『第百三十六章 神の錬金術師』
リーシャとウィンロスの前に立ちはだかる巨大な機械兵。
守護機神と呼ばれる物に搭乗する知神レストは目の前のリーシャ達に問う。
「一つ聞こう。何故お前たちは神に敵対する?」
「は?」
ウィンロスが首を傾げる。
「神は言わば絶対的な力を持ち、人々が崇め称える存在。そのような相手に何故ひ弱な下界の者が神に牙を向くのか理解できない。」
「何言うてんのや。オレ等はただ旅をしたいだけやねん。そっちがちょっかいかけて来るねんから降りかかる火の粉を掃っとるだけや!神に敵対しとるんは旅を邪魔されてるからやで!」
怒って答えるウィンロスに背中のリーシャも頷く。
「なるほど。理解した。ではこちらから手を出さねば君達は我らに牙を向くことはないんだな?」
「当たり前や!」
「そうか・・・。であれば俺の方から君達に干渉しないと約束しよう。しかし、今回は創造神様の命によって下界へ赴いてる。そして個人的に君達の事をもっと知りたいと思ってる。悪いが今だけは君達と戦わなくてはならない。分かってくれるか?」
「するかバーカ!」
即答で拒否るウィンロス。
彼の反応に少しイラついたのか声が鋭くなる。
「だが放っておけない例外がそちらにいる以上、俺はお前たちを倒さなくてはならない。覚悟しろ。」
レストは守護機神を動かし巨大な大剣で切りかかってきた。
ウィンロスは余裕でかわし守護機神に攻め入る。
「ウィング・サイクロン‼」
横向きの竜巻を繰り出し守護機神の顔面に直撃。
バランスを崩し大きく後ずさりする。
「畳みかけます!『エアショット』!」
追撃で風の弾を打ち出し再度顔面へ炸裂し、大きく巨体が反る。
しかし完全には倒すことは出来ずすぐに起き上がってしまった。
「転倒させる狙いか。通常の機体なら倒れてたが守護機神は違う!」
匠な操作で機神を操り大剣を振り回す。
再びかわそうとしたが先ほどよりも振り回す速度が速く辛うじて避けることに成功した。
「何や?速度が上がっとる?」
「今までのは様子見だ。ここからは本気で行かせてもらうぞ!」
巨体とは思えないほど俊敏な動きでウィンロス達に迫る守護機神。
「きゃぁ!」
「リーシャ!」
避けた拍子にリーシャが背から足を滑らしてしまい落下してしまった。
するとそこへ猛スピードでグレイス・ド・ラルが飛んできてリーシャを地上すれすれで受け止めた。
「ラル!メルティナさん!」
「間に合って良かっ・・・きゃぁ⁉」
ほっとしたのも束の間、ラルが墜落してしまい二人は頬り出されてしまった。
「いたた、ラル!」
墜落したラルは元の小竜に戻っていた。
「やっぱり、長時間リーシャから離れると進化を維持できなくなるみたい・・・。でも、間に合ってよかった。」
ラルの消耗具合が激しい。
暫く休ませなければいけない。
「ありがとうラル。でもどうして戻ってきたんですか?」
「それが、結界みたいなものに弾かれて街の外に出られなかったんだ。だから仕方なく引き返してきた。」
「そうでしたか。ラル、正しい判断です。」
「うん。」
するとそこへラル達を追って天騎士が集まってきた。
「ようやく追いついたぞ。」
「っ!」
「ごめんなさい、上手く撒けなかった。」
「いえ、大丈夫です。メルティナさんはラルをお願いします。」
動けないラルをメルティナに預け杖を構える。
「後ろの巨大なロボットはウィンロスさんに任せて、私がメルティナさん達を守る!」
後方では守護機神の猛攻を避け鋭い蹴りを決めるウィンロス。
「動きが早くなっても慣れれば問題なしや!」
「それはこちらも同じだ。」
守護機神の肩から無数の突起が飛び出し魔法陣を展開した。
「くらえ!」
魔法陣から幾つもの魔力レーザーが放たれる。
ウィンロスはそれをかわそう上昇するがなんと魔力レーザーはウィンロスを追跡し始めた。
「うぉ⁉マジか⁉」
