『第百二十九章 剣星』
ラウンガ大陸に到着したタクマ達一同。
港に降り中央都市まで来たはいいがある問題に直面していた。
「はぁ~⁉祖母の家を知らない⁉」
「はい~・・・。」
キュ~っと縮こまるアルセラ。
「それでよく行こうと言えたものだな。」
流石のバハムートも呆れ顔だ。
「仕方ないだろ!最後にここに来たのはまだ物心が薄い幼少期だぞ?それ以降はお婆様からこちらに会いに来てくれてたんだ!」
だったら周りの人に聞けばいいだけの話。
しかし事はそう簡単に行かなかった。
なかなか求めている情報が得られず、もう全員の視線が痛い程アルセラに刺さる。
「つ、次だ次!次尋ねる人は私も知っている人だ!」
そう叫びながらやってきたのは少し大きな工房の鍛冶屋だった。
「大きい工房ですね。」
「さ、行くぞ。」
攻防に入ると同時に奥から野太い怒鳴り声が響いてきた。
「ダメだ!こんななまくらじゃ使用者の命も守れんぞ!作りなおせ‼」
「へい‼」
若い鍛冶師が持ち場に戻り、人一倍大柄な男性がドスドスと歩いてくると、
「お?」
こちらに気付きまたドスドスと歩いてきた。
そしてアルセラの前にずいッと立つ。
その貫禄にメルティナが既に泣きそうだった。
「・・・アルセラの嬢ちゃんじゃねぇか‼」
大声量で叫ぶ大男の勢いにとうとうメルティナが泣き出してしまった。
「よしよしよし。」
大急ぎでリヴがメルティナをあやす。
「お久しぶりです。ギガルおじ様。」
若干引き気味ながらも挨拶を返すアルセラ。
「デカくなったなぁ!若いころのヒルデそっくりだ!ガハハハッ‼」
ゴツイ手でアルセラの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「なんや豪快なおっさんやな・・・。」
「この感じ、少々覚えがあるな・・・。」
「故郷のエリック先生な・・・。」
男性陣は唖然としていた。
「ところでアルセラ、後ろの奴らは連れか?」
「はい。紹介しますね。旅の仲間のタクマとリーシャ、メルティナ。後ろにいるドラゴンはバハムート、ウィンロス、リヴです。」
「僕もいるよ!」
リーシャの髪からラルも出てきた。
「あ、あとラルです。」
「なんかついで感⁉」
「ん?そこの青い嬢ちゃんはドラゴンには見えないが?」
「彼女はスキルで人の姿をしているだけです。」
「なるほど。じゃあ俺も自己紹介だな。俺はこの鍛冶屋の親方、鋼のギガルだ!アルセラとはこいつがオムツの時からの付き合いだ!よろしくな‼」
相変わらずの大声量で喋るためまたメルティナが泣きそうになってしまう。
「おじ様、連れが泣いてしまうのでもう少し声量低めで・・・。」
「む、そうか。そりゃすまんな!ガハハハッ‼」
アルセラは頭を抱えたのだった。
タクマ達はギガルに事の顛末を話した。
「ヒルデ?そういやしばらく会ってねぇな。」
「お婆様が今どこに住んでいらっしゃるのか知りたいんですが?」
「ん~、アイツ最近引っ越したって聞いた事があるが詳しい事は分かってねぇな。」
「そうですか・・・。お婆様と旧友であったギガルおじ様ならあるいはと思ったのですが。」
「力になれずすまんな。」
「いえ、お久しぶりにおじ様に会えて良かったです。もう少し街を探してみますね。」
「おう、街のどこかなのは確かだから探して見てくれ。また何かあったら俺の工房に来てくれよな!」
「はい!是非!」
ギガルと別れ、タクマ達は再び街中を探し回った。
「それにしてもお婆様、引っ越していたのか。元々分からなかった自宅が更に分からなくなったな。」
「ダメじゃん。」
ノータイムツッコむを受けるアルセラは中央都市の冒険者ギルドに向かおうと提案をし、一同は冒険者ギルドにやってきた。
中央都市だけあってかなりデカいし広い。
室内は多くの冒険者や商人で賑わっていた。
