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『第十二章 存在の継承』

「リーシャ‼」

勇者の思わぬ反撃に不意を突かれ投擲された聖剣がドラゴンのラシェルに突き刺されようとした瞬間ラシェルを庇ったリーシャが聖剣に貫かれてしまった。

そして勇者の姿は暗い森の奥へと消えていった。

「リーシャ‼おい、しっかりしろ‼」

タクマはリーシャに駆け寄り必死に呼び掛ける。

「こふっ!タ、クマさん・・・ラシェルは・・・無事ですか?」

かろうじて意識が残っているリーシャだがこのままでは彼女が危ない。

「あぁ無事だ。でもお前が死んじまったら元も子もねぇだろ!バハムート!お前治癒魔法は持ってないのか?」

「あるにはあるが聖剣のせいで魔法が寄せ付けられない!」

バハムートも必死でリーシャに治癒魔法をかけようとするが聖剣の特性のせいで魔法が弾かれてしまう。

「いえ、いいんです。もともと私は、一度死んでますから・・・。」

「え?どういうことだ?」

リーシャは多少呼吸が荒くなるも、自身の事を嘘偽りなく明かした。

自分が転生者であること。

バハムートほどではないが希少なスキルを多数所持していることも。

「そして私は・・・、」

「俺と同じ、『テイマー』であること。だろ?これは気づいてた。」

リーシャが答える前にタクマが答えた。

リーシャは先に答えを言われてしまって少し笑った。

「けどな。一度死んだからって今を生きるのを諦めるのは違うぞ?」

急に真剣になりリーシャに語る。

「前世のお前はどんな人間なのか知らねぇが今はリーシャとして新しい命で生きているだろ?せっかく転生したんだ。今を生きなきゃもったいねぇだろ!」

「・・・無理ですよ。見てください、聖剣が私の身体を貫いているのは一目瞭然です。こうしてまだ生きてるのが不思議なくらいなんですよ?」

彼女は胸に刺さった聖剣にそっと触れる。

「この聖剣は魔力を寄せ付けない。それに使用者でなければこの剣は動かせません。だから、もういいんです。」

「良いわけあるか‼」

突然のタクマの怒鳴りにビクッとするリーシャ。

「お前が諦めようが俺は諦めねぇぞ!どんな小さな可能性だって掴んでやる。聖剣だってどんな手を使ってでも抜いてやる。抜けなかったら砕く。とにかくお前は死なせねぇ!必ず助ける‼」

「・・・どうして、私にそこまで?」

タクマはぎゅっと口を強く閉じる。

「知り合ったからだよ・・・。」

ボソッとこぼしたその言葉には冷たく悲しい感情がこもっていた。

その時タクマの脳内によぎる燃える建物の風景が移る。

「もう俺とお前は他人じゃない。知り合った以上もうその人を失いたくない!目の前で消えてほしくない‼」

感情的になりタクマの目から涙が零れ落ちる。

バハムートは驚いた。

普段はフランクに接してくる彼だが出会って以来ここまで感情をあらわにするのは初めてだ。

(あのタクマがここまで・・・。過去に何かあったのだろうな。)

だが現状、聖剣は勇者しか扱えず他者が持っても引き抜くことはできない。

このままでは出血多量でリーシャが死んでしまう。

「バハムート。リーシャに治癒魔法をかけつづけろ!俺が聖剣を抜く!」

「聖剣は勇者しか抜けんと言っただろ⁉」

「るせーっ!そんなこと知るか!意地でも抜いてリーシャを助けるんだ‼」

完全に頭に血が上ったタクマは聖剣を掴み、引き抜こうとするがやはり聖剣はビクともしない。

それでもタクマは聖剣を抜こうとする。

バハムートも観念し治癒魔法をかけ続けた。

「タクマさん・・・。」

「うおぉぉぉ‼絶対死なせるものかぁぁ‼」

するとタクマの手にふわっと優しい感触が触れる。

手元を見るとラシェルの羽毛の翼がタクマの手に触れていた。

その手に触れた翼からラシェルの思いが伝わってくるのを感じた。

「ラシェル、お前・・・。」

彼女から伝わってくる。

「私に任せよ」と。

ラシェルはゆっくり起き上がり、リーシャに翼をあてる。

すると勇者しか抜けない聖剣が動いたのだ。

「えっ⁉」

「なんとっ⁉」

二人は驚いた。

しかも聖剣が徐々に抜かれると同時に治癒魔法もかけられている。

それもかなり高度な治癒だ。

光輝く翼の中、リーシャから聖剣は完全に取り除かれ傷も完全に塞がった。

「マジかよ・・・!」

あまりの光景にタクマは呆然とする隣でバハムートがつぶやいた。

「この魔法。やはり、貴方様でしたか・・・!」

(バハムートが敬語を⁉どういうことだ⁉)

