『第百十五章 不完全な制御』
ヘルズ・ラルマを退きメルティナとラルを無事取り戻したリーシャ。
二人を回復させていると地面を這いつくばりながらリヴが合流してきた。
「ちょっとリヴさん!無理に動かないでください!服が汚れちゃいますよ!」
「後でウィンロスに清潔魔法かけてもらうから、私にも回復頂戴・・・。」
リーシャの技にごっそり魔力を持ってかれ疲労が尋常じゃなかった。
三人同時に回復魔法をかけるリーシャ。
「ふう、大分動けるようになったわ。ありがと。」
「良かったです。」
まだ足元がふらつくがなんとか動けるまで回復したリヴにラルを預け、リーシャはメルティナを背負う。
「普通逆じゃない?」
「ラルはともかくメルティナさんの消耗が激しいんです。少しずつでも回復をかけ続けないといけません。」
ラルと融合していたとはいえベースはメルティナ。
彼女の消耗はラルの比ではなかった。
「とにかく安全な場所へ連れていきましょう。」
「それがいいわ。」
「ふ~ん、意外と可愛い子じゃない。」
「当たり前です。メルティナさんは私達に並ぶ可愛い子で・・・へ?」
突然の知らない声がした方を振り向くとすぐ真横に顔を覗かせてメルティナを見る天使、ミレオンがいた。
「ファァァァァァ⁉」
「え、何?・・・って誰⁉」
リヴも振り向き驚いた。
「やっぱり、この子どこかで見た事があるような・・・?」
「誰ですか貴女⁉」
二人は咄嗟に距離を取る。
「初めましてこんばんは。天使のミレオンていうの。よろしく!」
挨拶が済むとと同時にリーシャの目の前に現れ強いはっけいを食らってしまった。
「うわっ⁉」
「リーシャ⁉」
その弾みでメルティナを離してしまい、ミレオンが彼女を受け止める。
「悪いけどこの子は天界に連れてくわ。ちょっと気になることがあるからね。」
「させるわけないでしょ!」
リヴが頭上から鋭い蹴りを入れるも軽くあしらわれてしまう。
「本当にドラゴンなんだね。人間の姿してるのに。」
ミレオンは華麗なステップで後ろに下がっていく。
「リーシャ!大丈夫⁉」
「はい・・・なんとか。」
立ち上がるリーシャはミレオンを睨む。
「貴女もメルティナが狙いなんですか?」
「まぁ、そうなるのかな?天界の上層部はこの子を探してたみたいだけど私自身はよく知らないし。簡単に言うとただ気になっただけかな?天界に連れてくのはほんのついでよ。」
「それでも、メルティナさんを連れては行かせません!」
地面を蹴って急接近し杖を突きだす。
身体をそってかわされメルティナを抱えながらも器用に立ち回るミレオン。
「もうしつこいな。」
気が付くとリーシャの眉間に金メッキの塗装が施されたショットガンの銃口を突き付けられていた。
「っ⁉」
引き金が引かれるもリヴが咄嗟に引っ張ってくれたおかげでギリギリ避けられた。
「へぇ、いい直感だね。」
「何なのあの武器⁉見たことないのに殺傷力がエグイって直感が騒ぐんだけど⁉」
「ショットガン、私の前世でもあった武器です。この世界にはない銃タイプ、でも何で天使のあの人が持ってるんでしょうか?」
そう訝しむリーシャ。
ミレオンは華麗にショットガンを振り回し肩に担いだ。
「これ以上掴みかかるとホントに頭に風穴開けちゃうからね?」
さらっと恐ろしい事を言ってメルティナを連れて天界に向かおうとした時、頭上から何かが切りかかってきた。
「ハァァァ‼」
「っ!」
