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『第百十二章 白少女の深淵』

王都でタクマ達と合流したリーシャとリヴは互いの近況を話し合っていた。

「じゃぁもうハナさんは借金に苦しまなくて済むんですね?」

「あぁ、学のない子供限定だが王都に招いてしっかり英才教育させるんだと。他のスラム住民も近いうちに王都に職を持てるようになるってさ。」

「良かったです!」

ホッと息をついたのも束の間、突如一人の男性がギルドに飛び込んできた。

「た、大変だ!スラム街が火事だ!」

「っ⁉」

ギルドの屋上にいち早く登り夜空の彼方に薄っすらと明るい燃える街が見えた。

「あのスラム街、さっきまで私達がいた・・・⁉」

「メルティナは⁉」

「まだあの街に!」

「くそっ!バハムート!ウィンロス!」

いても経ってもいられないタクマ達はバハムート達を呼び急いでスラム街へ向かったのだった。

(メルティナさん、ラル、ハナさん!)


 燃えるスラム街の中、メルティナは突如現れた名持ちの天使カシャに攻撃されていた。

「きゃぁ!」

撃ち出される魔力の弾を物陰に隠れながらやり過ごすが容赦なく打ち込んでくる。

「実に運がいい。灰汁の排除のついでに奴らのお仲間を見つけられるとは。貴女を捕らえ例のドラゴンテイマーをおびき出す人質になってもらいましょう。」

ゆっくりと近づいてくるカシャに戦う力のないメルティナは震える事しかできなかった。

(怖い、怖い!リーシャさんがいなければラルも進化出来ないし、どうしよう、どうしよう!)

すると木箱の上にラルが現れ、カシャ目掛けて突っ込んでいった。

「クアァァ‼」

「小竜?このような弱小生物が無謀に歯向かう・・・。」

「クッ!」

油断していたカシャの顔面に思いっきり殴り飛ばした。

「ぐはっ⁉その体格でこれ程の力量とは、完全に油断していたよ。」

カシャが指を鳴らすと念力が発動しラルを捕らえた。

「クッ⁉」

そのまま勢いで家の壁に叩きつけられてしまった。

「ラル!」

「次は貴女です。」

いつの間にか目の前にカシャが現れメルティナの首を掴み上げた。

「あ、が・・・!」

首を掴まれもがくメルティナ。

「抵抗されても困るので意識だけは刈り取らせていただきます。」

更に強く掴まれメルティナの意識が消えそうになった瞬間。

「クアァァ‼」

瓦礫から光輝くラルが飛び出した。

『覇王進化‼グレイス・ド・ラル‼』

なんと、リーシャの従魔結石なしに進化しメルティナを助け出した。

「進化?魔獣が瞬時に変化するなど前例がありません。これは調べがいがありそうです。」

知神に仕えてるだけあって探求心が高いようだ。

(メルティナ!逃げよう!僕達だけじゃ天使には勝てない!)

「で、でも・・・!」

(街の人達には申し訳ないけど僕達じゃ守り切れない!今は逃げることに集中して!)

メルティナは苦渋の決断をし、ラルに乗る。

「逃がしません!」

迫りくるカシャに凍える風を出しながら羽ばたきメルティナ達はその場から逃げたのだった。

「・・・まぁいいでしょう。この街を焼き尽くせばいずれ出てくる。その時は貴女方を徹底的に調べ尽くし、暁にはレスト様に献上するといたしましょう。ふふ、ふははは!」

カシャの笑い声が燃えるスラム街を背景に響くのだった。


 天使の奇襲から何とか逃れたメルティナとラルはハナの家へ向かっていた。

「せめてハナちゃんだけでも連れてタクマ達と合流しないと・・・!」

すると飛行していたラルが突然急降下し地上に落ちてしまった。

「ラル⁉大丈夫⁉」

(結石なしでの覇王進化はきつかったみたい・・・、しばらく動けないかも・・・。ごめんメルティナ・・・。)

