『第十三章 裏で繋がる者』
タクマ達は街を出発し国門街へ向かっていた。
リーシャはまだまともに歩けないのでバハムートの背中に乗せてもらっていた。
「あの、重くないですか?」
「ハハハ!人間の童など小石程度なものだ。」
高らかに笑うバハムート。
二人は案外打ち解けるのが早い。
だがタクマの頭の中には今朝バハムートが言った宛の方がどうしても気になっていた。
『風刃竜・ウィンロス』。
災害級の魔獣で風を操るドラゴンと聞いている。
以前タクマはアルセラと薬草採取の依頼の途中でウィンロスの羽を拾ったことがある。
あの時は気に留める程度に考えていたがまさかこちらから干渉することになるとは思わなかった。
「バハムート。何故リーシャの魔力回復に風刃竜が必要なんだ?」
タクマが気になっていたのはこの事だ。
「風の魔法にはな、回復に特化した物もあるのだ。回復は自然の力だろ?言わば風魔法は自然の力に最も関与する魔法だ。故に風を操る風刃竜が適任と踏んだのだ。」
「つっても風刃竜は災害級の魔獣だぜ?お前みたいに喋る奴とは限らないだろ?」
「まぁ会えばわかることだ。」
適当に返事を返す。
どうにも腑に落ちないが今はそれしか手掛かりがない。
とりあえず街を目指すことにした。
国門街に着いた頃にはすっかり日が暮れてしまった。
外壁の上から街明かりが漏れている。
「なんか懐かしく感じるぜ。」
門を抜け、冒険者ギルドに立ち寄ると食事時のせいか中は冒険者の騒ぎで溢れかえっていた。
すると人混みの中から一人こちらに迫ってくる。
「タクマ殿――‼」
「わぷっ!」
飛ぶ勢いで抱きついてきたのはアルセラだった。
幸い彼女は鎧は来ていなかったので怪我はしなかった。
というかむしろ柔らかい感触が顔に・・・。
「隊長!飲みすぎですって!」
後ろから部下の声もした。
「アルセラさん数日ぶりで・・・うわ酒クサ‼」
なんとか彼女を押しはがすタクマ。
アルセラはベロベロに寄っていて後でタクマに抱き着いたことを後悔しそうな未来が見えた気がした。
「しかしこのどんちゃん騒ぎは何なんだ?」
「あの受付の娘にでも聞けばよかろう。」
入口からバハムートが覗き込んで言った。
「私も行きます!」
リーシャもバハムートから降りてついてきた。
タクマはリーシャの手を取りながら受付カウンターまで寄った。
「お久しぶりですタクマさん。」
以前薬草採取の手続きをしてくれた受付嬢が迎えてくれた。
「はい、お久しぶりです。ところでこの騒ぎは一体?」
「はい実は・・・、」
受付嬢は事情を話した。
この騒ぎは王都の勇者の功績を称える宴のようだ。
「王都の勇者って⁉」
「あぁ、アイツだな・・・。」
小声で頷く。
どうやらその勇者は近辺の森に巣くっていたドラゴンを激闘の末、聖剣を失うも討伐を果たし街を救った。
とギルド経由で報道されていたのだ。
タクマとリーシャは当然怒りの感情が沸き上がる。
「リーシャ・・・。」
「わかっています。ここで抗弁を垂れるつもりはありません・・・。」
「それでいい・・・。」
溢れ出る怒りを何とか抑えタクマ達はギルドを後にしようとすると
「待てタクマ殿!何処へ行こうとしてる?」
アルセラに肩を組まれ引き留められた。
「うわっと!危ないですよアルセラさん!」
「このくらいどうってことない!タクマ殿も飲んでいけ!食事も美味いぞ?」
「完全に酔ってますね・・・。あと俺二十歳じゃないんで酒はまだ駄目です。」
「・・・タクマさんて今いくつですか?」
リーシャが興味半分で聞いてみると。
「十六歳だけど?」
「この世界だと成人って十五歳でしたっけ?」
「そっか。リーシャの前世の世界じゃ違うんだっけか?」
この世界の成人年齢は十五歳。
よって大人扱いされるのだ。
「というか俺は早く立ち去りたいんだけどな。あの勇者の宴なんか参加したくない。」
リーシャも同じ気持ちのはずだ。
だがリーシャは周りをしばらく見渡すと
「・・・いいんじゃないですか?食事くらいはいただきましょうよ。」
笑顔で答えた。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「まぁ、お前がいいなら・・・。」
そうして二人は一晩、憎き勇者の宴に参加した。
主にタダ飯狙いだが。
「・・・寝るか。」
ギルドの外で待たされているバハムートは虚しさを感じつつも二人を待っていた。
翌日、タクマは宿のベットの上で目覚めた。
「うっ、腹が・・・昨日食いすぎたな。」
昨晩宴に紛れタダ飯を堪能したがつい食べ過ぎてしまった。
腹の調子がイマイチだが寝てもいられない。
今日の目的は風刃竜・ウィンロスを探すことなのだから。
「とりあえず起きるか。」
タクマが身体を起こすと掛け布団からふわふわの人影が・・・、
「へっ?」
隣には薄着で眠るリーシャの姿が。
青白い髪が朝日に照らされ神秘的な雰囲気になっていた。
「んー?確か昨日寝るときは部屋を分けたはずだが?」
寝起きのせいかイマイチ頭が働かない。
とりあえずタクマは身支度をした。
「あっ、そうだ・・・剣の新調もしなきゃいけないんだった。」
いろいろありすぎて剣を打ってもらうためにドワーフの里に赴いたのをすっかり忘れていた。
タクマが身支度を終えそうなところでリーシャが起きた。
「・・・あれ?ここは?」
寝ぼけて意識がはっきりしていない。