バハムート達を外に待たせタクマ達は受付に顔を出す。
「すまない。この辺りでヒルデ・シフェリーヌスという人を知らないか?」
「剣星ヒルデ様、ですか?その御方ならつい先ほど喫茶店の方へ向かわれましたが?」
ようやく足取りを掴めた。
「ありがとう!助かった!」
「行先は喫茶店だな。」
「あぁ、皆にも伝えてくれ!急いでお婆様の下へ行くぞ!」
テンションの上がったアルセラに引っ張られタクマ達はギルドを後にしたのだった。
「・・・お婆様?」
タクマ達一同は都市の大通りを歩き、教えてもらった喫茶店にまでやってきた。
「流石中央都市の店だけあって人が多いな。」
「我らが行けば騒ぎになるかもしれん。ここで待つ故お主等は行ってこい。」
「あぁ、そうさせてもらうぜ。」
バハムート、ウィンロス、メルティナを留守番させ残りのメンバーで喫茶店に入店する。
「さて、お婆様はどこに・・・?」
「きゃぁ‼」
「っ⁉」
その時、帽子を深く被った男性が並んでいた女性のバッグを突然ひったくり店の外へ走って行った。
「デカい街はどこも物騒だな!」
タクマも店から駆け出し男の後を追う。
とした瞬間、タクマの横を誰かが凄いスピードで追い越しひったくりの男を地面に叩きつけた。
「っ⁉誰だ⁉」
「タクマさーん!」
遅れてリーシャとアルセラも追いついた。
するとアルセラは男を取り押さえる老いた女性に驚きの表情を見せる。
「やれやれ、ひねくれた者もいるもんだね。」
そこへ騒ぎを聞きつけた自警団がやってきて女性が捕らえたひったくりの男を自警団に引き渡した。
「さて・・・。」
女性はこちらを振り向いた瞬間、とてつもない気配を感じ取り全員動けなくなった。
(な、何だこの威圧感⁉意識を向けられただけで動けなくなる・・・!この婆さん、何者だ・・・⁉)
タクマが警戒していると女性は真っ直ぐアルセラの前に歩み寄った。
アルセラを見ると彼女は硬直ではなく冷汗をダラダラ流していた。
「久しぶりじゃないかい?アルセラ。」
「お、お久しぶりです・・・。お婆様。」
お婆様、という事はこのご老人が。
「しばらく見ない間に随分大きくなったねぇ。」
「いえ、お婆様に比べればまだまだです・・・。」
タクマとリーシャは女性から出る強大な気配にまだ身動きが取れないでいた。
「あ、タクマ。この方が世界で唯一、剣星の称号を持つ最強の騎士であり、私の祖母・・・ヒルデお婆様だ。」
女性改めヒルデは今度はタクマに顔を近づける。
しばらくタクマをマジマジ見ていると、
「・・・へぇ~、君が噂のテイマーかい?」
無事、アルセラの祖母であり最強の剣士の称号を持つ『剣星』ヒルデを見つけたタクマ達。
一同はヒルデと共に彼女の自宅へ向かっていた。
「もう~何だいこの子?めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」
ヒルデは何故かリーシャを異様に可愛がっていた。
歩いている最中でも後ろから抱き着いてきており、リーシャ本人は少しうんざりしていた。
「お婆様、相変わらず可愛い子供には目がないですね。」
「何言ってるんだいアルセラ。アンタは幾つになってもあたしの可愛い孫娘だよ♪」
そういいアルセラにも抱き着く。
「・・・これが世界最強の剣士か。」
「あのおっさんもそうやけど・・・アルセラの婆ちゃん、キャラ濃すぎやで・・・。」
そんな賑やかな集団が歩いている中、タクマは人混みの奥で何やら見覚えのある集団を目にする。
白いローブを被っており、背には見覚えのある紋章があったのだ。
そしてタクマ達はようやくヒルデの自宅に到着した。
したはいいが、
「でかっ⁉」
そこは広い土地を有する豪邸だったのだ。
「お婆様、いつの間にこんな豪邸を・・・?」
「ん~、あたしは元々小柄な家が好みだったんだけど街の連中が「剣星様には剣星様に相応しい自宅をご用意しました。」とか無理やり理由付けられて押し付けられた。てとこが正解かね。」