ラルの進化が解けると小竜の姿になり気を失ってしまった。

「ありがとうラル。無理してまで私を助けてくれて・・・。」

気絶したラルを服の中に匿い走ってハナの家に向かう。

そしてやっと家に前まで来ることが出来た。

「良かった!まだここは無事みたい・・・。」

するとドアが開き、ハナが飛び出してきた。

「ハナちゃん!無事だったん・・・!」

「逃げて‼」

その時だった。

ハナの小屋が突然爆炎に見舞われ、側にいたハナが炎に飲み込まれてしまった。

爆風で転倒するメルティナ。

顔を上げると小屋は炎に完全に包まれていた。

「・・・ハナ、ちゃん?」

現実を受け止めきれないメルティナは硬直したまま動けないでいた。

すると炎から先ほどの天使、カシャが現れた。

「やはり思った通り、貴女の目的はここでしたか。貴女の精神を崩し抵抗する力を削ぐために先回りして正解でした。」

静かに笑うカシャ。

それでもメルティナは絶望の表情のまま固まっている。

「どうやら精神も削れたようですし、連れていきますか。」

カシャがメルティナに手を伸ばした瞬間。

「何してるのこのクソ天使‼」

頭上からリヴが拳を突きだしながら現れる。

カシャは不意の攻撃を避けリヴの拳が地面を割った。

「新手ですか。」

「メルティナ!どうしたの⁉それにこの燃えてる小屋って・・・!」

リヴはすぐに状況を察した。

「アンタ・・・、まさかハナちゃんを・・・!」

リヴは凄まじい怒りを露わにしてカシャを睨む。

「えぇ、ご覧の通り。」

カシャは開き直って腕を広げる。

「いくら何でもこればかりは許せないわ・・・!天使だろうと関係ない。殺す‼」

血管が浮き出るほど力んだ腕を構えるのだった。


 スラム街に着いたタクマ達は天使を一掃しながら生き残った住民たちを自警団や冒険者と共に避難誘導をしていた。

「以外に天使の数が多い!娘よ!我らはこちらに専念する故お主は先に行ったリヴと合流しろ!」

「え、でも!」

「行けリーシャ!ここは俺達に任せろ!」

「はよせい!」

タクマ達に背中を押され急いでハナの小屋へと向かうリーシャだった。


 リーシャがハナの小屋に着くとそこには目を疑う光景が広がっていた。

ハナの小屋は炎に包まれており、その手前では男性の天使と怒りの形相のリヴが戦っていてその端には絶望の表情をしたメルティナが座っていた。

「メルティナさん!」

リーシャはメルティナに駆け寄る。

「一体何があったんですか⁉ハナちゃんは?ラルは?」

ラルはメルティナの服の中で気を失っている事には気づいたがハナの姿が無かった。

まさかと思いメルティナ問う。

「メルティナさん、ハナちゃんは・・・?」

メルティナは震える手で燃える小屋を指した。

リーシャはやっと全てを理解した。

「そんな・・・!」

そこに怒り狂うリヴの咆哮が木霊する。

「アンタだけは絶対に許さない‼」

鋭い拳を突き出すが相手は名持ちの天使。

リヴの拳を正面から掴み止めた。

「血の気が多い女性は好かれませんよ?」

「うっさい‼」

口を大きく開けブレスを繰り出し、カシャを吹き飛ばした。

「リヴさん!どいて!」

追い打ちを仕掛けるようにリーシャも飛び出し杖を構える。

「フレイムピラー‼」

炎の柱がカシャを包むが難なく掃われリーシャの胸倉を掴まれる。

「うぁ⁉」

「身の程を知った方がいいですよ?」

「この!リーシャを離しなさい‼」

リヴが攻め入るもカシャは掴み上げたリーシャを投げ飛ばしリヴにぶつけられた。

「きゃぁ⁉」

思いの他勢いが強く二人は遠い位置まで弾き飛ばされてしまった。

「『天技・シャリオン』‼」

空気の斬撃を繰り出しリーシャとリヴに追撃する。

まともに受けてしまった二人はあまりのダメージに床に伏せてしまう。

「うぅ・・・!」

「何て、強さなの・・・。」

以前に戦った名持の天使、アムルと比にならない程強いカシャ。

「私は名持ちとなって時が長いですからね。鍛錬を重ね実力を伸ばしただけに過ぎません。」

空気の刃を球体上に回しながら歩み寄ってくるカシャ。

止めを刺す気だ。

「神の使途に歯向かった報いですがせめてもの慈悲です。苦しみのないよう殺して差し上げましょう。」

その時、カシャの目の前を小石がもの凄い勢いで横切った。

投擲された方を向くと我に返ったメルティナが立っていた。

「よくも、ハナちゃんを・・・!」

初めての友達を目の前で焼き殺され憤怒がにじみ出るメルティナ。

「全く。大人しくしてればいいものを。」

カシャは光の鎖を出しメルティナ目掛けて放つ。

メルティナはぎこちない動きながらも鎖を避けカシャに走り寄る。

「よくも、よくも‼」

弱々しい拳を握るも無数の鎖の一本に正面からぶつけられ後方へ飛ばされてしまう。

「メルティナ!」

メルティナは瓦礫を押し退け立ち上がる。

「っ‼」

再び走り出しカシャの仕掛ける鎖を避けながら距離を詰める。

カシャは上空へ浮かび高所から攻撃を仕掛ける。

鎖の猛攻を抜けるも無秩序に動く鎖についていけず再び鋭い一撃を受けてしまう。

その衝撃で服の中に匿っていたラルが放り出された。

「カハッ!」

血反吐を吐きながらも立ち上がるメルティナ。

「しつこいですね。貴女は都合上殺してはいけないのです。手間がかかるのでいい加減大人しくしてほしいのですがね。」

するとゆっくりと立ち上がるメルティナの様子がおかしい事に気付き始める。

「貴方は、貴方は・・・()()()()()‼」

顔を上げたメルティナの目が金色に変色する。

「許さぁぁぁぁぁぁん‼‼」

走り出すメルティナにカシャはしびれを切らす。

「身の程知らずが!」

一斉に鎖をけしかけメルティナを追い込む。

そして一本の鎖が彼女の脳天に当たり土煙が巻き起こる。

「メルティナさん‼」

煙が晴れ、倒れるメルティナ。

「忌々しい人間が・・・。」

その時だった。

突然動き出したメルティナは側に倒れるラルを鷲掴む。

そして、

「・・・・・ガアァァァァァァァ‼‼」

これまでの彼女とは裏腹に目は赤くギラつき、おぞましい形相へと変貌する。

『リンクジャック‼』

なんと、メルティナは気絶したラルを取り込み黒炎に包まれたのだ。

そして黒炎が爆散すると中から、漆黒の翼に右の袖に幾つもの長いヒラヒラがある左右非対称な黒い服装。

そして長い黒髪に左顔半分が禍々しい仮面に覆われた少女。

『ヘルズ・ラルマ‼』

白一色だった彼女とは真逆の漆黒の堕天使が現れたのだった。


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