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『第百三十三章 幻夢』

襲来した美神の魔法で街中の人々が卑猥な夢を見せられる中、タクマは最愛の母と過ごす日常の夢を見ていた。

「それじゃ行ってくるね♪あ、夕飯は何がいい?」

「セナの作る料理なら何でも。」

「もう、お世辞上手なんだから♪それじゃあ今夜はチーズフォンデュね!行ってきまーす!」

元気よく手を振ってセナは仕事に出かけていった。

留守番のタクマは小屋の掃除を済ませ、外で洗濯物を干す。

暖かい天気に草原の風が白いシーツを揺らす。

「よし!完璧♪」

勿論これが夢であることをタクマは承知の上だ。

しかし、かつての日常がとても懐かしく、そして楽しい。

分かっていてもいつまでもこうしていたいと思ってしまうのだ。

「・・・あぁ、楽しいな・・・。あんな事にならなければ、この日常は今でも・・・。」

「いつまでこんな茶番に付き合うつもりだ?」

突然背後から知らない声をかけられた。

驚いたタクマは振り返るとそこにはバハムートによく似た銀龍が佇んでいたのだ。

「バハムート⁉」

「違うな。だが無関係ではない。我はそのバハムートとやらの遠い祖先にあたる者だ。」

バハムートの祖先?

