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『第百三十二章 二神の顕現』

翌日、タクマは街に出向き聖天新教会の様子を探りに出かけた。

「あの子一人で大丈夫かい?」

「心配いらん。いざとなったら我ら三体の内一体を召喚すると言った。それにあやつはそう簡単にへまをする男ではない。」

そう言いバハムートは屋敷に戻って行った。


 とりあえずタクマが戻るまで各々過ごすことにした。

ヒルデは友人のギガルの工房にやってきていた。

「久しぶりだなヒルデ!引っ越したと聞いた時以来か!」

「相変わらず声量がうるさいな。ギガル。」

二人は客室でお茶を飲む。

そこでヒルデは自身の事をギガルに話した。

ギガルは手に持っていたカップを落としてしまう。

「嘘だろ・・・?ヒルデ・・・。」

「本当さ。この事はあたしの親友とお前にしか話していない。」

「・・・余命半年、せめて老いで逝ってほしかったが、それも叶わないのか・・・。」

「構わないさ。あたしの時代はとっくの当に終わってる。ここが潮時さ。」

「・・・アルセラの嬢ちゃんに言わないのか?」

「親友にも言われたけど、言ってしまうとあの子は引きずるかもしれない。あたしの死であの子の道の足かせにはなりたくないのさ。」

「そうか。なら俺からとやかく言うつもりはない。」

そう言いお茶をすする。

「最期の挨拶って訳じゃないけど、一度アンタと顔を合わせたくてね。」

「こんな鉄臭いおっさんに会いたいだなんてお前くらいなもんだぞ?ガハハハッ!」

「自分で言うか。アハハ!」

二人は子供のように笑い合うのだった。


 一方、聖天新教会の動向を探るべく一人街にやってきたタクマ。

街で何やら動いていた信教者を見つけ尾行する。

信教者たちは街の大聖堂に入っていき、タクマもバハムートの『認識疎外』で聖堂に潜り込んだ。

神の間では神父が祈りを捧げており、先ほど入った信教者が何かを報告している。

(聞こえづらいな。『空振動』!)

ウィンロスのスキルで音を聴き取る。

「神父様、顕現に必要な魔石の設置が完了しました。いつでも七天神お二人を顕現させることが出来ます。」

タクマは驚く。

奴等の話では七天神が二人も顕現で下界に現れると言う。

(自力で来る降臨と違い力がそのままの状態で下界に降りる儀式。しかも七天神が二人も降りてくるだと⁉)

タクマは聞き耳を立て続ける。

「ご苦労。こちらも報告が済んだ所です。では最後の仕上げに皆をこの場に。我ら七天神のご加護を授かりし者達で最後の祈りを捧げましょう。」

「承知しました。」

信教者は別室へ移動し、神父は再び祈りを始めた。

(とんでもない事になったな・・・。)

この事を一刻も早くバハムート達に伝えたいがタクマは何か違和感を感じていた。

(何だか、嫌な予感がするな・・・。)

すると祈りを終えた神父は水晶のような魔道具を用いて各地に配置された信教者に連絡を入れる。

「皆さん、準備はよろしいですか?」

『はい。各員、いつでも我が身を捧げられます!』

空振動で聞いてたタクマはハッと驚く。

(何⁉まさかもう儀式の準備を⁉)

どうやら動くのが一足遅かったようだ。

「街の方々には申し訳ありませんが、せめて偉大なる神の顕現の贄となっていただきましょう!」

神父の言葉を皮切りに各地の信教者達が一斉に祈りを捧げた。

「慈悲深き神よ!選ばれし我らに、どうか神の恩恵を‼」

「「神の恩恵を‼」」

(まずい!止めねぇと!)

