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『第百三十九章 約束』

「お婆様!」

重症のアルセラ達の前に現れたのは、彼女の祖母であり世界最強の剣士、剣星ヒルデだった。

「随分やられちゃったねアルセラ。ほら!」

カリドゥーンを投げ戻すと同時にポーションも渡された。

「リヴちゃんが一番重傷だ。飲ませて安静にさせなさい。」

「わ、分かりました!リヴ、これ飲んで。」

後ろでリヴの介抱をする中、ヒルデはアムルに向き直る。

「貴様、剣星か・・・。下界最強と謳われる。」

「ご名答。随分とうちの可愛い孫娘とお友達をいたぶってくれたみたいだね。天使のお嬢さん?」

ヒルデの鋭い眼から放たれる威圧がアムルを包み込む。

「っ‼」

「へぇ、あたしの威圧に耐えるのか。天使なのに相当な鍛錬を積んでいるみたいだね。」

「下界の人間ごときに臆する天使などいない!」

アムルは走り出し魔法陣に剣を突き刺す。

(残りの魔力的にこの一撃が最後。この一撃に全てを乗せあの人間を退ける!)

「天の型、居合・滅尽綴‼」

剣を引き抜き切りかかる。

だが、

「・・・え?」

切り掛かったと思ったらいつの間にかヒルデがアムルの背後に立っていた。

「『星流式(せいりゅうしき)星屑(ほしくず)』!」

剣を降り光の粒を飛ばす。

その瞬間、アムルの剣が折れ衝撃波が内側から爆発しアムルは倒れた。

「アムルを、倒した・・・?」

「殺しちゃいないけどね。無益な殺傷はしない主義なので。」

それでも強力な一撃を与えたためしばらくはアムルも動けないだろう。

ポーションのおかげで傷が塞がり立ち上がるリヴ。

「大丈夫か?」

「うん。でも痛すぎて戦えないかもしれない。」

「いい、無理はしないでくれ。」

アルセラもカリドゥーンを背中に背負う。

「ありがとな。カリドゥーン。」

『何のことやら。』

すると佇んでいたヒルデがこちらに振り替える。

「アンタ達はしばらく休んでな。後はあたしが片づけてくる。」

「で、でもお婆様!これは私達の問題です!それに私達はまだ戦います!」

「その重傷で何言ってるんだい。いいから年寄りの言う事は聞いておけ。いいな?」

そう言い残しヒルデは走り去っていった。

「・・・。」

「・・・生憎だけどお婆ちゃん、主人が戦ってるのに黙ってる従魔はいないの。行こうアルセラ。」

「あぁ。・・・でも消耗が激しい。暫くは休もう。」

「そうね・・・。」


 「・・・おい、おい。起きなさい。」

誰かに頬を叩かれるタクマ。

目を覚ますと目の前に巨大なドラゴンの顔が覗き込んでいた。

「おわぁ⁉びっくりした⁉」

飛び起きたタクマは当たりを見回すと、何も見えない真っ暗な空間にいた。

「ここは・・・?」

「貴方の精神世界よ。ホントよく沈んでくるわねアンタ。」

目の前にいる青いドラゴンが言う。

「・・・リヴ?」

そのドラゴンはリヴに酷使していた。

違う点はリヴよりも鱗が薄虹色に輝いており背びれを通してサラサラな体毛が伸びている。

なんとも鮮やかな海竜だった。

「あの二頭とも会ってるなら私が何なのか予想がつくでしょ?」

となるとこの海竜は、タクマの中に宿る魂の一つでありリヴの祖先にあたるという事か。

「そうか。お前があの雷龍の言っていたもう一体のドラゴンか。俺の中にいるって言う。」

「えぇ、私は()()()。かつて全ての海を支配していた竜王の一柱よ。」

海龍王はタクマがここにいる理由を説明してくれた。

「奴の魔眼に当てられたのか。」

「完全に魅了される前にあの女がアンタの魂を引っ張って自分と入れ替わったのよ。今頃アイツは現世を楽しんでるわ。」

タクマが目を凝らすと、現実でエルエナと戦っているシーナの視点が見えた。

「本当だ。なら後でシーナに礼言っとかなきゃな。・・・それにしても。」

「ん?」

「何故お前等は俺に干渉してくるんだ?俺の中にいる理由も気になるが、お前等は何者なんだ?」

自身の体内に潜むシーナを外した三つの龍の魂。

彼らは一体何者なのか。

「今は教えられないわね。でもいずれ分かる時がくる。それまでは大人しくいつも通りに過ごしなさい。」

釈然としないが相手は教えてくれる雰囲気じゃなかった。

タクマは潔く諦める。

「・・・分かった。さて、掛かりかけた魅了も収まったみたいだし、シーナに身体を返してもらわなきゃな。」


 そして、美神エルエナと激しいい戦闘を行うタクマ。

ではなくタクマの身体を借りて戦うシーナ。

上空から放たれる無数の光の矢が降り注ぐ中、シーナは瓦礫や建物の間を剣から伸びる黒い炎をまるで鞭のように操って縦横無尽に駆け回っていた。

建物の中に飛び込んだシーナだが窓の外から弓を構えるエルエナが目に映り即座にその場を離れる。

その直後に光の矢が建物を貫通してきた。

(すばしっこいわね!)

