『第百二十八章 本当の自由』
リヴの父を見事打ち倒した風刃竜改め、雷刃竜へと覚醒したウィンロス。
「ウィンロス・・・あっ!」
「おっと、気を付けろや。」
「ごめん、・・・ありがとうウィンロス。カイレンの、弟の仇を取ってくれて。」
「気にすんなや。あのクソ親父にはオレもムカついとったからな。」
いつも通りの笑い顔でリヴを励ました。
しかし、そんな落ち着いた雰囲気もすぐに壊されてしまう。
なんと部屋の中央にある魔石から魔力が溢れ出始めているのだ。
「なんや?どうなってんのや⁉」
「きっとアイツが最後に放った技『終末の災禍』の魔力を魔石が吸収してしまったみたい。許容量を超える魔力を吸収したことで暴走しちゃったのよ!」
魔石は依然溢れる魔力の影響で暴走し周囲を破壊していく。
すると魔石の魔力が一瞬止まったかと思ったら次の瞬間、今度はブラックホールのように辺りを吸い込み始めたのだ。
「おい!これちょっとヤバいんちゃうか⁉」
「このままじゃこの塔どころか、海域全部消滅させちゃう!・・・こうなったら!」
リヴは魔石に駆け寄り両手で触れる。
「うぅぅぅ!」
「バカ!何やっとんのや⁉」
「こうなったのは、全部私のせい。私の我儘にアンタたちを巻き込んじゃった。だからせめて、落とし前だけはつけさせて。」
「落とし前って、まさかお前・・・⁉」
リヴは悲しそうに笑いながらウィンロスを見て頷いた。
「アカンリヴ!そんな事したらお前の命が・・・‼」
「いいの。この身一つでアンタや主様たちを助けられるのなら、それでいい。」
力が増す魔石にリヴは自身の魔力を流し込む。
その勢いは命の危険があるほどに。
「やめろリヴ‼」
ウィンロスが駆け寄るも、もう手遅れだった。
「さようなら・・・。」
リヴの魔力が注がれた魔石は粉々に砕け散り、爆大な光となって辺りを飲み込む。
ウィンロスは衝撃に飲まれ遥か後方へと飛ばされてしまった。
「リヴーーーーー‼」
中心にいたリヴはそのまま光に飲まれてしまった。
(ごめんね、カイレン。せっかく貴方から貰った命だけど、今度は私の大切な人達を守るために、使わせて。)
そうしてリヴはゆっくりと目を閉じたのだった。
幼いころ、生まれたばかりのリヴとカイレンは母親から世界の事について沢山話してもらった。
その影響かリヴは地上の世界に強い興味を抱いた。
縄張り内の無人島に上がっては二人でよく遊んだり話したりしていた。
「外の世界ってどんな所だろう?」
「お姉ちゃん、外に興味があるの?」
「だって世界には私達の知らない事が沢山あるんだよ!ワクワクするじゃん!」
「僕はイマイチ分らないな。」
(・・・そうだ。私は主様と同じように、外の世界に興味があったんだ。出自は最悪だったけど、そのおかげで主様たちに出会えた。本当に運命を感じたわ。)
暗い暗闇の中を沈むように落ちるリヴ。
(こんな形のお別れでごめんなさい、主様。・・・リーシャ、友達になってくれてありがとう。バハムートのおじ様、主様を守ってね。ウィンロス、ラル、メルティナ、アルセラ、カリドゥーン。皆との旅、凄く楽しかった。こんな私に、最高の思い出をありがとう・・・。)
次第に意識が薄れ、目を閉じそうになる。
すると誰かに腕を掴まれ光の方へと引っ張られていった。
「・・・う、ここは?私は確か、死んで・・・?」
目が覚めたリヴの前には綺麗な夜空が広がっていた。
そして彼女を抱えているのは、
「え、誰?」
緑色の髪にどこかの民族衣装のような軽装。
若々しい青年がリヴを抱えていたのだ。
青年はリヴを無人島の砂浜に降ろし崩れるように膝を落とした。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
リヴが慌てて青年に寄ると、
「・・・もう、やめてくれ・・・。」
聞き覚えのある声で青年が話したのだ。
「その声、まさか・・・ウィンロス⁉」
なんと、リヴを助けたのは人化のスキルで人間になったウィンロスだった。