現れたのは遠方から戻ってきたヒイラギだった。
剣を振り下ろし地面を割る。
急な奇襲にも対応したミレオンだが突然抱えていたメルティナが消えた。
「えっ⁉」
メルティナを瞬間移動させたのはバハムートだった。
転移し落下するメルティナをウィンロスがギリキャッチし、カリドゥーンを構えるアルセラも前線に立つ。
「気配を辿って来てみればまだ天使が居ったとはな。」
「ちょっと!私をさっきの天使軍と一緒にしないで!」
怒って否定するミレオンを囲むようにバハムート達三人、リーシャとリヴの二人、そして勇者のヒイラギの三組が立っている。
「う~ん、竜王を含めたドラゴン三体、勇者が一人、人間が一人、そして、神殺し。」
何かを考えるミレオンはニィッと頬を上げた。
「キキキッ!逆境上等!」
二丁のショットガンを装備し笑うミレオンだった。
一歩間違えれば暴走する危険のある黒の竜化。
それをタクマは今の所意識を保てていた。
「それが、君の秘めたる力・・・。」
あの戦神ジームルエも冷汗を流していた。
「闇は光と相反する力。まさか君が闇を持ってたとはね。」
「ごちゃごちゃうるせぇ、戦いはまだこれからだろうが!」
溢れる闇を抑えながらジームルエに迫り剣技の連続技を繰り出していく。
ジームルエも闇に直接触れたらまずいため神経を全て集中させる。
「居合・暗麗滅尺‼」
二つの黒い斬撃が放たれる。
ジームルエは二つの斬撃を大剣で打ち砕き正面から攻め入る。
タクマも両足に紫色のオーラを纏い音速を越える速度で正面衝突する。
目で追えない程の速度で二人はぶつかり合い、上空と地上を縦横無尽に駆け回る。
「・・・楽しい。」
「あ?」
剣を振り払いジームルエは今まで見せた事のない程の笑顔でいた。
「こんな胸が熱くなる戦い、初めて!今までの長い人生の中で最高に楽しい!君みたいな強者は初めてだよ!」
「お前もヒイラギ同様、心のどこかで求めてたんだな。」
上空で腰を低くし居合の構えを取る。
「居合・黒牙鳥‼」
黒い炎を鳥のように纏いジームルエに突進。
大剣で防ぐも勢いが凄まじく共に地面に叩きつけられた。
土煙から飛び出す両者は息をつかせぬ間もなく激しく戦う。
だが次の瞬間、
「ぐっ⁉」
タクマの頭に激痛走る。
制御していた黒の竜化が限界を迎えたのだ。
(このタイミングで!意識が持ってかれる!)
明らかに剣筋の鈍った彼に気付いたジームルエはその期を逃さなかった。
「そろそろ本気でいくわ!」
大剣を大きく振りかぶり翼が発光する。
「『戦技、天の型・大壊』‼」
とてつもなく巨大な円刃が繰り出され、寸前でかわすも轟音と共に大地が巨大な地割れのように切り裂かれてしまった。
(これが戦神の力か!)
落下するタクマが地面に衝突する。
起き上がろうとするとまた意識を奪われそうになり自我が保てなくなってきていた。
(ぐぅっ!まずい!このままじゃ!)
這いつくばり苦しむタクマ。
ゆっくり高度を下げてきたジームルエはトドメと言わんばかりに大剣を掲げる。
「苦しそうだねもっと君と戦いたかったけど君も限界そうだ。楽しみの時間はすぐに終わる。最後に、君と戦えてよかったよ。」
翼が輝き剣先に魔法陣が展開される。
「『戦技、天の型・八重檻刃』‼」
タクマを囲むように八つの光の刃が出現し、一斉に振り下ろされる。
囲まれているため逃げ場はない。
ましてや暴走寸前の状態で身動きもできない。
もはや絶体絶命だ。
(くそっ!)