エルエナも次々と光の矢を建物に打ち込んでいくがシーナの高すぎる身体能力により悉く避けられていた。

シーナは窓を突き破り少し広けた広場に降りる。

エルエナも後を追うように飛翔し広場に降り立った。

「流石神、エグイ攻撃の押収だ。」

「貴女こそ何なのよ。死人とはいえ所詮は人間。なのにあの得体の知れない黒炎に人間離れした身体能力。貴女、()()()()()?」

その言葉を聞いたシーナから笑顔が消えた。

「・・・化け物か。生前行く先々で浴びせられた言葉だ。確かに私の力は他の人から見たら得体の知れない恐怖。それにあの戦い方・・・。化け物と罵られても仕方ないね。」

はぁっとため息をついた。

「ただ生きていただけなのに、この力のせいで周りに馴染めず、挙句の果てに裏切られて殺された。その事を、あの子たちはずっと引きずってる。でももう千年も前の話だ。私は死んでタクマの中に隠居している。それが事実さ。」

「・・・恨んでないのね。自分を裏切った人間共を。」

「恨むも何も、あの子がそいつらを根絶やしにしちゃったからね。」

やれやれと首を振った。

「今の私は故人のシーナ。この子、タクマの中で未来を見守るただの亡霊だ。」

「そう・・・。」

エルエナは再び弓を構えた。

「だったら亡霊は亡霊らしく、大人しく成仏しててくれないかしら?」

「そういう訳にもいかない。宿り主であるタクマに危害を加えられちゃ流石の私も黙ってないからね!」

放たれる光の矢を最小限の動きでかわし一気に距離を詰める。

エルエナも弓を双剣を変え迎え撃とうとした。

とその時、

『シーナ。』

『うぉっ⁉タクマ!』

僅かな秒数の中、タクマの声がした。

『魅了は大丈夫なのかい?』

『あぁ、おかげで完全回復だ。ありがとな。後は俺がやる!』

『もう少し現世を楽しみたかったけど、贅沢も言ってられないね。やっちゃいな、タクマ!』

剣の炎が黒から赤に変わる。

「っ⁉」

「ハァァァァァ!」

振り上げる剣技が双剣の片方を弾き飛ばした。

突如剣筋の変わったことを警戒し距離を取るエルエナ。

目線を戻すと、タクマの髪が赤く赤髪しており背中に炎の翼を纏っている。

「その姿、ドラゴン・・・!」

「さぁ、第二ラウンドだ!」

剣を鞘に仕舞い居合の構えを取る。

「居合・一閃!」

一瞬にして懐に入りエルエナも咄嗟に双剣で防御を取った。

鋭い一撃がエルエナを後ろに飛ばすもすぐさまタクマが走ってきて凄まじい連撃を繰り出す。

「本気ってことね。だったら、私も本気を見せるわ!」

「っ!」

エルエナの翼が開き不気味な光を放ち始めた。

(あの光を見なければ幻術には・・・!)

目を瞑るタクマ。

だが、

「無駄よ。」

すると翼から大きな目が開眼し辺りが歪み始める。

「『魅惑(みわく)神眼(しんがん)』。例え目で見なくともこのオーラを浴びればたちまち魅了に掛かる。同時に幻惑も見せることも出来るのよ。」

エルエナの言う通り、オーラを浴びてしまったタクマは意識が薄れてしまい倒れそうになる。

だが、

「・・・っ‼」

倒れる寸前に目覚め再び走り出した。

(幻術に掛からない?)

「『魅惑の神眼』!」

再び翼の眼からオーラが放たれるがタクマは走り続けた。

「神眼!神眼!神眼‼」

どんなに技をかけてもタクマの走りは止まらなかった。

(何で⁉何で掛からないの⁉・・・いや違う、彼の中にいる複数の何かが魅了を無効化しているの⁉)

