『第百二十七章 覚醒の風刃竜』
結晶塔がそびえ立つ中、その外ではバハムート達が塔から出てきたタクマ達を介抱していた。
「タクマさーん!無事でよかったですぅぅ‼」
「実際無事じゃねぇけどな・・・?」
ギャン泣きでタクマに抱き着くリーシャとメルティナ。
「そうか、ウィンロスが残ったのか。」
「あぁ、リヴを連れ戻すと言ってな。」
バハムートに回復魔法をかけてもらっているアルセラ。
「それにしてもこの従魔結石の塔を作ったのがあの青い子の身内とはね・・・。」
エルフのランバルが関心した眼差しで塔を見上げる。
「けどリヴはここに戻ってくることを酷く拒んでいた。きっと家族関係で何かあったんだ。」
「ウィンロスはそれに誰よりも早く感付いていたって訳か・・・。」
一同が翡翠色に輝く結晶塔を見上げる。
「頼むぞ、ウィンロス。」
結晶塔の最上階では二頭のドラゴンが激しい乱闘を繰り広げていた。
「オラァァァァ‼」
「オォォォォォ‼」
風と水、二つの属性のぶつかり合いは周りの鉱石を切り裂く程の威力だった。
「私も加勢しないと・・・!」
しかしリヴは上手く身体を動かすことが出来ず倒れてしまう。
(力が入らない?何で?)
すると戦闘中の海竜が語り始める。
「貴様、何故魔力低下の術の影響を受けん?この部屋に仕掛けてある魔法陣が機能しているハズだ。」
「魔力低下?んなもん仕掛けとったんか?悪いけどオレに状態異常系の影響は受けんで?オレは回復系魔法全種類覚えてんのや。せやからどんな小細工も通用せんわ!」
ウィンロスの鋭い蹴りが海竜との距離を開かせる。
「小癪な若造め・・・!」
二頭の戦いを動けないリヴはただ見ている事しか出来ないでいた。
一時期有利に思えたウィンロスだが、相手はウィンロスよりも長い年月生きた年長者。
戦闘技術に関しては海竜の方が上だった。
次第にウィンロスの動きが鈍り始め、相手の攻撃を受けるようになってしまう。
「ぐあっ!」
「どうした?動きが悪くなっていたぞ?」
海竜のブレスが直撃し地面に叩きつけられてしまった。
「力に自身があるようだが所詮青二才。事あるごとの判断が疎かだな。」
上空から見下す海竜に立ち上がるウィンロスは雄叫びをあげる。
「だぁ~くそ!常に上から目線でムカつくおっさんや!なにがなんでもそこから引きずり下ろしたるわ!」
半ギレ状態で飛び掛かるもあっさりいなされ、きつく巻き付かれてしまった。
「ぐぐ・・・!」
「学ばぬ愚か者め。」
ギリギリと締め付け悶えるウィンロス。
なんとか足を動かし海竜の胴体に蹴りをお見舞い、なんとか拘束から逃れた。
互いに地面に降りた瞬間に駆け出しぶつかり合う。
「ウィング・サイクロン‼」
横向きの竜巻を繰り出し海竜の視界を奪う。
「このような小細工・・・!」
「オラァァァァ‼」
すぐさま至近距離へと近づき強烈なアッパー攻撃が炸裂。
もろに受けた海竜はふらつきながら後ずさりする。
「おのれ、小癪な手を使いおって・・・!」
当たりどころが悪かったのか思いのほかダメージが大きい。
このままではまずいと悟った海竜は辺りを見渡すと、リヴの方の守りが手薄な事に気付いた。
海竜はニヤリと笑みを浮かべ、ウィンロス目掛けて霧状のブレスを吐き出す。
ウィンロスが視界を奪われている隙に海竜がリヴに迫り捕えてしまう。
「きゃぁ⁉」
「リヴ⁉」
海竜はリヴを咥えたまま魔石に近づく。
「あの野郎まさか・・・⁉」
「そのまさかだ。」
そのままリヴを魔石に叩きつけ、魔石に身体が飲まれ始める。
「い、いや!助けて!」
パニックになり悶えるリヴを助けようと駆け寄るウィンロスだが海竜に阻まれてしまう。
「どけや!」
「させん!」
ぶつかり合っている間にリヴはどんどん魔石と融合していく。
「助けてウィンロス!主様ぁぁぁ‼」
「くそ‼」
無理やり態勢を捻り尻尾で海竜を叩き飛ばし急いで駆け寄るが、
(アカン!間に合わへん!)
