表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/288

『第百三十五章 剣星の夢幻』

タクマ達が死闘を繰り広げる中、街外れにあるギガルの工房。

この辺りの人はまだバハムートに避難されていなかったようだ。

エルエナの魔法で工房の人達が眠らされ、部屋のソファでも眠っているギガルとヒルデ。

魔法の靄でいかがわしい夢を見せられてる中、ヒルデだけは違う夢を見ていた。


 暖かい日差しが差し込むとある街。

その中で一際立派な屋敷の裏で木音が鳴り響いていた。

「うわっ⁉」

弾き飛ばされたのは綺麗な黒い長髪の少女。

当時十七歳のヒルデだ。

「足腰を踏み込めと何度言ったら分かる。」

彼女の前には和風の着物を着た凛々しい顔立ちの男性が木刀を構えていた。

「もうパパ!もう少し加減してよ!大人げないわよ!」

「黙れ。加減をしては稽古にならん。今日は日が暮れるまで続けるぞ。」

「ヒエーーー!」

言葉通りヒルデは夕暮れまで父親にみっちりしごかれた。

もう立てない程疲労が尋常じゃない。

「今日はここまで。明後日もしっかし指導するぞ。」

「ぐふっ・・・!」

完全に力尽きたヒルデだった。


 翌日、庭のベンチに腰を掛けるヒルデは大きくため息をついた。

「はぁ・・・。」

「どうした?ため息なんかついて。」

「兄さん・・・。」

黒髪の好青年が汗を拭きながらやってきた。

「・・・パパの稽古には、正直ついていけそうにないの。」

「・・・お前もか。」

父親の厳しい稽古に兄妹二人は頭を悩ませていた。

「パパ、昔はあんな厳しい人じゃなかったのに・・・。」

父が変わってしまった原因は分かっている。

母の病死だ。

当時最強の剣士と名高い父は地方へ遠征に出向いてる間に、病弱だった母が死に、父は最期に立ち会えなかったことを酷く悔やんでいた。

そのショックでしばらく屋敷に引きこもり、剣士を辞めた。

それから父はヒルデ達を厳しく指導するようになったのだ。

自身の身は自身で守れるようにと。

「私達の事を考えてくれてるからいいけど・・・。」

「あの稽古はレベルが高すぎる。正直ついていくだけで精いっぱいだ。今の親父殿は何かにとりつかれたかのように容赦なく指導してくる。」

「うん、私達は、パパの期待に応えなきゃいけないのかな?」

正直、剣士になろうとは思っていなかったヒルデ。」

「私は・・・、特になりたいものもないし、家を継ごうかなって思ってるんだ。」

「・・・・・。」

天を仰ぐヒルデに兄は一瞬表情が険しくなる。

そんな事に気付かないヒルデは語り続ける。

「剣士なんて、そんな大層なものになりたいとは思えないわ。私はひっそり家を継いで静かに暮らしたい。」

「・・・そうか。」

兄は立ち上がり、何かを覚悟した目をして稽古に戻って行った。

「兄さん、どうしたんだろう?」


 それから数ヶ月、同じように稽古をする日々が続いた。

剣技にも慣れ、力がついてきた頃、事件が起きてしまった。

なんと、今度は父が戦死してしまったのだ。

街の人々を魔獣の群れから救い出したまでは良かったが、相手はかなりランクの高い魔獣。

しかも群れでの出現であったため、ブランクのあった身体では無傷とはいかず致命傷を負い、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。

「パパ・・・。」

雨が滴る中、ヒルデと兄は父の墓の前で立ち尽くす。

「何で、パパまでいなくなっちゃうの?何で、どうして私達ばかり大切なものを失わなくちゃいけないの?・・・神様は意地悪だ。神様なんて、本当はいないの?」

雨のせいなのか分からないが、ヒルデは静かに涙を流していた。

それを隣で見ていた兄は何かを決意した眼差しをしていたのだった。


 数日後、父の資産の相続が決まろうとしている中、ヒルデは衝撃の事実を突きつけられた。

「ヒルデ、お前を我が家から追放する。」

兄から耳を疑う言葉をかけられたヒルデは取り乱しながらも理由を問う。

「どうしてなの兄さん⁉私が何をしたって言うの⁉」

「俺は前から親父殿の後を継いで領主になろうと暗躍していたんだ。親父殿が死んだ今俺が領主に選ばれるために、ヒルデ、お前は邪魔だ。」

優しかった兄が急変してしまい戸惑うヒルデ。

「そして今、俺の目的は達した。よってヒルデ、お前を追放だ。さっさと出ていけ!」

理解がままならないままヒルデは外へと放り出され、門が閉じられた。

「・・・兄さん。」

信じられない事実の数々にヒルデは戸惑いながらも現実を受け入れ、旅立っていったのだった。

「・・・本当によろしかったのですか?」

執事が領主となった兄に問うと、

「これでいいんだ。アイツには、これが相応しい・・・。」

だが彼の背中はどこか寂しそうな雰囲気を出していた。


 追放されたヒルデは追い出される際に渡された父の形見である剣をお守りに旅をした。

途中苦労することも山ほどあったが父に習った剣術のおかげで冒険者として大いに活躍。

次第に最強の剣士、剣星として名を轟かせた。

その後、ヒルデは素敵な人と出会う事ができ、家族にも恵まれとても幸せな人生を歩んできたのだった。


 「・・・ん。」

目を覚ますヒルデは向かいのソファで大口を開けて寝ているギガルに目が移る。

「何て顔して寝てんだい。」

ベシッとギガルの顔を叩くヒルデは部屋を出て工房の人達が倒れるように寝ている惨状。

そして外の異様な空模様。

ヒルデは一目で状況を理解した。

「そういうことかい。」


 その頃、街の中央辺では激しい戦闘音が鳴り響いていた。

「破極牙線‼」

アルセラの放つ鋭い一太刀が空を斬る。

(コイツ、以前より力を付けている?)

