世界最強のドラゴンテイマー めっちゃ強い仲間と世界を見ます！

『第百十四章 竜ＶＳ戦神』

各所で戦闘音が鳴り響く荒廃したスラム街。

「ジームルエはとうとう始めたみたいだね。」

ジームルエの親友ミレオンが上空でそれぞれの戦いの様子を見ていた。

「こっちは良いとして、問題はあっち。」

ミレオンは離れた所で戦っているリーシャとヘルズ・ラルマの戦闘に向く。

「あの黒い天使、あの子から感じる魔力、どこかで・・・？」

覚えのある魔力に頭を悩ませるミレオンだった。

　タクマと戦神ジームルエの激闘。

重そうな大剣を小柄な身体で匠に操りタクマの剣技を退ける。

一方でタクマもバハムート達の力をコピーし臨機応変に攻め入るが、ジームルエは戦いの神。

隙が無い程に戦い慣れしていた。

「流石だね。レーネ達を倒しただけはある！」

「お前こそ。これまで戦ってきた神の中で一番強いかもな！」

剣同士がぶつかり合い互いに距離を取る。

「居合・大壊殴巖(だいかいおうがん)‼」

タクマの持つ最大級の破壊力の技、『大壊殴巖(だいかいおうがん)』を放ち大地が大きく割れる。

足場が崩れ体勢を崩されるジームルエは大剣を突き刺して耐えきる。

「凄い技。」

技の反動でしばらく硬直するタクマ。

ジームルエはその隙をつき一気に攻め入る。

「くっ‼」

タクマは軋む身体を何とかずらし振り下ろされた大剣をスレスレで避けた。

しかし、ジームルエは大剣を離しタクマの右腕に抱き着くようにしがみ付いた。

「っ⁉まさか⁉」

「『絶壊(ぜっかい)』！」

魔法を唱えると同時にジームルエはタクマの腕をガラスのように粉々に砕いてしまった。

「うわぁ‼」

腕を壊され、しかも剣を扱う利き腕だったためタクマはジームルエから距離を取る。

「腕を砕かれたのは初めて？」

動揺を隠しきれないタクマにジームルエが言う。

「そりゃそうだろ・・・！腕なんてそうそう失うものじゃねぇ・・・！」

魔術で剣を取り寄せ左手で持つ。

（まさか腕を砕いてくるとは・・・。しかもよりによって利き腕。痛みがないってのが尚気持ち悪い・・・。）

左腕でどれだけ戦えるか分からない。

だがそれでも立ち向かわなくてはいけない。

ジームルエは大剣を蹴り上げ華麗に構え直す。

「さぁ、君の底力、もっと見せて！」

　一方、怒りのあまりラルと融合したメルティナ。

黒い堕天使ヘルズ・ラルマとなったメルティナはリーシャに牙を向いていた。

「『デッドリーネビュラ』‼」

かざした左手から黒炎が放出される。

だがリーシャは身体をそってかわし、カウンターで杖を突きつけた。

「エアブラスト‼」

強烈な風がヘルズ・ラルマを吹き飛ばす。

だが華麗に一回転し地面に立つ。

「流石、死闘を潜り抜けてきただけあるな。」

「・・・やっぱり、私達と旅をした記憶があるんですね？」

メルティナであると否定していながらこれまでの旅の記憶が彼女にはあった。

やはり彼女はメルティナでもあるのだ。

「こんな記憶なんていらないんだけどな。」

「いらない記憶なんて、存在しません！」

杖を槍のように構え一気に攻め入る。

流れる槍術がヘルズ・ラルマを押して行く。

「『固翼』！」

黒い翼を硬質化させリーシャの猛攻を断ち切った。

「っ⁉」

流れを止められたリーシャはすぐに反応できず黒炎を纏った左手を顔の目の前にかざされた。

「じゃあな、リーシャ。」

黒炎が放たれようとしたその時、

「とりゃぁぁぁ‼」

リヴが横槍を入れリーシャを助けた。

「そういえばいたね。お姉ちゃん？」

リヴをお姉ちゃん呼び。

どうやらラルの人格も入っているようだ。

「リーシャ、アレをどうにかする方法はないの？」

「・・・分かりません。でも、強い衝撃を与えれば何か変わると、そう願うしかありません。」

二人が戦闘態勢に構えるとヘルズ・ラルマは上空へと飛翔した。

「何度も言うが、私はメルティナでもラルでもねぇ。」

右腕の槍を解除し指をパチンと鳴らすと巨大な黒炎の塊を生み出した。

「そろそろ飽きてきたところだ。コイツで終いにしてやる。」

「メルティナさん！」

「・・・チッ！だから私はメルティナじゃねぇって言ってるだろ！」

感情的になった彼女は黒炎の塊を持って迫ってくる。

「私はヘルズ・ラルマだぁ‼『ヘルバーニヤ』‼」

巨大な黒炎がリーシャ達に向かって投げられる。

するとリーシャは大地を踏みしめ杖に魔力を急速でチャージさせる。

「それでも、私は貴女を止める‼『死滅の光神(ミスティルテイン)』‼」

黒炎の塊と光の槍のぶつかり合い。

凄まじい衝撃に周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。

「ああぁぁぁぁ‼」

そこにリヴがリーシャの背中に手をかざし魔力を与える。