その時、助けを求める彼女の手を掴み、魔石から引きはがす一人の影が。
「うっ!」
助け出されたリヴが倒れると同時に魔石から無数の触手が飛び出し、再びリヴを捕えようと迫る。
だが彼女を守るように身代わりになる一人の青年が。
「カイレン!」
それは人型となったカイレンだった。
カイレンは触手に引きずられ魔石に融合していく。
「カイレン、どうして⁉」
「ごめん姉さん・・・、姉さんを守るためにはこうするしかなかったんだ。」
「何言ってるの?私を助けるのに何でアンタが犠牲にならなきゃいけないの⁉」
「・・・僕は父さんが怖くて、逆らえなかった。父さんは姉さんの魔力を諦めてなくて、魔石の魔力を使って人化のスキルを与えてまで僕に探させていた。姉さんを見つけないと僕を魔石に取り込ませるって。それが怖くて父さんに逆らえなかった。もたもたしている内に姉さんが魔石に取り込まれようとなってしまった。でも、やっと自分の意志で動けたんだ。姉さんを助けたい一心で。」
「カイレン・・・。」
「ごめん姉さん、こんな情けない弟で・・・。」
「何言ってるの・・・、アンタは私のために身を挺してまで助けてくれた。アンタは、私の自慢の弟なのよ?」
その言葉を聞いたカイレンは一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑みを零した。
「ハハ、自慢の弟か・・・。これ以上ない嬉しさだよ。」
涙を流し笑顔で言うカイレンの手をリヴが掴む。
「最期まで、姉さんの弟でいられて、幸せだった。ありがとう、姉さん・・・。」
その言葉を最後にカイレンは完全に魔石に飲み込まれたのだった。
「・・・・・。」
魔石の前に座り込むリヴ。
「カイレン・・・、カイレン・・・!」
次第に涙が溢れ、リヴはその場で泣き崩れてしまった。
「う、うぅ、うわぁぁぁぁぁぁん‼」
「リヴ・・・。」
泣き崩れる彼女の背中を見る二頭の竜。
「ふ、ふふふ、ふはははは!自らを犠牲にすることで守っただと?やっていることが儂と同じではないか!まぁ当然の事だ。何かを成すためには犠牲が必要なもの。所詮アイツも儂と同じだったという訳だ!滑稽、実に滑稽だ!ふはははは‼」
高らかに笑う海竜。
だがその時、
「黙らんかぁぁぁぁ‼」
鬼の形相のウィンロスがありえない威力で海竜の顔面を蹴り飛ばした。
「ぐはぁ⁉」
「っ!」
思いの寄らない攻撃を受けた海竜は起き上がるととんでもない光景を目の当たりにする。
「何っ⁉」
そこには地面を掘り返しむき出しとなった従魔結石の塊を食らっているウィンロスがいたのだ。
(あやつ、従魔結石を食っておるのか⁉)
従魔結石を飲み込むと同時に目は白くギラつき、体中から翡翠色の稲妻が溢れ出す。
「極限状態・・・!」
「ガァァァァァ‼」
しかし、様子がおかしかった。
極限状態となった直後、悶えるように苦しみ始めたのだ。
(馬鹿め、従魔結石は破片でさえ強大な魔力を宿す魔石。それを大量に体内に入れたが最後、膨大な魔力が貴様の身体に収まりきらずその身を滅ぼす。結石を取り込めば主なしに強化できると思ったら大間違いだ!)