相対する天騎士アムルはアルセラの攻撃をかわし上空に上がる。

そこに竜化したリヴが攻め入る。

「フロストファング‼」

氷の牙で噛みつくもこれもかわされてしまった。

「貴様らがどれだけ力を付けようとも、私もただ眠っていただけではない!」

魔法陣を出し剣を突き刺した。

「っ!アルセラ!構えて!」

「天の型、居合・聖滝綴‼」

剣を引き抜くと巨大な光の太刀が二人に目掛けて放たれ、大地が抉れた。

「ヒェ~!前より威力が上がってる⁉」

「力を付けたのは私達だけじゃないってことか・・・!」

なんとか避けることに成功した二人だがアムルの息をつかせぬ猛攻に押され始めていった。

『しっかりしろ小娘!こやつとは一度戦っておるのじゃろう?』

「確かにそうだが、以前にも比べて勢いが凄まじい!それに彼女から、尋常じゃない殺意も感じるんだ!」

アムルの剣技を弾き返し距離を取った。

「さっきから何をブツブツ言っている?」

どうやらアムルにはカリドゥーンの声は聞こえていないようだ。

「戦って分かった。彼女はまだ本気を出していない。」

「えぇ、様子見って段階かしらね?」

リヴも降りてきてアルセラの背後に立つ。

「本気を出してないなら好都合よ。本気を出される前にケリを付けましょう。」

「あぁ!」

カリドゥーンを構え一気に距離を詰め、低い位置から剣を振り上げる。

身体を逸らしてかわしたアムルはそのまま上空へ飛翔していった。

「リヴ!頼む!」

「オッケー!」

アルセラはリヴの頭部に飛び乗りアムルを追っていった。

ぐんぐんと高度を上げるアムルは突然急旋回し、急降下してきた。

「うわっ⁉戻ってきた⁉」

「天の型、居合・羅刃‼」

一回転して剣を振り下ろし、アルセラが受け止める。

だが降下してきたアムルの剣は重く、リヴ共々地上へと叩き落されてしまった。

「空中では私が有利だ。どんな手で来ようとも全て打ち砕いてやる!」

すると土煙を払い除け、手足に氷の手甲を装備したアルセラが飛び出してきた。

水色に刀身が変化したカリドゥーンを降り氷の柱を生成。

その上に降り立った。

「良かった・・・、少しだけでも使えた!」

「それは、シルバーパイソンの力?何故貴様ごときが神獣の力を扱える?」

「このアーティファクトはシルバーパイソンの力を持つからな。完全ではないが今私が使える力だ!」

カリドゥーンに装着させたアーティファクトを見せるアルセラ。

「神獣の力だと?神獣は我らにとっても偉大な獣。その力を下等な人間ごときが持つなど、断じて許さん!」

空を蹴り一瞬にしてアルセラと距離を詰められる。

咄嗟に反応しアムルの剣技を寸前で受け止めるも再び地面へと弾き飛ばされてしまう。

「くっ、やっぱり完全に解放しないと太刀打ちするのも難しいか・・・!」

瓦礫に横たわるアルセラにアムルが近づき、手を差し出してきた。

「神獣の力を持つその魔道具を渡せ。貴様にそれを持つ資格など微塵もない。」

「・・・何勝手な事言っているんだ。」

瓦礫を押し退けゆっくり立ち上がるアルセラ。

「これはお前たち天界の物ではない。このアーティファクトは、カリドゥーンの物だ!」

「カリドゥーン?前任の創造神が作った聖剣を何故知っている?」

「何故も何も、この剣こそがカリドゥーンだからな。」

そう言うとカリドゥーンが人の姿に化けた。

「貴様は若い天使のようじゃから儂を見るのは初めてかの?」

「まさか、本物の聖剣カリドゥーンなのか?私が生み出される数千年も前に下界の均衡を保った伝説の聖剣、それが貴様なのか?」

「今は闇の力も合わせ持って魔聖剣と呼ばれておるがな。儂が正真正銘カリドゥーンじゃ!」

胸を張ってドヤるカリドゥーン。

「その伝説の剣を、人間・・・貴様が持っているのか?」

「私が持ってはいけないのか?」

「当然だ!それは神の作った神器だぞ!それを貴様のような下劣な人間が手に持っていい代物ではない!」

怒り叫ぶアムルにカリドゥーンはため息をつく。

「何が神器じゃ。儂はそんな事一度も思ったことはない。儂は下界で振るわれるために作られた剣じゃ。所有権なぞ、貴様ら天界の者が決めるでないわ!」

カリドゥーンは再び剣になりアルセラの手に戻った。

「貴様が何を言おうが神の手で作られてことは事実。故に貴様は天界の所有物であり神の武器。貴様を奪い創造神様へ返上する!」

「生憎、突然現れて大切な相棒を渡す程、私は優しくないぞ!」

二人は互いに剣を構え、大激突する。

「・・・私、忘れられてない?」

竜化して存在感がデカくなってるハズのリヴがずっと棒立ちしてたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