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『第百四十二章 己が責務』

ラウエルの不意に放った黒線は真っ直ぐリーシャに迫る。

「リーシャ‼」

タクマも立ち上がるが間に合わない。

だが、

「ふん‼」

黒線がリーシャに直撃する寸前、アルセラが現れカリドゥーンで黒線を受け流した。

「アルセラさん!」

「危なかった。ホントにギリギリ・・・!」

全力疾走で駆けつけたのか息が荒かった。

(あの黒剣は、前任の創造神が創り出した聖剣?何故あのような人間が所持している?)

そこへヒルデがラウエルに切り掛かる。

「あたしと戦ってる最中に子供を狙うなんてとんだ下劣野郎だ!」

果敢に切りかかるもラウエルに隙を突かれ腹部に鋭い蹴りを入れられてしまい建物に叩きつけられる。

「ヒルデさん!」

「お婆様!」

頭を抱えているが軽傷の様子。

そこへラウエルがゆっくり歩み寄ってくる。

「・・・一つ提案をしよう。」

「提案?」

「お前、私の新世界で生きてみないか?」

耳を疑う提案に全員が困惑した。

「お前ほどの強者を失うのは実に惜しい。どうだ?私の創る新世界で生きて見ないか?」

「あたしがその誘いに乗るとでも?戦乱の世に放り出されるなんて死んでも御免だね!」

なんとか立ち上がり剣を構える。

「あたしが強くなったのは戦うためじゃない。守るためだ!そんな守るものも、孫もいない世界なんて、生きる意味がない!アンタの誘いには同意しない!」

勇ましく叫ぶヒルデにラウエルは、

「・・・そうか。実に残念だ。」

エクスカリバーを消滅させ新たな魔方陣を展開した。

「『創造術式・神器シェキナール』!」

「あれは、エルエナの神器!」

輝く弓矢を構え魔力が矢先に集中されていく。

「だったらお前を生かしておく価値はない。ここで死んでくれ。」

「生憎と、そう簡単にくたばる質じゃないんでね!」

ヒルデも剣を掲げ魔力を集中。

剣先に魔力の渦巻が現れ、内側に星空のような模様が浮かび上がる。

「『星流式・銀河』‼」

「『トライデントスター』‼」

銀河の渦。

三本の光の矢が衝突しとんでもない大爆発を起こす。

「っ!」

爆煙の中から双剣に変形したシェキナールを構えてラウエルが飛び出してきた。

そこをヒルデは迎え撃つ。

「『星流式・三日月』‼」

三日月を描くような剣筋でラウエルを帰り討った。

「とことん油断ならない男だ!」

そこからの二人の猛攻は目で追えなかった。

一人が攻めたら気が付いた時には守りに徹したり、剣技の戦いと思ったら魔術のぶつかり合いだったり。

とにかくいろんな事が速すぎた。

その戦いを見ているタクマ達は息を飲んだ。

「これが、剣星の、ヒルデさんの戦い・・・。」

「お婆様・・・。」

タクマは軋む身体をなんとか起こす。

(ただ正面からねじ伏せるのは不可能だ。今のうちに奴の神格を探る!)

バハムートの『鑑定』を最大威力でラウエルの核を索敵する。

レーネとの戦闘の頃に比べてスムーズに鑑定をすることが出来た。

しかし、タクマに見えた情報は、

「神格に、五重の防壁・・・?」

ラウエルの体内にある神格に防壁が五枚重ねで張られ、守られていたのだ。

ラウエルはタクマにわざと神格を見せたのかこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「あの野郎・・・!」