その頃、彼の中では溢れ出そうな闇を必死に押さえるシーナがいた。
「くっ!前より闇の力が強くなってる!これは異常だ!」
「やはり我らが干渉した影響であろうな。」
突然聞き慣れぬ声がした。
何もなかったシーナの背後にはバハムートに似た四足歩行型の巨大な銀竜が立っていた。
「やはりお前の仕業か、天龍王!」
振り向きドラゴンを睨むシーナ。
「我だけではない。雷帝王と海龍王も関わっている。我にだけに責任を押し付けるのはお門違いだぞ?」
そう笑う天龍王。
「お前たちのせいで闇の力が強まったんだぞ!このままではタクマが危ない!お前たちも闇を押さえるのを手伝え!」
「知ったことか。闇が溢れた所でこの少年は死なん。せいぜい闇が収まるまで暴れ続けるだけのことよ。」
「それがダメだと言っているんだ!」
一瞬気を緩んでしまい闇が更に溢れでしょうになってしまう。
「うぉぉぉぉ⁉」
「ふん、我が子孫と契約を結んでおきながら闇を制御できぬとは。お主もこの少年も弱小者だな。」
呆れてため息をつく天龍王にシーナが叫ぶ。
「この闇は私が持ち込んだ力だ!この力に彼が苦しむのなら私が何とかするしかない!私のせいでこれ以上彼等に迷惑をかけたくないんだ!」
コートの内ポケットから鍵のような魔道具を取り出し自身の胸元に突き刺す。
すると鍵は体内に入りシーナの髪が白髪へと変色する。
「はぁぁぁぁ‼」
強力な重圧が溢れそうな闇を押し込んでいく。
だがシーナの魔法は長く持たずまた徐々に闇が溢れ出そうになる。
「う、うぅぅぅぅ‼」
「・・・チッ。」
傍から見ていた天龍王が前足で拳を握りつぶすと途端に闇が散りじりになり元の静寂な空間に戻った。
「ハァ、ハァ、やってくれるなら早くしてくれ・・・。」
「ほんの気まぐれだ。次はない。」
そう言い残し天龍王は姿を消した。
シーナの髪が元の黒髪に戻りその場に座り込んだ。
「ふぅ、死んだ身では生前のように力が使えないな。・・・私に出来るのはここまで。後は頼んだよ、タクマ。」
黒の竜化が消え身体の自由が利くようになる。
「っ!」
振り下ろされた八つの光の刃を剣で全て受け止めたタクマ。
「止めた⁉」
ギリギリと火花が散る中、剣を捻り足腰に力を入れる。
「居合・牙贋炎焦‼」
三つの炎の輪が光の刃を打ち砕いた。
そのまま炎の竜化となりジームルエに迫る。
「居合・鬼炎!」
炎の一閃がジームルエに炸裂。
直撃はしなかったものの彼女のペースを大きく崩すことが出来た。
流れるような連続の剣技がジームルエを追い詰めていく。
(何⁉急に剣筋が鋭くなった⁉)
本調子に戻ったタクマの鋭い一閃がジームルエを捕らえた。
「居合・大壊殴巖‼」
地面へと叩きつけ更なる追撃を入れる。
ジームルエも寸前で追撃をかわし距離を取る。
「戦技、天の型・・・!」
しかし技を繰り出す前に目の前にタクマが現れる。
(ま、間に合わない・・・!)
「居合・竜炎斬‼」
炎の太刀が完全にジームルエを捉え彼女を地面に叩き落とした。
落下した場所がクレーターとなり、中心にジームルエが倒れていた。
もう魔力が残っておらず身動きが取れないでいた。
「負けた・・・?戦神の、私が・・・。」
生まれて初めての敗北に放心状態のジームルエ。
そこにタクマも降りてきて炎の竜化が解ける。
「ふぅ、正直ギリギリだった。やっぱりお前、今まで戦った神よりつよ・・・。」
するとジームルエの顔がじわじわ涙ぐみ、そして、
「うわぁぁぁぁぁぁん‼」
「っ⁉」
突然ギャン泣きしてしまった。
「今まで負けたことなかったのに!悔しいよ~!」
予想外過ぎる展開にオロオロするタクマだった。




