『第百四十一章 剣星VS創造神』
少し前、別の広場でそれぞれ近況報告をしていたリーシャ達の下へバハムートが降りてきた。
「皆無事か⁉」
少々慌てた様子だ。
「バハムートさん!」
「遅いで旦那。こっちは大体片がついとる。」
「すまぬ。言い訳になるやもしれんが、先の結界のせいで街に入れなかったのだ。」
「え⁉おじ様なら結界程度簡単に壊せそうなのに⁉」
「いくら我が竜王と言えど相手は神だ。我より上の存在などゴロゴロいる。」
「竜王より上の存在て・・・、神以外思い当たらないんだが?」
アルセラが口を割った。
「しかし、バハムートさんでも成せないこともあるんですね。なんだか少し安心しました。」
「安心?有事の際に駆けつけられねば何も意味は無かろう?」
「確かにそうかもですが、それだけじゃありません。・・・バハムートさんは出会った当初からいろいろと規格外で何でも出来てしまう人でした。」
「人ちゃうがな。」
「シャラップ。」
ドスッとリヴの拳を入れられたウィンロスだった。
「でも、そんなバハムートさんでも出来ないことがあると分かったら、バハムートさんは遠い存在ではないんだって実感できました。」
リーシャは少し申し訳なさそうに笑いながら涙を流す。
(遠い存在・・・。)
バハムートはかつて付き従えた女性と親友の黒竜との記憶を思い出した。
「て、こんなこと言っちゃ失礼ですね。ごめんなさい・・・。」
「・・・いや、おかげで大切な事を思い出せた。我の方こそ感謝する。リーシャ。」
「・・・干渉に浸ってるとこ悪いんやが、そろそろコイツの事知りたいんやけど?」
そう言いウィンロスは瓦礫の上に座るヘルズ・ラルマを指した。
「あ?」
「そうですね。皆さんには話しておきます。貴女もそれでいいですね?」
「勝手にしろ。」
リーシャとリヴはヘルズ・ラルマの事について説明した。
彼女はメルティナと別人であり、ラルを取り込んで変身していることも。
「メルティナにそんな事が・・・。」
「今は何故か大人しくしてますけど、気に掛けてください。」
一通り説明が終わった直後、突如として心臓が握りつぶされるような圧迫感に全員が見舞われた。
「な、何?震えが、止まらない・・・!」
あのリヴが青ざめて震えていた。それは他の皆も同じだった。
(我ですら、恐怖に押しつぶされそうになるとは・・・!)
「この気配、中央から・・・!」
中央にはタクマとヒルデがいるはず。リーシャは一目散に駆け出した。
「リーシャ⁉」
「どこ行くねん!そっちからこの圧迫感が来とるんやぞ⁉」
「でも!タクマさんとヒルデさんが!」
リーシャはもの凄い速度で崩れた街中を駆けていった。
「リーシャだけじゃ危険だ!カリドゥーン、起きてるか?」
『さっき目覚めたとこじゃ。』
「私達も行こう!」
アルセラを先頭にウィンロスとリヴも走って行った。
「・・・お前は行かねぇのか?」
その場にはヘルズ・ラルマとバハムートが残っていた。
「すぐに向かいたいが、まずはお主だ。」
「あ?」
「お主からは放置できぬ気を感じている。・・・何を企んでおる?」
鋭い目つきで彼女を訝しんだ。
するとヘルズ・ラルマはニヤリと笑いだす。
「ククク、今アイツと出くわすわけにはいかねぇからな。ヘハハハ。」
明らかに彼女は何かを企んでいるがこれ以上の詮索は無謀だった。
「タクマ達も心配だが、一番の気掛かりはお主だ。目を離すわけにもいかん。」
「おうおう、主を信じで私を監視か?随分信用してんだな。」
それでもヘルズ・ラルマの不吉な笑いは止まらなかった。
そして街の中央広場では、強大な圧迫感を放つ男性神『創造神ラウエル』とヒルデが対峙していた。
ヒルデの後ろでは骨折して身動きが取れないタクマもいた。
「私と一戦交えようと言うのか?いくら最強と謳われても相手を見極められんとは。所詮愚かな人間という事か。」
呆れたように首を横に振る。
「例え愚かでも、人間には引けぬ戦いがあるんだよ。」
剣を構え重々しい圧を放つヒルデ。
ヒルデは後ろのタクマに声をかける。
「タクマ、ここから離れられるかい?」
「骨を何本かやってる。すぐには動けない・・・。」
「ならせめて瓦礫の陰になる場所に隠れな。アンタを巻き込んじまいそうだからね。」
タクマは頷き瓦礫の陰に隠れた。
「私はその少年に用があるんだけどね?」
「どうせロクな事じゃないんだろう?アンタからは危険な気配しかしないからね!」
地面を蹴り急加速でラウエルに攻め入った。
ラウエルはニヤリと頬を上げると足元に魔法陣が展開された。