「おう、起きたか?」
あとはローブを羽織るだけまで支度を終えるタクマが声をかけた。
しばらくぼうっとしていたリーシャだがタクマを見て我に返った。
「え?きゃぁぁぁ‼何で私の部屋にいるんですか⁉」
バッと掛け布団で体を隠す。
「それはこっちのセリフだ。何でリーシャが俺のベッドに潜ってたんだ?」
腰に手をあて冷静に言い返す。
リーシャは部屋を見渡すと確かにタクマの泊っている部屋だった。
「あれ?本当だ。私の部屋じゃない・・・。」
おおかた夜中にトイレで起きたはいいが寝ぼけていたので部屋を間違えたのだろう。
「何だ?朝から騒々しい。」
眠そうに窓からバハムートがこんにちは。
「・・・ふむ、なかなかベタな展開のようだな。」
「やかましいわ。」
一同は冒険者ギルドに顔を出すとアルセラとばったり会った。
「あっ!」
「アルセラさん!昨晩相当飲んでましたけど大丈夫で・・・。」
「き、昨日の事は忘れてくれ‼」
言い終える前にアルセラは顔を覆いながら逃げて行った。
「・・・。」
「・・・。」
「やはりベタだな。」
バハムートの言葉はほっときタクマ達はリーシャの魔力回復を目的とし、風刃竜・ウィンロスを探すため近くの山に来ていた。
「思いのほか険しい道だな。」
「山道ですからね。」
「・・・。」
タクマはバハムートの背中に乗っているリーシャを見て無言になる。
「ウィンロスは鳥に近いドラゴンだ。故に山などの高所を寝床にするらしいぞ?」
流石竜王。
同族の情報把握が鋭い。
しばらく山道を歩いているとどこからか人の気配を感じ取った。
「こんな山道に人?人数的に冒険者か?」
気配は三人。
バハムート達を待たせてタクマ一人様子を伺う。
そこには黒いフードを被った信教者のような人影があった。
(見る限り冒険者じゃないな。)
信者のような三人は何やら会話をしているが距離が遠くてうまく聞き取れない。
タクマはバハムートのスキル『空振動』をコピーし、耳を澄ました。
「では手筈通りに計画が進んでいるか?」
「いや、少々誤算があった。」
「何?」
「アンクセラム近衛騎士団四番隊隊長、アルセラ・シフェリーヌスの始末に失敗した。」
何と、アルセラの名前が挙がった。
そういえばアルセラと出会ったときギルドの誤情報のせいで彼女は死にかけていたことをタクマは思いだす。
(アルセラさんはギルドがハメた可能性があるといっていたな。じゃぁこいつらがギルドに手引きしたのか?)
ギルドの問題は確証がなかったので後回しにしていたが思いも寄らぬ場所で確信を得た。
これでギルドの調査を始められる。
だがまずは風刃竜を探さなければ。再び聞き耳を立てると・・・、
「使えないギルドマスターだ。女神レーネ様の信託ではアンクセラム王国を壊滅せよとお告げを頂いたのに。」
「⁉」
女神。
その名の通り世界を見守る神の存在。
古の伝承ではこの世界とは別の神界と呼ばれる神の住む場所にいるとされている。
世界のあちこちでは神を祭る神殿や教団が存在した。
(女神が王国を壊滅?信託とはいえ規模が大きすぎる。)
不可解な事実が飛び交うがハッキリしたことは国門街のギルドマスターは謎の信教団と裏で繋がっておりアンクセラム王国を貶めるため近衛騎士団から排除しようとしているという事。
という事は以前の勇者の襲撃も何か関係があるのか?
(いや、これ以上考えるとキリがない。)
タクマは一旦考えるのを辞めた。
「とにかく引き続き近衛騎士団を崩壊させる手筈を整えるぞ。」
そういうと信教者の三人はその場を後にした。
タクマは岩陰で緊張がほどけ、力を抜いた。
「ふぃ~。何かとんでもない事聞いちまったな。まぁ後でバハムートに相談するか。」
タクマはバハムート達が待つ場所まで戻ってきた。
「どうでしたか?」
リーシャが尋ねる。
「あぁしばらく様子を見たら下山していったよ。」
今は余計な心配をさせたくない。
リーシャにはしばらく黙っておくことにした。
バハムートは流石に感づいていたがタクマの顔を見て察し、合わせてくれた。
気を取り直し、再び風刃竜探すため岩山を登り始める一向。
途中休憩も挟みながら進んでいくと頂上に着いた。
・・・ついてしまった。
「何もいねぇぇぇ‼」
思わず叫ぶタクマの怒号が辺りに響いた。
「風刃竜どころか魔獣一匹も生息してないじゃないか!どうなってんだよ‼」
あまりの声量にバハムートとリーシャは耳を塞いでいた。
リーシャはタクマが騒ぐ理由がわからずバハムートに聞いてみた。
「何でタクマさんあんなに怒っているんですか?」
「実は出発する直前、この山に関する依頼を幾つか請け負っていたのだ。風刃竜を探すついでに旅費を稼いでおこうと考えてな。」
しかし現状は資金稼ぎどころではなかった。
この山には広い範囲で魔獣が生息しているはずだが一匹も現れないのはおかしい。
(何か異常が起きているのか?)
バハムートが不審に思っていると一通り喚いてようやく落ち着いたタクマが話してきた。
「ふう、とりあえず依頼の件は置いといてこの辺りで昼飯にするか。」
「あ、私異空庫にサンドイッチ保存しています。異空庫の中は時間が止まってるので作り立てですよ。」
「お、マジか!そりゃ便利だな。」
一同は見晴らしのいい岩山の頂上で一息ついた。
そんな彼らを見る鋭い視線があると知らずに・・・。