 「はははは‼やはり戦と言うのは心が躍る!戦乱の新世界を創造する意欲がより高まるぞ!」

「はた迷惑な性分だね!」

ヒルデの剣が光り輝く。

「『星流式・星砕き』‼」

剣を突き立て光の彗星となって突進する。

「『破壊術式・亜空裂破(あくうれっぱ)』‼」

空を拳で殴ると宙にヒビが割れ強烈な衝撃波がヒルデを襲った。

「うおぉぉぉぉぉぉ‼」

それでもヒルデは正面からごり押しで突き進む。

「化け物め!『創造術式・神器アイアス』‼」

ラウエルは美しい盾を生み出しヒルデの攻撃を正面からねじ伏せた。

「『星流式・三日月』‼」

しかしヒルデはすぐさま宙で身体を捻り追撃を与えラウエルを後退させる。

「やるね!」

「『星流式・白虎(びゃっこ)』‼」

今度は白い魔力体の猛獣を放ちラウエルに襲い掛かる。

「『創造術式・神器ラウタール』‼」

六本の美しい槍を創造し白虎を穿つ。

その内の二本がヒルデに迫った。

「『星流式・星屑(ほしくず)』‼」

ヒルデは一歩も動かず二本の槍を真っ二つに切り裂き、ラウエルに攻め入る。

「うおぉぉぉ‼」

「ハハハハッ‼」

二人の強烈な一撃が辺りを震わせタクマ達を退けた。

「うわぁ⁉」

吹き飛びそうなリーシャを支えるタクマ。

そこへウィンロスとリヴも合流してきた。

「何よ、アレ・・・。」

「・・・・・。」

あのウィンロスですら言葉を失っていた。

煙が晴れると最強者の二人が立ち尽くしていた。

「ハァ、ハァ・・・。」

しかしヒルデの方は酷く疲弊していた。

無理もない。

いくら剣星と言われど御年七十は過ぎてる高齢。

体力は既に衰えている。

あれだけ激しい戦闘を繰り広げていたのなら尚更だ。

「・・・老いとは何とも嘆かわしい。私の新世界では老いによる衰えの概念はない。永遠に戦が出来ることを約束しようか?」

ラウエルが再び交渉を持ちかけるがヒルデは、

「ハァ、ハァ・・・、アンタもしつこいね。どんなに勧誘しようとも、あたしの意志は変わらないよ!」

「・・・そうか。」

ラウエルが指を鳴らすと、突如アルセラが苦しみだした。

「ゴフッ⁉」

「お婆様⁉」

「ヒルデさん⁉」

血反吐を吐き剣に寄り掛かるヒルデ。

「やはりお前、自身に『魔瘴無効』をかけていたか。病を一時的に消滅させる医療魔法。」

その話を聞いたアルセラ達は驚きを隠せなかった。

「病って、どういうことですか?お婆様・・・?」

「・・・・・。」

ヒルデはだんまりだった。

「その病、余命半年と言ったとこか。そんな弱った身体でよく私と渡り合えたものだ。」

アルセラ達は更に驚愕する。

「お前が私の誘いを拒否するのは分かった。ならばせめてもの慈悲だ。苦しみのないよう息の根を止めてやる。騎士として死ねるのなら本望だろう?」

再び神器エクスカリバーを生み出し構えるラウエル。

「くっ!」

アルセラがカリドゥーンに手をかけ駆け寄ろうとした時、ヒルデから凄まじい威圧が放たれる。

「例え病に侵されようと、あたしは未来ある子供たちを守る‼それが年寄りの責務だ‼」

ヒルデから光のオーラが溢れ出る。

剣を構え姿勢を低く保ち力を溜める。

「ハハ、ハハハハ!この高鳴り!この高揚!この感情こそ私の求めていたモノ!剣星ヒルデ、お前に敬意を称し私の持てる全てをぶつけてやろう!」

エクスカリバーを手放し両腕に魔力を溜めるラウエル。

(『魔障無効』を消された今、あたしの出せる全力はこの一時だけ。ならば見せてやろうじゃないか!剣星ヒルデの、生き様を‼)

