そう、その女性は幼き頃、病死した大好きな母だった。

母はヒルデを見て優しく微笑み腕を広げる。

・・・気が付くとヒルデは真っ直ぐ走っていた。

身に着けていた鎧は剥がれ、髪も黒くなっていく。

そして十七歳の少女となったヒルデは真っ直ぐ母親の腕の中に飛び込んだのだった。


 「・・・・・。」

「・・・・・。」

朝日が差し込む中、息を引き取ったヒルデを前に残されたタクマ達。

女性陣は各々泣いていた。

目を覚ましたメルティナもウィンロスに顔を埋めている。

「・・・オレ等は、守られたんやな。」

「あぁ、偉大なる剣士によってな・・・。」

ヒルデを前にアルセラは静かに泣いていた。

「私、何も出来なかった・・・。お婆様が病に苦しんでいた時も、神との戦いの時も、カリドゥーンのおかげで強くなったと思ってたけど、到底及ばなかった。こんなに悔しいのは、初めてだ・・・。」

「アルセラさん・・・。」

「お婆様に未来を託されたが・・・私は、私は・・・、お婆様みたいになれる自信が、これっぽっちも湧かない!私なんかに、お婆様の代わりが、勤まるだろうか・・・!」

祖母の死と責務。

その同時がアルセラに重くのしかかり彼女はその重さに押しつぶされそうになっていた。

その時、

「いつまでうじうじしとるか‼」

「「っ!」」

ずっと黙っていたカリドゥーンが叫び出した。

「こんな所で俯いていたって、この老いぼれが戻っては来んのじゃぞ‼メソメソしたって何も変わらん‼小娘!貴様はこの老いぼれのようになれるか不安じゃと⁉ふざけるな!貴様は老いぼれのようになれんのは当たり前じゃ‼人間誰しも全く同じにはならん‼貴様は貴様の出来ることをすればいいんじゃ‼それが出来んならここでいつまでも小童のようにわめいておれ‼」

叫ぶ彼女の眼から涙が溢れ出ていた。

「カリドゥーン‼」

アルセラはがばっとカリドゥーンを抱きしめる。

「ありがとう・・・。私と、お婆様のために、泣いてくれて・・・!」

「馬鹿言え、儂は剣じゃぞ・・・!泣いて、なんか・・・、うわあぁぁぁぁぁぁん‼」

カリドゥーン自身も悔しかったのだ。

最強の魔聖剣と謳われていながら、目の前の命を守れなかったことに。

(儂に、本来の力があれば・・・、()()()は・・・!)

リーシャも泣いており、リヴが慰めていた。

(・・・やはり、目の前で命を失うのは、どんなに時が経っても慣れんものだな・・・。)

バハムートも以前の主人であるシーナを思い出していた。

女性陣が悲しみに溺れる中、タクマは黙ってアルセラの隣に腰を降ろした。

「タクマ・・・。」

「・・・海が出来るまで、泣いていいぞ。俺達が全部すくってやる。」

その言葉をかけられたアルセラはそのまま感情が溢れ出す。

そんな彼女に、タクマはずっと隣に寄り添い続けたのだった。


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