『第百二十一章 登れ回廊』
夕焼けの海を横切るバハムート達。
ウィンロスが海底に散らばった従魔結石の破片を発見し、その道を辿っていた。
「まだまだ続いとるで。」
「こんな遠くまで破片が散らばってるなんて。」
「何かあるのは絶対だな。」
そう確信していると突然ウィンロスが止まった。
「ウィンロスさん?」
「・・・破片の反応が強まった。近いで!」
ハイペースで進んでいくと一際大きな従魔結石の反応を感じ取った。
「ここや!」
「ここ?何もないただの大海原のだが?」
エルフのランバルが首を傾げる。
「いや、海底奥深くに強い従魔結石の魔力を感じるで!」
「海底⁉」
今いるポイントは深海までかなり深い。
その海底に反応があると言う。
「リヴさんがいない限り海の中いけません!」
「しかしここにかなり濃密な従魔結石の魔力があるんだね?」
ウィンロスが頷く。
そこにバハムートが魔法壁で足場を作りそこに降りる。
「この魔力密度、先日ランバルが言ったダンジョン規模の従魔結石、恐らくそれであろうな。」
「ここに僕の探し求めていた謎が・・・。」
しかし現状、海底奥深くにあるダンジョンへ入る手立てはない。
「タクマさん達も心配ですし・・・。」
「一先ずタクマの作った『エコーロケーション』で内部を把握してみるか。」
バハムートはタクマと同じように自身のスキルを組み合わせ『エコーロケーション』を作る。
「バハムートもスキルを作れるのか・・・。」
アルセラはもう驚くのをやめた。
作成した『エコーロケーション』でダンジョン内部を見てみると覚えのある反応があった。
「っ!」
「どうしたんですか?」
「いる・・・、かなり深いがタクマとリヴの気配がするぞ!」
「タクマさん達が⁉」
「良かった、無事だった!」
女性陣は胸を撫で下ろすが、難しい顔をするバハムート。
「しかし、二人の位置がかなり離れておる。それにこれは、ドラゴンの気配だ。それも複数。」
バハムートはタクマ達の詳しい位置関係を全員に共有する。
「リヴの方は何やら似たような魔力の存在と近くにおる。タクマの方は、更に下層で何かと戦っている?しかも少々手こずっている。」
「タクマさんが⁉早く加勢しないと!」
「待て待て!落ち着け!行こうにもどうやって海底にあるダンジョンに入ると言うんだ!」
「うぅ~!」
目の前にタクマ達がいるのにそこへ行けない。
リーシャは悔しそうに唸る。
「せめて念話が届けばいいのだが・・・。」
その言葉を聞いたリーシャはあることを思い出した。
「そうだ!アルセラさん!」
「え、何?」
「前にアルセラさんに渡したスマホ!えっと、板!魔力を通すとお話しできるあれです!」
「・・・あれか!」
そう、リーシャは以前連絡を取り合えるように前世の知識を生かしてスマホに似た魔道具を作り、アルセラに渡していたのだ。
「すっかり忘れておったわ。」
アルセラはバッグから通信魔道具を取り出す。
「タクマさんも忘れてるとは思いますが同じ物を持っています!念話のように直接魔力を繋げるわけではないので念話より範囲が広いと思いますから!」
何を言ってるのかさっぱりなアルセラだがとにかく通信魔道具を起動させた。
塔と言われたダンジョンの内部で突如立ち塞がる大蛇シーサーペント。
言葉を発せる上位個体の猛攻にタクマは果敢に捌き切る。
「何故貴様のような人間に海竜の力が扱える?それはあの御方の力のハズだ!」
「さっきから何訳のわかんねぇこと言ってやがる?」
水の竜化となったタクマはリヴの力を借りている。
海竜は間違いではないがシーサーペントの言う『あの御方』という単語が引っかかっていた。
(リヴが連れ去られた事と関係があるのか?)
