『第百三十一章 三ツ星の神獣』
大変長らくお待たせしました。
しばらくスランプ気味だったため投稿をお休みしてました。
今日から投稿を再開しますのでどうか気長に、よろしくお願いします。
『・・・懐かしいの。こんな姿じゃったわ。』
声だけでも彼女の感情がよく伝わってきた。
「やっぱり、この少女はカリドゥーンなんだな?」
『うむ。当時の勇者を側で支えた人型の儂じゃ。長年眠ってて姿形を忘れておったため人の姿にはなれなかったが、聡明に思い出した今なら・・・!』
するとカリドゥーンが光輝き、剣から徐々に形を変えていく。
そして光が晴れると、美しく長い薄紫の髪にフリルの付いた黒いノースリーブ。
メルティナと同じくらいの幼い少女が現れた。
「カリ、ドゥーン・・・?」
「そうじゃ。貴様がその姿を見せてくれたおかげで思い出し、この姿になれた。例を言うぞ?小娘。」
以前彼女は人型の容姿に自信があると言っていたが言うだけある可憐な容姿をしていた。
「ホンマに剣が人になったで・・・?」
「なんじゃ?信じとらんかったか?鳥。」
「鳥ちゃうドラゴンや!」
そこへ買い出しに行っていたヒルデとリヴ、メルティナが帰ってきた。
「ただいま・・・、誰⁉」
開口一番人の姿のカリドゥーンに驚くリヴ。
そこへ子供好きのヒルデお婆ちゃんが飛びついたのは言うまでもない。
翌日、ヒルデの豪邸の裏庭で激しい戦闘音と爆音が鳴り響いていた。
世界最強の剣士である彼女に手合わせ願いたいとドラゴンチームが申し出たのだ。
よってバハムート達三体とヒルデの模擬戦が行われていた。
そして結果は・・・、
「どうした?さっきの青い子もそうだけど緑のアンタも全然動けてないじゃないか?」
「KU・SO・GAーーーー‼」
煽り顔で煽るヒルデに腹の底から叫ぶウィンロス。
「なんやねんアレ‼拘束魔法で動き封じて容赦なく殴り掛かるの繰り返し‼あんなん勝てるわけないがな‼大人げないとちゃいます婆ちゃん⁉」
「カカカッ!戦に正攻法なんてないぞ?命が掛かる戦では尚更の事。使える手段は全部使ってこそ生き残れるんだ。律義に戦ってちゃ勝てるものも勝てないさね。」
「・・・よーし!使える手段使ってええなら出し惜しみなくいかせてもらいますわ!」
そう言いウィンロスは球体に包まれ殻が弾け飛ぶと、黒い体毛に覆われ角と爪が稲妻の形に変形した雷刃竜へと変身した。
「今度はこっちで相手してもらうで?」
「覚醒か!面白いねアンタ!」
二人の模擬戦を庭の隅で観戦するバハムートとリヴ。
「やはり覚醒の力を身に着けていたか。しかも意のままに変身できるとはな。」
「あの雷刃竜に私は救われたわ。」
最初の模擬戦でコテンパンにやられたリヴがバハムートに寄り掛かっていた。
「アイツがいなかったら、私はきっと今頃この世にはいなかったと思う。癪だけどウィンロスは私の命の恩人ね。」
「奴は奴なりにお主等を気遣っておる。年長者の我らが若者に負けてはいられんぞ?」
「勿論。私も強くなるわ!」
「その意気だ。」
一方、残りのメンバーは書斎でヒルデの書き集めた歴史の本を読み漁っていた。
「ヤバいです・・・、次から次へと新たな情報が見つかります・・・。」
「頭から湯気出てんじゃねぇか。暫く休め。ラルとメルティナも。」
「「はーい。」」
「私はもう少し続けるぞ。」
「儂もじゃ。ここはいろんな情報があって飽きんのじゃ。」
「好きにしろ。」
そこに模擬戦の終わったヒルデがツヤツヤの表情で書斎にやってきた。
「いや~いい汗かいた!」
「え、無傷⁉あの三体相手だったら多少は爪痕が残ってるはずなんだが?」
タクマが窓から中庭を覗くと、犬神家状態で撃沈しているウィンロスと口から魂が出てるリヴ。
バハムートは流石に倒れてなかったが疲労困憊している様子だった。