縦横無尽に飛び回るがレーザーはしつこく追尾し最終的にウィンロスに直撃してしまった。
「・・・っ!」
「ぬあぁぁぁ‼」
雷が煙を払い除け、雷刃竜となった黒いウィンロスが現れる。
「雷で全弾防いでやったで!」
「小癪な。」
「今度はこっちから行かせてもらうわ!」
雷を纏い雷速で守護機神に迫る。
「『ギガスパーク』‼」
角から雷撃を放つが守護機神の鋼鉄の身体には一切ダメージがない。
「覚醒しようともこの守護機神の前に敵はない!」
「ならこれでどうや!」
急降下して守護機神の下へ回り、急上昇。
「『雷刃拳・竜天廻閣』‼」
雷を纏った足で機神を突き上げる。
「うおぉぉぉぉ‼」
轟雷と共に機神の巨体が宙に浮いた。
「っ!」
「もう一発‼」
大きく急旋回し追撃をお見舞い。
巨体な守護機神を蹴り飛ばしたのだった。
「くっ、スピードが上がったことで技の威力も上げたのか?」
起き上がる守護機神を見下ろすウィンロス。
「まだまだ行くで!」
機神目掛けて急降下する。
だが次の瞬間、地面から壁が現れウィンロスは寸前で急停止した。
「ぬお⁉何で壁が⁉」
「私が何の神が先ほど教えただろう?」
起き上がる守護機神から語り出すレスト。
「改めて名乗ろう。私は知識を司る神、知神レスト。創造神様から授かった職は、『錬金術師』である!」
一方、地上で襲い掛かる天騎士の集団を薙ぎ払っていくリーシャ。
「ライト版!『死滅の光神』‼」
光の槍を放ち一度に多くの天騎士を倒した。
「もう一度!ライト版!『死滅の光神』‼」
魔術で手元に戻し再度光の槍を投擲。
次々と天騎士を打ち落としていく。
「ハァ、ハァ、・・・!」
しかし、リーシャの息が上がっている。
それもそのはず。
『死滅の光神』はリーシャの持つ最大威力の大技。
威力が大きい分消費魔力も高いのだ。
これほど連発していると魔力の枯渇も早い。
「リーシャさん!もうその技を使うのはやめて!このままじゃリーシャさんの魔力が!」
「大丈夫ですよ、メルティナさん・・・。」
杖を手元に戻し魔法を唱える。
「ある程度数を減らし終えた!エアロスト!」
残った天騎士の周りの空気を無くし浮遊力を無くす。
「がはっ!息が・・・⁉」
「プレス‼」
杖を振り下ろすと同時に残りの天騎士を全て地上へ叩きつけた。
これで全ての天騎士を倒したリーシャ。
だが、
「ゲホッ、ゲホッ!」
魔力をほとんど使ってしまいその場に膝を落としてしまう。
「リーシャさん!」
ラルを抱えたメルティナが駆け寄る。
「大丈夫、あらかた倒しましたから・・・。」
その時だった。
後方から何かが勢いよく振ってきて手前の建物に激突したのだ。
よく見ると振ってきたのは傷を負ったウィンロスだった。
「ウィンロスさん⁉」
そこへ大地を揺らしながら守護機神がやってきた。
「この程度か。覚醒を扱う竜と言うから少しは期待したのだがな。」
レストが期待外れの声色で言う。
「くっ!ウィンロスに何したんですか!」
リーシャが杖を投擲した直後、
「アカン!戻せ嬢ちゃん‼」
ウィンロスに叫ばれ咄嗟に杖を止めた。
すると守護機神の胴体に謎の魔法陣が展開されていた。
いや、魔法陣と言うよりあれは、錬成陣だった。
「ほう、なかなかの反応速度。」
「錬成陣、もしかしてあの神の力は・・・。」
「あぁ、錬金術師や言うてたわ。」
瓦礫を押し退け立ち上がるウィンロス。
「だとしたら厄介です。術式次第で様々な物に作り変えられてしまいます。ウィンロスさんが負傷したのは・・・。」
「せや。予想外の連続で手も足も出せへんかった・・・。」
あのウィンロスが手も足も出せなかったと発言。
相手は相当侮れない相手のようだ。
「メルティナさん、隠れててください。」
「で、でもリーシャさん魔力が・・・!」
「大丈夫です。ヤバくなったらちゃんと退きます。」
「・・・分かった。」
メルティナはラルを抱えて物陰に隠れた。