どうやら爆散した魔石の魔力を浴びたことで人化のスキルが目覚めたらしい。
人間のウィンロスは浜辺に手をつき涙を流す。
「頼むから・・・、自分を犠牲にするなんて考え、すんなや。お前がいなくなったら、タクマ達も、オレも悲しくなるで・・・。だから、もう二度とするな・・・!」
「ウィンロス、私はただアンタたちを守りたくて・・・!」
「するな‼」
「っ‼」
この時、リヴは思い出した。
カイレンが自身を犠牲にして守ってくれた時、もの凄く悲しかったことを。
あの気持ちを仲間にも与えてしまっていたことを。
「・・・・・っ!」
言葉を詰まらせているとウィンロスの身体が光輝き、元の翼竜の姿へと戻った。
濡れるのを嫌う彼がずぶ濡れになるまで自分を助けてくれた事にリヴは思い詰める。
涙を流すウィンロスの顔に触れ、そっと額を当てた。
「ありがとうウィンロス。私はもう、どこにもいかない。アンタ達が、仲間がいてくれるから・・・。」
月明かりを背後に涙を流し、互いの無事を静かに喜んだ。
そこに遅れてタクマ達が合流してきた。
重傷のタクマとアルセラはバハムートの背に乗せられ、リーシャとメルティナは泣きながら走ってきてリヴに抱き着いた。
立ち上がるウィンロスにバハムートが労いの言葉をかける。
「よくやった。お主は自慢の友だ。」
「サンキュ、旦那・・・。」
タクマもリヴの前に立ち、共に無事を喜び合った。
心なしか彼の目に薄っすらと涙が零れていた。
その光景を後ろで見ていたランバルはとある青年と七人の影を思い出し呟く。
「まさかの時の友こそ真の友、か。いや、彼らはその程度の器では収まりきらないね。・・・なんとも眩しい光景じゃないかい?レイガ。」
こうしてリヴの因縁は晴れ、本当の自由と共に最高の仲間を手に入れたのだった。
それから数週間、タクマ達はブリエスト王国に戻ってきていた。
船が壊れてしまったため代わりの船の手配に時間が掛かっているのだ。
身内の起こした事件だったのでリヴが大半を弁償すると言い出したのだが想像を絶する金額であったため、タクマに頭を下げたのだとか。
幸い懐は溢れるほど溜まっているので大した問題にはならなかった。
そして更に数週間後、ようやく再出向の準備が終わり、今度こそアルセラの祖母のいるラウンガ大陸へと旅立つ。
いつもと変わらない旅、とはいかなかった。
「うぉ⁉剣から雷が出た!」
ウィンロスが新たに雷の力を得たことでタクマも扱える魔法の種類が増えたのだ。
「まさかあの戦いでウィンロスが覚醒するとはな。やはり若い分伸びしろが期待できそうだ。」
今は元の風刃竜に戻っている。
ラルの進化と似たような力なのだろう。
それどころか、
「あ、ウィンロス!あそこ見て!イルカ!」
「どこ?ホンマや!めっちゃおる!」
リヴとウィンロスが以前より仲良くなっていたのだ。
「あの戦いで何か友情的なものが芽生えたのか?」
「さぁな。」
アルセラがひょっこり顔を覗かせているとタクマは一つのペンダントを握っていた。
「ところでタクマ、それは何だ?」
「このペンダントか?ブリエスト王国に戻った後ランバルに貰ったんだよ。あのダンジョンで迷ってる途中幾つか従魔結石の破片を拾っててな。アイツ結石を調べてただろ?それを渡したらお礼としてこれを貰ったんだ。」
ペンダントにつけられた宝石は美しい紫色に輝いていた。
「いつか役に立つ時が来るとか言ってたけど、まぁお守りにしとくくらいならな。」
「そうだな。ランバルには恩もある。いつかまた会えたらお礼をしなくてはな。」
「それはそうとアルセラ。お前アーティファクトの力を引き出せたんだって?」
「あぁ、けど一時的なものでな。今はなんの反応も示してくれない。まだ完全に認められたわけじゃないんだ。だから今後の目的は変わらない。とにかくお婆様に合わなくては。」
大分寄り道をしてしまったが、いよいよ目的地であるラウンガ大陸が見えてきたのだった。