だが海竜のその考えは覆ることになる。
「ぐぅ・・・!守ると、決めた・・・!リヴは、オレ達の大切な仲間・・・。その仲間を泣かせる奴は、オレが、許さんがなぁぁぁ‼」
稲妻が更に勢いを増し、ウィンロスが球体に包まれる。
そして球体が弾け飛ぶとウィンロスの体毛は黒く変色、翼には金色のラインが輝き、角と足の爪がまるで稲妻のように変形。
「アァァァァァ‼」
咆哮と同時に室内が激しい轟雷に見舞われた。
「ウィンロス・・・⁉」
「まさか貴様、従魔結石を盗りこんだことで覚醒したと言うのか⁉」
地面を蹴ると雷豪のごとく鳴り響き一瞬にして海竜の目の前に現れる。
そして雷の纏った足で海竜を地面に叩きつけた。
「ぐはっ⁉」
追撃でもう一発蹴りを食らわし地面ごと二頭は下の階へと落ちる。
「おのれ、覚醒した程度で図に乗るな‼」
連続ブレスで応戦するも雷速で駆け回るウィンロスにはかすりもしない。
「お前がいる限り、アイツは縛られ続ける‼」
海竜の攻撃を避けては追撃、避けては反撃の繰り返しでどんどん翻弄していくウィンロス。
「生命はそれぞれ自分の生き方がある!他にすがる人生もあると同時に、自身の力で自由に生きる人生もある‼それは人間もドラゴンも関係ない‼」
海竜の顔面を掴み更に下の階へと落ちていく二頭。
「アイツは、リヴは!お前みたいな奴に縛られない自由な女や‼」
「何を訳の分らんことを!『神速』‼」
急激に速度を上げウィンロスの拘束から逃れた海竜は再び上の階へと逃げる。
「逃がさねぇ‼」
地面を強く蹴り『神速』に負けない速度で上へ飛び海竜を捕まえる。
「何⁉」
「うおぉりゃぁぁぁ‼」
自分よりも巨体な海竜をブンブン振り回し上空へと投げ飛ばす。
「『雷刃拳・竜天廻閣』‼」
雷を纏い縦横無尽に駆け回り、海竜に連続攻撃を食らわせていく。
あまりの速さに一頭の一撃とは思えない頻度の連撃だ。
「ぐぅ⁉」
「うおぉぉ‼」
突き上げる雷槌が各階層を突き破り、海竜を天高く弾き飛ばした。
「おのれ、おのれおのれおのれぇぇぇ‼」
激昂した海竜は頭上に禍々しく巨大な魔法陣を展開した。
「小童ごときが!次期竜王である儂を愚弄しおって!もう容赦はせん!この一撃を持って全てを終わらせてくれる‼」
魔法陣から紫の稲妻を発する漆黒の球体が現れる。
球体から発せられる吸引力で結晶塔は勿論、周囲の海域まで吸い込まれ始める。
「アイツ、いつの間にあんな魔法を⁉」
「どこまでも救いようのない奴や!」
「減らず口もそこまでだ!我が最終奥義を持って、貴様らを滅する!竜王に楯突いたこと、後悔しながら死ね‼食らうがいい‼『災禍の黒渦』‼」
紫の稲妻で周囲を破壊しながら漆黒の球体が振り下ろされる。
あれはもはや太刀打ちできるレベルの魔法ではなかった。
だがその時、一筋の光が『災禍の黒渦』を貫き、漆黒の球体はその場で大爆散したのだった。
「な、何が起こった⁉」
海竜が驚愕していると海の方でキラリと光る銀竜が目に止まった。
それは口から煙を漏らすバハムートであった。
「超天竜・・・!っ⁉」
そこへ雷を纏ったウィンロスが塔から飛び上がってきた。
「お前には足りないものが多すぎる!家族を大切にしない奴に、王の資格なんか、ある訳ねぇやろ‼」
その時、海竜の目にはかつて伝説で伝えられていた原初の龍『雷帝王』の姿が重なって見えた。
「いい加減目ぇ覚ませや‼このクソ親父ぃーーー‼‼」
ウィンロス強烈な蹴りが海竜の顔面を完全に捉えた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ‼」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
そして轟音と共に塔へと叩きつけ、海竜は一気に最下層まで叩き落された。
崩れる結晶塔を海上から見ているタクマ達は驚きを隠せないでいた。
「今のって、ウィンロスさん・・・?」
「なんか、雰囲気違くなかったか・・・?」
「うん、黒かった・・・!」
女性陣が驚いてる中、一人タクマは笑っていた。
「クククッ、ウィンロスの奴、派手にやったな。」
そして塔の最上階ではウィンロスが遥か上空から降り立つ。
その壮絶な戦いを見守っていたリヴは言葉を失っていた。
(ドラゴンに稀に起こる覚醒の力。これがウィンロスの覚醒であり、真の力。これが風刃・・・いや、雷刃竜‼)
そして海竜を倒したウィンロスは勝利の咆哮を叫び辺りへと轟かせたのだった。