「お願いします!ウィンロスさん!」
「任せとき!」
ウィンロスの背に飛び乗り急加速で飛び立つ。
「見せてやろう。神の錬金術を!」
守護機神の足元が一瞬光ると地面が粘土のように動き無数の触手のように襲い掛かってきた。
「キモッ!」
嫌悪しながら不規則な攻撃をかわしていき懐へ潜り込むウィンロス。
すると守護機神の懐部分が突如形を変え突き出るように槍が瞬時に錬成される。
「あぶね!」
術式の複雑な錬金術を瞬時に生み出せる。
まさに神業の域だった。
いつ何がどこから来るか分からない錬成攻撃になかなか近づけず苦戦するウィンロス。
「くそ!警戒が勝ってうまく近づけへん!」
「私が対処します!ウィンロスは攻め入るのに集中してください!」
「あいよ!」
リーシャが放たれる錬成物を対処してくれるおかげで守護機神に大いに近づくことが出来た。
「入った!」
「今です!ライト版、死滅のっー・・・‼」
リーシャの大技が至近距離から炸裂しようとしたその時、
「『錬成・宝剣乱弾』‼」
突如、守護機神周辺の建物や地面から数本の巨大な剣が生み出された。
「えっ・・・?」
あっけに取られてるリーシャ達に全ての剣が向けられ放たれた。
降り注ぐ巨大な剣の雨を必死に避けるウィンロスだが数が多く、一本の剣が真っ直ぐ迫ってくる。
「しまっー・・・⁉」
回避が遅れ、剣はウィンロスにもろに直撃。
背に乗せたリーシャ諸共地上に叩き落されてしまった。
「お兄さん!リーシャさん!」
地上で隠れてたメルティナが急いで駆け寄るが、叩き落された二人は血を流し横たわる。
計り知れない重傷を負ってしまった。
「そんな・・・!」
その時、メルティナは思い返す。
自分に戦う力があればと。
(どうして、私には戦う力がないの・・・?いつも守られてるだけじゃ、こうなることは分かっていたのに・・・!)
己の無力さに絶望したその時、メルティナの脳内に激しい痛みが生じた。
「あぐっ⁉」
脳内に火花が散るとある記憶が鮮明に映される。
広い宮殿の中、大勢の天騎士に追われる自分と、自分を抱えて走る味方の天騎士。
『我らにとって創造神は貴女だけです!』
その天騎士を、自分は知っていた。
自分を助けるために命を賭してまで来てくれた。
暗闇に包まれた精神世界で頭を抱えうずくまるメルティナは自分が何者であったのかを徐々に思い出したのだ。
しかし・・・。
(思い出したからといってどうなる。神としての力は座を奪われると同時に失い、仲間も失った・・・。記憶を思い出したところで、私は何も変わらない。ただの無力で、役立たずのままだ。・・・私は、私はどうしたらいいの!分からない!判らない!解らない‼でも・・・、失いたくない。あの人たちを失いたくない、誰も失いたくない!何も失いたくない‼これ以上失いたくない‼‼)
次第に情緒が不安定になり錯乱してしまうメルティナ。
するとそんな彼女の頭を何者かが鷲掴む。
『記憶が戻られると都合が悪いな。悪いがせっかく思い出した記憶は消させてもらうぞ。』
現れたのは、もう一人の黒いメルティナだった。
『まぁ、この状況は私にとっても不都合だ。どれ、しばらく身体を貰う。全てぶち壊してやるよ。』
そして現実でメルティナの身体から黒い靄が溢れ始めた。
「ん?何だ?」
メルティナが目を見開くと眼球が禍々しく赤く発光した。
「・・・うあぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」
辺りが揺れるほどの叫びを発したメルティナはラルを取り込み黒い球体に包まれる。
『リンクジャック‼』
そして球体が始め飛ぶと、彼女が現れた。
『ヘルズ・ラルマ‼』
顔の左側を禍々しい仮面で覆い、髪も服も全て黒くなり、漆黒の翼を羽ばたかせる堕天使が降り立った。
突如変貌したメルティナにレストは驚愕していた。
「な、何だあれは・・・⁉」




