『第百二十五章 勇者の兆し』
結晶塔が海の上に上がって数刻後。
牢屋の中にいるリヴは窓の外を覗いていた。
「まさか塔ごと浮上させるなんて・・・、早くアイツの企みを止めないと!」
鉄格子に何度か拳をぶつけるもビクともしない。
前回抜け出したことで塔全体に魔法妨害が成され対策されてしまったようだ。
「やっぱ無理か・・・。」
するとカイレンが部屋に入ってきて牢屋を開けた。
「姉さん、父さんが呼んでる・・・。」
「・・・そう。」
何も出来ない今、言う事を聞くしかなかった。
一方、結晶塔付近の海上では海竜の下部である魔獣の大軍にバハムートがたった一人で無双していた。
やはり彼は竜王。
どんなに数が多くても全く相手になっていなかった。
「いくら数で来ようとも、我の敵ではない!」
黄金の翼を力強く薙ぎ払い重い風圧が魔獣の大軍を吹き飛ばした。
「終わりだ‼」
上空へと飛翔し巨大な竜巻を発生させる。
大軍は全て竜巻に飲まれ遥か彼方へと飛ばされ、戦闘不能となった。
バハムートはそのまま魔法壁の足場に降りる。
「終わったぞ。」
「・・・バハムートさん、竜巻を起こすなら事前に言ってください・・・。」
「僕が進化して二人を守らなかったら危なかったよ・・・。」
「あ、すまん。」
咄嗟にラルがガンズ・ド・ラルに進化しその巨体でメルティナとランバルを守った。
あとリーシャの髪が全部逆立っていた。
「強いね、竜王様は・・・。」
ランバルもバハムートの圧倒的な強さに驚きを隠せないでいたのだった。
そして、塔の中に転移したウィンロスとアルセラ。
彼らの前にはタクマを飲み込んだ直後のシーサーペントが立ちはだかっていた。
「貴様ら、先の奴の従魔か?」
「せや!うちの主を食いやがって、ゼッテェ吐き出させてやるわ!」
急加速で接近し蹴りを繰り出すもヒラリとかわされカウンターを受けてしまう。
「ほがっ⁉」
「むやみに突っ込むな!」
アルセラも辺りに浮かぶ浮遊岩を飛び移りシーサーペントに剣を向ける。
「ハァァァ‼」
「遅い!」
一瞬にして背後を取られ氷の牙で噛みつかれる。
「ぐあぁぁぁ‼」
『小娘!』
カリドゥーンが自力で動きシーサーペントを引き剥がす。
「意思を持つ剣だと⁉」
「嬢ちゃん大丈夫か⁉」
「あ、あぁ・・・。」
噛みつかれた所が凍っている。
瞬時に引き離したおかげで致命傷にはならなかった。
『奴め、状態異常系の技を使うか。』
「ほれ回復や。」
ウィンロスがアルセラに治癒魔法をかけた。
「ありがとう、なんとか動けそうだ。」
「おそらくタクマもその氷にやられたんやろな。」
「あぁ、あのタクマがあんな魔獣に遅れを取るはずがない。」
カリドゥーンがアルセラの手に戻り構え直す。
「急がないとタクマが消化されてしまう。」
「行くで!」
同時に走り出しシーサーペントに猛攻を仕掛ける。
「小賢しい!」
するとシーサーペントは上空へ飛び力を溜め始める。
「私は食らった獲物の能力を自身に宿すことが出来る。先の人間の力を貴様にも味合わせてやる!」
「タクマの力を⁉ウィンロス!構えろ!」
「・・・・・。」
だがウィンロスはジッとその場に佇むだけだった。
「くらえ‼」
溜めた魔力を解放し技を放つ・・・ハズが、何も出なった。
「っ⁉何故だ?何故何も起きない?」
「お前、タクマを食ってタクマの力を得たと思ってるんやろ?そりゃ間違いや。」
「何?」
アルセラもしばらく頭に?が出ていたがようやく理解した。
「オレ達の主タクマはな、魔力やスキルを一切持ってへんのや。」
「何だと⁉だが実際奴は私との戦闘中幾つもの魔法や技を扱っていたぞ⁉」
「アホか。タクマはオレ達従魔の力を自分に宿して戦うスタイルや。タクマだけ取り込んでもアイツ自身は何も持ってへん。だから奪える力もないっちゅうこっちゃ。」