情報量が多すぎて混乱するタクマ。

だがまず、これでリーシャは助かった。

彼女は徐々に意識を取り戻し始める。

「・・・暖かい、これは?」

ゆっくりと目を開けるリーシャ。

彼女自身、意識が朦朧としていたので何が起こったのか理解が出来ていないようだ。

「リーシャ。ラシェルがお前を治してくれたんだ。」

「ラシェルが?」

リーシャはラシェルによりかかったままラシェルの顔にそっと触れた。

「ラシェル・・・、ありがとう!私・・・生きてるよ!」

嬉しさのあまりポロっと涙を流した。

すると突然ラシェルが苦しそうに咳き込んでしまった。

「ラシェル⁉」

心配になるリーシャとタクマ。

「・・・娘、お主を助けるために残りの魔力をすべて使ったのだ。」

「そんな!魔力が無くなったらラシェルが‼」

そうこの世の生命は魔力を生命力としている。

魔力が底をつくとその生命力も消え命を落としてしまうのだ。

ラシェルはその残り少ない魔力をリーシャのためにすべて使いきったのだった。

「ラシェル!ラシェル‼」

リーシャが呼び掛ける中、ラシェルはバハムートの方を見た。

するとバハムートが話し始めた。

「人語を話せないまで衰弱していましたか。大丈夫です、テレパシーでしっかり伝わっています。」

「まてまてバハムート!お前さっきから喋り方変わってるけどいろいろどういうことなんだ⁉」

「あぁすまん。この方は、我が王の座に就く遥か昔、初代竜王の妃様だ。」

「・・・はぁぁぁぁ⁉」

衝撃の事実に驚きを隠せないタクマとリーシャ。

しかも初代竜王となるととんでもない大昔からラシェルは生きているかもしれない。

「バハムート・・・お前何代目の王なの?」

タクマが恐る恐る聞いてみると、

「たしか我は・・・五代目だな。ちなみに王となった竜の寿命は万年単位だぞ?」

さらっと追い打ち気味にとんでもない事実が発覚してしまった。

王に就任した竜は特別な存在に変化し寿命も伸びるらしい。

タクマは頭を抱えた。

「ラシェル、そんなすごいドラゴンだったんだね。」

リーシャも一度驚いたがすぐに冷静になる。

「妃様が衰弱している原因は老衰だ。だから魔力も少なかったんだろう。」

老衰が原因なら従魔結石を拒んだのも納得がいく。

直に寿命を迎えるのに今更魔力を蓄えたとこで無意味だからだ。

するとラシェルの身体が白く光りだした。

「ラシェル⁉」

「・・・娘よ。時間が来た。」

「時間って・・・もしかして⁉」

そう、寿命が迎えたのだ。

光輝くその身体は徐々に小さな粒子となって暗い森の中を照らす。

「ラシェル・・・。」

「クルルッ・・・。」

リーシャはラシェルの顔に抱き着く。

「ラシェル・・・ありがとう。両親を亡くした時、私・・・すごく悲しかった。でもラシェルと出会って寂しくなかったよ。ラシェルは・・・私の、家族っ・・・!」

次第に涙がこぼれ始める。

わかっていても生涯の別れとなると胸が締め付けられて苦しくなる。

するとラシェルがタクマの目をじっと見つめた。

「っ!・・・わかった。彼女は任せろ。」

ラシェルの思いを感じ取ったタクマは決意の眼差しで頷いた。

その時のラシェルの顔が安心したように笑った気がした。

ラシェルの大きな体は光となりその姿形を失う。

その光景はまさに大自然の神秘だった。

ラシェルの身体だった光の粒子は月が輝く空へと昇って行った。

「・・・。」

「・・・。」

タクマとバハムートは先ほどまでラシェルのいた場所に座り込む少女を見守る。

タクマが彼女の側に寄ると

「・・・タクマさん。ありがとうございます。従魔結石を盗ってしまった私を許してくれただけでなく、命まで救ってくれて。」

「お前を救ったのはラシェルだ。」

「いいえ。勇者との戦いの時に貴方が助けてくれなかったらラシェルは安心して生涯を終えることはできませんでした。」

手が震えている。

まだラシェルが亡くなった事実についてこれてない様子だ。

「リーシャ・・・。」

「でもやっぱり・・・家族がいなくなってしまうのは・・・悲しいです。」

クシャッとスカートを握り涙が滴る。

「・・・俺もさ。」

ボソッとつぶやくタクマ。

するとラシェルがいた場所の真ん中に何かが光った。

「あれは!リーシャ、見ろ!」

タクマが指さす先には薄く発光した卵が置かれていた。

「あれは・・・?」

「竜は生涯を終えると己の種を残す。それを繰り返すことで己が生きた証を残すのだ。」

バハムートの言葉にリーシャは卵に駆け寄より卵を抱きしめた。

「・・・‼感じます、ラシェルの・・・あの子の心が‼」

