『第十四章 風刃竜・ウィンロス』
リーシャの手作りサンドイッチを食べて大満足したタクマ達は風刃竜探しを再開し山道を歩いていた。
すると山のくぼみに広がる大きな湖を発見した。
まるで火山の火口に大地の傘が覆うような地形でなかなかの景色だった。
「すげぇ、めっちゃデカい湖だな。」
「水がとても清んでいる。人が関与した形跡もない。これは良い穴場かもしれんぞ。」
バハムートのお墨付きをもらった湖をリーシャが瞳を輝かせて見ていた。
「凄い、水だけでなんて美しい場所なんでしょう。」
「リーシャはこういう景色を見るのは初めてか?」
「はい、両親が亡くなってからずっと村で暮らしていましたから。」
そうだ、彼女は両親を早くに無くして友人宅に居候していたのだった。
(そうか。リーシャは根がいい子だからお世話になっている人にあまり我儘は言えなかったんだな。)
今は治療の一環で共に行動しているが彼女の歓喜に溢れる目を見てしまうとつい思ってしまう。
「・・・なぁリーシャ。」
「はい、何ですか?」
「もしよかったら、俺たちと一緒に・・・。」
その時、全員は湖の底から鋭い威圧を感じた!
湖の中央がぶくぶくと泡立ち始める。
「バハムート‼」
「うむ‼」
リーシャを背に隠し二人は身を構えた。
そして泡立つ位置から巨大な影が飛び出す。
現れたそれは細長く黒い体に蛇のような顔、首元には魚のヒレのような部分がついていた。
「シャァァァァァァ‼」
耳がつんざくような鳴き声を放つ。
「ぎゃぁぁ耳がぁ‼」
「あれはミズヘビ!主に広い淡水に生息する主のような生物だ!」
これだけ広い湖ならそのくらいの生物が居て当然か。
ミズヘビは自身の縄張りに入られたためこちらに敵対してきたのだろう。
凄まじい威圧感だ。
「あの様子じゃすんなり帰らせてくれないかもな。」
「シャァァ‼」
ミズヘビがこちらに迫ってくる。
リーシャを抱えて直撃する寸前で避けるとミズヘビは岸に激突し土煙をあげた。
ゆっくり頭をあげ、こちらを見る。
「あれだけ凄まじい衝突しながら無傷かよ。どんだけ身体固いんだ?」
「淡水とはいえ深いところでは水圧もあります。その水圧に適応できるよう固く進化したんでしょう。」
脇で抱えられたままリーシャが説明した。
だがいくら身体が固くても関節を動かすには必ず柔らかい部位があるはず。
それにバハムートの火力なら十分に倒せるはずだ。
「バハムート!一発奴にブレスを当てろ!」
「あい分かった!」
返事と同時に口部に炎を練りこむ。
その魔力反応に気づいたのかミズヘビはその場を離れ湖に飛び込んだ。
「逃がさん‼」
バハムートはすかさず狙いを定め湖に向かってブレスを放った。
放たれたブレスは湖の中で爆発。
あまりの威力に凄まじい衝撃が身体に響く。
しかし水面にゆらゆらと動く魚影があった。
「外したか。ならば何度でも打ち込むまで!」
続けてバハムートは湖にブレスを打ち続けるが魚影は素早い動きで泳ぎ回り、一向に当たらない。
「くっ!水中では奴に分があるか!」
悔しそうに歯をかみしめるとタクマが指示を出した。
「バハムート、上空だ!真上からなら魚影が見えやすいし狙いが取りやすい!」
「分かった!」
バハムートは黄金に輝く翼で羽ばたき湖の真上へ飛んだ。
「なるほど。この位置なら確かに狙いやすい。」
再び口部に炎を練り上げ真下に向かって三連続ブレスを放った。
被弾したブレスは順に爆発しミズヘビを追い詰める。
「うむ!この調子ならいけるぞ!」
そのとき、背後からものすごい速さで迫る巨大な影がバハムートに掴みかかった。
「ぬお⁉何だ貴様⁉」
「ちょっくらごめんよ。旦那。」
すると湖から突然ミズヘビが飛び出してきた。
上空にいるバハムートめがけて水面からジャンプしたのだ。
とんでもない筋力だ。
「あらよっと!」
バハムートを足で掴んでいた巨大な影はミズヘビがぶつかる前にタクマ達のいる岸の方へ投げ飛ばした。
「ぬぉぉぉぉ⁉」
「おいおいマジかよ⁉」
バハムートの巨体が落ちてきた。
タクマ達は落下範囲何とかぎりぎりで避けることが出来た。
「ケホッケホッ、何が起こってるんですか?」
土煙が蔓延する中むせるリーシャ。
タクマは湖に目をやると、そこには水面付近で格闘するミズヘビともう一体、鳥のような姿をした緑翼の魔獣。