それであれば姿形が似ているのも頷けるが。

「バハムートの祖先が何故俺の目の前に?」

「我らは貴様の中に眠る魂だ。今はそう思っておれ。だがそんなことはどうでもいい。貴様、いつまでこんなまやかしの中に居座るつもりだ?」

頭を降ろしずいっとタクマに顔を寄せる銀竜。

「まやかしと分かっていながらこの場に居続ける価値が貴様にあるのか?」

「・・・価値はあるさ。母親との日常なんて、価値以外のなんでもねぇ。でも、分かってるんだ・・・、セナは、母さんは、本当はもういないんだって・・・!」

現実がこみ上げたのか涙目になり俯くタクマ。

銀龍はため息をつく。

「今現実は神の奇襲を受けている。そんな中貴様は呑気にありもしない現実に身を委ねるのか?」

「お前にはわからないだろうな。もう二度と会えない人とこうしてまた一緒に居られる時間が、どれだけ幸せか・・・。」

「分からんな。分かろうとする必要もない。だが貴様がこうしていることは我らにとっても不都合なのだ。こんな茶番を切り捨て早く目覚めろ。」

するとタクマは拳を強く握りしめる。

「分かってる、分かってるんだよ・・・!でも、やっぱり目覚めたくないと思っちまうんだよ・・・!」

「いいや、分かっておらん。貴様は現実を受け入れようとせず夢に閉じこもろうとしている。外で必死に戦っている貴様の仲間を貴様は裏切ろうとしているのだぞ?」

「っ‼」

仲間。

そう言われてタクマはハッと気付かされる。

「貴様はそんな薄情な男だったのか?だったら我らの見込み違いだったな。貴様はもっとマシな奴だと思っておったが、期待外れだ。」

そう言い残し銀龍は姿を消した。

「・・・何が期待外れだ。期待される筋合いもないってのに。・・・・・。」

タクマはしばらく黙り込み、そして・・・、

「悔しいが銀龍の言う通りだ。いつまでも過去にすがってる場合じゃない。俺には、待っていてくれる仲間がいる!」

するとタクマの身体が光に包まれ、ローブを羽織り剣を持った元のタクマに戻った。

「目覚めなければ!」

小屋に戻り最後の感傷に浸る。

「セナ、ごめん・・・。」

「何がごめんなの?」

驚いて振り向くとセナがいた。

「セナ、どうして?」

「いや~、お財布忘れちゃってね。取りに戻ってきたんだけど・・・タクマ、その恰好?」

「・・・・・。」

タクマは何も言わずセナの横を通り過ぎる。

「ごめんセナ。俺、行くとこあるんだ。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。」

「・・・あの子たちの下へ行くんでしょ?」

「っ!」

タクマはまた驚く。

「これが貴方の夢だって知ってたわ。だから私は貴方を存分に甘やかした。でも、行かなきゃいけないんだもんね。貴方の居場所は、ここじゃない。」

彼女は全て知っていた。

知っていた上でいつも通りに接してくれていた。

「セナ・・・。」

「振り向いちゃダメよ。振り向いたら、きっと戻れなくなる。貴方は真っ直ぐ前を行きなさい。」

セナに言われ振り返りそうな首を堪える。

するとセナがタクマの背中に抱き着いた。

「最後に言わせて・・・。大きくなったね。タクマ。」

「っ!」

涙が溢れそうになる。

でも今泣いたら、きっとセナに怒られてしまう。

「行きなさい。貴方の、居るべき場所へ。」

優しく背中を押され、タクマは走り出す。

振り返り彼女の顔を見たい気持ちを押し殺して。

『私はいつでも、貴方を見守ってるよ。タクマ。』

そう聞こえた気がした。

(・・・アンタには、感謝してもしきれない。俺を拾ってくれて、俺を育ててくれて、たくさんの愛情を貰った。本当、本当にありがとう。母さん・・・!)

こみ上げる涙を流しながらも、タクマは力強く森を走りぬける。

そんな彼を幹の陰から見る一人の女性。

「全く。天龍王も素直じゃない。目覚めさせたいならあんなにキツく言う事もないのに。」


 一方、現実では。

「アルセラ、本当にこっちで合ってるの?」

街を駆けながらリヴが問う。

「あぁ、この殺気、間違いない!」

広い噴水広場に出ると街灯の上に見知った天騎士が佇んでいた。

「あら、随分と久しぶりじゃない?」

そこにいたのはかつてアルセラとリヴの二人と激闘した名持の天騎士、アムルだった。

「貴様らの顔、一時たりとも忘れたことはない。」

「こっちは忘れてくれてもいいんだけどね?」

煽り口調で返すリヴ。

アムルは街灯から降り、剣を抜き二人の前に立ちはだかる。

「レーネ様の仇、そして私の名誉のため、まずは貴様らから討つ!」

「悪いが私はもうあの時の私ではない。今度こそリベンジさせてもらうぞ!」

アルセラもカリドゥーンを抜き構える。

「アルセラ・シフェリーヌス、参る!」

「天騎士アムル、今度こそ貴様を葬る!」

「・・・あ、リヴです。」

名乗る二人に釣られて自分も名を言うリヴだった。


 夢から目覚めるため森の中を駆けるタクマ。

しかしどんなに走っても夢から覚める方法が分からなかった。

「やみくもに走っても埒が明かない。強い刺激で起こすか。」

自分の頬をつねったりしたがそれでも目覚めない。

「いてて、かなり痛いのに起きねぇ・・・。どうしよう・・・。」

頬を押さえて途方に暮れていると、

「なら他人を頼ればいい。」

知っている声がした。

「シーナ⁉」

「はぁい♪」

木の陰からタクマに宿る故人シーナが現れた。

「なんでアンタまでここにいるんだ?」

「ここは君の夢の中だよ?元々君の中にいる私達は自由に出入りできるのさ。」

「人の夢に入るなんてプライバシーの侵害だぞ?」

「死人に言うかね?」

そんなツッコみもさておき、タクマは博識のシーナにいろいろと聞いた。

「これは神の幻術。生半可な方法じゃまず起きられないね。」

「やっぱ神の仕業か。バハムート達が現実で戦ってるとなるとアイツ等は幻術に掛かってないのか?」

「幻術は魔力の少ない者にしか効果がないみたいだね。君は元から魔力を持ち合わせてないから幻術に掛かったのだろう。」

「納得だ。しかしそうなると尚更目覚めなきゃいけない。でも生半可な方法じゃ無理なんだろ?」

「だったら生半可以上の方法を取ればいいだけじゃない?」

「簡単に言うなよ。仮にあったとしてもどうするんだ?」

「そこは彼に任せればいいだろう。」

「彼?」

するといつの間にかシーナの背後に黒く巨大な翼龍が立っていた。

「うわっ⁉いつの間に⁉ていうか、ウィンロス⁉」

黒い翼龍はなんとウィンロスに酷似していた。

「お前、天龍王にも同じこと言ってたじゃねぇか?だったら分かるだろ。」

となると、彼はウィンロスの遠い祖先という事だろうか?