「リヴとウィンロスはともかく、あのバハムートまで疲れさせてる・・・。」
「なかなかの戦闘技術だったぞ?特に竜王が!」
ヒルデ本人はまるで疲れた様子を見せず、むしろ元気が有り余っている。
本当に高齢者なのか疑うレベルだ。
「最強の剣士は伊達じゃねぇな・・・。」
ヒルデはアルセラの隣に腰を降ろす。
「それで?数日書斎に籠ってたけど何か解ったかい?」
「お婆様の書物はどれも素晴らしいです。ですが、肝心のアーティファクトに関しては全くです・・・。」
「どの文献も儂自身は出ておるがアーティファクトだけは詳細がまるで見つからん。というか恐らく歴史に記されておらんのじゃろう。」
アーティファクトはあくまで魔道具。
いくらカリドゥーンと同等と言っても具体的な詳細は当時の人達も分からなかったのだろう。
「俺達もカリドゥーン本人から聞いただけだからな。」
「一番知りたいことが解らずじまいか・・・。」
ため息をついて本を閉じるアルセラ。
すると、
「ならあたしが教えようか?」
「・・・はい?」
全員が目を点にした。
「アーティファクトなら知り合いに聞いた事があってね。訳あって書き記すことは禁じられてたが話すだけならいいだろう。」
「ちょっと待て剣星。貴様、アーティファクトの事を知り合いから聞いたじゃと?アーティファクトの詳細は儂と当時の勇者しか知らんはずじゃが?」
「お前知らねぇって言ってなかったっけ?」
「忘れとるだけじゃ。」
「おい。」
「話を戻すぞ?あたしがその知り合いから聞いたのはアーティファクトのモチーフとなった神獣の力だ。」
神獣。
その名の通り神の名を持つ獣。
おとぎ話や伝説でよく語られる神獣は神々の住まう世界に住んでいると言われている。
「神龍と似た魔獣か?」
「魔獣じゃなくて神獣だタクマ君。魔獣と一緒にしちゃ失礼にあたる。」
「あい・・・。」
「カリドゥーンからアーティファクトはそれぞれ神獣をモデルに作られたと聞いたが・・・、確か私の持ってる氷のアーティファクト、名は『シルバーパイソン』だったな。」
「シルバーパイソン、氷を司る蛇の神獣だね。あとは炎と白。炎は『不死鳥フェニックス』。そして白は『フェンリル』がモデルだ。」
よく聞く伝説の生物の名前。
その力を持つアーティファクトが三つ揃ったとなると凄まじそうだ。
「小娘は一時的だがシルバーパイソンの力を扱えた。じゃが強大な力に身体が付いていけず、解放したはいいが苦戦しとったな。」
ニヤニヤと嫌味を言うカリドゥーン。
アルセラがほっとけと言わんばかりに睨み返した。
「フェニックスとフェンリルか。なかなか大物の名前が出てきたな。」
「それをアルセラさんが使うとなると凄くカッコいいですね。」
リーシャにそう言われ少し照れ臭そうなアルセラ。
「中でもフェンリルの力はアーティファクトの中でもダントツで強力な力を持っているらしい。」
「あぁ、確かそんな感じだったと思うの。あのアーティファクトは他の二つと違い自らの意志で動き回る自立型じゃったからな。」
「てことは、今も世界のどこかで動き回ってるってことか?」
「流石伝説の魔道具、なんでもありだ・・・。」
そんな会話をしている内にすっかり夕暮れになってしまった。
一同は食堂に集まり、リーシャ達が夕飯の支度を使用とすると、
「あ、食材が足りません!アレがないと夕ご飯が作れません・・・。」
「一大事やん⁉」
ウィンロスの勢いが凄まじい。
「じゃぁ俺が買い出ししてくる。日が沈む頃には戻るから。」
「あ、私も行こう。タクマはまだこの街になれていないだろうからな。」
「助かる。」
「儂もついていこう。久々にこの姿で表に出たいと思っておったからな。」
「じゃぁこれが必要な物のメモです。食べ歩きしちゃダメですよ?」
「へいへい。」
そうして三人は夕焼けのさす街中で買い物を済ませ帰路につく。