その姿はタクマ達が探していたドラゴンと特徴が合致している。
「間違いない、あれが風刃竜・ウィンロス!」
水空の激戦、どちらも引かない戦いが続いていた。
先に動いたのはミズヘビで口から勢いよく水が噴射され、ウィンロスに直撃した。
「わぷっ⁉」
水に押し返され岸に落とされた。
ウィンロスは体を震わせ水気をはじく。
「ハハッ、流石ヌシレベル。一筋縄じゃいかんか。」
二体の戦いを見ていたリーシャがタクマに話してきた。
「た、タクマさん!あのドラゴン人語話してますよ⁉」
「あぁ、バハムートの予感が的中したな。」
ミズヘビは絶え間なくこちらへ迫ってくる。
タクマが剣を抜こうとすると
「手ぇ出すな兄ちゃん!こいつはオレの獲物や!オレが仕留める!」
まるで弾丸のような凄まじいスピードでミズヘビに体当たりするウィンロス。
あの固いミズヘビの身体を揺さぶるほどの衝撃だった。
ウィンロスはスピードを生かした戦闘スタイルのようだ。
ちなみにバハムートはオールラウンダーである。
「オラオラオラァ‼」
器用に足でラッシュを繰り出し、強烈な一撃がミズヘビの脳天を突いた。
ミズヘビは脳震盪を起こしふらついている。
ウィンロスはその隙を逃さない。
「これで終いやぁ‼」
ウィンロスは空高く舞い上がり遥か上空へ消える。
そして折り返して真っ逆さまに急降下してきた。
翼をたたみ鋭いクチバシを突き立て槍のように降ってくる。
ズドォォォォォン‼
と、重い音と共に何十メートルもの高さの水しぶきが立ち上がり綺麗な虹が架かる。
しぶきが収まり水面も静まる。
タクマ達はボーゼンと湖を眺めていると水中からウィンロスが仕留めたミズヘビを咥えながら岸へ上がってきた。
「いやぁ、なかなかの相手やったわ!」
スッキリした表情で身体を震わし水気を飛ばす。
ミズヘビの固い体にぽっかりと穴が開いて絶命していた。
「おいおい、バハムートでも砕けなかったあの皮膚にがっつり穴空いてるぞ・・・。」
「どれだけ鋭いクチバシとスピードなんでしょうか・・・。」
「最近の若い者は目を見張るな。」
珍しく顔面蒼白のタクマと普通に怖がるリーシャ、そして期待の眼差しで見るバハムート。
「んで?兄ちゃんたちはなしてここに?」
翼を手入れしながらウィンロスが訪ねてきた。
「あ?あぁ、俺たちは風刃竜を探してたんだ。で、お前はその風刃竜で間違いないか?」
「確かにオレは風刃竜で合ってるで?」
どうやら探してた風刃竜と無事会えたようだ。
「んで、あんたらの名前は?」
「あ、すいません!私はリーシャと申します!」
「俺はタクマだ。こっちが俺の従魔の・・・、」
「超天竜・バハムートだ。お主も名くらい聞いたことがあろう?」
「バハムート?バハムート・・・、あ!もしかして今代の竜王様か⁉」
ウィンロスは有名人に会ったかのように表情を明るくした。
「いや~マジで本物や!竜王様に会えるなんてオレもついてるで!」
ぐいぐい迫るウィンロスにバハムートもたじたじだ。
「バハムートさん有名なんですね。」
「そりゃ竜王だからな。」
「・・・。」
リーシャがジト目でタクマを見る。
その竜王を従魔にしているタクマ自身も十分大概であるからだ。
「ええい、いい加減鬱陶しい。我らはお主に用があってきたんだ。」
グイッとウィンロスを押し返し本来の目的に入る。
「オレに用事?」
「あ、そうだった!風刃竜は風魔法使えるって聞いたんだが?」
「そりゃ使えるで?オレは加速するときによう使うが?」
「じゃぁ回復魔法も使えるか?」
「回復?確かに覚えてるがなして回復なん?」
タクマはリーシャの魔力が枯渇している理由をウィンロスに説明した。
「・・・なるほど、そないなことがあったんか。確かにこの国の勇者には嫌気がさしとったんや。」
「魔力は言わば生命力。お主の力で娘を治してやってくれぬか?」
「他ならぬバハムートの旦那の頼みや。喜んで協力したる!」
ウィンロスはどんと胸を張った。
ウィンロスは災害級の魔獣と言われていたが以外にも気さくに話が通じる相手で良かった。
「けど嬢ちゃん治す前に少しええか?」
「ん?何だ?」
「この仕留めたミズヘビで腹ごしらえしたいんや。こいつ身体カッタイけど火通したら柔らかくなってそら美味いで?」