タクマも動こうとしたが間に合わなかった。

「顕現せよ!我らが神よ‼」

「「我らが神よ‼」」

その瞬間、街の周りを複数の紫色の光が天の中心へと伸び、空が不気味な紫色に変色する。

そして祈りを捧げた神父と信教者達はバタバタと倒れ、息を引き取った。

「チッ、気付くのが遅かったか!」

空の異変は屋敷にいたリーシャ達も気付いていた。

「この空模様は・・・!」

「もはや手遅れだったか。」

天の中心から光の輪が開き、天界がその姿を現した。

そこへ開いた天界から無数の天騎士が下界へと降りてくる。

そして、強大な気配を放つ二人の神の姿も。

「下界へ降りたのは何百年ぶりだろう。俺の知らない新しい知識がありそうだ。」

知的な雰囲気を醸し出す白いローブを着た長髪の男性神、知神レスト。

「さぁて、人間たちにあるアレを覗き見ちゃおうかしら?ふふふふ!」

際どい服装の女性神、美神エルエナ。

二人の七天神が無数の配下を連れて下界に現れたのだった。

「エルエナ。まずは予定通りに頼むぞ。創造神様からの命でもあるからな。」

「任せなさい。」

エルエナは唇に触れピンク色の霧を吐き出す。

「『魅惑の幻想郷』!」

ピンクの霧は街全体を覆うように降りかかり、街の住民が次々と眠らされていった。

「とても刺激的な夢へご案な~い!」

「ちなみに刺激的とは?」

「聞きたい?」

「・・・いや、いい。」

深く触れることを避けたレストだった。

「・・・ん?」

「どうしたの?」

「どうやらお前の魔法に掛からなかった奴らがいるみたいだ。」


 駆け足で街に降りてきたリーシャ達。

辺りを見回すと住人全員が眠っていた。

「寝てる?」

「おそらくこの奇妙なピンクの霧の影響だろう。」

他の人達は眠っているがどういう訳かリーシャ達には効果がない。

「旦那。この霧を鑑定してみたらええんとちゃう?」

「ふむ、やってみよう。」

バハムートはピンクの霧に鑑定をかける。

「・・・どうやらこの霧は魔力を持たない者に影響があるようだ。」

「魔力を持たない・・・、だから私達は眠らなかったのね。」

「私も魔力持ちなのか?」

「アルセラさんはカリドゥーンさんがいるからでは?」

「儂と共鳴したおかげで命拾いしたようじゃの小娘。」

リーシャ達に影響がない理由は分かった。

だがもう一つ気になる事がある。

「この霧で眠った人たちは大丈夫ですか?その、永遠に目を覚まさないとか・・・?」

「その心配はいらん。強制睡眠だけで命に別状はない。だが・・・、この霧で眠らされた奴が見る夢は・・・。」

何故かバハムートは言葉を詰まらす。

「これは子供には言えんな。」

「「「え?」」」

子供組が首を傾げる。

「リーシャ、ラル、メルティナ以外こっちにこい。」

残りのメンバーを集め小声で説明する。

「・・・マジで?」

「マジだ。」

「それは言えないわ。特にあの三人には。」

「あまりにも刺激が強いな。特にあの三人には。」

「儂はノーカンか。」

大人組がコソコソと話しており完全に蚊帳の外の子供三人組だった。

結局教えてくれなかったリーシャ達はとりあえずタクマとヒルデを探し回った。

「お婆様は確か知人の所へ行くと今朝言っていた。おそらくギガルおじ様の工房だろう。」

「居場所だけでも分れば上々。後は行方の分からんタクマだが・・・、っ!伏せろ!」

全員が身を屈めると上空を数人の天使が通り過ぎていった。

「・・・行ったようやな。」

「認識疎外で気配を遮断しているとはいえ相手が相手だ。認識疎外の効かん奴が居るやもしれん。用心しつつタクマを探すぞ。」

バハムート達はなるべく物音を立てずに先へ進むのだった。


 教会の片隅で一人倒れ眠らされているタクマ。

彼は他の人とは違う夢を見ていた。


 目を開けるとそこは、酷く懐かしい村だった。

「ここは・・・?」

見覚えのある草原。

見覚えのある小川。

そして・・・、

「あ、こんな所にいたのね?タクマ。」

声のする方へ振り返るとそこには、

「セナ・・・?」

既に死んだはずの育ての親である少女、セナがいた。


 二人はいつもの市場で買い物を済ませ小さな丘の上に立つ小屋に帰る。

「う~ん!今回は豊作ね♪野菜がシチューをより際立たせてる。」

いつもと変わらない最愛の母との日常。

セナの作る大好きなシチューを食べるタクマ。

でも・・・、

(これは夢だ。セナはもういない。でも・・・、目の前にいるのは間違いなくセナだ。シチューの味も、セナの作る味だ。)

次第に涙が零れ落ちる。

「え、どうしたの⁉まさか食当たり⁉」

「するかそんなもん!・・・美味すぎて、泣いてたんだよ。」

気恥ずかしそうにボソッと言うタクマにセナは一瞬固まったが。

「~!私の息子は可愛いなぁ‼」

「ちょっ⁉やめろーーー⁉」

でも、凄く楽しい。

こんな時間がこの先もずっと続けばいいのに。

夢と分かっていながらもそう思ってしまうのだった。


 一方、現実では無数の天騎士が中央都市上空を偵察している中、認識疎外で気配を消し移動しているバハムート達。

「タクマは魔力を持っていない。きっと街に人達と同じように眠らされている。」

「容易に予想がつくで。」

「・・・それにしても、天使の数が多いわね。まるで虫みたい。」

(天使にかける言葉じゃないですね・・・。)

そうこうしているとアルセラとリヴが一際大きな気配を感じ取った。

二人はその場で足を止める。

「どしたん?」

「・・・リヴ。」

「えぇ、私も行くわ。」

アルセラが頷くと、

「皆すまない。私とリヴは別行動をとる。」

「急にどうしたんですか?」

アルセラとリヴは互いに顔を見合わす。

「野暮用ができた。」

そう言い残し二人は走り出し行ってしまった。

「なんなん?」

「あやつらなら大丈夫だろう。我らは一刻も早くタクマと合流するぞ。」

再び進もうとしたその時、

「そうはさせないぞ。」

「「「っ⁉」」」

彼らの前上空に六枚の翼を有した長髪の男性がいた。

「この気配、七天神か。」

「左様。俺は叡智を司る神、知神レスト。七天神の一人である。」

名乗り終えると彼の配下である天騎士が大勢集まってきた。

「旦那の認識疎外も七天神には効かんかったか!」

全員が身構えるとレストはリーシャの後ろで震えるメルティナに気が付く。

「ふむ、なかなか面白い事になっている。」

何やら不吉な笑みを浮かべるレスト。

「・・・旦那、あんさんは先に行ってタクマを見つけい。」

「ウィンロス?」

「こっちはオレ達でなんとかする。今タクマは無防備なんや。奴らがタクマに何をしでかすか分からへん。早いとこタクマを叩き起こしてくれや。」

他の皆もバハムートに頷く。

「・・・分かった。我らが戻るまで持ちこたえろ。」

レストの隙をついてバハムートは『空間転移』でどこかへ消えていった。

「っ‼レスト様!竜王が逃げました!」

「構わん。向こうはエルエナがなんとかするだろう。こちらは・・・。」

レストは再びメルティナを見る。

「存在してはならない異物を排除するのみ!」


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