ヒルデは目を閉じ意識を集中する。

「我が騎士道に賭けて、お前を討つ‼」

ヒルデの瞳が金色に輝き魔力が最高潮に達する。

「『星流奥義、零式・森羅万象(しんらばんしょう)』‼」

「『破壊術式・全消滅(オールデリート)』‼」

轟音と眩い光と共にラウエルに迫るヒルデと黒く禍々しい魔力を纏ったラウエルの両腕の拳が衝突。

その衝撃波で辺りの建物が消し飛んでいき、タクマ達も爆煙にのみ込まれる。

「お婆様ぁ‼」

アルセラの叫びを最後に爆煙が天高くそびえ立つ。

瓦礫の広場と化したその場所でしばらくの静寂が包み込む。

すると瓦礫を押し退けタクマが立ち上がる。

「いてて、大丈夫か二人とも?」

骨折で痛む身体で瓦礫を退かしリーシャとアルセラに声をかける。

「うぅ・・・、っ!ヒルデさんは⁉」

前方の土煙が晴れると二人が姿を現した。

「お婆様!ご無事でした・・・か?」

アルセラの眼に映ったのは、腹部に神器エクスカリバーが貫通したヒルデだった。

「あ・・・、あぁぁぁ‼」

「何や?一体どうし・・・、っ⁉」

瓦礫から飛び出したウィンロスとリヴも息が詰まる。

「こふっ・・・!」

「最後の一撃は実に素晴らしかった。しかし、お前は所詮人間。神に、ましてや創造神の私には決して敵わない。終わりだ。」

突き刺された剣を伝い血が垂れる中、ヒルデは走馬灯を見た。


 冒険者時代、当時剣星として呼ばれ始めたヒルデは親友の神と朝焼けの丘で話し合っていた。

「まさか剣星にまで昇りつめるとは驚いた。」

「周りの連中が勝手にそう呼んでるだけよ。それに最強となってもまだ貴女には全然勝てそうにないわ。ルシファード。」

ルシファードはその美しい髪をなびかせヒルデに向く。

「・・・お前は、その力をどう扱うつもりだ?」

「どうとは?」

「その強さは扱い方を間違えれば人を簡単に傷つけることが出来てしまう。ヒルデ、お前はその力を持って何をする?」

親友から鋭い視線で睨まれるがヒルデは、

「何をするも何も、今までと変わらないよ。私は弱いままさ。」

「弱い?初めて私と会った時なんか人間じゃないからって理由で問答無用で切りかかってきた戦闘狂のくせに・・・。」

「あ、アレはホントにごめん・・・。でも、どんなに最強と言われても、私は変わらない。人間は弱いままでいいの。強くなったと錯覚しては心が鈍感になってしまう。それは人の痛みにも鈍感になるという事だ。私はそうはなりたくない。ならない。人は弱いからこそ、優しくなれるんだ。だから私は、この力を未来を守るために使うわ。だから、見守っててくれ、ルシファード。」

ヒルデの瞳には決意が込められていた。

「・・・ふっ。未来を守る、か。実にお前らしい。」


 剣を握りしめヒルデはラウエルの胸元に剣を突き返した。

「がはっ⁉貴様っ・・・⁉」

(ルシファード。アンタの世界がこんな奴に支配されてるなんてね。こんな奴に親友の世界を、タクマ君たち若者の未来を奪わせはしない‼)

「ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぐうぅぅ‼」

突き刺された剣を掴み引き剥がそうと抗うラウエル。

すると神格に張った五重の魔法壁の一つにヒビが入った。

(っ⁉馬鹿な⁉私の防壁が⁉)

ラウエルは神器エクスカリバーを手放し、すぐ別の剣を創造。

ヒルデに向かって突き付けるが剣先を噛みつき受け止めた。

(止めた⁉ビクとも動かない、どんな顎の力してるんだコイツは‼)

どんなに抗っても胸に突き刺された剣はずぶずぶと押し込まれていく。

魔法壁のヒビも徐々に広がっていた。

(まずい!このままでは!)

その時、ラウエルに異変が生じ始める。

身体が徐々に消滅しかけてきたのだ。

(いかん!降臨の制限時間が!)

ラウエルは他の神と違い創造神という高位の存在、自身の肉体を維持するのに相当な魔力が要する。

自力で下界に降りている降臨では長くは下界に留まることが出来ないのだ。

ヒルデとの戦闘に夢中になり制限時間の事を完全に忘れていた。

(私としたことが、このような失態を犯すなんて!)

強引にヒルデの拘束から逃れようとするがとんでもない馬力のせいか引き剥がすことが出来ない。

「身体が消えかかってるじゃないか!下界にいられる時間はそう長くないみたいだね!ならアンタが完全に消えるまで力比べといこうじゃないかい‼」

咥えた剣をかみ砕き、更に剣を押し込むヒルデ。

「おのれぇぇぇぇぇ‼」

ラウエルも消滅しかけてる身体で最後の抵抗をする。

「「ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

次の瞬間、魔法壁が限界を迎え、五枚の内の一枚がバリンと砕けた。

「ぐはっ⁉」

血を吐き出すラウエルにタクマ達は我に返る。

「っ!叩くなら今しかない!」

軋む身体で立ち上がるタクマだが彼よりも早くアルセラが飛び出した。

「お婆様!今助けます!」

カリドゥーンを構え高く跳躍する。

破極牙線(はきょくがせん)‼」

振り下ろされる斬撃がラウエルに直撃する寸前、

「『魔流爆破』‼」

体内にあるほぼ全ての魔力を起爆させラウエルから強烈な爆風が放たれる。

「うわっ⁉」

アルセラは勿論、後方のタクマ達も吹き飛ばされる。

そしてヒルデも飛ばされ突き刺した剣が抜けてしまった。

「ハァ、ハァ・・・。」

穴の開いた胸を押さえるラウエル。

肉体もほぼ完全に光の粒として消えかかっていた。

「今回はここまでだ・・・。楽しみは最後に取っておくとしよう。」

余裕そうな言葉を発するが表情には余裕がない様子。

傷を押さえながら上空へ飛翔していった。

「逃がさ、ぐふっ‼」

「お婆様!」

神器エクスカリバーは腹部を貫いたまま。

血を吐き膝をつく。

(奴はもう終わりだ。少々遊び過ぎたが収穫はあった。降臨の持続が切れる前に天界へ戻らねば。)

その時、ラウエルの背後に一人の影が現れる。

それはタクマだった。

「っ⁉」

「ハァァァ‼」

不意打ちの炎の斬撃がラウエルに直撃。

神格に張られた四枚目の魔法壁に亀裂が走ったのだった。


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