タクマの背後に三つの巨大な影が見えたと思ったらいつの間にか翼の一つが切られていた。

「え・・・?」

翼が地面に落ちると同時に、エルエナは悲鳴を上げて苦しみだした。

「あ、あぁぁぁぁぁ⁉痛い!痛い・・・!何が、起きたの⁉」

膝をつき肩を押さえるエルエナの背後にタクマが立つ。

「翼を斬った。これでお前はまともに飛ぶことも出来ないだろう。」

「ア、アンタ・・・!よくも私の美しい翼を・・・‼」

エルエナは憎しみの眼でタクマを睨む。

「よくもぉぉぉぉ‼」

激昂したエルエナは双剣を振り回して切りかかってくる。

タクマもエルエナの乱舞を捌いていくも相手の勢いが激しくどんどん押されていく。

「アンタもセレンティアナと同じように無惨に殺してやる‼」

その名を出されたタクマはエルエナの猛攻を強引に止めた。

「今、なんて言った?」

「はぁ?アンタもセレンティアナと同じ目に遭わせて殺してやると言ったのよ!アイツは私と同期でありながら先に神にまで昇りつめて、回りからちやほやされて、当時の創造神様にも気に入られてた。一緒に時期に生まれたのにアイツだけ・・・。私だって回りに、創造神様に認められたかった。でも、セレンティアナも当時の創造神様も、誰も私を見てくれなかった!憎かった。私が殺してやりたいくらい二人とも憎かった‼」

どんどん感情的になり双剣の威力も上がってくる。

「今の創造神様がセレンティアナを殺したと知った時は心底スカッとしたわ!同時に先代の創造神様も玉座から引きずりおろせて、最高の気分だった!そんなセレンティアナの息子をこの手で殺せるのなら願ってもない!今度こそ私の手でアイツの大事なものを全部奪ってやる‼」

双剣を振り上げ剣を天高く弾き飛ばし、がら空きとなったタクマに翼の幻術を仕掛ける。

「アンタもセレンティアナに幻滅し、絶望させてから殺してやるわ‼『魅惑の神眼』‼」

至近距離からオーラを食らってしまい、タクマは幻術に掛かってしまった。


 「・・・ここは。」

そこはセレンティアナ、母親のセナと暮らした丘の上に立つ小屋。

しかし辺りの空は赤黒くまるで血に染まっているかのようだった。

その時、突然小屋が爆発しタクマは吹き飛ばされる。

すると燃える小屋の中から酷い重傷を負ったセナが出てきた。

「セナ・・・。」

「・・・どうして、こうなったんだろう。私はただ、ここで幸せに暮らしたかっただけなのに。・・・そうか。アンタだ・・・。アンタなんかを拾ったから、私は死んだんだ。アンタなんか、拾わなきゃよかった・・・。」

憎しみの眼でタクマを睨むセナ。

母親からその言葉を聞かされたら誰であろうと心が持たない。

・・・しかし、そんな彼女をタクマは優しく抱きしめたのだ。

「確かに、俺を拾わなければ違った未来があったかもしれない。でも、俺はセナに拾われて良かったと思ってる。あの路地裏で見つけてくれなかったら、多分俺達は孤独のまま死んでたかもしれない。でも・・・、セナが拾ってくれたから、俺は寂しい思いもせず、生きる希望を持てた。それはセナも同じだろ。神から追われてたのなら、どのみち殺されてたかもしれない。だけどセナは、最後の最後まで笑ってた。悲しむ俺にお構いなしに笑顔を見せてたんだぞ?」

その時を思い出したのか、タクマの眼から涙が溢れてきた。

「俺は、セナの笑った顔が大好きだった。どんなにつらい時があっても、アンタの笑顔が俺を救ってくれた。あの時は俺も弱かったから、セナを救えなかったけど、セナの心だけは必ず守る。だから、見守っててくれ。()()()。」

するとセナもゆっくりとタクマを抱きしめた。

「ごめん、ごめんね・・・、タクマ・・・。・・・ありがとう。」

二人は光に包まれ、タクマの意識が現実に戻る。


 地面を強く蹴り込みその風圧でエルエナのバランスを崩した。

「な、私の幻術を自力で破った⁉」

「ありがとよ。最後にセナと約束をすることが出来た。それと・・・。」

タクマは再び居合の構えを取ると髪と背中の炎の勢いが突如強まった。

「俺の母さんを侮辱するのも大概にしろ‼クソ女神がぁ!!!!」

これまでにない程の怒りを見せるタクマ。

髪と背中の炎が鮮やかに輝き出し剣を引き抜く。

「どんな理由があろうと母さんを侮辱する奴は、息子の俺が許さない!!!!」

剣から燃え出る鮮やかな炎が鋭い一閃を描く。

「『居合の極致・竜炎斬《(きょく)》』!!!!」

一瞬の内にエルエナの背後に立ち剣を鞘に納める。

その瞬間、大爆発がエルエナを飲み込んだ。

「ぎゃぁぁぁぁぁ⁉」

エルエナは丸焦げとなりその場に倒れた。

「ハァ、ハァ・・・。俺は進み続ける。見ててくれ。母さん。」


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