「リーシャには買い食い止められてたのに・・・。」
「あんないい匂いされてたら食らわずにいられぬだろう。」
誘惑に負け、カリドゥーンに串焼きを買ってあげてしまった。
幼い容姿にねだられたら断り切れないのが大人の性だ。
「早速その姿を有効活用しやがって・・・。」
「ケケケッ!」
と笑うカリドゥーン。
「しかし、アーティファクトの詳細を知れたのは大きな収穫だったな。流石お婆様、伊達に長生きしてる御人ではない。」
「既に手持ちにあるのは氷のシルバーパイソン。まずはそいつに認めてもらうのが第一目標だな。」
「あぁ。」
平穏な時間が過ぎていく中、タクマはまた道中見覚えのあるローブを被った連中を目撃した。
途端にタクマの表情が鋭くなり、その気配に感づくアルセラ。
「どうしたタクマ?」
「・・・やっぱり見間違いじゃねぇか。」
「だからどうした?」
「アルセラ、この街に教会とかあるのか?」
「いや、私が来てた幼少期はそんな物なかったが、教会がどうした?」
「・・・胸騒ぎがするんだ。」
ヒルデの屋敷に戻ったタクマ達はまずリーシャに買い食いしたことを怒られた。
その後タクマは先程の話をヒルデにも聞いた。
「教会か。そう言えば数か月前に真新しい教会がこの街にやってきたね。」
「その組織は何と?」
「確か、『聖天新教会』だったか?」
その名を聞いた一同は驚きの表情を見せる。
「聖天新教会・・・!」
「この大陸にも蔓延ってやがったか。」
状況が読めないアルセラとカリドゥーンにも聖天新教会の真実を説明する。
「・・・そんな事が?」
「まさかその教会が直接神と関わってたとはね。そんで、これまで起こった事件のほとんどはその神々の仕業ってことかい?」
「あぁ。アンクセラム、フュリア、エリエント、聖天新教会、その全ては新生創造神と名乗る神のトップとその幹部、七天神。全部そいつらの企みだったって訳だ。・・・信じるか?」
普通に考えてこんな話を信じる方が無理な話だ。
だがヒルデは違った。
「今の話を聞いて信じられないと言うほうが無理な話さね。アンタたちの話には信憑性がある。あたしは信じるさ。」
その言葉を聞いて胸を撫で下ろすタクマ。
「なぁに!神だろうが何だろうがあたしに任せときな!そんな好き勝手する連中なんか蹴散らしてやるさね!」
笑いながらバシバシとタクマの背中を叩いたヒルデだった。
なんとも頼もしいお婆さんだ。
タクマ達が寝静まる深夜。
月明かりが差し込む自室にてグラスにワインを注ぐヒルデ。
「・・・こうして会うのは何十年ぶりだろうね。ルシファード。」
レースのカーテンが揺らめく裏にいつの間にか現れる美しい女性の神、ルシファード。
「少し野暮用でな。訳あって彼らを見守ってるんだ。」
「アンタが動く程、彼らが気になるのかい?確かにタクマ君は伝説の竜王を連れているが、それだけじゃないだろう?」
「実はな、敵対している神の一人がタクマに恋をしているんだ。」
「おっ⁉」
驚いた直後にやけ顔になる。
「ほうほう・・・、あの子は神ですら惚れさせるほどの器ってことかい。こりゃとんだ笑い話だ。」
「ホントだな。」
ルシファードもクスクスと笑みを零す。
「・・・どうした?そんな悲しそうな顔をして。」
ヒルデは少し思い詰めた表情をしていた。
「・・・あたしはもう長くない。不治の病が見つかってな。余命半年もないときた。」
ルシファードは一瞬動揺する。
「孫たちには言ったのか?」
「言えるわけないだろう。あの子たちは次のステージへ昇ろうとしている。そんな大事な時に足かせにはなりたくないからな。」
「・・・そうか。」
ヒルデはもう一つのグラスにワインを注いだ。
「ルシファード、あたしとの最後の晩餐に付き合ってくれるかい?」
「勿論だ。友よ。」
二人はワイングラスを持ち互いに友を称え合い乾杯したのだった。