卵を抱きしめたまま再び泣いた。

「種を残すか・・・。それじゃバハムートも生涯を終えたら?」

「無論、同じことが起こるぞ?―っと言っても我は竜の中ではまだ若い部類に入るがな。」

どや顔で若さを自慢するバハムート。

そもそもドラゴンの若さというのは見た目で判断できるのだろうか?人間にはよくわからない常識なのだろう。

「・・・なぁバハムート。」

タクマは夜空を見上げる。

「何だ?」

「世界には、俺の知らないことがたくさんあるんだな・・。」

旅に出てから自分の知らない事がたくさんでタクマは旅に出てよかったと思った。


 ラシェルの死から数日、厩舎の庭で朝食のパンを食べているタクマは最近の出来事が起きた記事を読んでいた。

「やっぱりあの勇者の件は記載されてないな。」

「王都の勇者があんな悪行に手を染めていた事実が広がればこの国で反乱が起きるからな。」

バハムートも巨大な肉をかぶりつきながら言った。

「すまん、チーズ取ってくれ。」

「ほい。」

すると厩舎の入口から元気な声が聞こえてきた。

「タクマさーん!」

「ん?リーシャ!」

手を振りながら走ってくるリーシャ。

ラシェルが亡くなってしばらく自宅の部屋で引きこもっていたがどうやら立ち直れたらしい。

腰にはラシェルが残した卵を籠に入れて吊るしていた。

「おいおいそんなに走って大丈夫か?病み上がりだろ?」

「大丈夫です!ラシェルが治してくれたおかげで傷跡もありません。」

するとバハムートが口を挟んだ。

「・・・嘘だな。」

「ギクッ!」

「え?」

「確かに傷は治っているが娘の魔力が乏しく低下している。先も走ってくる最中足元がぎこちなかったぞ?」

「あはは、バハムートさんには見抜かれてましたか。」

リーシャはタクマの側に腰を下ろす。

「ここ最近気持ちの整理はつきましたが魔力だけがすごく少なくなっていて、歩く時も少々ふらつきます。」

「命に関わる重傷だったからな。妃様の治癒魔法の際、娘の魔力も多く消費しなければならなかったのだろう。」

そういってまた一口肉にかぶりつく。

「俺も学園で学んだが魔力の回復には相当時間がかかるらしい。今どれくらい回復してんだ?」

「まだ三割ほどです。」

思いのほか少ない。

魔力は生命力に等しい。

このままでは彼女の体調が心配だ。

「魔力の回復方法は他にはないのか?」

「他者から魔力を分けてもらうケースもあるが?」

「あ!じゃぁタクマさんから魔力を分けてもらえば!」

タクマとバハムートはハァっとため息をついた。

その様子に困惑するリーシャ。

「え?え?どうしたんですか?」

「悪いけどそれはできないな。」

「こやつは魔力がほぼゼロだ。」

リーシャは衝撃の事実に驚愕した。

「えぇぇぇぇ⁉ゼロ⁉魔力は生命力ですよ⁉なのに魔力がゼロって大丈夫なんですか⁉」

「全然平気。」

「こやつは我と出会う前から森にテントを張って暮らしていてな。そのサバイバル的な環境で忍耐力が鍛え上げられそれが生命力を補っていたのだろう・・・。」

初めてのタクマの境遇を思い出したのかバハムートは頭を抱えた。

「魔力が高いからあの強さなのかと思ってました・・・。」

リーシャも顔面蒼白だ・・・。

そういえばタクマの力はバハムートから魔力やスキルをコピーする戦い方の事はまだ彼女に説明していなかった。

この際教えといてもいいだろう。

タクマは自身の戦闘スタイルを説明した。

「そんな戦い方があるんですね。テイマーというのは従魔に指示して戦わせるのが一般的なのに。」

「お前だって俺と同じテイマーのくせに杖ブンブン振り回していたろ。」

「あ、あれは前世の護身術です!」

(槍術が護身て、どんな前世だよ・・・。)

と心中でツッコむ。

「それに私はまだ従魔は従えていませんし。」

「え?そいつがいるじゃん?」

とタクマは卵を指さす。

「この子ですか?」

「それはラシェルが遺してくれた紛れもないお前の従魔だろ?」

リーシャは卵を優しく撫でた。

「・・・そうですね。とても素敵な贈り物です。」

ちょっぴり寂しそうな表情になるリーシャ。

「・・・話を戻していいか?」

さっきから空気だったバハムートが割り込んできた。

「今はまず娘の魔力をどうにかせねばならん。」

「そうだった。でもこの街の人からそれほど多い魔力は感じないぞ?」

「いや、宛はある。」

「宛ですか?」

「風刃竜・ウィンロスだ!」


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