するとタクマのポケットから音が急になり始めた。
「んっ⁉」
驚いたタクマは攻撃の手を止める。
ポケットから通信魔道具を取り出した。
「これ、リーシャに貰った魔道具・・・?」
そこにシーサーペントの攻撃が迫るが剣で弾き返す。
「少し大人しくしてろ!フリージング・ゲイザー‼」
氷魔法を繰り出しシーサーペントの足元を凍らせ身動きを封じた。
「くっ、この程度・・・!」
これでしばらくは動けないだろう。
タクマは魔道具を起動させ耳に当てる。
「これを使う時、確かこう言うんだったっけ?もしもし?」
『繋がった⁉』
聞こえたのはアルセラの声だった。
と同時にリーシャの大声量の声も聞こえ耳がキーンとなる。
『タクマさん!聞こえますか⁉』
「いぃ~・・・リーシャか?」
『良かった!無事だったんですね!』
「まぁリヴのおかげでな。そっちも無事そうで何より。」
そこにバハムートの声も聞こえてきた。
『今お主のいるダンジョンの真上におるのだが、リヴの気配がお主から離れておる。リヴは無事だったのか?』
「それは・・・。」
タクマはこれまでの事を話した。
海上にいるバハムート達は息を飲む。
「リヴさんが?」
「それにしても、彼女に弟がいたとは。でも何故?」
『わからねぇ。リヴを探してダンジョンを登ってたんだが、今言葉を話すシーサーペントに阻まれてんだよ。』
「戦闘の気配はそれか。」
『とにかくこいつを蹴散らして早いとこリヴを探しに行きたいんだ。お前等と合流もしたいんだがこっちにこれそうか?』
「それが、タクマさんのいるダンジョンは海底の奥深くにあってそちらに行く手段がないんですよ。」
するとしばらく黙っていたバハムートが口を挟んだ。
「タクマ、もう少し上へ上がってこれるか?」
『どういう事だ?』
「我の転移魔法でそちらに向かいたいが些か魔法の範囲から外れておる。お主が転移の範囲に入ればそちらを座標として転移が可能になる。我らも出来るだけダンジョンに入る手立てを考える故、行けるか?」
『わかった。早いとここいつをぶっ飛ばして上に上がる。待っててくれ!』
その会話を最後に通信が切れた。
「タクマさん・・・。」
「しばらくの辛抱だ。奴は必ずやってのける。」
「・・・はい。」
「凄いね、彼等・・・。」
「ランバル?どういう意味だ?」
ずっと空気だったランバルはリーシャ達を見て感心していた。
「いや、仲間というのは素晴らしいなと思ってね。」
通信を終えたタクマは氷から抜け出すシーサーペントに向き直る。
「悪いが急用ができた。先に行かせてもらうぜ?」
「行かせるわけないだろう。門番としてこれ以上の侵入は許さん!」
「そうも言ってられねぇ事情がこっちにはあるんだよ。」
そう言いタクマは居合の構えを取った。
「居合・波紋の太刀‼」
円を描くようなきょ巨大な水の斬撃が放たれ、シーサーペントは大きく弾き飛ばされた。
「ぐっ!これしき・・・!」
「まだだ!」
すかさず剣を鞘に納めもう一度構えを取った。
「居合・風裂傷‼」
無数の風の斬撃がシーサーペント頭上の岩を砕き、瓦礫の雨が降る。
「うおぉぉぉ⁉」
そのままシーサーペントは瓦礫に挟まれ身動きが取れなくなった。
「この隙に行かせてもらうぜ。」
水の竜化を解きタクマは螺旋状の道を走って行った。
「おのれ・・・、忌々しい人間め!」
その頃、ダンジョン内どこかの牢屋に囚われたリヴは横に倒れていた。
「・・・暇。」
彼女からモヤモヤと負のオーラが出ているように見える。
「あ~!暇暇暇!ここなんにもないただの岩壁!身内なのにこんな扱いっておかしいでしょ!まぁでも?そもそもあんな奴親だなんて思ったことないんだけどね⁉」
あまりの暇さにテンションがおかしくなっているリヴはゴロゴロと牢屋内を転がっていた。
「姉さん・・・?」
「ほわぎゃぁぁぁ⁉」
突然背後から声をかけられ飛び起きる。
「カ、カイレン・・・。」
弟のカイレンが檻の前に立っていた。
「カイレン、何で私を連れ戻したの?」
「・・・。」
「あの時、私をここから逃がしてくれたのは・・・カイレンじゃない。」
「・・・そうだね。」
二人は語り合った。
二人の身に起きた過去の出来事を・・・。