「私の魔力も使って！絶対メルティナとラルを取り戻すのよ！」

「はい！」

二人の魔力が合わさり、槍が白から青色へと変わっていく。

「『死滅の蒼天(ミスティル・リビア)』‼」

青い槍は黒炎の塊を貫きヘルズ・ラルマに直撃した。

「ぐあぁぁぁぁ⁉」

大ダメージを負ったヘルズ・ラルマは地上に落ちる。

「ぐ、まさか二人の魔力を無理やり合わせてくるなんて・・・。魔力が尽きそうだな、今(・)回(・)はここまでか・・・。」

小さな笑いを零し、ヘルズ・ラルマはメルティナとラルに別れ元に戻った。

「ラル！メルティナさん！」

二人が駆け寄ろうとするとリヴがパタリと倒れてしまった。

「リヴさん⁉」

「ごめん、さっきの技に魔力ほとんど持ってかれたわ。私はいいから早くメルティナの所いって・・・。」

「わ、分かりました！」

リーシャは急いでメルティナ達に駆け寄る。

幸い二人は魔力が枯渇して眠っているだけでそれ以外の問題はなかった。

「良かった・・・。」

しかしメルティナとラルが融合した存在、ヘルズ・ラルマ。

あれは何だったのだろうか？

メルティナに対する謎が深まるばかりのリーシャだった。

　「急いでミルガ！」

街から遠く離れた夜の草原で一台の馬車が激走していた。

「王都が何者かに襲撃されたとギルドから伝達を受けたが、一体どういう事なんだ？」

「ギルドまで逃げてきたスラム街の住民が言うには天使が襲ってきたと言ってたみたいだけど、天使なんて本当にいるんですの⁉」

「俺もおとぎ話に出てくる種族だと思ってたが、どうやら事実らしい！」

最初こそ信じられなかったがギルドからの報告だ。

虚偽なわけがない。

「お姉ちゃんたちが向かったって言ってたからきっと戦ってる！急いで！」

馬車は草原を疾走して王都へ向かったのだった。

　剣と大剣がぶつかり火花が散るタクマとジームルエの戦い。

タクマはジームルエに右腕を砕かれ左腕で戦っていた。

だが利き腕でない左ではまともに戦えない。

居合も使いづらい。

「くそっ！」

タクマは剣を咥え鞘を手に取る。

そのまま剣を鞘に納め低い姿勢を取った。

「居合・竜炎斬！」

咥えた剣で鞘から引き抜き居合を繰り出す。

多少威力は落ちるものの戦えない程ではなかった。

「剣を咥えて技を出すなんて、面白いね。」

「そうかよ。」

再び鞘に納め一気に走る。

「居合・鬼炎！」

鞘の方を引き抜き炎の一閃を繰り出す。

だが剣筋の鈍い一閃はキレがなくジームルエの大剣の面で防がれてしまう。

「・・・君の底力、その程度なの？」

大剣を蹴り上げタクマを弾き飛ばす。

「ふんっ！」

流れで大剣を薙ぎ払いタクマを遠くまで打ち返した。

咄嗟に受け身を取るもすぐ目の前に迫ったジームルエに追撃を貰ってしまい地面に叩きつぶされてしまった。

土煙が辺りを包み込み、ジームルエは大剣を担ぐ。

「もっと向かってくると思ってたけど、正直期待外れ。レーネ達を倒したって聞いたからもっと強いと思ったのに、やっぱり君も所詮人間だったね。」

失望の眼差しを向けるジームルエは大剣を背中に仕舞おうとしたその時、背後の地面から水の竜化となったタクマが飛び出してきた。

「えっ？」

タクマは口を大きく開き魔力を集中、水のブレスを放射しジームルエを吹き飛ばした。

大剣を地面に突き刺して耐えるジームルエは驚きを隠せないでいた。

「何で⁉君は確かに叩き潰したハズなのに！」

よく見ると叩き潰したと思っていた陰は水のクッションにタクマのローブを羽織らせたダミーだった。

土煙に紛れて水の竜化に変身し地面に潜り、背後を取ったという事だ。

（まさかこんな機転を・・・。）

「危ねぇ、竜化が遅れてたらやられてたぜ。」

だが依然にタクマの右腕はない。

竜化したとはいえこのままではまともにやり合うのも無理がある。

「まずはこの腕をどうにかしないと・・・！」

『なら私に任せろ。』

突然聞き覚えのある声がした。

「シーナ⁉」

タクマの中にいる故人シーナだった。

『私の黒炎なら君の腕を再生させることが出来る。だが一つ問題がある。一時的とはいえあの黒炎を解放するんだ。出来るだけ押さえるとはいえ暴走の危険もあるのだが？』

「構わねぇ。やってくれ！腕さえ戻れば後はこっちで何とかする！」

『・・・分かった。勝てよタクマ！』

タクマの身体から黒炎の炎が溢れ出る。

水の竜化は上書きされ背中に黒炎の翼が現れる。

「ガァァァァ‼」

右腕に炎が集中し、タクマの腕は完全に再生した。

「っ⁉再生した⁉」

「アァァァァァ‼」

飛びかける意識を死に物狂いで引き留め赤目が元のタクマの目に戻る。

瞳のみが赤色に変色し背中の黒炎の勢いが収まる。

「はぁ、はぁ、見たかシーナ・・・。まだ意識は残ってるぜ・・・！」