「『創造術式・鬼気闘魂』‼」
ラウエルの身体に赤い光が纏われヒルデの剣を素手で受け止めた。
「硬⁉」
「ふん!」
反対の拳でヒルデを後方へ殴り飛ばす。
飛ばされるヒルデにすぐさま追いつき地面にもう一発殴りつけた。
だが寸前で剣で受け止め直撃を免れる。
するとラウエルは手をかざし炎の玉が現れた。
「っ!」
即座にラウエルを蹴り上げ炎の玉をかわした。
「魔術も体術もいけるくちか!」
「いや、どちらかというと私は戦闘向きではない。魔法を作って自信を強化してるに過ぎない。」
「・・・作った?」
ある単語に引っかかるヒルデ。
「私は創造神だ。必要なものなどいつでも瞬時に創り出すことが出来る。それは魔法も例外ではない。」
ラウエルは戦闘能力も魔術も持ち合わせていない。
しかしその代わり、使いたい魔法をその場で創り出し使用することが出来るらしい。
「ちなみにタクマに放った念動と瓦礫は私がそう念じたことで生じた。つまり、下界では私の思うままにあらゆる事が出来るという事さ。」
「思った通りの事が起きるなんて、とんだチーターだね。」
相手は念じるだけでその通りの事が起きる。
そんな相手にどう太刀打ちすればいいのか。
今のタクマにはその方法が思い浮かばなかった。
「だったら、まとめて切っちまえばいいってことだね。」
ヒルデから発せられたとんでもない発言に二人はキョトンとしてしまった。
「・・・は、はははは!そう来たか!君みたいな人間は初めてだ!」
ラウエルは腹を抱えて大笑いした。
「しかし出来るのかい?概念すら意のままに操れる私に太刀打ちできると?」
「あたしは不可能を可能にしてこの長い人生を生きてきたんだ。今更引き下がる気はさらさらない!」
そう言い一気にラウエルに攻め入った。
「面白い!やってみたまえ!」
『鬼気闘魂』で強化した腕で剣を受け止め押し返す。
「『破壊術式・地割れ』‼」
腕に術式が浮かび上がり足元を殴りつけると同時に地面が割れ、ヒルデの足元を崩す。
「チッ!」
直ぐに跳躍しかわすも着地した瞬間を付けられ鋭い拳を受けてしまった。
「っ!」
「人生経験豊富の老人を舐めるんじゃないよ!」
ラウエルの拳はヒルデの剣の面で受け止められていた。
「あの一瞬に反応したか。とんでもない反射速度だ。」
二人の激戦は息をつかせず攻防となっており、流石のタクマも呆気に取られていた。
(なんて戦いだ・・・。双方ともに隙が無さ過ぎる。)
恐らくラウエルの方は本気じゃないだろうが腐っても創造神。
自分たちより強いことは確かだ。
しかし、そんな彼に引けを取らず圧巻の剣捌きでラウエルと渡り合うヒルデ。
世界最強の剣士と謳われるのも納得がいった。
「下界にこれほどの実力者が残っていたとは驚いた。まるで勇者の再来だ!」
「今の時代だって勇者は存在する。あたしみたいな老いぼれが勇者なんておこがましい!」
鋭い一撃が二人の間に距離を開けた。
「いい!実に素晴らしい!私に果敢に挑んでくる者がまだ存在していたとは!さぁ、もっと私を楽しませてくれ!」
「後悔するんじゃないよ!」
剣を構え走るヒルデ。ラウエルは手をかざし魔法陣を生み出す。
「『創造術式・神器エクスカリバー』‼」
ラウエルの手元に美しい聖剣が生み出されヒルデの攻撃を受け流した。
「神器も瞬時に作れるんかい。とことんアンタはズルいね。」
「本物には劣る贋作だがな。」
格闘術から一転、剣術に切り替わったラウエルとヒルデの激しい剣技のぶつかり合い。
衝撃波だけで周りの瓦礫に切り傷がつく程の戦いだった。
「俺も、加勢しないと・・・!」
軋む身体で立ち上がろうとするタクマだが戦闘の衝撃波に阻まれる。
「タクマさーん‼」
するとそこへリーシャが走って来た。
「リーシャ!」
ヒルデと戦っているラウエルもリーシャに気付いた。
(あれは、神殺しの少女。・・・ニッ!)
ラウエルはニヤリと頬を上げた。
「無事でよかったです!」
「いや無事じゃねぇけどな?」
見るからにタクマはボロボロだ。
「ところで、ヒルデさんと戦ってるあの神は・・・?」
「・・・創造神だ。」
「っ‼」
激しい剣技が途切れたと思ったらラウエルは人差し指を立て、小さい黒い魔法陣を展開した。
ヒルデは警戒し防御の姿勢を取る。
「『創造術式・黒線』!」
しかし黒い光線が向けられたのはヒルデではなく、
「っ⁉リーシャちゃん危ない‼」
「っ‼」
気が付いた時にはもう黒い光線はリーシャの目の前だった。
「リーシャ‼」