しかしよく見てもその翼龍は雷刃竜となったウィンロスにあまりに似すぎている。

違うとなるとウィンロスよりも少し派手な見た目だ。

「まさか、アンタも俺の中に宿る魂ってことか?」

「ご名答だ。」

タクマは頭を抱えた。

自分の体内にはシーナに続き、バハムートに似た天龍王、ウィンロスに似た翼龍、そんな者たちが人間の体内にいるとなると少し気持ち悪くなった。

「なんならもう一体お前の中に居座ってる奴がいるが?」

「まだいんのか⁉」

もう考えるのを諦めたタクマだった。

「俺の中に女性一人、ドラゴン三体、これは一旦置いといて、この夢から覚めるのにはお前の力が必要なのか?」

「急に態度変えたな。まぁ見ての通り、オレは雷を操れる。雷撃による刺激ならこの気味悪い幻術も破れるだろうよ。だがオレの雷は強烈だぞ?普通の人間が食らったら一瞬でお陀仏だ。だが成功すれば夢から目覚める。どうする?」

タクマの答えはもう決まっている。

「やってくれ。それでここから出られるんならそれに賭ける!そのくらいしなきゃここに居座ろうとしていた自分が恥ずかしいぜ。」

「・・・いい覚悟だ。」

ニヤリと笑みを浮かべる翼龍は翼を広げるとパチパチと音を鳴らせ、次第に雷が翼に蓄積されていく。

「お、おい?これ本当に大丈夫だろうな?」

「それはお前次第だな。いくぞ!」

翼を振り下ろすと強力な落雷がタクマに直撃した。

「ぐあぁぁぁぁ‼」

「耐えるんだタクマ!仲間を想う君なら絶対出来る!」

シーナの応援にタクマは根性を見せる。

「ぐぅぅ!あぁそうだ!仲間のために、ここでへばってる俺じゃねぇ!うおぉぉぉぉ‼」

タクマの意識が戻ってきたのか空間に亀裂は走っていく。

「神をぶっ倒してこいガキ。オレ達の野望のためにな。」

そして空間はガラスのように粉々に砕け散ったのだった。


 「・・・マ、・・・クマ、起きんかタクマーーー‼」

「いぃぃぃぃ⁉」

目覚めた瞬間、超至近距離からバハムートのもの凄い大声が耳を貫通。

頭がぐわんぐわんになりながらも正気に戻ったタクマ。

「やっと起きたか寝坊助め。」

「お前・・・、耳元で大声出すなよ・・・。鼓膜破れるかと思った・・・。」

「どんなに声をかけても起きんのが悪いんだろう。」

「・・・そうだ!天使は?神はどうした?」

「天使共ならほれ。」

バハムートが指す先にはかなりの数の天騎士がノックアウトで倒れて埋め尽くされてた。

「寝ていて無防備だったお主を襲おうとしてたのでな。なんとか間に合い全て蹴散らしたのだ。」

バハムート一人でこれだけの数の天騎士を一掃したという。

流石竜王と言うべきか。

その時、上空から一際大きな存在感を感じた。

「へぇ~、私の魔法を自力で解くなんて。可愛いクセになかなかやるじゃない?」

そこには以前にも遭遇した際どい服装の女神、美神エルエナが見下ろしていた。

タクマは立ち上がりエルエナに向く。

「感謝するぜ。お前の魔法のおかげで大事なものに気付けたんだからな」


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