ウィンロスの話を聞いてバハムートの腹の虫が鳴った。
「ふむ、我も少々小腹がすいたな。我ももらっていいか?」
「どうぞどうぞ!旦那と飯なんて光栄やで!」
盛り上がる二体の後ろで人間二人は唖然としている。
「あのミズヘビを食べるんですか・・・。」
「これが弱肉強食ってやつなのかな・・・。」
食事の下準備をしているとウィンロスがふとこんなことを話した。
「にしてもこいつはホント迷惑な奴やったわぁ。」
「どういうことだ?」
タクマが聞くと
「いやな、ミズヘビはこの時期になると休眠のためか食欲が増すんや。そのせいでこの山の魔獣をほとんど食い尽くしてしもうたんや。おかげで生態系が崩れる寸前やったんでオレがミズヘビを仕留めに来たんや。」
どうやらこの山に魔獣が表れなかったのはミズヘビの生態が原因だったようだ。
「ミズヘビが食っちまったんなら魔獣が出なかったのも納得だな。」
「ですね・・・。」
ギルドにこのことを報告しなくては。
そう考えていたタクマはハッと来るときに目撃した信教者の事を思い出した。
「すまん、ちょっと席を外す。バハムート、来てくれ!」
「・・・分かった。」
二人は少し離れたところまで歩いて行った。
「お二人とも、どうしたんでしょう?」
「さぁ?大人の話とちゃうか?」
タクマとバハムートは会話してもリーシャ達には聞こえない距離まで来た。
「バハムート、実は相談したいことがあってな。」
「来る途中で見た怪しげな連中の事か?」
「気づいてたのか。」
「お主の表情を見れば薄々気づく。それで?相談とは何だ?」
「あぁ、それが・・・、」
タクマは怪しい信教者達から聞いたことを全て話した。
女神の信託でこの国の壊滅を言い渡されたこと。
国門街のギルドマスターはその信教者と裏で繋がっていること。
アルセラがそのギルドマスターにハメられ始末されそうになったこと。
自身の推測も含めて説明した。
「なるほど、そうなると幾つか合点が合うな。しかし女神か・・・。」
「信託で国を滅ぼせってあるのか?」
「いや、絶対にありえない。創造神ならまだしも一人の女神の信託にしては規模が大きすぎる。ましてや利用価値の低い信教団を使うなど。それに国一つ消えるだけで世界のバランスが崩れる可能性もあるのだぞ。」
創造神、そのような存在もいるのか。
しかし話を聞く限り女神は創造神より格下のようだがその女神が創造神レベルの信託をするとはどういうことだ?
考えれば考えるほど頭がこんがらがる。
「女神に創造神、話の規模がデカすぎて頭痛くなるぜ・・・。」
「だが情報が少なすぎる以上、これ以上の詮索は困難だ。今はギルドの問題を何とかするぞ。このままでは依頼を受けることもままならんからな。」
「確かに、ギルドマスターがそんな怪しい連中とグルだとおちおち仕事もできねぇ。リーシャの回復が終わったら潜入するぞ。」
「心得た。」
ついに本格的にギルドを調べることにしたタクマ。
決意を胸に戻ろうとすると、
「なんや、おもろい話しとるのう。」
バハムートの背後からウィンロスがぬっと顔を出した。
「うわっ⁉お前いつから聞いてた⁉」
「女神と創造神の話辺りから。」
ほとんど最初からである。
しかし側にウィンロスの気配は感じていなったはずだが?
「お主、何かスキルを使ったのか?」
「話を聞いたんは『空振動』で近づいたのは『気配遮断』や。地味なスキルだが使いどころではめっちゃええで?」
気配遮断!これからの調査にタクマが今一番必要としているスキルだ。
「『気配遮断』、我も持っていないスキルの一つだな。お主どうやってそのスキルを獲得したのだ?」
多彩なスキルを合わせ持つバハムートでさえ持っていないスキルのようだ。
「常日頃獲物狩ってたからな。狩りの最中にたまたまゲットできたんや。」
「ふむ、お主は我の持っていないスキルをたくさん持っているかもしれんな。」
これはとんでもない逸材だ。
この話を聞くとタクマの考えは一つ。
「なぁウィンロス!問題が解決するまで俺と・・・、」
「おっとちょい待ち!」
タクマが言う前にウィンロスに止められた。
「ここはオレから言わせてくれ。んんっ!タクマ、オレと従魔契約してくれへんか?」
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