「有名人は大変やな・・・。」
だが住んでいるのはヒルデ一人なため使用人はゼロ。
家政婦に頼んで掃除をお願いして生活してるようだ。
「さて、本題に入るか。」
楽な服装に着替えたヒルデはリビングの椅子に腰を降ろしタクマ達を見る。
「あたしに何の用で来たんだい?」
彼女から放たれる鋭い視線に押しつぶされそうになるもタクマ達は説明した。
「・・・なるほど、その魔聖剣のアーティファクトの事ね。」
席を立ちアルセラの背負うカリドゥーンに顔を近づける。
「にしてもまさかおとぎ話にしか出てこない魔聖剣カリドゥーンをうちの孫が持っていたとはね・・・。」
マジマジと見ながら頷くヒルデ。
『なんじゃこの老婆。こやつが本当に儂のアーティファクトの事について何か知っておるのか?』
「おやおや、老婆とは随分な言われようだな魔聖剣殿。まぁ老婆は事実だが。」
「「「っ⁉」」」
全員が驚いた。
それも当然だ。
カリドゥーンの声は彼女と魔力の波長が合わなければ声が聞こえない。
カリドゥーンと波長の合う者はこの世にいるかいないかくらいの希少な存在。
だがタクマ達含め、ここにもカリドゥーンの波長と合う人物がいた。
『貴様も儂の声が聞こえるのか。貴様らといると頭がおかしくなりそうじゃわい。』
「オレ等が悪いみたいに言うなや。」
「それでお婆様、カリドゥーンのアーティファクトについて何かご存じないでしょうか?」
ヒルデは深く考え込み、何かを思い出したかのように部屋を出ていった。
そして何冊かの書物とノートを持って戻ってきた。
「ヒルデさんそれは?」
「あたしは歴史とか特に好きでね。若いころからいろんな事を調べてきたのさ。」
書物を開くと宮廷に仕える賢者顔負けレベルの研究内容がビッシリと書き込まれていた。
「凄い・・・、私達の知らない魔法や歴史の裏側まで書き込まれてます・・・!」
「そこらの大図書館にも負けない内容の濃さだな・・・。」
タクマ達は部屋の一室を借りてヒルデの研究内容を数日間読み漁った。
バハムート達は時折庭に出て羽を伸ばしたり、女性陣はヒルデと共に買い出しなどと各々過ごしていた。
「う~、流石に疲れてきたな・・・。」
ぐ~っと腕を伸ばすタクマにアルセラも釣られて腕を伸ばす。
「幼い頃は内容が難しすぎてよく理解できなかったが大人になった今ならある程度は解る。」
本を置くと側の積み重ねた本束が崩れ落ちた。
「アルセラ気を付けろ。読んだ本と混ざるだろ?」
「すまない・・・。」
本を戻しているととある一冊の本が自然と目に入った。
「これは・・・?」
手に取り本を開くと、
「っ!タクマ!」
「うぉっ⁉びっくりした・・・!何だ?」
「これを見てくれ!」
アルセラに見せられたのは古の勇者に関する伝記だった。
「古の勇者、恐らくビンゴだ。」
二人は本を読み進めているとあるページに目が止まる。
「この肖像画、男の方は多分当時の勇者で・・・。」
「隣のもう一人、少女?」
絵には古の勇者の隣に黒い服を着た少女が描かれていた。
見た目はメルティナより少し幼いようだが。
「・・・なぁ、もしかしてこの少女って・・・。」
「いや・・・、まさかな・・・。」
思い当たる節がある二人はその本を持ってリビングに戻った。
「あ、タクマさん。アルセラさん。少し休憩しませんか?」
ダイニングではリーシャがお茶菓子を作っていた。
「あぁ、後で貰うぜ。今はこいつに用があるんだ。」
二人はカリドゥーンの前に立った。
『ん?儂か?』
「カリドゥーン、この絵を見てくれ。」
アルセラは例の肖像画の絵を見せた。
「ここに描かれてる少女、これ、カリドゥーンじゃないか?」
部屋にいた全員が一斉にこちらに振り向く。
『・・・懐かしいの。こんな姿じゃったわ。』