「なん、だと・・・⁉」
驚愕の事実に動揺し、シーサーペントに隙が出来る。
『今だ小娘!』
「うおぉぉぉぉ‼」
不意打ちにアルセラが強力な突進をしシーサーペントの腹部にぶつける。
「ぐはっ⁉」
「くっ!吐き出させるには至らなかったか!」
華麗に回転しウィンロスの背に降りた。
「おのれ・・・!どこまでも私をこけにしやがってえぇぇぇぇぇ‼」
怒りが爆発しシーサーペントから魔力が漏れ出る。
「う~わ、逆ギレとか小っせぇ。」
半目で呆れるウィンロス。
背に乗るアルセラは何やら考え込んでいた。
「・・・もっと強い一撃があればタクマを助け出せるかもしれない。でも、今の私にはそれほどの威力の技を持っていない・・・。」
『小娘?』
アルセラは鞄からアーティファクトを取り出した。
「認めてくれとは言わない。でも、友を助けるため、今だけでいい!お前の力を貸してほしい!友を、タクマを失いたくないんだ!だから頼む!答えてくれ!」
しかし、やはりアーティファクトは無反応だった。
「・・・・・っ!」
アルセラは悔しそうに歯を噛みしめる。
「・・・嬢ちゃん、あんさんは大切な事を忘れてるで。」
するとウィンロスが語り掛けてきた。
「え?」
「あんさん、強くなるために道具に頼ろうとしとる。けどな、あんさんに力を貸すのは道具だけやあらへんで!」
「では、一体・・・?」
「ここにおるやろ!」
自身を指すウィンロスにアルセラはハッと気づく。
「仲間・・・?」
「せや!仲間や!あんさんにあるのは魔道具だけやあらへん!仲間のオレ達もおるで!」
キランと歯を光らすウィンロスにアルセラは思わず笑いを零した。
「アハハハ!・・・そうか。私は無意識に一人で強くなろうとしてたのか。」
『一人で強くなろうとする考えも悪いことではない。じゃが、今の自分にはかけがえのないモノもあるということを忘れるな。』
「あぁ、カリドゥーン。私にはお前もいてくれる。・・・すまなかったな。お前を信じきれなくて。」
『構わん。貴様の考えが未熟だっただけじゃ。じゃが気づいたからにはもう同じ考え方はするなよ?』
「勿論だ。ありがとうウィンロス。」
「おうよ!」
アルセラは深呼吸し心を落ち着かせる。
(そうだ。私はもう昔の私じゃない。今の私にはタクマ達、そしてカリドゥーン。君のような頼れる相棒もいる。)
「私は、仲間と共に強くなる!」
その時、手に持っていたアーティファクトが輝き出す。
アーティファクトは宙に浮くとカシャカシャと変形し、小さな蛇の形となった。
「これは・・・?」
「ちっこい蛇!」
『儂のアーティファクトはそれぞれ伝説の生物をモデルに作られておる。こやつは氷の神獣『シルバーパイソン』じゃ。』
「シルバーパイソン・・・。」
『じゃが姿を見せただけで完全に小娘を認めたわけではなさそうだな。お主の覚悟に当てられ一時的に力を貸すだけのようじゃ。』
「それでもいい。私の願いに答えてくれた事、感謝する!」
手を差し伸べるとシルバーパイソンは再び箱型の形状に戻る。
だがそのアーティファクトは青白く輝いていた。
『今ならイケそうじゃ。小娘!アーティファクトを儂にはめろ!』
「分かった!」
青く輝くアーティファクトをカリドゥーンの鍔の面に装着させる。
すると氷の結晶のように変形し空気を巻き上げながら回転する。
「っ⁉何だ⁉」
正気に戻ったシーサーペントが警戒する。
「はぁぁぁぁ‼」
アルセラの回りに氷塊が現れまるで手甲のように装着される。
足にも同じように氷塊が装着され、カリドゥーンの刀身が美しい水色へと変色した。
『氷聖剣!これが儂の力の一つじゃ!』
「さぁ、タクマを返してもらうぞ!シーサーペント!」




